IBMのメインフレーム事業を襲ったのは、顧客が基幹処理を手放す動きではなかった。AIデータセンター向けの旺盛な需要がメモリーとストレージの供給を締め、値上がりを恐れた企業が6月末の設備投資をそちらへ振り向けた。IBM z17と連動ソフトウェアの大型案件は成約が遅れ、7月14日に暫定決算を公表したIBMの株価は1日で25.2%下落した。四半期の購入順が変わっただけで、IBMが投資家に約束してきた成長の仕組みまで疑われたのである。
売上6.6億ドルの未達に市場は25.2%安で応えた
IBMが通常の決算発表を8日後に控えて暫定値を出した時点で、問題の大きさは伝わっていた。第2四半期の売上高は172億ドルで前年同期比1%増、調整後1株利益は2.93ドルで5%増となる見通しだ。AP通信によると、FactSetが集計した市場予想は売上高178.6億ドル、調整後1株利益3.01ドルだった。未達額は売上高で6.6億ドル、率にして3.7%、1株利益で0.08ドル、2.7%となる。
株価は同日25.2%下落し、FactSetの記録では少なくとも1972年以降で最悪の1日となった。調整後1株利益は増えており、調整後税引き前利益率も前年同期から0.3ポイント上昇した。利益が崩壊したという決算ではない。それでも市場が4分の1を切り落としたのは、2026年の成長を支えるはずだった二つの前提が同時に揺らいだからだ。
IBMは4月時点で、通期の為替影響を除く売上高を5%以上、ソフトウェアを10%以上伸ばす計画を維持していた。第2四半期の為替影響を除く売上成長率も通期並みを見込んでいたが、暫定値ではソフトウェアが5%増にとどまり、インフラストラクチャーは7%減った。報告基準が異なるため成長率はそのまま引き算できないが、ソフトウェアの加速とz17導入後の収益化を見込んだ通期シナリオには明らかな穴が開いた。
6月末の設備投資を奪ったサーバーとメモリー
Arvind Krishna CEOの説明は具体的だった。6月最後の数週間、顧客は供給が限られる機器を値上がり前に確保するため、四半期の設備投資をサーバー、ストレージ、メモリーへ振り替えた。IBMも供給網の影響は予想していたが、予算組み替えの規模を読み切れなかった。複数の大型案件が予定どおり成約せず、それが売上未達の大半を生んだという。
遅れが直撃したのはIBM Zと、それに付随するソフトウェア群、とりわけTransaction Processingだった。暫定発表にはZとTransaction Processingの個別成長率がなく、案件が第3四半期へずれた金額も示されていない。Krishna氏は顧客が急速に変化する業界全体のサイバーセキュリティ問題へ注意を奪われたとも述べたが、具体的な事案や影響額には触れなかった。
ここでz17の需要が消えたと結論づけるのは早い。IBMによれば、z17の世代間比較指標はなお約130%で、導入済みMIPSの85%を占める顧客が処理能力を維持または増強している。IBMはZを筐体数ではなく、MIPS(毎秒100万命令)で表す処理能力に応じて販売すると説明している。これらの指標は導入企業が基幹負荷を縮小していないことを示す。一方で、6月末に締めるはずだった案件が閉じなかった事実も動かない。需要の存否と、四半期売上へ変える営業執行力は別の問題である。
HBMから汎用DRAMへ広がった供給逼迫
IBMの説明は、メモリーメーカーとサーバーベンダーが先に出していた警告と一致する。Micronは6月下旬の決算説明で、DRAMとNANDの需要が供給を大幅に上回り、逼迫は2027年を越えて続くとの見通しを示した。Micronの2026会計年度第3四半期には、DRAMの平均販売価格が前四半期比で60%台前半、NANDは80%台半ば上昇した。AIが要求するHBMは製造時により多くのウェハー能力を使い、世代が進むほど汎用DRAMへ回る供給も圧迫する。
