気候変動と環境保護を訴えるために声を上げる人々が、今、デジタルの言論空間でかつてない規模の暴力に晒されている。国際的な人権NGO「Global Witness」が発表した最新の調査報告は、その実態を白日の下に晒した。世界6大陸、200名以上の土地・環境保護活動家を対象とした史上初のグローバル調査で、実に92%もの人々が自らの活動を理由にオンラインでのハラスメントを経験していることが明らかになったのだ。
そして、その最も有害な舞台として名指しされたのが、世界最大のユーザー数を誇るFacebookである。
調査によれば、オンラインでの攻撃が現実世界での物理的な危害に「直接的、あるいは部分的に寄与した」と考える活動家は、75%にも上る。デジタル上の憎悪が、いかにして現実の暴力へと姿を変えるのだろうか。
Meta帝国がハラスメントの温床に
Global Witnessが2024年11月から2025年3月にかけて実施した調査は、これまで断片的にしか語られてこなかった環境保護活動家へのオンライン攻撃の全体像を、具体的な数字をもって描き出した。
回答者の62%がFacebook上でハラスメントを経験したと報告しており、これは他のプラットフォームを大きく引き離すワースト1位の数字だ。続くX(旧Twitter)が37%、そして驚くべきことに、同じくMeta傘下のWhatsAppが36%、Instagramが26%と、トップ4のうち3つをMetaのサービスが占める結果となった。実に、オンラインで虐待を経験した活動家の82%が、これらMeta傘下のいずれかのプラットフォームで被害に遭っている計算になる。
Facebookが30億人以上の月間アクティブユーザーを抱える巨大プラットフォームであることが、この数字の一因であることは間違いない。しかし、それだけでは説明がつかない根深い問題が横たわっている。
「彼らは『もし俺がそこにいたら、車で轢き殺してやる』とか『だから俺はショットガンを持ってるんだ』といったことを言ってきた。私はこれらの脅迫をFacebookに報告したが、調査すると言われただけで、何も起きていないようだ」
― Fanø氏、デンマークの活動家
活動家がプラットフォームに助けを求めても、その声はほとんど届いていない。虐待やハラスメントをプラットフォームに報告した活動家のうち、その対応に満足したと答えたのは、わずか12%。この絶望的な状況を反映してか、実に91%もの回答者が「デジタルプラットフォームは、私たちとコミュニティの安全を守るためにもっと多くのことをすべきだ」と考えている。
「オンライン」が「オフライン」を侵食する恐怖の連鎖
この調査が明らかにした最も憂慮すべき事実は、デジタルの世界での憎悪が、現実世界での暴力や脅迫に直結していることだ。
インドで20年以上にわたり活動するSharanya氏は、その恐ろしい連鎖をこう証言する。
「オンラインとオフラインで起きていることには関係があると思う。攻撃者はオンライン空間を中傷や名誉毀損の手段として使い、そしてオフライン空間で私たちを物理的に脅し、恐怖に陥れる。監視したり、家に石を投げつけたり。彼らは私たちを沈黙させようとしているのです」
コンゴ盆地で先住民の権利保護のために活動するWarom氏は「私たちの仕事は非常に危険だと感じ、命の危険を感じた」と語り、ドイツの活動家Jörg氏は「次に道で会ったら車で轢いて殺す」という匿名のメッセージを受け取った。
オンラインでの脅威が、監視、脅迫、そして物理的な暴力へとエスカレートしていく。このパターンは、もはや例外ではなく、活動家たちが日常的に直面する「新たな常識」となりつつあるのだ。
女性活動家を狙う、卑劣なジェンダー攻撃
オンラインハラスメントは、特に女性の活動家に対して、より卑劣でパーソナルな形で牙をむく。調査では、オンライン攻撃を受けた活動家のうち、約4分の1が自身の性別を理由に、約5分の1がジェンダー・アイデンティティを理由に攻撃されていることが判明した。
インドネシアでパーム油企業による土地収奪に反対する活動家、Fatrisia氏の事例は象徴的だ。彼女の個人的なInstagramから写真が無断で盗用され、多数のフォロワーを持つFacebookグループに投稿された。そこには、彼女に関する嘘やヘイトスピーチが溢れていたという。
「彼らは私が仲間の活動家と不倫しているという噂を流しました。私が若く、未婚の女性であるインドネシアでは、これは深刻な告発です。彼らは私に恥をかかせ、信頼性を奪おうとしているのだと思います」
