着信画面に家族の名前が表示され、声まで本人そっくりに聞こえても、電話をかけているのが別人ということがある。発信者番号を偽装する技術とAIによる音声合成を組み合わせた詐欺が広がり、電話番号の表示も声も、それだけでは本人確認の手段にならなくなっている。

Googleは2026年6月、通話内容を解析せず、発信元の端末が本当に登録済みの連絡先のものかを確認する「Fake call detection」をAndroid向けに順次提供し始めた。

一方、NTTドコモについては、録音した通話内容を生成AIで解析して特殊詐欺の可能性を判定する技術を開発したと2026年1月に報じられている。当時は2026年度中の実用化を目指す段階だった。

どちらも詐欺電話への対策だが、判定に使う情報が異なる。Googleは「本当にその人の端末からかかってきたか」を確かめ、ドコモの技術は「会話の内容が詐欺らしいか」を調べる。この違いを押さえると、どのような着信にどの仕組みが有効なのかが見えてくる。

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番号表示とAI音声を組み合わせる、なりすまし電話

Googleによると、知らない番号からの電話に出ない人が増えたことで、詐欺師は利用者が信頼している連絡先になりすます手口を強めている。

手口は大きく2段階に分かれる。

まず、インターネット経由の通話サービスなどを使い、着信画面に家族や知人の電話番号が表示されるよう発信者番号を偽装する。さらにAIによるディープフェイク音声を使って家族や上司などの声を再現し、事故や緊急事態を装って送金を求める。

被害規模も小さくない。Googleは、INTERPOLが2026年3月の評価で、なりすまし詐欺を世界で4,000億ドルを超える詐欺被害を生む主要な要因の一つとして挙げたと紹介している。

日本では、警察庁の確定値によると、2025年の特殊詐欺の認知件数は27,832件、被害額は約1,423億円だった。前年と比べ、件数は32.3%、被害額は98.0%増えている。

ただし、この数字は特殊詐欺全体を集計したものであり、発信者番号の偽装やAI音声を使った手口だけを数えたものではない。

こうした詐欺電話に対しては、大きく二つの方向から対策できる。

一つは、本当にその相手から電話がかかってきているのかを確認すること。もう一つは、通話内容そのものに詐欺の特徴がないかを調べることだ。

GoogleのFake call detectionは前者を、ドコモが開発している通話AIは後者を担う。

Googleは「誰の端末からかかってきたか」を確認する

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GoogleのFake call detectionは、発信者と受信者の双方がGoogleの電話アプリ「Phone by Google」を利用している場合に、連絡先からの着信を確認する仕組みだ。

登録済みの連絡先から電話がかかると、発信側の端末から受信側の端末へ、通話とは別に確認用の信号がリアルタイムで送られる。Googleはこれを、端末同士による「デジタルな握手」と表現している。

この確認には、エンドツーエンド暗号化されたRCS(Rich Communication Services)が使われる。Googleは、確認のやり取りはプライベートに保たれると説明している。

詐欺師が発信者番号だけを家族の番号に偽装した場合、本物の端末から送られるはずの確認信号は届かない。

受信側の端末がその欠落を検知すると、今度は登録されている連絡先の実機へ「現在、本当に電話をかけているか」を確認する。

Googleの説明では、本物の端末が「現在通話を発信していない」と返答した場合、受信側の画面に電話をすぐ切るよう警告が表示される。

人が行う対策に置き換えるなら、家族を名乗る不審な電話を一度切り、普段使っている番号へ自分からかけ直して本人確認する方法に近い。

ただし、Fake call detectionでは利用者自身がかけ直すのではなく、端末同士がRCSを通じて自動的に確認する。

重要なのは、この判定に声や会話内容を使わないことだ。

Googleの公式説明では、判定材料として音声解析やAIによる会話内容の分析は挙げられていない。AIで作った声が本人と見分けられないほど精巧でも、本物の端末から発信されていなければ、この確認には影響しない。

