IntelのLip-Bu Tan(陳立武)CEOは2026年10月12日、シンガポールで開催されたDBS主催のパネルディスカッションで、中国のAIモデルであるDeepSeek、Kimi、GLMの性能を「十分に良い」と評価した。Reutersによると、同氏は中国の先端AIモデルについて、トークン当たりの利用料金が安く、普及も急速に進んでいると指摘した。AIモデルの最高性能を競うだけでなく、それぞれの用途に必要な能力をどれだけ安く利用できるかが重要になるという見方だ。ただし、中国製AIモデルがすべて同じように安いわけではない。各社の公式料金を比較すると、モデルによって価格に大きな差があり、利用する時間帯や入力データのキャッシュ状況によっても実際の費用は変わってくる。

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Intel CEOが中国製AIモデルを「十分に良い」と評価

Reutersの報道(Euronext配信)によると、Tan氏は中国製AIモデルの普及が「非常に速い」と述べ、どのモデルがどの用途に適しているかは市場が決めるとの考えを示した。また、オープンソースについても、「私はオープンソースを強く信じている。それが効率を高める最良の方法だ」と語り、AIの開発や利用におけるオープンな技術基盤の重要性を強調した。

もっとも、これは半導体企業の経営者としての市場評価であり、中国製AIモデルがあらゆる用途で他社製品と同等の性能を持つと実証したものではない。Reutersの記事には、具体的な普及率の推移や、同一条件で各モデルを比較したベンチマーク結果は示されていない。また、Tan氏はDeepSeek、Kimi、GLMの具体的なモデルの世代を指定していないため、この発言と現在の各社の製品仕様や料金を直接結び付けることにも注意が必要だ。

中国製AIモデルの料金を比較すると、価格差は大きい

2026年10月15日時点で確認できるDeepSeek、Kimi、Z.AIの公式API料金を比較すると、中国製AIモデルの間でも価格に大きな差があることが分かる。以下は100万トークン当たりの料金を米ドルで示したものだ。トークンはAIモデルが文章を処理する際の単位であり、入力した文章とモデルが生成した文章の両方が課金対象になる。入力料金は、過去に処理した内容をキャッシュから再利用できない場合の単価を採用している。

モデル・利用時間帯 入力(100万トークン) 出力(100万トークン)
DeepSeek V4.1 Flash・閑散時間帯 0.15ドル 0.60ドル
DeepSeek V4.1 Flash・混雑時間帯 0.30ドル 1.20ドル
Kimi K3 3.00ドル 15.00ドル
GLM-5.3 1.40ドル 4.40ドル
GLM-5.3-Flash 0.15ドル 0.50ドル

この表は各社のAPI料金を比較したものであり、モデルの性能や同じ仕事を完了するために必要な処理量をそろえたものではない。また、キャッシュへの書き込みや外部ツールの利用などによって発生する追加料金も含まれていない。

例えば、DeepSeek V4.1 Flashでキャッシュに命中しない入力100万トークンと、出力100万トークンを処理した場合、閑散時間帯の料金は合計0.75ドルとなる。一方、混雑時間帯では同じ処理に1.50ドルかかるため、利用する時間帯だけで料金に2倍の差が生じる計算だ。これは公式単価に基づく試算であり、特定の業務を完了するための実測費用ではない。

また、Kimi K3の出力料金は100万トークン当たり15ドルで、DeepSeek V4.1 FlashやGLM-5.3-Flashとは大きく異なる。GLMシリーズでも通常版のGLM-5.3とFlash版では料金に差があり、中国製という共通点だけで低価格だと判断することはできない。実際の導入費用を見積もる際には、使用するモデルを具体的に指定し、入力と出力それぞれの料金を確認する必要がある。

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DeepSeekは時間帯で料金が2倍に、キャッシュの活用でも差が出る

DeepSeekのAPI料金には、混雑時間帯と閑散時間帯で異なる単価が設定されている。混雑時間帯は、中国の祝日を除く月曜日から金曜日のUTC午前1〜4時と午前6〜10時だ。日本時間では午前10時〜午後1時と午後3〜7時に相当し、それ以外の時間帯や週末、中国の祝日には閑散料金が適用される。つまり、日本の日中にリアルタイムで利用する場合と、夜間にまとめて処理する場合では、同じモデルでも費用が大きく変わる可能性がある。

