個人開発者のMarcelo Guibout氏が、DLSS 5のニューラルレンダリングを2枚目のGPUで実行するReShadeアドオン「MGPU Bridge」を公開した。ゲームを描くGPUから生成AIの処理を切り離し、GeForce RTX 5060 Tiを2枚使った試験では、ニューラル処理を無効にしたときに近いゲーム側フレームレートを得ている。
ただし、回復した数字はゲームが描く速さであり、加工後の画面が同じ速さで更新されることや、操作の遅れが消えることまでは意味しない。公開された実装と測定記録から見えてくるのは、描画資源を取り戻せる利点と、その先に残る表示経路の問題である。開発者の説明は、この違いを明確にしている。
描画の後工程を別のGPUへ移す
MGPU Bridgeは、DirectX 12のゲームが描き終えた色画像を受け取り、別のGPUに渡す。送り先でDLSS 5のニューラル処理を実行し、そのGPUが持つ独立したウィンドウに結果を表示する。プロジェクト名は「Neural Coprocessor」。NVIDIAの公式機能ではなく、測定結果とともに公開された研究用の実装だ。
分離しやすい理由は、処理を置く場所にある。ゲーム内の物体を複数GPUで分担して描くには、描画の途中でデータや処理順を調整しなければならない。MGPU Bridgeが受け渡すのは、ゲーム側の描画を終えた一枚の画像だ。送り先はゲームの描画全体を引き受けず、最後のニューラル処理を担当する。設計資料によると、GPU間で共有するメモリーを介して画像を渡し、処理したGPUから直接表示するため、結果を元のGPUへ戻す必要もない。
ここでDLSS 5と、従来の超解像を分けておきたい。超解像は低い内部解像度で描いた画像から高解像度の画像を再構成する。DLSS 5のニューラルレンダリングは、学習した現実世界の見え方を利用し、照明や材質の表現を生成する処理である。NVIDIAも、超解像やフレーム生成と併用できる独立した任意機能として説明している。
そのため、ゲームの内部解像度を下げても、出力解像度の画像にかけるニューラル処理は同じ割合では軽くならない。同じGPUで両方を動かすと、描画を軽くして生まれた余力をニューラル処理が使い、超解像によるFPSの伸びが小さくなる。後工程を別のGPUへ移す狙いは、この競合を減らすことにある。
157fpsをどの数字と比べるか
開発者の比較試験で、条件が最もそろっているのは「Rig B」と呼ぶ構成だ。The Blood of Dawnwalkerの同じ場所でカメラを静止させ、出力解像度を1920×1080に固定している。Ryzen 7 7800X3DとRTX 5060 Ti 16 GBを2枚使い、GPUはどちらもCPU直結のPCIe 5.0 x8で接続。モニターも各GPUに接続した。
次の表は、測定資料の第4b節にあるゲーム側FPSである。中央列はReShade経由のRenoDXで同じGPUにニューラル処理を加え、右列はMGPU Bridgeで処理を移している。
| 描画モード | ニューラル処理なし | 描画GPUで処理 | 2枚目のGPUで処理 |
|---|---|---|---|
| DLAA | 67〜70fps | 44fps | 67〜70fps |
| Quality | 98〜99fps | 54〜55fps | 91fps |
| Performance | 127〜131fps | 59fps | 106〜107fps |
| Ultra Performance | 172fps | 69〜71fps | 157fps |
左列はDLSSの全機能を切った値ではない。DLAAは出力と同じ解像度で描くアンチエイリアス方式で、Quality以下では超解像を使う。各行の内部解像度は三つの条件でそろえ、ニューラル処理の有無と実行先を変えている。
Ultra Performanceではゲーム側の157fpsは、単一GPU処理の69〜71fpsに対して約121〜128%高い一方、ニューラル処理なしの172fpsからは約8.7%低い。 前者は「157÷比較対象のFPS−1」、後者は「1−157÷172」を百分率にした値だ。ニューラル処理を同じGPUで動かす場合より大幅に速くなることと、処理を切った状態へ完全に戻ることは別の判断になる。
開発資料にある「86%」も、同一設定でのFPS向上率ではない。DLAAからUltra Performanceへ変えたときのFPS増加率は、ニューラル処理なしで約151%、別GPU処理で約129%。86%は、この増加率をどれだけ保てたかを示す比率である。解像度を下げる効果が戻るという説明には使えるが、「2枚目で86%高速化」と置き換えると分母が変わってしまう。