― Fatrisia氏、インドネシアの活動家
さらに、インドネシアでは危険な「レッド・タギング」(共産主義者のレッテル貼り)も行われている。これは過去に多くの活動家が投獄される原因となった、極めて深刻な脅迫行為だ。Fatrisia氏がFacebookに削除を要請しても、「危険ではない」として投稿は削除されなかったという。
このようなジェンダー化された攻撃は、活動家の社会的信用を失墜させ、精神的に追い詰めるだけでなく、現実世界での性的暴力を含む物理的な危険に直接的に晒す、極めて悪質な手口である。
なぜヘイトは増幅されるのか? プラットフォームの「ビジネスモデル」という病巣
では、なぜこれほどまでに有害なコンテンツが野放しになっているのか。活動家たちが指摘するように、その原因がプラットフォーム、特にソーシャルメディアのビジネスモデルそのものにありそうだ。実際にオンライン攻撃を経験した活動家の3分の2が、「デジタルプラットフォームの仕組み自体が、受けた虐待やハラスメントを悪化させた」と考えている。
- 対立を煽るアルゴリズム: ソーシャルメディアのアルゴリズムは、ユーザーの滞在時間を最大化するために、感情的で、過激で、対立を煽るコンテンツを優先的に表示する傾向がある。「憎悪に満ちたコメントほど、より多くの注目を集める」とある活動家が指摘するように、プラットフォームのエンゲージメント至上主義が、意図せずしてヘイトの増幅器として機能している。
- 不十分なコンテンツモデレーション: 多くのプラットフォーム、特にMetaは、グローバルサウスで話される言語や、その地域特有の政治的・文化的文脈を理解するモデレーターを十分に配置していない。調査で、アフリカの回答者の半数が「プラットフォームから何の返答もなかった」と答えている事実は、このリソース配分の著しい不均衡を物語っている。
- 「自由な言論」を名目とした安全対策の後退: 近年、MetaやXは「自由な言論」を重視する姿勢を強め、安全対策を後退させている。Metaは米国内でのサードパーティによるファクトチェックプログラムを終了させ、XはElon Musk氏の買収後、信頼性と安全性のための評議会を解散した。これは、Trump大統領のような特定の政治勢力に配慮した動きとも見られており、結果としてヘイトスピーチや偽情報が蔓延する土壌を作り出している。
- 匿名性と組織的攻撃の放置: 匿名のボットやトロール(荒らし)アカウントが野放しにされ、嫌がらせを無責任に行える環境が続いている。「トロール・ファーム」と呼ばれる、組織化された攻撃集団の存在も指摘されており、これは個別のヘイト行為ではなく、特定の目的を持った情報操作の一環である可能性を示唆している。
沈黙する巨人たちと、私たちに問われること
Global Witnessが今回の調査結果について各社にコメントを求めたところ、Metaはユーザーが自身を守るためのツール(「非表示ワード」機能など)を紹介し、TikTokはコミュニティガイドラインを提示した。他の企業はコメントを拒否した。しかし、これらの対応は、活動家たちが直面する構造的な問題に対する根本的な解決策とは程遠い。
Global Witnessのキャンペーン戦略リード、Ava Lee氏は言う。「これは選択の問題です。彼らは世界で最も裕福な企業の一部であり、その気になれば、優れたコンテンツモデレーションと信頼・安全対策にもっと多くのリソースを投じることは可能なのです」
この問題は、単に「SNSのマナーが悪い」という話ではない。これは、気候変動という人類共通の課題に取り組むための、最も重要な言論空間が、憎悪によって機能不全に陥っているという危機である。地球の最前線で警鐘を鳴らす活動家たちが沈黙させられることは、社会全体が彼らの貴重な知見や警告を失うことを意味する。
一方の「自由な言論」が、もう一方の「生きる権利」と「発言する権利」を脅かすという、歪んだ現実がここにある。この構造を前に、私たちユーザーもまた、単なる傍観者ではいられない。有害なコンテンツを安易に拡散せず、プラットフォームに対してより良い変革を求め、そして何よりも、真実のために声を上げる人々を孤立させないこと。デジタルの言論空間の健全性を取り戻す戦いは、すでに始まっている。
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