PayPalが所有するブラウザ拡張機能Honeyが、クリエイターのアフィリエイト収入を不当に横取りしていた問題を受け、Googleはブラウザ拡張機能のポリシーを更新した。新ポリシーでは、ユーザーに直接的な利益をもたらさない場合のアフィリエイトリンク挿入を明示的に禁止している。
Honey拡張機能の不透明な収益手法
PayPalが2020年に40億ドルで買収したブラウザ拡張機能Honeyは、オンラインショッピング時に最適なクーポンコードを自動的に検索・適用する機能を提供している。1700万人以上のユーザーを持つこの人気拡張機能だが、2023年12月にYouTuberのMegaLagによって重大な問題が指摘された。
MegaLagの動画(現在1700万回以上視聴)によると、Honeyはユーザーに明示的な許可を得ることなく、バックグラウンドでアフィリエイトリンク(企業が商品販売時に紹介者に報酬を支払うための追跡用リンク)を挿入していたという。具体的には、ユーザーがHoneyを通じてクーポンコードを適用しなくても、単に拡張機能と何らかの形で対話するだけ(閉じるボタンをクリックするだけでも)、Honeyは自身のアフィリエイトコードを挿入していた。
さらに深刻な問題として、Honeyはコンテンツクリエイターのアフィリエイトリンクを自社のものに置き換えていた。これにより、本来であればクリエイターに支払われるべきアフィリエイト収入がHoney(PayPal)に流れる結果となった。皮肉なことに、Honeyは多くのクリエイターを起用して自社のプロモーションを行っていたため、自らのプロモーターの収入源を奪っていたことになる。
さらに、Honeyは実際に最良の取引を提供していなかったという別の問題も指摘されている。簡単なGoogle検索で見つかるクーポンコードを検出できず、代わりに自社のクーポンを表示していたというのだ。また、Honeyが企業と協力して拡張機能を通じて表示されるクーポンコードの数を制限していたとも言われている。
Googleの対応:透明性を重視した新ポリシー
これらの問題を受け、Googleは最近ChromeブラウザのWeb Store向けポリシーを更新した。新ポリシーでは、ブラウザ拡張機能がアフィリエイトリンク、コード、またはCookieを扱う方法について、より厳格なルールが設けられた。
Googleの新ポリシーによると、「アフィリエイトリンク、コード、またはCookieは、拡張機能の主要機能に関連する直接的で透明性のあるユーザー利益を提供する場合にのみ含めることができる」とされている。さらに、「関連するユーザーアクションなしにアフィリエイトリンクを挿入することは許可されない」とも明記された。
具体的な違反例として、以下のようなケースが挙げられている:
- 割引、キャッシュバック、または寄付が提供されない場合にアフィリエイトリンクを挿入すること
- 関連するユーザーアクションなしにバックグラウンドで継続的にアフィリエイトリンクを挿入する拡張機能
- ユーザーがショッピングサイトを閲覧中に、ユーザーの知識なしにショッピング関連のCookieを更新する拡張機能
- ユーザーの明示的な知識または関連するユーザーアクションなしに、URLにアフィリエイトコードを追加したり、既存のアフィリエイトコードを置き換えたりする拡張機能
- ユーザーの明示的な知識または関連するユーザーアクションなしに、アフィリエイトプロモーションコードを適用または置き換える拡張機能
このポリシー更新は2025年6月10日から施行される予定で、それまでに準拠しない拡張機能はChromeウェブストアから削除されるという。さらに、拡張機能の開発者はChromeウェブストアの製品リスティング、ユーザーインターフェース、およびインストール前にアフィリエイトプログラムを明確に開示することが求められるようになった。
問題の影響と法的対応
Honey拡張機能への影響はすでに表れている。YouTubeの動画で問題が暴露された後、Honeyは約300万人のユーザーを失った。現在のユーザー数は約1700万人で、これは2024年初めの1800万人から減少している。
法的対応も始まっている。2024年1月、YouTubeチャンネル「Legal Eagle」を運営する弁護士のDevin Stone氏は、Honeyの疑わしいアフィリエイト行為に関してPayPalを訴えた。The Vergeの報道によると、MegaLagは「Part 2」の動画を数週間前に公開する予定だったが、「舞台裏で多くのことが起きており、現時点では開示できない」と述べている。
この問題は一般ユーザーよりも特に、アフィリエイトリンクを通じて収入を得ているクリエイターコミュニティに大きな影響を与えた点で特殊なケースだろう。
オンライン収益モデルの透明性への影響
この問題の背景には、アフィリエイトマーケティングの透明性という大きなテーマがある。アフィリエイトマーケティングは、クリエイターやインフルエンサーが収入を得る重要な手段となっているが、そのプロセスの透明性が欠如していると、Honeyのケースのような問題が発生する可能性がある。
Googleの今回のポリシー更新は、ブラウザ拡張機能の規制強化の傾向を示している。ユーザーエクスペリエンスと透明性に焦点を当てたこの更新は、拡張機能エコシステム全体を改善することを目的としているが、実際にこのポリシーを施行することは課題となるかもしれない。また、Honeyがどれだけの期間検出されずに運営されていたかを考えると、違反を発見することへの懸念が残る。
この問題は、オンラインでの収益化モデルの公正さと透明性について業界全体に再考を促すきっかけとなるだろう。クリエイターの権利保護、ユーザーへの透明性の提供、そして健全なウェブエコシステムの維持のバランスを取ることが、今後の課題となる。
Sources
- Chrome for Developers
- The Verge: Google changes Chrome extension policies following the Honey link scandal