オーストラリアから米国へ送られる予定だったF-35戦闘機の部品が香港へ運ばれ、米国とオーストラリアが経緯を調べている。米国のF-35共同計画室は、使用できなくなった部品の輸送に問題が生じたことを認め、回収を進めていると説明した。
9月23日にはBloombergが、中国政府が部品を保管していると報じた。ただし、なぜ部品が香港へ送られたのかも、ステルス技術に関する情報が取得されたのかどうかも分かっていない。誤配送、中国側での部品保管、技術流出の可能性は、それぞれ分けて考える必要がある。現時点で、これらを一連の出来事として断定できるだけの情報は出ていない。
どこまで確認されているのか
Politicoが9月18日に報じたところによると、豪州から米国へ修理のため輸送されていたF-35の部品が香港へ送られた。
米F-35共同計画室はPoliticoへの回答で、使用できなくなった部品を巡る「輸送上の問題」を把握していると説明し、米当局や関係企業とともに、部品の回収、原因調査、再発防止に取り組んでいるとした。共同計画室が独自に公表した事故報告書は確認できないが、この回答から、香港への誤配送そのものを否定していないことは分かる。
豪州側も調査に加わっている。9月22日の会見でRichard Marles国防相は、米国および製造元のLockheed Martinと協力し、豪州側で何が起きたのかを調べていると述べた。部品については「機微なものではないと理解している」との見方を示す一方、最終的な評価は米国とLockheed Martinに委ねた。
翌日の会見では、Pat Conroy国防産業相が、諜報活動が関わった可能性について質問されたものの、調査中であることを理由に詳細を明らかにしなかった。
その後、Bloombergは匿名の関係者の話として、豪州軍のF-35から取り外された風防と兵装ベイの扉をUPSが5月下旬に輸送し、貨物は韓国を経由して香港へ向かったと報じた。Bloombergによると、中国政府が部品を保管しており、返還していないという。
ただし、どこで、誰の判断によって配送経路が変わったのかは、Bloombergも特定していない。また、中国政府が部品を保管しているという点はBloombergの独自取材に基づく情報であり、豪州政府の公開会見やF-35共同計画室の回答で、中国側の保管が公式に確認されたわけではない。
今回の問題では、「部品の誤配送」「中国政府による保管」「ステルス技術の流出」で、根拠となる情報と確認の程度がそれぞれ異なる。9月18~23日の当該事案に関する発言・報道と、米空軍が過去に公開した風防の一般的な技術説明を分けると、次のようになる。
| 論点 | 確認できる根拠 | 現時点での扱い |
|---|---|---|
| 部品の輸送トラブルと調査 | 豪州国防相の9月22日の会見、Politico掲載の共同計画室の回答 | 当局が対応を表明。共同計画室の回答はPolitico掲載の文面で確認できる |
| 中国政府による保管 | Bloombergの9月23日の匿名関係者への取材 | Bloombergの独自報道。公的資料による確認はできていない |
| 風防のレーダー吸収層 | 米空軍によるF-35A風防の一般説明 | F-35A風防の一般的な構造を説明したもの。今回の部品の状態とは別 |
| ステルス技術の流出 | 当該部品の分析結果や機密指定を示す公開資料は確認できない | 現時点では懸念にとどまり、流出したとは確認できない |
こうした区別をするのは、Bloombergなどの報道を軽視するためではない。何が誤配送され、誰が保管し、その部品からどのような情報を得られた可能性があるのかを、それぞれ別に検証する必要があるためだ。
風防のコーティングは何を示すのか
米空軍が公開した整備記事によると、F-35Aの風防の外側には透明なレーダー吸収材の薄い層があり、敵のレーダーに探知されにくくする役割を持つという。過去には、一部の製造ロットでこの層が劣化・剥離し、風防を交換したことも記されている。
