• 何が起きたか: 台湾のIC設計各社が、2026年末から2027年初めにかけて値上げを検討していると報じられた。値上げ幅は5%から2桁に及ぶとされる。
  • なぜ重要か: 成熟プロセスの生産枠がAI周辺部品に振り向けられ、製造コストの上昇が一般向けICにも波及する可能性がある。
  • 今後の注目点: 正式な価格改定の条件、前倒し発注が一巡した後の需要、新工場で実際に利用できる生産枠が焦点となる。

台湾のIC設計会社が、2026年末から2027年初めにかけて新たな値上げを検討している。台湾・経済日報の10月5日付報道によると、対象として挙がっているのは電源管理ICやディスプレー駆動IC、マイコンで、値上げ幅は5%から2桁に及ぶとみられる。ただし、各社が正式に価格改定を発表したわけではなく、現時点では同紙の取材に基づく見通しである。背景にはファウンドリーへの製造委託費の上昇があるが、顧客の実際の負担は、契約を結んだ時期や、ほかの工場へ製造を移せるかどうかによって変わる。

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製造委託費に続き、IC価格にも値上げの可能性

経済日報の報道は、IC設計会社が検討している今回の改定を、第2弾の値上げとして伝えている。回路を設計し、製造を外部のファウンドリーに委託する企業にとって、委託費の上昇は製品原価を押し上げる。安く調達したウエハーや既存の契約で当面の影響を抑えられても、次の発注から委託費が上がれば、販売価格にどこまで転嫁するかが課題になる。

同紙は、TSMCの成熟プロセスの製造委託費についても、2027年1月に3〜10%の値上げが見込まれると報じた。ただし、TSMCは具体的な改定内容を明らかにしておらず、価格は戦略的に決めるとの立場を示している。他の台湾ファウンドリーも、2027年の値上げ観測にはコメントしていない。いずれも報道段階の情報であり、製造委託費とICの販売価格が、それぞれ報じられた幅で値上げされると決まったわけではない。

製造委託費が10%上がれば、ICの販売価格も一律に10%上がるわけではない。製品原価にはパッケージの組み立てや検査の費用も含まれ、1枚のウエハーから得られる良品の数によっても、IC1個当たりの製造コストは変わる。販売価格は製品ごとの利益率や顧客との交渉にも左右されるため、今回報じられた数字だけで、家電や自動車の価格がどれだけ上がるかを判断することは難しい。

成熟プロセスにも広がるAI関連の需要

成熟プロセスの値上がりが続く可能性は、調査会社も指摘している。TrendForceが6月30日に公表した独自調査は、AI関連部品に生産枠が振り向けられていることや、一部メーカーが生産能力を減らしていることを背景に、成熟プロセスの製造委託費は2027年も上昇が続くと予測していた。AI関連の需要が集まるのは、最先端の演算用チップを製造する工場だけではない。

電源管理ICは、電圧や電流を調整して各部品に電力を供給する。AIサーバーの電力需要の拡大は、こうしたICやパワー半導体の需要にもつながる。また、複数のチップを接続する中間基板「インターポーザー」にも、成熟プロセスで製造されるものがある。TrendForceは、12インチウエハーを使う55nmのインターポーザー向け製造工程などに需要が集まる一方、採算性の低い画像センサーやディスプレー駆動IC向けの生産枠が減っていると報告している。

こうした生産枠の再配分は、AI向け製品を手がけていないIC設計会社にも影響する。同じ工場の生産枠を確保する必要がある以上、自社製品の需要が急増していなくても、製造委託費が上がる可能性がある。同調査によると、8インチウエハーを使う工場では、電源管理ICやパワー半導体の需要増に加え、TSMCやSamsungによる生産能力の削減や配分の見直しも重なったという。世代の古い工程なら生産枠に余裕がある、とは限らなくなっている。

ファウンドリーの決算にも、足元の需要の強さを示す数字がある。UMCの7月29日付決算発表によると、第2四半期の全社稼働率は85%で、第3四半期には90%超を見込んでいた。同社は、8インチウエハーで製造する電源管理ICやマイコンの需要が強いと説明し、2026年の設備投資計画を20億ドルに引き上げた。ただし、85%は8インチ工場だけの稼働率ではなく、90%超という数字も7月の発表時点での見通しだ。これらは価格改定の正式発表ではないが、生産枠をめぐる交渉が厳しくなる背景をうかがわせる。

