Xiaomiは2026年8月24日、第2世代の自社設計フラグシップSoC「XRING O3」を発表した。製造世代は3nmに据え置いたが、ダイを133mm²へ広げ、10コアのCPUからGPU、NPU、メモリ経路まで一斉に入れ替えた。公式のAnTuTu V11スコアは522万8014点に達する。ただし、これは低温実験室で測ったピーク値である点には注意が必要だ。XRING O3の実力を測るには、スコアの大きさより、増えた演算器へデータを滞りなく運ぶ仕組みと、スマートフォンが許容できる電力で残る性能を分けて考える必要がある。
3nm据え置きでも、ダイは22%大きくなった
XRING O3は240億トランジスタを133mm²に収める。初代のXRING O1は190億トランジスタ、109mm²だったため、トランジスタ数は約26%、面積は約22%増えた。公表値から単純計算した集積密度は1mm²当たり約1億7400万個から約1億8000万個へ約3.5%上がるが、面積と個数はいずれも丸められている。厳密なセル密度を逆算できる数字ではない。
| 項目 | XRING O1 | XRING O3 | 変化 |
|---|---|---|---|
| プロセス | 第2世代3nm | 3nm | 同じ3nm世代 |
| ダイ面積 | 109mm² | 133mm² | 約22%増 |
| トランジスタ数 | 190億 | 240億 | 約26%増 |
| CPU | 10コア、4クラスタ | 10コア、3クラスタ(高効率コアなし) | 高効率コアを廃止 |
| GPU | 16コアImmortalis-G925 | 16コアG2-Ultra NX | 新世代IPとAI演算器 |
| NPU | 6コア、44TOPS | 4コア、200TOPS(A8W4) | 大規模モデル向けに再設計 |
| メモリ | LPDDR5系 | LPDDR6/LPDDR5X | 最大113.8GB/s |
| 主要キャッシュ | 非公表 | 合計60MB | 16MB SLCを追加 |
表から分かるのは、微細化で小さくするより、同じ製造世代で使える面積を増やした設計である。半導体解析を手がけるGeekerwanは、製造プロセスをTSMCのN3Pと特定している。一方、Xiaomiが説明会で明示したのは「3nm」までだ。TSMCによればN3PはN3Eに対し、同じリーク電流なら最大5%高速、同じ速度なら消費電力を5〜10%削減し、密度を1.04倍にする。これだけでは、Xiaomiが掲げるCPUの60%増、GPUの85%増という性能差を説明できない。
増分の多くは回路規模に由来する。Geekerwanのダイ解析では、XRING O3は機能ブロック間の配線領域を詰め、TSMCの標準セルとは別に2400件超のカスタムセルを設計していたという。ArmのCPUやGPU IPを採用しても、Xiaomiがコア数とキャッシュ容量を決め、配線や電源制御を設計する。物理配置もXiaomiの仕事だ。133mm²という大きなダイは、性能と引き換えに製造コストと歩留まりの負担を増やす。そのうえダイ内に5G基帯を含まないため、端末全体で必要な基板面積と電力はSoC単体の数字より大きい。
高性能CPUコア10基は速いが、20Wは開発ボードのピーク値
CPUは2基のC1-Ultraを4.35GHz、4基のC1-Premiumを3.68GHz、4基のC1-Proを3.15GHzで動かす。いずれもArmv9.3世代で、低負荷専用のC1-Nanoを載せない。とはいえ、10基すべてが同じ大型コアという意味ではない。C1-Ultraが瞬間的な単スレッド性能、面積を35%抑えたC1-Premiumが中間の負荷、C1-Proが持続性能と低電力域を受け持つ。
ArmがIP発表時に示した世代差では、C1-Ultraの単スレッド性能はCortex-X925比で25%高い。C1-ProもCortex-A725より同一周波数の持続性能が16%高く、同じ性能なら最大12%少ない電力で動く。XRING O3はこの3段階を2+4+4基で並べ、O1にあったCortex-A520級の高効率コアを外した。狙いは高負荷時の並列処理を増やしながら、日常負荷を低いクロックのC1-Proへ渡すことにある。
