生成AIブームがコンピュート不足を招く中、Googleが軌道上データセンター構想で宇宙に活路を見出そうとしている。地上の3倍とも言われるコストという壁を前に、それでも両社が宇宙を目指す理由はどこにあるのか。2025年11月に発表されたGoogleのProject Suncatcherは、太陽電力で駆動する衛星にTensor Processing Unit(TPU)を搭載し、2027年にはプロトタイプ衛星を打ち上げる予定だ。一方で、SpaceXは2026年6月に目標とする1.75兆ドルのIPOを控え、軌道上データセンターを成長戦略の中核に据える。この協議の背景には、地上の制約を超える新たなフロンティアへの期待がある。
協議の焦点:GoogleとSpaceXの連携
2026年5月12日、Wall Street Journalが報じた一報は業界に波紋を広げた。GoogleがSpaceXと軌道上データセンターの打ち上げを協議していることが明らかになったのだ。Googleは既にPlanet Labsと提携し、2027年初頭に2基のプロトタイプ衛星を打ち上げる計画を持つが、複数の打ち上げプロバイダを検討する柔軟な戦略を取っている。SpaceXとの協議は、この多角的なアプローチの一環だ。
2015年にはGoogleがSpaceXに9億ドルを投資した経緯もあり、両社の関係は長年にわたる。今回の協議がどの程度進行しているかは未公表だが、AIコンピュート需要の急増を背景に、宇宙を活用する選択肢が現実的な議論の場に上がっている。軌道上でのデータ処理は、地上の電力やスペースの制約を回避する可能性を秘めている。
Project Suncatcherの技術的挑戦
地表から約400マイル上空、太陽を常に視野に収める薄明圏同期軌道——GoogleのProject Suncatcherが狙う軌道がここだ。太陽電力で駆動するTPU搭載衛星がクラスターを形成し、AIをこの高度で処理する構想である。長期的なビジョンでは、半径1kmの範囲に81衛星からなるクラスターを形成し、高度なコンピュート能力を提供する計画が存在する。
このプロジェクトの技術的な課題は少なくない。熱管理は真空環境での放熱が難しいため大きなハードルとなり、高帯域幅の地上通信や軌道システムの信頼性確保も解決すべき問題だ。Googleはこれらの障壁を乗り越え、2027年の実験打ち上げで実証を目指している。
SpaceXの戦略:1.75兆ドルIPOと軌道上の野心
SpaceXは2026年6月に予定されるIPOで、評価額1.75兆ドルを目指している。SECに2026年4月1日に機密提出されたDraft S-1に基づくこの計画では、約75億ドルの調達が見込まれる。2025年度の売上は15億〜16億ドルとされており、成長への期待が市場に示されている。
このIPOのセールスピッチの中核に据えられているのが、軌道上データセンターの展開だ。2026年2月にxAIを250億ドルで買収し、完全子会社化したSpaceXは、ロケット技術とAIコンピュートの統合を加速させている。Elon Muskは「軌道上データセンターは次のフロンティア」と語り、成長の柱と位置付ける姿勢を明確にしている。
コストの壁:軌道上と地上の経済性ギャップ
軌道上データセンターの構想は魅力的だが、経済性の課題が浮上している。1GW規模の軌道上施設の構築コストは約424億ドルと、地上同規模の約3倍に上るとされる。地上の電力コストが年間570〜3,000ドル/kWであるのに対し、軌道上での太陽電力コストは約14,700ドル/kWと高額だ。
SpaceXは長期的には打ち上げコストの大幅な削減を見込み、2035年には200ドル/kg程度まで下げられるとのシナリオを描く。しかし、現時点でのコスト分析では、軌道上は依然として高コストな環境だ。このギャップが、軌道上展開の現実的な障壁となっている。
Anthropicとの提携:地上と軌道のハイブリッド戦略
SpaceXとxAIは、Anthropicとの提携で地上のデータセンター基盤も強化している。2026年5月6日に発表されたMemphisのColossus 1データセンターでは、22万基以上のGPU(H100、H200、次世代GB200)を擁し、300MW以上の容量をAnthropicが全確保した。この提携には、軌道上データセンター開発への関心表明も含まれている。
Anthropicの戦略は、地上の即時ニーズを満たしつつ、将来的な軌道上展開のオプションを確保するものだ。AIモデルのトレーニングと推論に必要な膨大なコンピュート資源を、複数のアプローチでカバーする姿勢が見える。軌道上への展開が具体化するまでの間、地上施設が主要な基盤となるだろう。
業界全体の潮流:AI需要が宇宙を戦場に変える
NVIDIAが2025年に出荷したBlackwell GPUだけで、世界の年間電力消費量の数%に相当するコンピュートが市場に投入された。それでもAI需要の伸びには追いつかず、地上データセンターは用地・電力・冷却の三重苦に直面している。軌道上データセンターは、こうした課題を回避する可能性を持つが、経済性や技術的ハードルが未解決のまま残る。
GoogleやSpaceX、Anthropicの動きは、業界全体が宇宙を次なるフロンティアと見なしていることを示している。だが、誰もが軌道上だけに賭けるのではなく、地上と宇宙のハイブリッド戦略を模索している。このバランスが、今後のAIインフラ競争の鍵を握るだろう。