2026年9月の中国国際光電博覧会(CIOE)で、RaysolveがMicro LEDを使った多芯光ファイバー伝送の評価システムを披露した。小さな発光素子を多数並べ、複数のデータを光で同時に送る方式だ。

AI向けの短距離通信では、転送帯域の拡大と消費電力の削減を両立する技術が求められている。こうした需要を背景に、これまで表示技術を手掛けてきた企業が、Micro LEDを光通信の光源として利用する開発に乗り出している。

TrendForceも9月28日付の記事で、CIOEに出展されたMicro LED光源から光接続システムまで、各社の取り組みを紹介した。

ただし、会場で示された省電力性能には、Micro LED単体を測った数字と、光接続システム全体が目標としている数字が混在している。どこまでの機器を含めて測った値なのかを区別すると、Micro LED光接続が実用化までに何を乗り越える必要があるのかも見えてくる。

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多芯ファイバーを使って複数チャネルを同時に伝送

Raysolveがパートナー企業と共同開発した評価システムは、複数のMicro LEDから出した光信号を、多芯光ファイバーを通じて同時に伝送するものだ。

同社のCIOE発表によると、システム統合企業と実際の用途を想定した検証を進め、次世代のAI計算基盤への組み込みを目指している。

今回示されたのは、Micro LEDから発した光を実際の伝送路へ送り込み、複数チャネルで通信させる段階まで進んだ成果だ。

Micro LEDを使った光接続では、多数の小さな光源を同時に動かすことで帯域を広げる。一つのチャネルを極端に高速化するだけでなく、並列に送れるチャネル数を増やして全体の転送速度を高める考え方だ。

Raysolveは、窒化ガリウム(GaN)を使ったMicro LEDを、高密度な並列通信が必要な短距離用途で、リン化インジウム(InP)レーザーに代わる光源候補と位置付けている。

Micro LEDディスプレイで培われた技術との共通点も多い。

微細な発光素子を高密度に並べる技術や、ウエハー単位で大量に製造する工程は、多数の光源を並べる光通信にも応用できる。

一方、通信に使う場合には、光を高速で点滅させてデータを載せ、発した光を効率よくファイバーへ導き、隣接するチャネル同士の干渉を抑える必要がある。

Raysolveも、Micro LEDの変調速度を高める技術、広がる光を整えてファイバーへ送り込む技術、チャネル間の混信を減らす技術などに取り組んでいる。

Micro LED光源そのものの具体例としてはEnkrisがある。

同社の公式発表によると、シリコン基板上にGaNを形成するGaN-on-Si方式を使い、8〜12インチウエハーで製造できるMicro LED光源を開発したとしている。

電流密度500A/cm²で、変調に対する応答速度を示す−3dB帯域は1.6GHzだった。

ただし、1.6GHzという値はMicro LEDそのものがどこまで高速に応答できるかを示したものであり、光接続システム全体のデータ転送速度ではない。

Enkrisは、発光層や素子構造を調整して、発光に関わるキャリアの再結合を高速化したと説明している。また、発光する領域を小さくすることで素子の電気容量を抑え、応答の遅れも小さくしたという。

表示用として使われてきた微小な光源を通信へ転用するには、既存の製造技術を利用するだけでなく、高速な通信に適した素子設計が必要になる。

「1pJ/bit未満」は光源だけか、接続全体か

Enkrisは、Micro LED光源の消費エネルギーを1pJ/bit未満と発表している。

pJ/bitは、1ビットのデータを扱うために必要なエネルギーを表す単位だ。数字が小さいほど少ない電力でデータを送れることを意味する。

ただし、どの部品まで含めて測定したのかが違えば、数字をそのまま比較することはできない。

Enkrisの「1pJ/bit未満」はMicro LED光源そのものについての値だ。一方、TrendForceが紹介した別の「1pJ/bit未満」は、光接続システム全体で目指している数値であり、同じものを測った結果ではない。

CIOEの展示をまとめたTrendForceの記事には、さらに小さな数字も登場する。

Nexilumenの長波長InGaN Micro LEDについては、発光素子単体のエネルギー効率として0.056pJ/bitが紹介されている。

一方、Intelligence Computing Optical InterconnectsとWuhu Token Sciencesが開発する短距離光接続では、システム全体で1pJ/bit未満を目標としている。