値上がりはAIアクセラレーターの周辺に閉じていない。Micronは、暦年2026年のデータセンター向けDRAMとNANDのビット出荷量が2年前の2倍超に増え、従来型サーバーの台数も10%台半ば伸びると見込む。AIエージェントを動かすCPUサーバーと、文脈データを保持するストレージがGPUラックの外側で増えるためだ。
Dell Technologiesは2月の決算説明で、DRAMのスポット価格が6カ月で約5.5倍、NANDが約4倍になったと明かした。同社はサーバーの価格体系を短期間で改定し、見積もりの有効期限を過去最短にしていた。Hewlett Packard Enterpriseも3月、供給難とコスト上昇を見越した従来型サーバーの注文が2桁増え、サーバーとストレージの平均単価は年内にさらに上がると説明している。
この連鎖なら、IBM顧客の行動を説明できる。AI投資がメモリー全体を不足させ、サーバーとストレージの値上げを招き、企業は確保を急いだ。ただし、IBMの書簡は購入された機器の用途を開示していない。確認できるのはAI需要が上流の供給制約を強めたことまでであり、z17予算がそのままAIサーバーへ移ったとは断定できない。
3〜4倍のZスタックが逆向きに回る
今回の未達を大きくした理由は、IBM Zの売上がハードウェアで完結しない点にある。IBMは2025年末、Zの導入が全社で3〜4倍のスタック効果を生むと投資家へ説明した。Transaction ProcessingにはCICS、IBM製OS上で動くストレージや分析・統合ソフト、Z向けAIアシスタントとセキュリティ製品が含まれる。z17を設置すれば、その処理能力を使うソフトウェアとサービスの収益が後から付いてくる。
z17が一般提供された2025年第2四半期には、この購入順がはっきり表れた。IBM Zは67%増、インフラストラクチャーは11%増えた一方、顧客が新しいZハードウェアを先に買ったため、Transaction Processingは2%減、分散インフラストラクチャーは17%減った。その後、2025年第4四半期にはZが67%増、Transaction Processingが8%増となり、2026年第1四半期もそれぞれ48%増、2%増を保った。ハードウェアを先に置き、ソフトウェアで収益を重ねる計画は実際に動いていた。
第2四半期は同じ仕組みが逆向きに働いた。顧客がPowerサーバーやストレージを優先した結果、IBMの分散インフラストラクチャーは過去最高の37%増となり、期末受注残も約5億ドルに達した。しかし、Z案件の遅れはハードウェア売上を減らし、Transaction Processingの収益化も止めた。IBMが利益とフリーキャッシュフローの大きな源泉と呼ぶソフトウェアまで連動したため、分散機器の伸びでは穴を埋め切れなかった。
7月22日に分かれる「商談遅延」と「需要破壊」
正式決算で最初に確認すべきなのは、成約しなかった大型案件の行方だ。受注残に残り、第3四半期の具体的な成約時期が示されるなら、今回の落ち込みは設備投資の購入順が生んだ期ずれと判断できる。案件の縮小や中止が増えていれば、z17の強い世代間指標と四半期売上の乖離は長引く。
通期計画も修正を迫られる。IBMは7月14日の書簡で新しい通期見通しを出さず、売上高5%以上、ソフトウェア10%以上の成長目標と、フリーキャッシュフローを前年比約10億ドル増やす計画を7月22日に改めて議論するとした。ZとTransaction Processingの個別成長率、延期案件の規模、説明されなかったサイバーセキュリティ要因が、目標維持の現実味を決める。
メモリー不足を一過性の外部要因として片づけることも難しい。Micronは需給逼迫が2027年を越えるとみており、企業が値上げ前の調達を繰り返せば、IBMの商談日程は再び乱される。7月22日にIBMが示すべきなのは、延期されたZ案件の金額と成約時期、そして供給難の中でもその日程を守れる販売計画である。