風防がF-35のステルス性能に関係する部品であること自体は、米軍の公開資料から確認できる。
一方、Marles国防相が述べたのは、今回輸送された部品について「機微なものではないと理解している」という見方だ。風防の一般的な構造が公開されていることと、今回の部品がどの程度機密性を持つのかは別の問題である。
交換対象となった風防がどのような状態だったのか、そこにどの程度秘匿すべき技術情報が残っていたのかについて、米豪当局は詳しく公表していない。Bloombergが伝えた兵装ベイの扉についても、レーダー吸収材の有無などは匿名関係者の説明に基づくもので、今回輸送された部品そのものの仕様を公的資料で確認することはできない。
実物を入手すれば、材質や構造を調べられる可能性はある。しかし、部品にレーダー吸収層があるというだけで、その配合や製造方法まで解析されたと結論づけることはできない。
また、F-35共同計画室が部品を「使用不能」と表現しているからといって、機密指定が解除されていたり、技術的な情報価値が失われていたりすることを意味するわけでもない。部品にどの程度の情報価値が残っていたのかを判断するには、実際の状態や保管経緯、どのようなアクセスや分析が行われたのかを確認する必要がある。
なぜ一度の誤配送でも重大なのか
豪州国防省のF-35事業資料によると、豪州のF-35Aは国際的な共通支援網によって運用されている。豪州では機体やエンジンの整備だけでなく、部品の修理や保管を担う地域拠点も整備されている。
部品が国境を越えて輸送されること自体は、複数国で同じ機種を支えるF-35の運用体制の一部だ。今回の問題で重要なのは、民間の物流会社を利用したことそのものではなく、荷物が予定された輸送経路から外れた際に、誰が所在を把握し、確実に回収できる仕組みになっているかという点だ。
米会計検査院(GAO)は2023年の監査で、国防総省がF-35の共通予備部品プールの一部を直接追跡せず、主契約者の記録に依存していると指摘した。
2018年5月以降、ある主契約者が「損失」として計上した部品は100万点超、8500万ドル超に達したが、そのうちF-35共同計画室が詳しく調査した割合は2%未満だった。
ただし、GAOがいう「損失」には、紛失だけでなく破損や廃棄なども含まれる。100万点を超える部品がすべて所在不明になったという意味ではなく、中国など国外へ流出したという意味でもない。
2026年6月のGAO監査でも、国防総省と主契約者が、供給網にある部品の数量、所在地、費用を完全には把握できていないと指摘された。また、政府所有の物品を正式な承認前、あるいは承認を得ないまま移動できる請負業者側の手順が存在していたとも記している。
複数の企業や政府機関をまたいで部品の受け渡しを管理する難しさは、今回の問題を理解するうえで重要な背景となる。ただし、GAOの監査が今回の香港への誤配送を扱ったものではなく、こうした手順が直接の原因だったと認定しているわけでもない。
部品の回収と調査結果が焦点になる
米F-35共同計画室は、部品を回収するとともに、原因を調査し、再発防止策を講じる方針を示している。
今後確認すべきなのは、まず該当する荷物の識別番号にひも付く輸送、通関、引き渡しの記録だ。部品が返還された場合には、その状態も重要になる。こうした記録が明らかになれば、本来の配送経路からいつ外れ、その後どの組織が管理していたのかを確認しやすくなる。
機密性や技術情報へのアクセスについても、F-35一般の説明ではなく、今回輸送された部品そのものに即した評価が必要だ。
Bloombergが報じた保管状況が正しければ、部品が回収されるまで米豪側が現物へのアクセスを管理できないという問題は残る。それでも、なぜ配送先が変わったのか分かっていない段階で、中国側が意図的に貨物を入手したと断定することはできない。
米豪の調査で焦点となるのは、部品がなぜ香港へ送られ、その後どこで誰の管理下に置かれたのか、さらに第三者がどの程度アクセスできたのかという点だ。そのうえで、国境をまたぐF-35の共通支援網において、同様の誤配送をどう防ぐかが問われることになる。
