台湾の市場調査会社TrendForceは2026年10月19日、世界の光ファイバー供給が同年に1億8,000万芯km不足し、需給の逼迫は少なくとも2028年まで続くとの予測を発表した。AIデータセンターの建設や、データセンター間を結ぶ大容量ネットワークの整備が需要を押し上げており、製品によっては2026年の平均価格が前年の5倍を超える見通しだ。通信事業者は長期契約によって将来の供給量を確保する動きを強めているが、メーカーが新たな生産設備を稼働させるまでには時間がかかる。古河電工が8月に発表した増産計画も踏まえると、需要家が調達を確保する時期と、実際に供給能力が増える時期の間には大きな隔たりがある。
光ファイバー価格が最大5倍超に高騰、用途によって上昇幅に差
TrendForceが公表した市場予測によると、2026年の世界の光ファイバー需要は5億7,700万芯kmに達する見通しだ。「芯km」は光ファイバー1芯当たりの長さを合計した単位で、例えば100芯の光ファイバーを1km敷設した場合、100芯kmとなる。通信ケーブルを敷設するルートの距離とは異なり、ケーブル内部に収容される光ファイバーの本数も反映した指標だ。同社が予測する1億8,000万芯kmの供給不足も、この単位で表した世界全体の需給差を指している。
需給の逼迫によって、完成品の光ファイバーのスポット価格は急上昇すると予測されている。特にAIデータセンター向けの需要が価格を押し上げているが、値上がりの幅は製品の種類によって異なる。TrendForceが示した2025年の価格水準に対する2026年の見通しは、以下のとおりだ。
| 光ファイバーの用途・種類 | 2026年の価格見通し(2025年比) |
|---|---|
| データセンター内配線用の曲げに強い光ファイバー | 年平均で5倍超 |
| データセンター間接続・大容量基幹網向け | 約2.8倍 |
| 主流の通信サービス向け | 約3.7倍 |
最も大きな価格上昇が見込まれるのは、データセンター内部の配線に使われる耐曲げ光ファイバー(BIF:Bend-Insensitive Fiber)だ。高密度に配線するデータセンターでは、限られた空間で光ファイバーを曲げても信号の損失を抑えられる製品が求められる。こうした製品の2026年の平均価格は、2025年の5倍を超えると予測されている。また、データセンター間の接続や大容量基幹網に使われる光ファイバーは約2.8倍、一般的な通信サービス向けの製品も約3.7倍に上昇する見通しだ。
つまり、価格高騰はAIデータセンター向けの特殊な製品だけでなく、一般的な通信インフラに使われる光ファイバーにも及んでいる。ただし、これらは完成品のスポット市場における価格見通しであり、通信事業者がメーカーと結ぶ長期供給契約の価格を示すものではない。TrendForceは具体的な価格の絶対額や契約単価を公表しておらず、家庭向けインターネット回線の利用料金が同じ倍率で上昇するという予測でもない。
工場稼働率は92%に上昇、増産には18〜24カ月が必要
需要が急増する一方、供給側には生産量をすぐに増やせるだけの余力がほとんど残されていない。TrendForceによると、2026年の世界の光ファイバー生産設備の稼働率は92%に達し、在庫水準は2024年の4カ月分からわずか1カ月分に減少した。一部の大手メーカーでは、すでに2027年第1四半期まで受注が埋まっているという。既存設備が高い稼働率で運転され、在庫も減少しているため、追加注文に対応する余地が限られている状況だ。
増産の障害となるのが、光ファイバーの原料となる「母材(プリフォーム)」の生産能力だ。母材は、光ファイバーの光学特性を決めるガラスの構造をあらかじめ形成したもので、これを加熱して細く引き伸ばすことで光ファイバーを製造する。TrendForceによると、母材の生産能力を増強するには、ガラスの堆積装置を導入し、生産工程を整備する必要があり、通常18〜24カ月を要する。そのため、価格上昇を受けてメーカーが設備投資を決定しても、短期間で供給量を大幅に増やすことは難しい。
ただし、18〜24カ月という期間は母材の生産能力増強に関する目安であり、光ファイバーやケーブルを製造するすべての工場に共通する建設期間ではない。光ファイバーの製造と、複数のファイバーを束ねてケーブルに加工する工程では、必要な設備も異なる。ケーブルの生産能力を増やしても、その材料となる光ファイバーや母材の供給が追いつかなければ、完成品の生産量は増やせない。需給の逼迫を解消するには、サプライチェーンの各工程で生産能力を確保する必要がある。
こうした供給制約が続くなか、データセンター向け需要の存在感はさらに高まる見通しだ。TrendForceは、世界の光ファイバー需要に占めるデータセンター関連用途の割合が、2026年の18〜20%から2027年には30〜35%へ上昇すると予測している。大手クラウドサービス事業者によるAIデータセンターの拡張だけでなく、半導体メーカーや通信事業者も関連インフラへの投資を進めており、データセンター間の接続や大容量基幹網に必要な光ファイバーの需要が増えているためだ。
もっとも、需要全体に占める割合の変化と、需要量そのものの増加率は区別する必要がある。TrendForceの今回の発表では2027年の世界需要総量が示されていないため、データセンター向け需要が具体的に何倍になるかは、この比率だけでは計算できない。それでも、供給能力の拡張に時間がかかる一方で、AI関連用途が需要全体に占める割合を急速に高めるという構図は明確だ。
VerizonやMetaが長期契約で供給確保、古河電工も1,000億円を投資
