Gartnerは2026年10月19日、AIから「大きな価値または変革的な価値」を得たと回答したCIO(最高情報責任者)が13%にとどまるとの調査結果を発表した。企業によるAIの活用は急速に広がっているものの、大きな事業成果を実感している経営層は限られている。同社が注目したのは、AIの試験導入を本番運用に進めるかどうか、また稼働中の案件を継続するかどうかを判断する撤退基準の有無だ。AIの導入件数を増やすだけでなく、投資を継続する条件を適切に設定し、必要に応じて見直すことの重要性が浮かび上がっている。

AD

AIの価値を実感するCIOは13%、案件の成功率は5件に1件

今回の「2027年CIO・テクノロジー幹部アジェンダ調査」は、2026年5~7月にCIOとテクノロジー幹部2,002人を対象に実施された。Gartnerの発表によると、自社のAI活用から大きな価値または変革的な価値を得たと回答したCIOは、全体の13%だった。この数字は経営層による価値の評価を表しており、企業の利益や投資回収額を集計したものではない。また、残る87%の企業がAI投資で損失を出しているという意味でもない。

Gartnerは、過去2年間でAIの活用事例が急増した一方、個々の案件が成功する確率は依然として5件に1件にとどまっていると説明する。この成功率は個別案件の成否に関するものであり、13%という経営層の価値認識とは評価対象も分母も異なる。個々のAI案件で成果が出ていたとしても、それが企業全体にとって大きな事業価値につながっているとは限らない。

なお、公開された発表資料には、価値を判定するための共通の金額基準や質問票、業種別の詳細な内訳は示されていない。そのため、自社のAI投資回収率と13%という数字を直接比較することには限界がある。今回の調査で注目すべきなのは、大きな成果を報告するCIOに、どのような投資管理の慣行が共通して見られるかという点だ。

AI投資の成果を左右する、試験導入と本番運用の撤退基準

Gartnerが「先進層(Vanguard)」と定義するのは、良好な事業成果を上げ、CEOが認識するAIの価値も高いと報告したCIOである。調査では、この先進層に該当することと、AI案件の撤退基準を設けていることとの間に関連が見られた。試験導入から本番運用へ移行させないための基準を持つCIOは31%、本番運用中でも価値が低い案件を打ち切る基準を持つCIOは17%だった。それぞれの基準を持つ組織は、先進層に該当する可能性が2.3倍、2.6倍高かったという。

判断する段階 撤退基準の対象 基準を設けているCIOの割合 先進層に該当する可能性
試験導入 本番運用へ移行すべきでない案件 31% 2.3倍
本番運用 稼働中でも価値が低く、撤退すべき案件 17% 2.6倍

試験導入段階での撤退基準は、期待した成果が得られない案件への追加投資を見送るためのものだ。一方、本番運用での撤退基準は、すでに稼働している仕組みを継続すべきかどうかを判断するために使う。つまり、試験導入で一定の成果を確認したからといって、その後の投資継続まで保証されるわけではない。運用開始後も費用と成果を継続的に評価し、必要に応じて撤退を判断する仕組みが求められる。本番運用の撤退基準を持つCIOが17%にとどまることは、導入後の投資判断に改善の余地があることを示唆している。

ただし、2.3倍や2.6倍という数字は、撤退基準を導入すればAIの成果がその倍率で向上することを意味しない。調査で確認されたのは撤退基準の有無と先進層への該当との関連であり、因果関係が実証されたわけではない。また、比較対象となった各グループの絶対的な割合も公表されていないため、撤退基準を設けた場合に自社が先進層に入る確率を算出することもできない。

Gartnerのバイスプレジデント・アナリストであるAlicia Mullery氏は、「量は価値ではない」と指摘する。AIの活用事例を増やすこと自体を成果とみなすのではなく、導入前に期待する事業価値を明確にし、撤退条件を設定するという基本的な投資管理の重要性を強調した。経営判断に置き換えれば、何件のAI案件を試したかだけでなく、どのような条件を満たせば次の投資を認め、どの段階で撤退するのかを説明できることが重要になる。

AD

コスト削減への期待が高まる一方、AIの総保有コストは増加する見通し

AIによるコスト改善を求める圧力が強まったと回答したCIOは58%に上った。その一方で、51%はAIの導入によって技術ソリューションの総保有コスト(TCO)が増加すると予想している。総保有コストとは、初期の購入費用だけでなく、運用や保守なども含めた費用全体を指す。なお、58%と51%はいずれも該当する回答を選んだCIOの割合であり、コストがそれぞれ58%減少、51%増加するという予測ではない。

Mullery氏は、多くの組織がクラウドやSaaSなど、従来の技術投資を前提に設計された予算管理やガバナンスの仕組みを使い続けていると指摘する。従来の技術費用は比較的予測しやすいのに対し、AIの費用は実行時の処理によって変動するため、事前に正確な金額を見通しにくい。このためCIOには、導入時の購入費用を承認するだけでなく、運用期間全体を通じてAIの費用対効果を管理する役割が求められるという。

こうした費用構造を踏まえると、試験導入で価値を確認できた案件でも、本番運用の開始後に改めて採算性を評価する必要がある。導入前の見積もりに基づいて投資を承認することと、実際の運用費用に見合う価値が継続的に生まれているかを判断することは、別の問題だからだ。なお、今回の調査では、コスト改善への圧力が強まったとする58%と、総保有コストの増加を予想する51%の回答者がどの程度重複しているかは明らかにされていない。

IT人員の増加予想と、人間・AIエージェントの役割再設計

回答者の40%は、2027年にIT部門の人員を増やすと予想している。特に増員が見込まれる分野として、サイバーセキュリティとデータ分析が挙げられた。Gartnerは、AIによって技術を生み出すための費用や労力が減ると、技術関連業務への需要全体がむしろ増加すると説明する。ただし、40%という数字は今後の人員計画に関する予想であり、実際に雇用が増えたことを確認したものではない。

AIの普及は、人間が担う仕事の範囲にも変化をもたらすと考えられている。Mullery氏は、AIが専門的な作業を引き受けるようになることで、従来は設計を担当していた人がテストにも携わり、テスト担当者が設計に参加するような変化を例に挙げた。こうした変化が進めば、職種の区分は減る一方で、個々の役割が担う責任の範囲は広がるという。AIによる人員削減の可能性だけに注目していては、このような職務構造の変化を十分に捉えられない。

しかし、人間とAIエージェントが協働することを前提に、役割を再設計する明確な計画を持つと回答したCIOは、わずか4%だった。こうした計画を持つ組織は、先進層に該当する可能性が2.4倍高かったという。この数字も役割再設計による因果的な効果を証明するものではないが、AIの導入計画を策定することと、それに合わせて人間の仕事や責任を見直すことの間には、依然として大きな隔たりがあることをうかがわせる。

今回の調査は、AI投資を拡大するだけでは大きな事業価値につながらないことを改めて浮き彫りにした。投資を継続する際には、期待した事業成果が得られているか、運用費用を含めても継続する合理性があるかを見極める必要がある。さらに、人間とAIエージェントの役割分担を見直し、組織全体の働き方を再設計できるかが、AIの導入を実際の事業成果につなげるうえで重要な課題となる。