米コロンビア特別区連邦地裁は2026年9月30日、Googleの「AI Overviews(AIによる概要)」などによってサイトへの流入や収益が減少したとして、教育サービスを手がけるCheggと、Rolling StoneやVarietyなどを傘下に持つPenske Media Corporation(PMC)が起こした訴訟で、Google側の申立てを認め、両社の訴えを退けた。
出版社側は、Google検索に掲載され続けるためには、自社コンテンツをAI機能にも無償で利用させざるを得ない仕組みになっていると主張した。しかし裁判所は、Googleと出版社の間に、反トラスト法上の「取引合意」があったと認めるには具体的な事実が足りないと判断した。
一方、訴状で問題とされた当時の仕組みと、Googleが現在提供している生成AI機能の除外設定は同じではない。今回の判断から見えてくるのは、検索からの流入に依存する出版社とGoogleとの関係を、既存の反トラスト法上の違法な取引として構成することの難しさである。
検索からの流入への期待は「取引合意」なのか
Cheggは2025年2月24日、PMCは同年9月12日にGoogleと親会社Alphabetを提訴した。修正訴状に対するGoogle側の申立てを、Amit P. Mehta判事がまとめて審理した。41ページの判断理由には、両社がGoogle検索と出版社との関係をどのように捉えていたかが詳しく記されている。
出版社はGoogleのクローラーが記事や教材へアクセスすることを認め、その代わりに検索結果から読者が訪れることを期待する。サイトへの訪問を広告収入や購読料につなげることで、コンテンツ制作を支えてきた。
ところが、Googleが検索結果の画面上で記事の抜粋やAI生成の回答を表示するようになると、利用者は元のサイトへ移動しなくても必要な情報を得られるようになる。CheggとPMCは、こうした変化によって、それまで成り立っていた「コンテンツを提供し、その見返りとして検索から読者を得る」という関係が一方的に変えられたと主張した。
訴状の中心にあったのが「相互取引(reciprocal dealing)」という考え方である。互いが買い手と売り手になる関係で、一方の取引を別の取引の条件とする行為などを指す。
両社は、Googleが検索からの流入を提供する条件として、AIによる回答生成やモデルの学習などに使うコンテンツを無償で提供させていると位置付けた。
しかし裁判所は、その前提となる「合意」を示す具体的な事実が足りないと判断した。
Googleが条件を提示して出版社側が受け入れたという事実や、数量や期間について交渉した形跡、双方が何らかの約束を交わしたことを示すやり取りが訴状には記されていなかった。
裁判所は、必ずしも書面による契約が必要だとしたわけではない。長年の取引慣行などから黙示の合意が成立する可能性は認めたものの、今回示された事実だけでは、その水準に達していないと判断した。
出版社がGoogleから検索流入を得られると期待し、そのためにクローラーへサイトを開放していたとしても、それだけでGoogleが一定の流入を提供すると約束したことにはならないという判断である。
出版社がGoogle検索へ強く依存しているという事実と、Googleとの間に法的な取引合意が存在することは、分けて考える必要がある。
裁判所が退けた4つの反トラスト主張と、判断しなかった州法請求
裁判所は、取引合意の有無、別個の製品に対する需要、反トラスト法上の原告適格、市場の定義など、それぞれ異なる理由から反トラスト法上の請求を退けた。
一方、不当利得については内容の正当性を判断したのではなく、連邦法上の請求がなくなったため、州法上の請求を引き続き審理しないことを選んだ。
2026年9月30日の判断理由、第IV部A〜Eを整理すると次のようになる。
| 請求の種類 | 原告 | 裁判所が示した主な理由 |
|---|---|---|
| コンテンツと検索流入の相互取引 | Chegg・PMC | 取引合意を示す具体的な事実が不足。第IV部A |
| Google検索とAI Overviewsの抱き合わせ | PMCのみ | 別個の製品に対する需要を十分に示していない。第IV部B |
| 一般検索市場における独占の維持 | Chegg・PMC | 一般検索市場について反トラスト法上の原告適格を十分に示していない。第IV部C |
| 出版市場での独占化・独占化の企図 | Chegg・PMC | 出版・教育出版市場の定義や競争への影響についての主張が不十分。第IV部D |
| コンテンツ利用による不当利得 | Chegg・PMC | 連邦法上の請求を退けた後、州法上の請求について補充的管轄権を行使しなかった。第IV部E |
出典は両事件の合同判断理由、第IV部。今回の判断は、修正訴状に書かれた事実を前提に、それぞれの請求が法的要件を満たしているかを審査したものだ。証拠調べを経て損害の有無や規模を確定した判決ではない。
PMCによる抱き合わせの主張では、「Google検索」と「AI Overviews」が別々の製品といえるかが問題となった。
PMCは、従来の検索は利用者を別のサイトへ移動させるものなのに対し、AI Overviewsは検索画面内で回答を得るためのものだと区別した。
しかし裁判所は、利用者がAI Overviewsの回答で満足し、元のサイトへ移動しないというPMC自身の主張にも注目した。利用者が求めているのが情報そのものであれば、それを通常の検索結果から得るかAIによる要約から得るかという違いだけでは、別個の製品に対する独立した需要が存在することを十分に示せないと判断した。
一般検索市場における独占維持を争う請求にも、別の問題があった。
出版社が訴えた購読収入の減少や、コンテンツ利用に対する対価不足は、裁判所によれば一般検索市場そのものではなく、出版社側の事業で生じた損害である。
Googleによる検索市場での競争制限と、出版社が受けたとする損害との間に、反トラスト法が保護する関係を十分に示せなかった。
そこで両社は出版市場への影響も問題にしたが、今度は「市場をどこまで含めるのか」が問題になった。