供給不足が長期化する見通しを受け、通信事業者や大手テクノロジー企業は、将来必要になる光ファイバーを長期契約で確保する動きを強めている。米通信大手Verizonと光ファイバーメーカーのCorningは2026年9月、2027〜2032年にわたる複数年の供給契約を締結した。Corningの9月8日付発表によると、契約対象は高密度光ファイバーと接続関連製品で、光ファイバーの総延長は8,000万マイル超(約1億2,900万芯km)に及ぶ。今後数年間のネットワーク整備に必要な資材を、実際の納入よりも前に確保する契約だ。
この契約は、AIデータセンター間を結ぶ長距離ネットワークだけを対象としているわけではない。Verizonは住宅や企業向けのブロードバンド網を拡張すると同時に、AIデータセンターを結ぶ大容量の基幹網も整備する計画だ。両者を共通の通信インフラで支える構想であり、契約した光ファイバーの全量をAI専用の需要として扱うのは適切ではない。また、2027〜2032年の複数年にわたる契約数量と、TrendForceが予測する2026年単年の世界供給不足量を、そのまま比較することもできない。
大口顧客との長期契約を背景に、生産能力を拡張する動きも進んでいる。CorningとMetaは2026年3月31日、米ノースカロライナ州ヒッコリーで光ケーブル製造設備の拡張工事に着手した。両社の発表によると、これは同年1月に発表した最大60億ドルの複数年契約の一環で、Metaが新設備の主要顧客となる。AIデータセンター向けの光ケーブルを米国内で増産する計画だが、今回の着工発表では具体的な完成時期や増産量までは示されていない。
日本の古河電工も、光ファイバーと光ファイバーケーブルの世界的な需要増加に対応するため、大規模な設備投資を決定している。同社は2026年8月4日付の開示資料で、米国、ブラジル、日本、インドの4カ国において、光ファイバーとローラブルリボンケーブルの生産能力を増強するため、総額約1,000億円を投じると発表した。ローラブルリボンケーブルは、多数の光ファイバーを高密度に収容できるケーブルで、データセンターなどの大容量光通信に用いられる。新設備は2028年度下期から順次量産を開始する予定で、投資の効果が実際の供給量に反映されるまでには、なお時間がかかる。
各社が公表した供給契約と設備投資の進捗を整理すると、次のようになる。
| 企業・発表時期 | 発表内容 | 供給・生産の予定時期 |
|---|---|---|
| Verizon/Corning(2026年9月) | 高密度光ファイバーと接続製品の複数年供給契約 | 2027〜2032年 |
| Corning/Meta(2026年3月31日) | 米ヒッコリーで光ケーブル製造能力の拡張に着工 | 完成時期・増産量は未公表 |
| 古河電工(2026年8月4日) | 約1,000億円を投じ、光ファイバーとローラブルリボンケーブルを増産 | 2028年度下期から順次量産開始 |
VerizonとCorningの契約では2027年から製品の供給が始まる一方、古河電工の新設備が量産を開始するのは2028年度下期以降となる。企業ごとに製品や設備投資の対象は異なるものの、需要家が将来の調達を確保する動きと、メーカーが供給能力を増やす動きには時間差があることがわかる。長期契約によって将来の供給量を確保できても、それによって市場全体の供給能力が直ちに増えるわけではない。
なお、古河電工が今回の投資によって「概ね2倍」に引き上げるとしているのは、ファイバー数量に換算したローラブルリボンケーブルの製造能力だ。比較基準は2025年度末であり、同社の光ファイバー全体の供給能力や、世界の母材生産能力が2倍になるという意味ではない。また、インドの合弁会社Birla Furukawa Fibre Optics(BFFO)での投資については、共同出資先のUniversal Cablesとの協議が成立することを条件としている。
古河電工は設備投資の決定に当たり、長期契約を含めた顧客からの購入コミットメントを確認したことも明らかにしている。将来の購入意思が示されることで、メーカーは増産設備への投資を判断しやすくなる。つまり、長期供給契約は需要家が資材を確保する手段であると同時に、メーカーの生産能力増強を後押しする役割も担っている。ただし、同社の開示資料からは、顧客による前払いの有無や個別の契約条件までは確認できない。
光ファイバー不足の解消は2028年以降か、量産開始と供給回復は別問題
TrendForceは、今回の光ファイバー不足が過去の通信インフラ投資サイクルとは異なり、AIデータセンターに関連する継続的な需要拡大によって生じていると分析している。新たな生産能力の立ち上げには時間がかかる一方、需要は増え続けると予測されるため、少なくとも2028年までは供給不足が続くとの見方だ。こうした状況では、通信事業者や大規模インフラを保有する企業が長期契約によって将来の供給を確保する動きが、さらに広がるとみられる。
ただし、TrendForceが示した「少なくとも2028年まで」という供給不足の予測と、古河電工が予定する「2028年度下期からの量産開始」は、対象とする市場や期間の区切りが異なる。古河電工の増産が計画どおり進んだとしても、それだけで世界全体の不足が解消するとは限らない。さらに、光ファイバーやケーブルには用途によって異なる仕様が求められるため、供給能力が増えても、需要家が必要とする製品を十分に確保できるかは別の問題となる。
今後の需給改善を見極めるには、メーカーが発表する投資額や生産能力の増強計画だけでなく、実際の量産開始時期、製品ごとの納入状況、在庫水準、受注残の推移を確認する必要がある。新設備からの供給が始まり、それが顧客への納入や在庫の回復につながって初めて、短期市場での調達圧力も和らぐと考えられる。AIインフラの拡大による光ファイバー需要の増加が続くなか、契約による供給確保と、実際の生産能力の拡大との時間差をどこまで縮められるかが、今後の市場動向を左右することになる。



