光を用いた情報処理チップの設計を、都市の交通網づくりに喩えてみよう。渋滞も事故も起きない理想的な高速道路を敷設できる魔法の技術があるとする。しかし、設計図上では、道路を1本通すために道の何倍もの面積を占める分厚いコンクリートの防音壁で両脇を固めなければならない制約がある。結果として、限られた都市の敷地(チップの面積)に何本も道路を引くことはできず、全体の輸送量はかえって落ち込んでしまう。

過去20年間にわたり、次世代の光集積回路の基盤技術として期待されてきた「トポロジカルフォトニクス」は、まさにこの防音壁のジレンマに直面してきた。しかし今回、香港科技大学、東南大学、南京大学の共同研究チームは、分厚い防音壁を一切使わずに、光の逆流を防ぐ新たな導波路アーキテクチャを開発した。彼らが『Nature』誌で発表した技術は、用意した素材の100%を光の通り道として活用し、隣り合う車線同士が干渉せずに情報を伝達する「4車線の光ハイウェイ」を実現している。

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空間の無駄というトポロジカル光回路のジレンマ

情報伝達の媒体を電子から光へと置き換える光集積回路において、最大の敵は光の散乱である。光回路上に微小な欠陥や不純物、あるいは急な曲がり角が存在すると、進行する光はそこで反射して逆流し、深刻な信号の劣化やノイズを引き起こしてしまう。

光の反射問題に対するエレガントな解決策として2000年代から研究されてきたのが、トポロジカル絶縁体の概念を応用したトポロジカルフォトニクスである。元来、トポロジカル絶縁体とは、物質の内部(バルク)は電気を通さない絶縁体でありながら、その表面や縁(エッジ)にだけ電気が流れる特殊な状態を指す。物質の幾何学的な性質によって導電性が守られているため、表面に多少の欠陥があっても電子は迂回して進むことができる。

基礎物理学の概念を光の領域に持ち込むと、物質の内部は特定の周波数の光を通さない「光の絶縁体」となり、物質の境界線に沿ってのみ光が伝わるようになる。境界を伝わる光は、トポロジカル保護と呼ばれる幾何学的な性質に守られている。そのため、導波路の途中に欠陥があっても光は決して後方へ散乱せず、障害物を滑らかに回り込んで一方向に進み続けることができる。

トポロジカル保護は完全無欠に見えるが、重い代償を伴っていた。光を一方向に導くエッジモードを作り出すためには、その両側を広大な光の絶縁層(クラッド層)で挟み込まなければならない。エッジモード自体は非常に狭い領域に局在しているのに対し、周囲の大部分の素材は光を遮断するためだけの「死んだ空間」として場所を塞いでいた。従来型の構造では、幅数マイクロメートルの光経路を確保するために、その周囲に数十マイクロメートル幅にも及ぶ絶縁体領域を配置する必要があり、チップ面積の大部分(時に90%以上)が無駄なクラッド層として占有されるという深刻な空間効率の悪さが存在したのである。

香港科技大学のXiaohan Cuiは、従来の設計について「伝播モードは界面に強く局在し、周囲の絶縁材料の大半はクラッド層として不活性なまま残されていました」と指摘する。回路のエラー耐性を高めようとすればするほど、実際に光をルーティングできる有効面積が狭くなる。空間効率と堅牢性の間には、容易には越えられない根深いトレードオフが存在していたのである。このジレンマの克服こそが、次世代の光集積回路を現実のものとするための最重要課題であった。

「フォトニックバレー・ハーフ・セミメタル」というブレイクスルー

空間効率のジレンマを打破するため、研究チームは「フォトニックバレー・ハーフ・セミメタル(PVHSM)」と呼ばれる新しい光学的な状態を導入した。研究陣は、磁性材料であるイットリウム鉄ガーネット(YIG)の円柱ロッドを蜂の巣(ハニカム)状に配列した構造体を綿密に設計した。特殊な格子構造の中では、光の振る舞いが「谷(バレー)」と呼ばれる運動量空間の極値によって強く支配される。結晶格子の幾何学的な対称性を操作することで、この谷を独立した情報伝達の経路として利用できる。

チームは、時間反転対称性と空間反転対称性の両方を同時に破るよう構造を精密に調整した。通常、光の導波路はどちらの方向へも光を通すが、対称性の破れを利用することで、格子に明確な二面性を持たせることに成功した。ある方向(例えば右向き)に進もうとする光の谷に対しては、構造はギャップのない半金属のように振る舞い、光をスムーズに通す導波路の働きをする。ところが、逆方向(左向き)に進もうとする光の谷に対しては、まったく同じ構造がトポロジカル絶縁体として立ちはだかり、光の進行を完全に遮断する。すなわち、一つの領域が、ある向きの光に対しては「道」となり、逆向きの光に対しては「壁」となるのだ。