Xiaomiが公表したGeekbench 6.5はシングルコア3945、マルチコア1万5221で、説明会のO1比較値からそれぞれ約31%、約60%伸びた。中低負荷のCPU消費電力も最大25%減ったという。10コアを並べた効果はマルチコアで大きい。シングルコアが31%増にとどまる一方、マルチコアが60%増えた差は、周波数向上に加えて同時に働ける大型コアが増えたことを映している。
Geekerwanが開発ボードで測ったSPEC CPU 2026の電力性能曲線では、C1-Ultraが比較対象のAndroid向けSoCを上回り、Apple A19 Proへ迫った。C1-Proも、Dimensity 9500に載る同じコアの最大性能へ約半分の電力で届いたとGeekerwanは報告している。ただし、公開された解説からはコンパイラ設定や電力を測った範囲を確認できない。この測定の範囲では、同じArm IPと同じ3nm世代でも、Xiaomiの実装に性能差が表れたと言える。
ただし、GeekerwanはGeekbenchで1万5000点を超えた開発ボードのCPU電力を約20Wと報告した。公開された解説では、測定用電源レールを含む詳しい方法は示されていないため、他の測定値と直接比較できない。低温環境のAnTuTu 522万8014点も、ピーク性能の存在は確認できても、薄い折りたたみ端末で何分維持できるかまでは分からない。量産機では5〜10W付近の性能曲線、表面温度、スロットリング後のスコアが実用上の判断材料になる。
G2-Ultra NXは、描画とAI処理を同じ場所で回す
16コアのG2-Ultra NXは、XRING O3で初めて姿を見せたArmの次世代GPUである。Xiaomiの説明ではVulkan 1.4と第3世代のハードウェアレイトレーシングに対応し、8基のNXニューラルアクセラレータを内蔵する。Armは発表時点でG2-Ultra NXの内部構成を一般公開していない。したがって、演算器数やクロック、テクスチャ処理能力から競合GPUと比較することはまだできない。
XiaomiはO1に対し、GFXBench Aztec Ruins 1440pで94%、3DMark Steel Nomad Lightで85%、3DMark Solar Bay Extremeのレイトレーシングで182%性能が上がったとする。同じ性能点での消費電力は最大64%減った。ただし64%は全ゲームの平均ではなく、Xiaomiが選んだ性能点での最大差だ。ドライバの成熟度やゲーム側の最適化も、実際のフレームレートを左右する。
独立した手掛かりもある。Geekerwanの開発ボードはSteel Nomad Lightで4700点を超え、同社の電力性能曲線では4.5W時に約2500点を記録した。これは曲線上でO1のピークを上回る。ただし、公開された解説ではGPU単体とSoC全体のどこまでを電力へ含めたか確認できず、4.5Wをそのまま端末消費電力とはみなせない。開発ボードは端末の筐体、バッテリー、無線部も含まないため、Xiaomi 18 Foldの持続性能を先取りする値ではない。
NXの役割は、AIによる超解像とフレーム補間をGPU内で処理することだ。従来の構成では、GPUが描いた画像をメモリ経由でNPUへ送り、処理後に戻す必要がある。NXなら画像を描画経路の近くで処理でき、往復するデータと待ち時間を減らせる。8基合計の公称値は36TOPSで、Xiaomiは540pから1080pへの超解像で消費電力を20%減らし、3.2Kへの超解像と補間を同時に使って30分間120fpsを維持したと説明した。対象ゲーム、入力遅延、画質評価の方法は開示されていないため、対応タイトルでの実測が必要だ。
113.8GB/sを生んだLPDDR6と60MBキャッシュ
XRING O3は、発表済みのスマートフォンSoCとして初めてLPDDR6対応を掲げた。転送速度は1ピン当たり10.667GT/sで、4本の24bitチャネルを使う。Xiaomiは実効帯域を113.8GB/s、O1比で48%増と説明する。単純な物理帯域は「10.667×96÷8」で約128.0GB/sになるが、LPDDR6が1回のバーストで運ぶ288bitのうち、実データは256bitである。128.0GB/sに実データ比率の8/9を掛けると113.8GB/sとなり、公称値と一致する。