AIを使った音声偽装に、AI音声判定で対抗するのではなく、発信元となる端末そのものを確認する考え方だ。

Googleが示している主な動作条件は次のとおりである。

  • Android 12以降の端末であること
  • 「Phone by Google」「Google Contacts」「Google Messages」がインストールされていること
  • Google MessagesでRCSが利用できること
  • 発信者と受信者の双方がPhone by Googleを利用していること

機能は既定で有効になり、Phone by Googleの設定から無効化できる。

Googleは2026年6月、Pixelを皮切りにAndroid 12以降の端末へ世界規模で順次展開すると発表した。

日本では、標準メッセージアプリとしてGoogle Messagesを採用する動きが大手キャリアで進んでいる。RCSを利用しやすい環境は整いつつあるが、Fake call detectionが国内の各キャリア・端末の組み合わせでどこまで利用できるかについては、個別に確認する必要がある。

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ドコモのAIは「何を話しているか」を調べる

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NTTドコモが開発した技術は、2026年1月に報じられた。録音した通話内容を生成AIが解析し、特殊詐欺電話である可能性を判定して利用者へ警告する仕組みだ。

当時は社内実証の段階で、2026年度中の実用化を目指すとされていた。

判定にはRAG(検索拡張生成)を利用する。

RAGは、生成AIが回答や判断を行う前に、外部のデータベースから関連する情報を検索し、その結果を材料として利用する仕組みだ。

ドコモの技術では、録音した通話内容に似た事例を特殊詐欺の事例データベースから検索し、その情報を参考に生成AIが詐欺の可能性を判断する。録音と判定結果の表示はスマートフォンアプリが担う。

結果は、詐欺の危険性を「高・中・低」の3段階で示す。

危険性が「高」と判定された場合は、画面や音声で警告し、個人情報や金銭を相手へ渡さないよう注意を促す。

詳細画面では「義援金詐欺」のように想定される詐欺の種類を示し、「電話による寄付の要求は詐欺で使われることがある」といった判定理由も表示する。

経験豊富な相談員が過去の詐欺事例を調べ、「この話の進め方は、過去の義援金詐欺に似ている」と説明するのに近い。違いは、事例を検索して判断理由をまとめるところまでAIが担当する点にある。

ドコモは、新しい詐欺手口を含む評価用データセットを使った試験で、詐欺判定の正解率が95%以上だったと説明した。

ただし、この95%は評価用データセット上で得られた値だ。実際の利用者が受けるさまざまな電話でも同じ精度になるかどうかは、この数字だけでは分からない。

一般に正解率とは、詐欺電話と通常の電話を合わせ、正しく判定できた割合を示す。

しかし、評価データに詐欺電話と通常電話がどの程度含まれていたのか、詐欺を見逃した割合や、通常の電話を誤って詐欺と判定した割合がどの程度だったのかは、報道された情報からは分からない。

95%という一つの数字だけでは、利用者にとって重要な「見逃し」と「誤警告」の内訳までは判断できない。

また、報道では、警告が通話中に表示されるのか、通話終了後なのか、AI処理を端末内で行うのかクラウド側で行うのかについても明らかにされていない。

ドコモは2026年5月27日に「あんしんセキュリティ 詐欺対策プラス」を開始したが、そこで追加されたのは迷惑電話の自動拒否、スクリーンショットを使ったAI詐欺チェック、フェイク画像診断の3機能だ。

通話内容そのものを解析する機能は含まれておらず、1月に報じられた通話AIとは別のものとして考える必要がある。

何を確認するかが違えば、守れる電話も違う

Googleとドコモの仕組みを整理すると、判定に利用する情報も提供状況も異なる。

GoogleのFake call detection ドコモの通話AI(開発中) ドコモの詐欺対策プラス
判定に使う情報 発信側端末からの確認信号。届かない場合は登録済み連絡先の実機へ問い合わせ 録音した通話内容と特殊詐欺の事例データベース 迷惑電話番号データベース、利用者が送信したスクリーンショット
確認するもの 本当に登録済み連絡先の端末から発信されているか 詐欺の危険度と想定される詐欺の種類 迷惑電話番号、文面の詐欺可能性、画像のディープフェイク可能性
主な前提 双方がPhone by Googleを利用し、RCSを利用できること アプリが通話内容を録音できること 対象サービスへの加入
提供状況 2026年6月から順次展開 2026年度中の実用化を目標(1月報道時点) 2026年5月27日開始

