Boschは2026年7月13日、カリフォルニア州ローズビルの工場で200mmウェハーを使う炭化ケイ素(SiC)半導体のサンプル生産を始めたと発表した。米商務省とはCHIPS法に基づく最大2億2500万ドルの直接補助契約を結び、同工場への投資額は最大20億ドルに達する。ただし、今回動き始めたのは顧客評価に供するサンプルの工程であり、商用生産は2026年中の次段階だ。量産設備が完成したという話より重いのは、Boschが米国で歩留まりと自動車品質を作り込む局面へ入ったことである。

ローズビルはBoschにとって米国初の半導体製造拠点になる。米国政府は2024年、この工場がフル稼働すれば米国内のSiCデバイス製造能力の40%超を占め、Bosch全体でも最大のSiC拠点になる可能性を示していた。だが、2023年の投資決定時と現在では市場環境が違う。EVの伸びは当初予想を下回り、中国を中心にSiCの供給能力は増えた。20億ドルの工場の成否は、需給が緩んだ市場で歩留まりと稼働率を上げ、顧客が採用できる価格へ近づけられるかにかかっている。

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「生産開始」の実態は顧客評価用のサンプル

サンプル生産の開始は、ローズビルの新しい製造装置をつなぎ、BoschのSiC工程で実際にウェハーを処理できる段階へ進んだことを意味する。Boschは2023年8月に旧TSI Semiconductorsの工場を取得し、約3年でここまで移行した。既存工場を使ったため、新設工場より建屋と人材を早く確保できた。従業員数は転換中の約250人から、現在は300人超へ増えている。

それでも、サンプルと商用品の間には長い距離がある。車載用のディスクリート半導体には、AEC-Q101に基づく温度サイクルや高温高湿、電気的ストレスなどの信頼性評価が求められる。製造場所や工程を変える場合も、顧客と合意した計画に沿って認定データを積み上げなければならない。Boschが発表で「サンプル生産」と「2026年中の商用生産」を分けたのは、この工程立ち上げと顧客認定がまだ残っているからだ。

ローズビルで将来製造する第3世代SiCチップについて、Boschは前世代より最大20%高性能で、チップ面積も小さいと説明する。ただし、20%がオン抵抗、電力密度、変換効率のどれを指すのかは公表していない。製品の価値を判断するには、データシートと顧客採用を待つ必要がある。工場の稼働開始と製品競争力は分けて見るべきだ。

200mmで面積は約1.78倍、歩留まりが利益を左右する

ローズビルの狙いは、150mmから200mmへの大口径化にある。円の面積で比べると200mmウェハーは150mmの約1.78倍あり、同じチップ寸法なら1回の処理で取れる個数を大幅に増やせる。STMicroelectronicsは自社の200mm SiC開発で、利用可能な面積はほぼ2倍、良品チップ数は1.8〜1.9倍になると説明している。BoschもドイツのReutlingenを200mmへ移し、ローズビルとの2拠点を同じウェハー世代でそろえた。

口径を広げれば自動的に安くなるわけではない。SiCはシリコンより結晶欠陥の管理が難しく、ウェハー内部の欠陥がチップを横切れば、その面積は良品にならない。大口径化で投入できるチップ数が増えても、欠陥密度や工程ばらつきが悪化すれば利益は消える。STMicroelectronicsが200mm移行の条件として結晶欠陥、専用装置、製造エコシステムを挙げるのはこのためだ。

BoschのSiC製造は10層を超えるマスク構造を持ち、工程数は300を超える。ローズビルは従来から200mmシリコンのASICを作っていたが、SiCには多くの装置を入れ替える必要があった。約13万平方フィートのクリーンルームを再利用できても、イオン注入からエッチング、熱処理、検査までの条件は別物である。既存工場の利点は建屋を省けることにあり、SiCの歩留まりを買えることではない。

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2億2500万ドルが支える米国最大級のSiC拠点

直接補助の上限2億2500万ドルは、20億ドルの計画投資額の11.25%に当たる。Boschはさらに、カリフォルニア州から2,500万ドルの税額控除を受け、適格設備投資の25%を控除できる連邦CHIPS投資税額控除の利用も示してきた。公的支援は立ち上げリスクを下げるが、設備投資の大半はBoschが負担する計画である。