企業・取り組み 公表・報道された数値 数値が示す対象
Enkris 1pJ/bit未満 公式発表によるMicro LED光源の値
Nexilumen 0.056pJ/bit TrendForceが紹介した発光素子単体の値
Intelligence Computing Optical InterconnectsとWuhu Token Sciences 1pJ/bit未満 TrendForceが紹介した光接続システム全体の開発目標

この表は、Enkrisの公式発表とTrendForceのCIOE報道から、エネルギー値が何を対象にしているのかを整理したものだ。

三者を同じ条件で測定した比較試験ではないため、数値だけを比べて優劣や削減率を計算することはできない。

Micro LEDそのものが少ないエネルギーで発光できても、実際の光接続では駆動回路、信号処理、受光素子などにも電力が必要になる。そのため、光源単体の値だけではシステム全体の消費エネルギーは決まらない。

Nexilumenについても、TrendForceが紹介している次の段階は、CMOS駆動回路とMicro LEDアレイを統合し、1.6Tbpsの光接続システムを試作する計画だ。

発光素子単体で非常に小さなエネルギー値を達成することと、その性能を高速な通信システムとして実現することの間には、まだ複数の検証段階が残っている。

AIシステムを設計する側にとって重要なのは、必要な転送速度や伝送距離を満たしたうえで、光接続全体がどれだけ少ない電力で動くかだ。

そのため、Micro LED単体で得られた省電力性能が、実際の通信システムに組み込んだ後もどこまで維持されるのかを確かめる必要がある。

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評価キットの出荷は「量産開始」とは違う

米Avicenaは2026年8月18日、Micro LEDを使ったLightBundleの1Tbps評価キットの出荷を開始したと発表した。

CIOEでの展示とは別の動きだが、Micro LED光接続が企業の研究室で実際に評価される段階まで進んでいる例といえる。

評価キットは、335チャネルのMicro LEDアレイと335素子の受光アレイを、多芯ファイバーの束で接続する。

各データチャネルは最大3Gbpsで動作し、全チャネルを合わせた生のデータ転送速度は最大1Tbpsとしている。

一つのチャネルを極端に高速化するのではなく、多数のチャネルを並列に動かして大きな帯域を得るというMicro LED光接続の考え方を、具体的なシステムとして示した例だ。

ただし、最大1Tbpsという値は各チャネルの速度を合計した生データ転送速度であり、実際のアプリケーションがそのまま1Tbpsを利用できることを意味するものではない。

評価キットにはホスト接続用の基板や診断機能も含まれており、利用企業は自社の実験室で電力効率やチャネル間の干渉、ビット誤り率などを評価できるという。

展示会で「信号を送れる」ことを示す段階から、導入を検討する企業自身が条件を変えながら性能を測定できる段階へ進んだことになる。

ただし、評価キットが出荷されたことと、量産されるAIシステムへの採用が決まったことは別だ。

Raysolveが進める用途別の検証も、Avicenaが提供する顧客向け評価キットも、実際のシステムに組み込んだ際の性能を確かめるための段階にある。

展示用の試作機、顧客向けの評価製品、量産向け製品をすべて「商用化」と一括りにすると、開発がどこまで進んでいるのかが分かりにくくなる。

TrendForceは、Micro LED光源を使い、光通信部品を計算チップと同じパッケージに組み込むCPO(Co-Packaged Optics)送受信モジュールについて、早ければ2028年後半に量産が始まり、2030年の生産額が約8億4,800万ドルに達すると予測している。

ただし、この予測が対象としているのはMicro LEDを使ったCPO送受信モジュールであり、光通信市場全体の規模ではない。

また、各社の量産開始時期がすでに決まっているという意味でもない。現時点の技術開発や評価状況を基に、今後の市場拡大を見積もった予測だ。

CIOEで披露されたMicro LED光源や光伝送技術が、実際のAI計算基盤に採用されるかどうかは、必要な転送速度と伝送距離を満たしながら、システム全体で低い消費電力と十分に低いビット誤り率を実現できるかにかかっている。

顧客企業がこうした性能を自社環境で検証できる評価キットや試験環境が広がれば、Micro LED光接続は、光源単体の省電力性能だけでなく、AIシステム全体の要件を満たせる技術として比較される段階へ進むことになる。