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Google、AI UIデザインツール「Stitch」発表:Gemini 2.5 Proでアイデアをアプリの形へ

Y Kobayashi

2025年5月21日

Googleは、開発者向けカンファレンスGoogle I/O 2025において、AIを活用した新しいUI(ユーザーインターフェース)デザインおよびフロントエンドコード生成ツール「Stitch」を発表し、Google Labsを通じてベータ版の提供を開始した。このツールは、テキストによる指示や画像、さらにはラフなスケッチから、わずか数分で洗練されたUIデザインとそれに対応するフロントエンドコードを生成するという。

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Stitchとは何か? Googleが投じるデザインと開発の「架け橋」

「優れたアプリケーションは常に、デザインと開発の強力なパートナーシップから生まれる」――Google Developers Blogはこのように語り、Stitchの登場を紹介している。デザイナーが描く直感的で魅力的なユーザー体験と、それを機能的なコードとして現実のものにする開発者の作業。この二つのプロセスを繋ぐためには、従来、多くの手作業とコミュニケーションコストが発生していた。

Stitchは、まさにこの課題を解決するために生まれたGoogle Labsの新しい実験的プロジェクトだ。その核心は、Googleの最新かつ最も高性能なAIモデルである「Gemini 2.5 Pro」のマルチモーダル機能を活用し、デザインのアイデアを迅速に具体的なUIデザインと動作するフロントエンドコードに変換することにある。

Googleによれば、Stitchはデザイナーとエンジニア、それぞれのワークフローを最適化したいという共通の願いから着想を得たという。このツールが目指すのは、デザインと開発のワークフローをより流動的で統合されたものへと進化させることだ。筆者がかつてGoogleの検索エンジン開発に携わっていた頃も、部門間の連携、特にデザインの意図を正確にエンジニアリングに反映させることの難しさは常に議論の的であった。Stitchのようなツールは、こうした古くて新しい課題に対するGoogleの一つの回答と言えるのかもしれない。

Gemini 2.5 Proが実現する「魔法」:Stitchの核心機能

Transform ideas into UI designs with Stitch

Stitchが提供する機能は、まさに「アイデアを形にする」プロセスを加速させるものだ。その中核を担うのが、前述の通りGemini 2.5 Proである。このAIモデルの高度な理解力と生成能力が、Stitchの多様な入力方法と高品質な出力を支えている。

自然言語からUIを生成:言葉で描くインターフェース

「明るく親しみやすい雰囲気の、eコマースアプリの製品一覧ページを作ってほしい。主要なカラーパレットは青と白で、ユーザーが直感的に操作できるような体験を目指したい」Stitchでは、このような平易な自然言語(現在は英語に対応)で記述するだけで、AIがその内容を解釈し、具体的なビジュアルインターフェースを生成する。これは、デザインの初期段階で具体的なイメージを素早く掴むのに非常に有効だろう。

画像やワイヤーフレームからもUIを生成:ビジュアルアイデアを即座にデジタル化

Stitchの真骨頂とも言えるのが、画像入力への対応だ。ホワイトボードに描いたラフなスケッチ、インスピレーションを受けた既存アプリのスクリーンショット、あるいは手描きのワイヤーフレーム。これらをアップロードするだけで、Stitchが画像を解析し、対応するデジタルUIを生成してくれる。Gemini 2.5 Proのマルチモーダル能力が遺憾なく発揮される部分であり、デザイナーが持つ視覚的なアイデアを、デジタルの世界へ瞬時に橋渡しする力を持つ。

迅速な反復とデザイン探求:試行錯誤を容易に

デザインプロセスは本質的に反復的なものだ。Stitchは、複数のUIバリアントを簡単に生成できる機能を提供することで、この反復作業を強力にサポートする。異なるレイアウト、コンポーネント、スタイルを試しながら、最適なデザインへと迅速に近づけることができる。これにより、デザイナーはより多くの創造的な選択肢を短時間で探求できるようになるだろう。

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デザインからコードへ:シームレスな開発ワークフローの実現

Stitchの価値は、単に美しいUIデザインを生成するだけに留まらない。生成されたデザインを、実際の開発ワークフローへとスムーズに繋げるための機能が用意されている点が、実用性を大きく高めている。

Figmaへのペースト機能:デザインの洗練と協業を促進

生成されたUIデザインは、デザインツールとして広く普及しているFigmaにシームレスにペーストできる。これにより、デザイナーは慣れ親しんだ環境でさらに詳細な調整を行ったり、デザインチームとのコラボレーション、既存のデザインシステムへの統合などが容易になる。これは、既存のワークフローを尊重しつつ、AIの力を取り込もうとする現実的なアプローチと言えるだろう。