比較には揃わない部分も残る。処理の強度と回数は合わせているが、RenoDXには処理対象を絞るマスクがあり、MGPU Bridgeにはない。画像を受け取るタイミングも異なる。さらに、単一GPUの条件では2枚目を無効にしているため、システムの状態まで完全に同一ではない。正式なDLSS 5統合やOptiScalerとの性能比較としては使えない数字だ。
ゲームが速くても、表示が追いつくとは限らない
MGPU Bridgeの処理後の画像は、ゲーム本来の画面とは別のウィンドウへ出る。開発者はREADMEで、表に載せたのはゲーム側モニターのフレームレートだと明記している。ニューラル処理を重ねる回数を増やすと、そのウィンドウの更新は遅くなるが、ゲーム側のFPSは下がらないという。
描画とニューラル処理を分離できたからこそ、二つの速さが分かれる。ゲームが次々に画像を作っても、送り先がすべてを同じ速さで加工できるとは限らない。MGPU Bridgeは新しいフレームが届いている場合、古くなった画像のニューラル処理を飛ばす仕組みも持つ。古い画像の処理を続けることで遅れが積み上がるのを避ける設計だが、ゲーム側の全フレームがニューラル処理後にも表示されるという保証にはならない。
したがって、DLAAの67〜70fpsが処理無効時と一致しても、「DLSS 5の負荷がゼロになった」とは言えない。負荷は別のGPUへ移っている。開発環境では1080p画像へのニューラル処理1回に約8.3msを要したとされるが、これは第二GPU上の処理時間だ。入力してから画面が発光するまでの総遅延は測っていない。
モニター接続の条件にも意味がある。開発者によると、第二GPUにモニターを接続しない構成では、接続した構成に対して処理量が33%下がり、測定した遅延はおおむね2倍になった。この値は表示接続を変えた際の差であり、複数GPU化そのものが入力遅延を2倍にするという結果ではない。READMEの表示・遅延に関する説明を踏まえると、性能評価にはゲーム側FPSに加え、ニューラル画面の実際の更新頻度と入力応答の測定が要る。
色画像だけを転送し、動きは送り先で推定
現在の開発資料では、GPU間を渡るデータは色画像だけだが、ニューラルモデルには動きベクトルも与えている。送り先のGPUが、画像の変化から動きを推定するオプティカルフローで作る。ゲームエンジンから動きベクトルを受け取る経路ではない。READMEと設計資料は、この二段階を区別している。
この差は画質を考えるうえで大きい。エンジンは物体やカメラをどう動かしたかを知っているが、完成画像からの推定では、見えている画素の変化から対応関係を求める必要がある。GPU間の転送量を抑えられても、正式実装と同じ情報で処理していることにはならない。
NVIDIAが9月1日に公開したDLSS 5の研究概要では、推論時に現在の描画フレームとエンジンの動きベクトルを使い、過去のフレームから引き継ぐ状態や画作りの制御値も入力する。画素空間で動く単一ステップの拡散モデルを採用し、学習時にはレンダラー由来のシーン属性を使って内容の一貫性を保つよう訓練するという。学習時に使う属性と、ゲーム実行時に必ず渡す入力は区別しなければならない。
MGPU Bridgeの検証した構成では、深度情報はモデルへ渡していない。これは当該構成の説明であって、DLSS 5のあらゆる実装で深度が不要だという証明ではない。そして開発者の性能測定は、画質評価を対象から外している。FPSの差をそのまま「同じ画質を安く処理できた」と読むには、露出をそろえ、動いている場面でも時間方向の安定性を比べる必要がある。
二枚差しが実用品になるための条件
公開されたFPS比較は、1作品の1場面を、どちらもRTX 5060 Ti 16 GBを2枚備える二つのPCで測ったものだ。Cyberpunk 2077の動作映像もあるが、測定資料には採用されていない。設定変更後にフレームの欠落や順序の問題が記録され、FPSにも再現性を得られなかったためだ。動作デモと性能の裏付けは分けて見る必要がある。
安定性の検証も分単位に限られる。測定資料の制約欄では、正常に転送を続けた最長記録は16,775フレーム、約5.5分。ゲームを長時間遊ぶ際の場面切り替えや設定変更まで、問題なく扱えると確かめた段階ではない。アドオン対応のReShadeも必要で、ニューラル処理用のNVIDIA製DLLはプロジェクトに同梱されない。
二枚差しの経済性も未確定だ。同じ予算をより上位のGPU1枚に使った場合との比較はなく、異なるGPUを組み合わせたときの効果も、この表からは予測できない。描画カードの温度が下がっても、第二GPUが電力を使い、熱を出す。冷却を分散できることと、PC全体で省電力になることは別である。
それでも、描画の最後に置かれた生成AIの処理を、ゲームを描く装置から切り離せることは実装で示された。今後、同じ画質を条件に、最終表示のFPSと入力遅延を測り、長時間の安定性やPC全体の消費電力まで比較できれば、追加GPUが実際のプレイ体験を改善する場面を選べるようになる。