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長期契約と製造先の選択肢で変わる顧客の負担

同じICでも、顧客によって値上げの時期や扱いは異なる。経済日報が取材したマイコンの供給企業は、長期分の注文を受けている主要顧客を、今回の追加値上げの対象には含めないとしている。ただし、2027年分の価格はすでに協議を終えており、顧客は値上げを受け入れていたという。今回は追加で値上げをしないのであって、従来の価格を据え置くわけではない。

委託先を切り替えてコストを抑えようとしても、選べる工場には制約がある。同紙の関連取材によると、中国での製造を避けるよう求める顧客の調達条件が、IC設計会社の委託先選びを制約しているという。ここでいう制約は、すべての製品に一律で適用される禁止措置ではなく、顧客ごとの調達条件によるものだ。米国系のファウンドリーに切り替えれば必ず安くなるわけでもなく、委託先の変更だけでコスト増を解消できるとは限らない。

顧客が中国での製造を認めている場合も、移管先の見積もりだけで判断することはできない。同紙によると、中国の大手工場でも値上げの動きがあり、製造を別の工場に移すと、歩留まりが下がってIC1個当たりの原価が上がる場合もある。歩留まりとは、製造した製品のうち、良品として使えるものの割合を指す。同じ費用で製造しても、良品が少なければ、販売できるIC1個当たりのコストは高くなる。

いずれも成熟プロセスを使う工場だからといって、量産中の製品を移した直後から、同じ品質と原価で製造できるとは限らない。顧客が認める製造地域、移管後の歩留まり、すでに確保している生産枠を合わせて考える必要がある。今回の価格交渉では、工場が提示する委託費だけでなく、移管先で安定した量産ができるかどうかも、顧客の選択肢を左右する。

新工場はいつ、どれだけの生産枠を増やすのか

VISとNXPの合弁会社VSMCは、シンガポールの新工場で2027年第1四半期の量産開始を予定している。一方、12インチウエハー月産4万4,000枚の生産能力を確保する目標は2029年だ。NXPは、この工場の生産能力の40%を利用する権利を持つ。9月28日の工場開設発表と、NXPの2025年年次報告書を踏まえると、新工場による供給増を見積もる際は、次の三つを分けて考える必要がある。

確認すべき点 公表内容 需給を考えるうえでの注意点
量産開始の時期 2027年第1四半期を予定 量産開始時点の月産能力は公表されていない
生産能力の拡大目標 2029年に12インチウエハー月産4万4,000枚を目標 この能力を2027年初めから利用できるわけではない
生産枠の利用権 NXPが工場の生産能力の40%を利用する権利を保有 残る60%の契約状況や空き枠は、この情報だけでは分からない

新工場は、9月の発表時点ですでに試験生産に入っている。130〜40nmのプロセスを使い、電源関連の半導体やアナログ半導体などを製造する計画だ。今回、値上げが報じられている分野の供給増につながる計画ではあるものの、工場の開設から量産開始、さらに生産能力の拡大までには時間差がある。

さらに、合弁会社の工場では、生産枠のすべてが外部顧客に開放されるとは限らない。NXPが持つ利用権は、増える生産能力の一部が同社の調達を支えることを示している。一方、残る生産枠がすべて契約済みだと判断できる情報も、これらの資料からは得られない。2027年の需給を考える際に、公表された生産能力の目標値を、そのまま外部顧客が利用できる空き枠とみなすことはできない。

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前倒し発注が一巡した後の需要を見極める

足元で注文が増えていても、必ずしも消費が回復しているとは限らない。経済日報の関連取材によると、顧客は将来の値上げや供給不安から発注を前倒ししているが、取材に応じたIC設計会社は、需要が幅広く回復しているとはみていないという。受注額が増えても、顧客が将来の購入分を先に確保するための注文であれば、その後の受注が落ち込む可能性がある。

UMCが示す工場稼働率の回復と、IC設計会社による最終需要への慎重な見方は、必ずしも矛盾しない。AI周辺部品に生産枠が振り向けられて工場の稼働率が上がる一方、一般消費者向け製品に使う部品では、前倒し発注によって顧客の在庫が積み上がることもありうる。同紙は、IC設計会社が前年の注文と比較しながら、過剰発注や顧客の在庫増を警戒している様子も伝えている。

2027年初めの値上げ圧力を見極めるには、IC設計各社が実際に提示する価格改定の条件と、前倒し発注が一巡した後の受注動向を合わせて見る必要がある。注文が減っても、製造を移せる工場が限られていれば、コスト上昇を避けにくい顧客は残る。逆に、新工場の量産が進み、実際に利用できる生産枠が増えれば、価格交渉の条件は変わる。値上げがどこまで広がるかは、需要の強さだけでなく、誰が、いつ、どれだけの生産枠を使えるかにも左右される。