Bain & Companyは9月29日に公表した第7回「Global Technology Report」で、2031年には年間約6兆ドル(約941兆円)のAI関連売上高が必要になると試算した。
ただし、報告書で具体的な金額が示されている既存用途と3つの成長分野について、それぞれ上限額を合計しても3.3兆ドルにとどまる。6兆ドルとの差は約2.7兆ドルで、全体の約45%に相当する。この差を埋めるのは、具体的な金額が示されていない「新製品開発」と、検索・広告についてBainが「2000億ドル以上」とした上振れ部分になる。
重要なのは、この6兆ドルがAI需要を個別に積み上げて算出した数字ではないことだ。2031年に必要となるAIインフラ投資を1.5兆ドルと見積もり、「設備投資は売上高の約25%」という前提から逆算している。
前年版では、5000億ドルのデータセンター投資に対して2兆ドルの売上高が必要とされていた。今年の1.5兆ドルと6兆ドルという組み合わせと比べると、どちらも設備投資額が必要売上高の約25%となる。2兆ドルから6兆ドルへ増えた主な理由は、前提となる投資額が大きくなったことにある。
Bainが試算する「年6兆ドル」、既存用途の見込みは最大1.8兆ドル
Bainは、2031年のAIインフラへの年間投資額が1.5兆ドル(約235兆円)に達する可能性があるとみている。
この金額には、新設するデータセンターや計算能力だけでなく、既存のGPU(画像処理半導体)、メモリ、ネットワーク機器などの更新も含まれる。
設備投資(capex)が業界売上高の約25%に相当するという前提で逆算すると、必要となるAI関連市場の規模は年間約6兆ドルになる。円換算は2026年9月30日午後5時時点の1ドル=156.91円で計算した。
一方、現在の延長線上にあるAI用途についてBainが示した市場規模は、消費者向けの定額課金や広告が2000億〜4000億ドル、企業向けが1兆〜1.4兆ドルだ。
企業向けには、ソフトウェア開発、営業、顧客サービスなどでAIが生み出す生産性向上のうち、AIサービス提供者側が得る売上高を想定している。
両者を合計すると1.2兆〜1.8兆ドルとなる。
Bainは、6兆ドルとこの既存用途との差を埋める分野として、検索・広告、自律化、フィジカルAI、新製品開発の4つを挙げている。
検索・広告については1000億〜2000億ドル以上とし、AIチャットサービスへの広告導入や、従来型検索の一部代替を想定する。
自律化では4000億ドルの市場機会を見込み、自動車、ドローン、産業機器などの稼働率向上や、訓練・運用コストの削減を前提としている。
フィジカルAIは9000億ドルで、自動車、電子機器、半導体などの分野で研究開発や製造コストが10%低下した場合の経済的な機会を試算したものだ。
新製品開発については、創薬、メンタルヘルス支援、新素材などを例に挙げているが、具体的な金額は示していない。
金額が示された項目は最大3.3兆ドル、残る約2.7兆ドルの内訳は未提示
Bainが具体的な金額を示した項目について、それぞれ上限を合計すると計算は単純だ。
既存用途の上限1.8兆ドルに、検索・広告の0.2兆ドル、自律化の0.4兆ドル、フィジカルAIの0.9兆ドルを加えると、合計は3.3兆ドルになる。
6兆ドルとの差は約2.7兆ドルで、全体の約45%に相当する。
この2.7兆ドルはBainが直接示した数字ではなく、報告書に記載された金額から編集部が差し引いて算出したものだ。
6兆ドル自体が「約6兆ドル」という概算であり、検索・広告も「2000億ドル以上」とされているため、3.3兆ドルが上限という意味ではない。
検索・広告が2000億ドルを大きく超えれば、その分だけ新製品開発などに必要となる金額は小さくなる。
逆に、既存用途を下限の1.2兆ドル、検索・広告を0.1兆ドルとして計算すると、合計は2.6兆ドルとなり、6兆ドルとの差は3.4兆ドルまで広がる。
そのため、ここでは確定的な不足額として扱わず、Bainが具体的に示した金額の上限を合計した場合に、約2.7兆ドルの差が残ると考える。この金額は同じ為替レートで約424兆円に相当する。
Bainの図では、既存用途との差となる約4.2兆ドルを埋める分野として、検索・広告、自律化、フィジカルAI、新製品開発を挙げている。
このうち新製品開発は、4分野の中でも大きな寄与を期待されているが、具体的な市場規模は示されていない。Bainは、これら4分野がAI市場の成長を支える可能性が高いとしている。
注意が必要なのは、自律化とフィジカルAIの計1.3兆ドルについても、必ずしもその全額がAI企業の売上高になるとは限らないことだ。
Bainは、利用企業に生じる稼働率向上やコスト削減などから「市場機会」を算出しているが、そのうちどの程度がAIサービス提供者の売上高として取り込まれるのかは明示していない。
その意味では、6兆ドルのうち実際にAI企業の売上高として具体的な根拠が示されている部分は、3.3兆ドルよりも小さいと解釈する余地もある。
「設備投資は売上高の25%」から逆算、前年の2兆ドルとの違い
Bainが示した6兆ドルは、需要を用途別に積み上げて算出したものではない。
設備投資が売上高の25%に相当すると仮定すれば、1ドルの設備投資に対して4ドルの売上高が必要になる。
2031年のAIインフラ投資1.5兆ドルを0.25で割ると6兆ドルになる。
当然ながら、この比率を変えれば必要とされる売上高も大きく変わる。設備投資比率を20%とすれば7.5兆ドル、30%とすれば5兆ドルになる。