PMCはオンライン上で公開される文章を広く一つの市場として捉えたが、例えばブログや法律文書が、小説やニュース記事の代替物になるのかという点を十分に説明できていないとされた。
Cheggが主張した教育出版市場についても、学習目的の情報と一般的な情報との境界が曖昧だと判断された。
Googleが一般検索市場で強い立場にあることと、別の出版市場で独占力を持つことは、法的には別々に立証する必要がある。
不当利得の請求については、さらに扱いが異なる。
両社は、Googleがコンテンツを無償利用して利益を得たとして、カリフォルニア州法に基づく不当利得も主張していた。
しかし裁判所は連邦法上の請求をすべて退けた後、この州法上の請求について引き続き審理することを見送った。
したがって、Googleによるコンテンツの利用が州法上正当だったと判断したわけではない。著作権法上、AIによる学習や要約が一般的に適法かどうかについても、今回の判断から結論を導くことはできない。
Googleは現在、生成AI機能だけを除外できる
訴訟が起こされた後、Googleは検索への掲載を維持したまま、生成AI機能から自サイトを除外できる設定を提供するようになった。
日本語の公式ヘルプによると、「検索の生成AI設定」は2026年8月31日から世界中のウェブサイトへ展開されている。対象にはAIによる概要、AIモード、Google Discoverの生成AI機能が含まれる。
サイト運営者はSearch Consoleから、自サイトのリンクやコンテンツをこれらの生成AI機能に含めるかどうかを選択できる。
除外した場合、そのサイトをクロールして取得したコンテンツは、対象となる生成AI機能の回答や表示を作るためには使われなくなる。Googleは、この設定自体を通常のGoogle検索における掲載可否やランキングを決めるシグナルとして利用しないとしている。
CheggとPMCが訴状で問題にしたのは、AIへの利用を拒否するためにGoogleのクロールそのものを止めると、通常検索への掲載やそこから得られる流入まで失うという状況だった。
現在の仕組みでは、少なくとも対象となる生成AI機能については、この二つを分けて設定できる。
そのため、裁判所が判断理由の背景として紹介した訴状提出時の状況を、そのまま現在のGoogle検索の仕様と考えるのは適切ではない。
ただし、AI回答を作る際にコンテンツを利用することと、AIモデルそのものを学習させることも別の問題である。
Googleは、このSearch Console設定はAIモデルの学習には影響しないとしている。検索の生成AI機能に使われるモデルの学習への利用を制限するには、Google-Extendedを利用するよう案内している。
また、生成AI機能から自サイトを除外すれば、その機能内に自サイトへのリンクが表示される機会も失われる。
コンテンツをAI回答の生成に使わせない代わりに、AI検索から新たな読者を獲得する機会も減ることになる。通常検索の順位には影響しないとしても、サイト全体への流入や収益が維持されることまで保証されるわけではない。
なお、この仕様変更を今回の訴訟が退けられた理由と考えるのも適切ではない。
裁判所が示した主な理由は、取引合意や市場の定義、反トラスト法上の原告適格などについて、訴状の主張が必要な法的要件を満たしていなかったことである。
現在オプトアウトできる仕組みが存在することと、過去のコンテンツ利用や損害について対価を求められるかどうかは、別の問題だ。
米国の訴訟と英国の規制は出発点が異なる
英国の競争・市場庁(CMA)は2026年6月3日、Googleの一般検索サービスに対して出版社向けの行為要件を課した。
この要件では、出版社が自社コンテンツをGoogle検索の生成AI機能に利用させるかどうかを実効的に管理できるようにすることなどをGoogleに求めている。コンテンツがどのように利用されるかについての説明や、ユーザーが出版社のコンテンツとどのように接したかを把握するための情報提供も対象となる。
また、出典を明確かつ正確に示し、利用者が元のコンテンツへアクセスできるようにすることも求めている。
米国のCheggとPMCの訴訟では、自社が受けたとする損害を既存の反トラスト法の要件に当てはめ、裁判所による救済を求めた。
一方、英国ではデジタル市場向けに整備された制度に基づき、Googleの一般検索サービスを「戦略的市場地位(SMS)」に指定したうえで、具体的な行為について義務を課している。
CMAは、SMSへの指定そのものが、Googleによる反競争的行為を認定したことを意味するわけではないとも説明している。
つまり、今回米国で退けられた訴訟と、英国でGoogleに課された義務は、同じ問題を扱っている部分があっても、法的な仕組みそのものが異なる。
CMAの発表では、出版社がコンテンツをモデルの追加学習に使わせないための選択肢も求めている。
Googleには変更を実装するための期間が設けられており、CMAは遵守状況についてデータや指標を含む報告を求めている。義務が課された時点と、必要な対応がすべて完了した時点は分けて考える必要がある。
英国の仕組みでは、AIによるコンテンツ利用を拒否できるかどうかだけでなく、何に利用され、ユーザーがそのコンテンツとどのように接したのかを出版社側が把握できることも重視されている。
そうした情報が得られれば、出版社はAIによる利用を許可するかどうかや、どのような条件を求めるかを判断しやすくなる。
ただし、英国で法的義務として課された措置と、Googleが世界各国へ展開したSearch Consoleの設定は、同じ制度によるものではない。
Amit P. Mehta判事は、出版社が直面している状況に理解を示しながらも、新しい技術によって生じる経済的な変化への対応を、反トラスト法だけで解決することには限界があるとの考えを示した。
今回の命令は控訴可能とされている。今後、出版社がAIによるコンテンツ利用についてどこまで条件や対価を交渉できるようになるのかを見るには、オプトアウトの実効性だけでなく、AI検索から実際にどれだけの流入や収益が生まれているかを把握できる情報も重要になる。