Mechanism of insulator-free topological photonic multi-lane highways
絶縁体フリーのトポロジカル光導波路のメカニズム。 結晶格子の対称性の破れを利用し、光の進行方向(右向きか左向きか)に応じて同じ構造体が「道(導波路)」と「壁(絶縁体)」の二面性を持つよう設計されている。(Credit: Xiaohan Cui et al., Nature (2026). DOI: 10.1038/s41586-026-10817-9)

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互いが互いの壁となる「4車線の光ハイウェイ」

研究チームは二面性を持つ領域を巧みに組み合わせ、画期的なアーキテクチャを組み上げた。ロッドの直径や外部磁場を調整して特性を変えた4つのPVHSM領域を用意し、それらを平行に並べて配置したのである。

領域Aが右向きの光を通す道となっているとき、すぐ隣にある領域Bは、右向きの光にとっては通過できない絶縁層の役割を果たす。逆に、領域Bが左向きの光を通すとき、領域Aは左向きの光に対する絶縁層となる。特性の異なる領域を交互に並べることで、隣り合う領域が互いに相手の光が漏れ出すのを防ぐ「壁」となる構造を作り上げた。

巧妙な連動機構により、不活性なクラッド層は完全に不要になった。用意された素材の全領域が、いずれかの方向への導波路となる。実験では、右向きに2車線、左向きに2車線の計「4車線の光ハイウェイ」が構築され、空間利用率100%を達成した。従来の設計では、限られたチップ上の領域に単一の経路(1車線)しか配置できなかったのに対し、今回の新構造では全く同じ空間幅の中に4車線を並列配置することに成功した。これにより、用意された素材の不活性領域を0%に抑え、空間利用率を100%に引き上げるという前例のないブレイクスルーを達成している。

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構築された「4車線の光ハイウェイ」における交互の一方向性導波。 異なる特性を持つ領域を平行に配置することで、各領域が隣接する車線に対する絶縁壁として機能し、無駄なクラッド層なしで4つの独立した経路(右向き2車線、左向き2車線)を実現している。(Credit: Xiaohan Cui et al., Nature (2026). DOI: 10.1038/s41586-026-10817-9)

マイクロ波を用いた実証実験において、光ハイウェイはトポロジカル保護の強靭さを遺憾なく発揮した。構造内に意図的に急な曲がり角や狭いボトルネックを設けても、光は後方へ散乱することなく滑らかに進み続けた。隣の車線へ信号が漏れ出すクロストークも発生せず、信号の純度は保たれた。絶縁層を排除しても、堅牢性は少しも損なわれていなかったのである。

幾何学的制約と高周波数帯域域への挑戦

トポロジカル保護の恩恵を最大限に受けながら、不活性な領域を一切残さないという今回のアーキテクチャは、光回路の設計思想を根本から変える可能性を秘めている。マサチューセッツ工科大学(MIT)の量子光学研究者であるMahmoud Jalali Mehrabadは、論文の持つ意義を高く評価している。「空間効率はトポロジカル物理学における大きな問題でした。この論文はその中核的な問題に真正面から取り組んでおり、極めて重要です」と彼は語り、今回の成果が分野全体に大きなインパクトを持つことを強調した。

現段階では、実用化に向けて越えるべきハードルが明確に残されている。今回の鮮やかな実証実験は、波長が数センチメートルからミリメートルオーダーであるマイクロ波帯域域(数GHz帯)で行われた。しかし、実際の光通信やオンチップの情報処理デバイスで標準的に使用されるのは、数百ナノメートルから数マイクロメートルの波長を持つテラヘルツ帯(数百THz帯)の光である。今後、このマイクロ波帯域域域からテラヘルツ帯域域へ、動作周波数を約10万倍スケールアップさせることが最大の課題となる。極めて微細なハニカム構造をナノメートル単位の高い精度で製造しなければならないからだ。

高い周波数帯域では磁気効果が相対的に弱まるという物理的な制約も立ちはだかる。研究チームは、インジウムアンチモンなどの磁化半導体を用いればテラヘルツ帯域での実現は十分に可能だと見込んでいる。しかし、幾何学的な複雑さを正確に管理しつつ、高周波数特有の伝播損失をどう抑え込むかはまだ検証されていない。「幾何学的な複雑さや製造上の公差、伝播損失を精密に管理しながら、光源や検出器といった他のコンポーネントと効率的に結合させることが今後の大きな実験的課題になります」とCuiは展望を語る。

100%の空間利用率という理想の光ハイウェイの設計図はついに提示された。次は、この美しい設計図を現実のナノスケールのシリコンチップの上にどうやって描き出すかという、材料科学と微細加工技術の未解決の問いが待ち受けている。トポロジカルフォトニクスが真の実用段階へと移行するための、新たな挑戦の幕開けである。