Bainは25%という水準について、クラウド事業者の動向を踏まえた「野心的だが妥当」な前提と位置づけている。
前年版では、2030年に必要となる新規データセンター投資を5000億ドルと見積もり、それを支えるために2兆ドルの売上高が必要になるとしていた。
今年版では、既存設備の更新まで含めた2031年のAIインフラ投資を1.5兆ドルとし、必要な売上高を6兆ドルとしている。
どちらも設備投資額は必要売上高の約25%となる。
ただし、前年版では25%という比率そのものが明示されていたわけではなく、5000億ドルと2兆ドルという数字から逆算したものだ。
また、対象年も投資対象も異なる。前年版は新規データセンター投資が中心だったのに対し、今年版は既存設備の更新まで含んでいる。
そのため、「必要売上高が2兆ドルから6兆ドルへ3倍に増えた」と、同じ条件の指標がそのまま拡大したように捉えるのは適切ではない。
Bainの推計では、Microsoft、Google、Amazon、Meta、Oracleの5社による2026年の設備投資額は7800億ドルに達する可能性がある。
3年前のおよそ5倍であり、前年版で2030年に必要としていた新規データセンター投資5000億ドルをすでに上回る規模だ。
ただし、この7800億ドルは5社の会社全体の設備投資額であり、新規データセンターだけを対象とした5000億ドルとは範囲が異なる。
この逆算方式では、2031年のインフラ投資額が1.5兆ドルを超えれば、設備投資比率を25%とした場合の必要売上高も6兆ドルを上回る。
既存用途の市場規模が1.8兆ドルのままであれば、その分だけ具体的な用途が示されていない部分も大きくなる。
AmazonではAndy Jassy CEOが、メモリー価格の上昇などを理由に、2026年の設備投資見通しを2000億ドルから2200億ドルへ引き上げた。
Microsoftも、4〜6月期の設備投資410億ドルについて、部品価格上昇の影響が含まれていると説明している。
部品価格の上昇によって設備投資額そのものが膨らめば、25%という比率から逆算される必要売上高も増える。
Bainはメモリー不足がさらに深刻化し、スマートフォンやPCの価格上昇につながる可能性も指摘している。AIインフラへの巨額投資は、データセンターだけでなく、日本の消費者が購入する端末価格にも影響する可能性がある。
Alphabet、Meta、Microsoft、Amazonの4社では、2026年4〜6月期の設備投資額が合計1712億ドル、売上高が合計4712億ドルとなり、設備投資比率は36.3%だった。
これは25%を上回るが、分母となる売上高には広告や小売などAI以外の事業も含まれる。Bainが想定する「AI業界の売上高」とは基準が異なるため、この数字を使って6兆ドルを単純に再計算することはできない。
AI企業の急成長で「残り約2.7兆ドル」は縮まるのか
この見方に対する大きな反論は、AI企業の売上高がすでに急速に伸びており、Bainが想定する既存用途の1.2兆〜1.8兆ドルという市場規模が、2031年時点では保守的すぎる可能性があることだ。
AxiosはNew York Timesの報道を引用し、Anthropicの売上高が年間換算で1000億ドルを超えるペースに達していると9月18日に伝えた。
Axiosは9月29日にも、関係者の話としてOpenAIの年間経常収益(ARR)が700億ドルに迫っていると報じている。
単純に合計すると両社で約1700億ドルとなり、Bainが2031年の既存用途について示した下限1.2兆ドルの約14%に相当する。
ただし、現在の年間換算値やARRと、2031年の市場規模予測は定義が異なる。また、現在の急成長が2031年まで同じペースで続くことを意味するものでもない。
それでもAIサービス市場がBainの想定を上回って成長すれば、既存用途だけで1.8兆ドルを超え、6兆ドルとの差は小さくなる。
この記事で示した約2.7兆ドルは、AI市場の成長余地を否定する数字ではない。あくまで、現時点のBainの報告書で具体的な金額が示されている項目を合計した場合に残る差である。
また、必要売上高そのものがインフラ投資額を前提に決まるため、データセンター建設が遅れ、投資額が縮小すれば、6兆ドルという数字も小さくなる。
Bainのデータセンターに関する分析では、2026年1〜3月期だけで少なくとも75件、総額1300億ドル分のデータセンター計画が、地域住民などの反対によって中止または延期されたとしている。
Bainのグローバル・テクノロジー・プラクティスを率いるDavid Crawford氏は、AIインフラが需要の伸びを先取りする形で建設されており、その投資を持続的に支えるには、世界の年間GDP成長率を約1ポイント押し上げるほどの経済効果が必要になるとの見方を示している。
今回の見方が変わるかどうかを確認するうえで重要なのは、Bainの次回のGlobal Technology Reportだ。
過去2回は2025年9月23日と2026年9月29日に公表されている。次回版でも同じ2031年の枠組みを使い、既存用途の市場規模を今回の上限1.8兆ドルから大幅に引き上げるのか、あるいは新製品開発について具体的な金額を示すのかが注目点になる。
Bainは、AIへの巨額投資を正当化するには、モバイルやクラウドに匹敵する新たなアプリケーションの波が必要になるとみている。
現時点で残る約2.7兆ドルという差がどのように埋まるのかは、その新しい用途が実際の売上高として見えるようになって初めて検証できる。