今回の確定発表を2024年12月の予備合意と比べると、もう一つ差が見える。予備合意には最大2億2500万ドルの直接補助に加え、約3億5000万ドルの融資枠が盛り込まれていた。2026年7月のBosch発表は直接補助契約だけを記し、融資には触れていない。融資が取り消されたとは断定できないが、現時点で確認できる確定済みの支援は直接補助にとどまる。

米国側が求める見返りは、生産能力と雇用だ。2024年の米政府資料は、建設で最大1,000人、稼働後は製造などで最大700人の雇用を見込んでいた。工場ではウェハー前工程に加え、試験、選別、ダイシングも行う計画である。前工程から一部の後工程までを同じ拠点に置ければ、北米の自動車メーカーはBoschのドイツ工場に集中していた供給を二重化できる。

ただし、米国内製造と米国内完結は同義ではない。BoschはSiC基板の調達先や原料の産地、すべてのパッケージ工程の場所を今回開示していない。ローズビルが減らすのはデバイス製造拠点の集中であり、サプライチェーン全体の海外依存を直ちに解消するわけではない。

2023年の高成長想定に逆風

Boschがローズビル取得を発表した2023年4月、同社はSiC市場が年平均30%で伸びると予測していた。EVではSiCが主に駆動インバーター、車載充電器、DC/DCコンバーターの損失を減らし、冷却系や受動部品を小さくできる。Boschはシリコン半導体との比較で、消費エネルギーを最大50%減らし、航続距離を平均6%伸ばせるとしていた。高電圧化が進むEVにとって、SiCの利点は今も明確である。

問題は利点の有無ではなく、需要が設備計画ほど速く増えるかどうかへ移った。SiC専業のWolfspeedは2025年度の年次報告書で、EV用途の成長鈍化と中国を中心とする世界的な能力増強が需給の不均衡を生み、とりわけ150mm製品の競争を厳しくしたと説明した。同社は150mm工場の閉鎖計画を示し、200mmへの生産集約を進めている。Infineonも2025年第1四半期に200mm SiC製品を顧客へ出荷し始めた。Boschは200mm化の先頭に立つわけではなく、競合各社も大口径化を進める市場で顧客を獲得しなければならない。

この環境では、生産能力の大きさがそのまま優位にはならない。顧客の車種計画が遅れれば、高価な設備の稼働率が下がり、ウェハー1枚当たりの固定費は上がる。一方、販売先をEVからデータセンターや産業用電源へ広げられれば、需要の変動を和らげられる。BoschはAIデータセンターも用途に挙げるが、ローズビル向けの受注額や顧客構成は公表していない。

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商用生産後の判断材料

ローズビルの進捗を測る最初の節目は、2026年中に商用生産へ移れるかである。次に、どの第3世代製品が認定され、どの顧客へ出荷されるかが続く。生産量だけを見ても採算性は分からない。200mm工程の良品率、設備稼働率、チップ当たりコストがそろって改善して初めて、大口径化が20億ドルの投資を支える。

供給網の評価にも具体性が要る。ドイツと米国の2拠点で同じ製品を相互認定できるなら、顧客は地域ごとに調達先を選びやすくなる。反対に、製品世代や工程認定が拠点ごとに分かれれば、工場が二つあっても代替性は低い。Boschがいう供給強靱化の実力は、災害時や需要急増時にローズビルとロイトリンゲンの間でどこまで生産を振り替えられるかに表れる。

サンプル生産は、3年前の買収計画が実物のウェハーへ変わった証拠だ。商用品が顧客認定を通り、200mmの歩留まりと稼働率が顧客の求める価格に届けば、ローズビルは米国の自動車メーカーに現実的なSiC調達先を増やす。そこまで到達して初めて、20億ドルの設備と2億2500万ドルの補助金は、工場建設の数字から競争力の裏付けへ変わる。