フロントエンドコードのエクスポート:即戦力となるUI基盤

そして最も注目すべきは、デザインに基づいてクリーンで機能的なフロントエンドコードを生成する機能だ。これにより、開発者はデザインを元にゼロからコーディングを始める手間を大幅に削減し、すぐに使えるUIコンポーネントを手に入れることができる。現時点では生成されるコードの具体的な種類(React, Vue, Angular, Web Componentsなど)や品質、カスタマイズ性については詳細な情報が待たれるが、これが実用的なレベルであれば、開発の初期段階における生産性は飛躍的に向上するはずだ。

StitchはUI開発の未来を変えるか?期待と課題

Stitchの登場は、UI/UXデザインとフロントエンド開発の現場に大きな変革をもたらす可能性を秘めている。

期待される効果:

  • 開発サイクルの劇的な短縮: アイデアの着想からプロトタイピング、さらには初期開発までのリードタイムが大幅に短縮される。
  • デザイナーと開発者の連携強化: 共通のツールと視覚的な成果物を通じて、コミュニケーションが円滑になり、認識の齟齬が減る。
  • デザインの民主化: 高度なデザインスキルを持たない開発者や企画者でも、一定品質のUIを容易に作成できるようになるかもしれない。
  • クリエイティビティの解放: 単純作業から解放されたデザイナーや開発者が、より本質的な課題解決や創造的な作業に集中できるようになる。

一方で、考慮すべき課題や今後の注目点もある:

  • 生成されるUI/コードの品質と実用性: AIが生成するデザインの独創性やユーザビリティの深さ、そしてコードの保守性や拡張性は、実運用において非常に重要となる。この点は、ベータ版を通じて多くのフィードバックが寄せられ、改善されていくことを期待したい。
  • AIへの過度な依存と創造性の画一化: AIが提示するデザインパターンに頼りすぎることで、UIの画一化が進むのではないかという懸念は常に存在する。AIをあくまで「強力なアシスタント」として活用し、人間の創造性を拡張する方向で進化することが望ましい。
  • 既存スキルセットへの影響: UIデザイナーやフロントエンドエンジニアの役割や求められるスキルが変化していく可能性も視野に入れる必要があるだろう。

Stitchは現在Google Labsの実験的プロジェクトであり、その名称が示す通り、まだ「縫い合わせる」べき多くの要素、磨き上げるべき多くの機能があるはずだ。今後のロードマップや正式リリースに向けた動向が注目される。

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競合ひしめくUIデザインツール市場:StitchのポジショニングとFigmaとの関係

UIデザインツールの市場は、Figmaを筆頭に競争が激化している。Stitchの自動コーディング機能は、Figmaが先頃発表した「Make UI building app」と競合する可能性もあるだろう。

Figmaがデザインからコード生成へと領域を広げつつある中で、GoogleがStitchを投入したのは、自社のAI技術、特にGeminiを軸とした開発者エコシステムを強化し、デザイナーや開発者を繋ぎ止めたいという戦略の現れかもしれない。そういう意味で、Googleが、Geminiのコーディング支援ツール「Code Assist」の利用者が完全にFigmaのエコシステムに移行するのを防ぐための一手とも考えられる。

StitchがFigmaへのエクスポート機能を備えていることは、現時点ではFigmaとの共存を図りつつ、将来的にはGoogleのエコシステム内での完結も視野に入れている、という両面戦略の可能性も感じさせる。いずれにせよ、ユーザーにとっては選択肢が増え、より効率的なツールを選べるようになることは歓迎すべきだろう。

Stitchを試すには?始め方とフィードバックの重要性

Stitchは、現在 stitch.withgoogle.com にてベータ版として公開されており、誰でも試すことができる。Googleは、この実験的なツールに対するユーザーからのフィードバックを積極的に求めている。実際に使ってみて、その可能性や改善点を開発チームに伝えることは、Stitchをより良いツールへと成長させる上で非常に重要だ。

また、Google I/O 2025のさらなる詳細情報については、5月22日以降に io.google の公式サイトで公開される予定だ。

Stitchが切り拓く、アイデアとアプリが直結する未来

Google Stitchは、AIの力でUIデザインとフロントエンド開発のプロセスを根本から変えようとする野心的な試みだ。Gemini 2.5 Proという強力なエンジンを搭載し、テキストや画像といった多様な入力から、デザインとコードを「縫い上げる」ように生成する。

このツールが成熟し、広く普及すれば、アイデアを持つ誰もが、より迅速かつ容易にアプリケーションの形にできるようになるかもしれない。それは、まさにGoogleが言うところの「アプリ作成の魔法をすべての人に」提供する未来と言えるのではないだろうか。もちろん、その「魔法」が真に実用的で、創造性を刺激するものになるかは、今後の進化と我々ユーザーの活用次第だ。

Stitchの登場は、デザインと開発の境界線を曖昧にし、両者をより深く結びつける新たな時代の幕開けを予感させる。この小さな「縫い目」が、未来のアプリケーション開発をどのように変えていくのか、期待を持って見守りたい。


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