LPDDR6の初期速度はLPDDR5Xの最速品と大きく変わらない。違いはチャネルの幅と分け方にある。JEDECのJESD209-6は1チャネルを16bitから24bitへ広げ、さらに2本の12bitサブチャネルとして独立に動かす。32byte単位の小さなアクセスを保ち、必要なサブチャネルだけを動かせるため、帯域を増やしながら軽い処理で余分な回路を休ませやすい。SK hynixが2026年3月に発表した初期LPDDR6も10.7Gbpsで、LPDDR5X比33%高速、20%以上省電力としている。
帯域を受ける側も大きくなった。XRING O3はCPUのL2を合計12MB、共有L3を16MB、システムレベルキャッシュ(SLC)を16MB積む。GPUとNPUの専用分16MBを合わせ、主要キャッシュは合計60MBだ。キャッシュに残るデータはLPDDR6まで取りに行かずに済むため、遅延と電力を同時に抑えられる。とりわけ16MBのSLCは、複数の演算器やISPが同じデータを使う場面で外部メモリへの重複アクセスを減らす。
Xiaomiは統合バスとメモリコントローラまでの上層メタル配線を見直し、静的メモリ遅延を82nsまで縮めたとする。Geekerwanの開発ボードでも、128MBのデータ深度で約85ns、他コアに帯域負荷をかけた256MB深度で約180nsだった。コア間遅延も全組み合わせで80nsを下回ったという。大きなキャッシュと広いメモリは、演算器を増やしてもデータ待ちで遊ばせないための組み合わせである。
200TOPSより、MiMo向けの2.6bit圧縮が効く
4コアNPUの公称性能は200TOPS、ベクトル演算は3.13TFLOPSに達する。ここで200TOPSは、8bitの活性値と4bitの重みを組み合わせるA8W4条件の値だ。INT8同士の演算や疎性を使った値とは意味が異なるため、他社のTOPSと数字だけを並べても優劣は決まらない。CPUのSME2が持つ3.5TOPS、GPUのNXが持つ36TOPSも精度と用途が違い、合算できない。
実装上の変化は、Xiaomiの端側モデル「MiMo」とNPUを一緒に設計した点にある。Xiaomiは重みを5種類の値で表す量子化モデルを作り、Huffman符号による可逆圧縮を組み合わせた。平均ビット幅は2.6bitまで下がり、重みを読むためのメモリ帯域を30%削減したという。大規模言語モデルの推論は、演算器の速さより重みをメモリから運ぶ速度で頭打ちになりやすい。LPDDR6と16MB SLCは外側の経路を広げ、NPU内の近接メモリと2.6bit圧縮は演算器へ運ぶデータそのものを減らす。
MiMo-3Bの社内試験では、比較対象の従来型フラグシップSoCに対し、入力を処理するprefillが40%、文章を生成するdecodeが45%速く、消費電力は26%低かった。ただし比較したSoC名、文脈長、絶対的なtokens/sは公表されていない。200TOPSという上限より、この3つの条件が量産機で再現するかを確認すべきである。
AI演算器はNPUへ集中させていない。CPUはSME2、GPUはNX、ISPはRAW領域のAIノイズ除去、表示回路はAI超解像、音声DSPは専用AIエンジンを持つ。第5世代ISPは最大4億3200万画素の単眼入力、6400万+6400万+5000万画素の3眼同時処理、4K/60fpsの夜景AIノイズ除去に対応する。H.266/VVCのハードウェアデコードも加わった。各処理をデータの発生場所に近い回路へ置くことで、NPUとメモリへ何度も往復する電力を抑える設計だ。
最後に残る制約は、熱と通信である。Geekerwanの解析ではXRING O3は従来型のPoP(Package on Package)を使い、ダイに5G基帯を統合していなかった。Xiaomiは5G利用時の総合消費電力がO1比で20%以上下がったとしているものの、基帯の型番と試験条件は明らかにしていない。20W級まで伸びるCPUと大規模GPUを薄い折りたたみ端末へ収め、外付け基帯を含む電力を制御できるか。9月発売のXiaomi 18 Foldでは5〜10W域の持続性能とセルラー通信時の電池持ちが、より放熱面積の大きいPad 9 Pro Maxではピーク性能を何分保てるかが、XRING O3の設計を評価する数字になる。