この3つのうち、通話内容そのものを判定材料とするのは、2026年1月時点で開発中だったドコモの通話AIだ。

GoogleのFake call detectionは会話の声や内容ではなく、発信元端末の確認を利用する。Googleには別途、会話内容から詐欺の可能性を検出する「Scam Detection」という機能があり、こちらはFake call detectionとは仕組みが異なる。

判定材料が違えば、それぞれ苦手な状況も変わる。

Fake call detectionが確かめるのは、「登録済みの連絡先として表示されている電話が、本当にその人の端末から発信されているか」だ。

この仕組みから考えると、本人の端末を別人が実際に使って電話してきた場合、本物の端末から正常に確認信号が送られるため、番号偽装としては検出できない。

また、連絡先に登録していない番号からの電話では、照合すべき相手の実機がないため、この仕組みの対象にはならない。

Fake call detectionは声の出来栄えに左右されない一方で、会話の内容が詐欺的かどうかも判断しない。

これに対し、ドコモの通話AIは会話内容そのものを入力にするため、発信者番号が偽装されているかどうかにかかわらず、金銭要求や個人情報の聞き出し方などから詐欺の可能性を判断できる。

その反面、通話を録音していなければ判断材料がなく、性能も特殊詐欺の事例データベースと生成AIによる判定能力に左右される。

過去の事例とは大きく異なる新しい手口や、通常の会話と区別しにくい詐欺にどこまで対応できるかは、今後の実運用で確認する必要がある。

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Googleにも「通話内容を見る」別の詐欺検出機能がある

Google自身も、発信元端末の確認と会話内容の判定を別々の機能として提供している。

Fake call detectionとは別に、Phone by Googleには、会話のパターンから詐欺の可能性を警告する「Scam Detection」がある。

Googleによると、Scam Detectionは対応する端末上のGeminiモデルで通話内容を処理し、会話を端末の外へ送信しない。

既定では無効で、利用者が有効化した場合でも、詐欺の可能性がある対象通話で動作する。登録済みの連絡先との通話は対象外となる。

つまりGoogle自身も、**「誰の端末からの電話かを確認する仕組み」と「会話内容が詐欺らしいかを判断する仕組み」**を別々に用意している。

ドコモが開発している通話AIは、判定材料という点では後者に近い。

家族の端末と提供状況によって使える対策が変わる

どの対策を利用できるかは、自分の端末だけでなく、電話をかけてくる相手の端末にも左右される。

Fake call detectionが機能するには、自分と相手の双方がPhone by Googleを使用し、RCSを利用できる必要がある。Phone by GoogleはAndroid向けアプリなので、例えば相手がiPhoneの場合、この条件は満たさない。

家族全員が対応するAndroid端末を利用している場合は、各端末でPhone by GoogleとGoogle Messages、RCSの設定を確認しておくことで、家族の番号を偽装した電話への防御につながる可能性がある。

一方、連絡先に登録していない番号や、警察、役所、金融機関などを突然名乗る相手からの電話は、登録済み端末の確認だけでは防げない。

この領域では、迷惑電話番号データベースや、会話内容そのものから詐欺の特徴を検出する仕組みが重要になる。

今後、日本で確認したい点は大きく二つある。

一つは、ドコモが開発する通話AIが実際にいつ提供され、どの料金・端末で利用できるようになるのかだ。その際には「正解率95%以上」だけでなく、詐欺を見逃す割合と、通常の電話を誤って警告する割合がどこまで公開されるかも重要になる。

もう一つは、GoogleのFake call detectionが、日本国内のキャリアやAndroid端末の組み合わせでどこまで利用できるようになるかだ。

登録済みの家族や知人を名乗る電話では端末そのものを確認し、見知らぬ相手からの電話では会話内容をAIで調べる。

こうした異なる対策を組み合わせられるようになれば、「表示された番号と聞こえてくる声を自分で信じてよいか判断する」という利用者の負担を、端末側で一部引き受けられるようになる。