入力データのキャッシュも、利用料金を左右する重要な要素だ。DeepSeek V4.1 Flashの場合、閑散時間帯における入力100万トークン当たりの料金は、キャッシュ未命中時の0.15ドルに対し、命中時には0.003ドルまで下がる。共通の指示文や資料を繰り返し利用する業務では、キャッシュの命中率を高めることで入力料金を大幅に削減できる。ただし、この割引はキャッシュから再利用できた入力部分に適用されるものであり、生成される出力の料金まで同じ割合で安くなるわけではない。

Kimi K3にもキャッシュ機能が用意されているが、料金体系はDeepSeekとは異なる。Kimiの公式料金では、キャッシュへの書き込みに対して100万トークン当たり、有効期間5分で3ドル、1時間で6ドルが設定されている。一方、キャッシュに命中した入力の料金は100万トークン当たり0.30ドルとなり、命中時には追加の書き込み料金を発生させずに有効期間が更新される。このため、キャッシュを作成する費用と、その後の再利用によって削減できる費用を分けて考える必要がある。

外部ツールを利用する場合も、トークン料金だけでは総額を把握できない。例えばZ.AIは、Web検索ツールの利用料金を1回当たり0.01ドルに設定している。AIモデルに検索やその他の処理を組み合わせる業務では、トークン数に加えて外部ツールの呼び出し回数も費用に影響する。単純にAPI料金表で最も安いモデルを選ぶだけでは、実際の運用コストを最小化できるとは限らない。

DeepSeekの低料金を支える設計と、自社運用の課題

DeepSeekは2026年9月10日に発表したDeepSeek V4.1 Flashで、処理効率を高めるための新しいアーキテクチャを説明している。同モデルは、必要な部分だけを選んで計算するMixture of Experts(MoE)方式を採用し、総パラメータ数5,520億に対して、入力処理時に有効になるパラメータ数を80億、出力生成時には160億に抑えている。入力と出力で異なる計算資源を使用する非対称な設計によって、処理能力と効率の両立を図っている。

また、DeepSeekによると、前世代と比較してKVキャッシュに必要なHBM容量を4分の1、SSD容量を8分の1に削減したという。KVキャッシュは、AIモデルが文章を処理する際に生成した計算結果を保存し、その後の処理で再利用するための仕組みだ。必要なメモリやストレージの容量を削減できれば、大量のリクエストを処理する際の設備コストを抑えられる可能性がある。ただし、これらの削減率はDeepSeek自身が公表したものであり、独立した検証によって確認された数値ではない。

一方、APIを安価に利用できることと、同じモデルを自社の設備で低コストに動かせることは別の問題だ。DeepSeekはV4.1 Flashの発表で、2,000基のGPUとストレージクラスタを用いる大規模な導入を検討する事業者に対し、同社への問い合わせを呼びかけている。これはモデルを動かすための最小構成を示した数字ではないが、大規模な自社運用には相応の設備が必要になることをうかがわせる。APIのトークン料金だけを基準に、同じモデルを自社設備で動かした場合の費用を推定することはできない。

Intelにとっても、公開モデルの普及は自社の計算基盤を活用する機会につながる可能性がある。同社は公式の技術解説で、DeepSeek R1の蒸留モデルをXeonプロセッサやGaudiアクセラレータ上で動かす方法を紹介している。蒸留とは、大規模なモデルの出力などを利用し、別のモデルにその能力を学習させる手法であり、ここで扱われるモデルとDeepSeek V4.1 Flash本体は異なる。Tan氏のオープンソース支持は、Intelが公開AIモデルの利用を自社ハードウェア上で支援している方針とも一致するが、それが直接的な売上増加につながるかは別途検証が必要だ。

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重要なのはトークン単価ではなく、仕事一件当たりの費用

業務に導入するAIモデルを選ぶ際には、トークン単価だけでなく、一つの仕事を完了するまでに必要な処理量や手間を評価することが重要になる。料金が安いモデルでも、回答の品質が不十分で何度も修正や再生成が必要になれば、その分だけ入力と出力のトークン数が増加する。反対に、必要な品質を維持しながら一度で処理を完了できる用途では、低いトークン単価がそのまま継続的な費用削減につながりやすい。

例えば、問い合わせ内容の分類と、複雑なソフトウェアの修正では、求められる正確性も失敗した場合の影響も大きく異なる。また、同じ文章を入力しても、モデルによってトークンの分割方法や生成する回答の長さが異なるため、料金表の単価比率がそのまま仕事一件当たりの費用比率になるとは限らない。実際の業務で比較するなら、まず許容できる品質や応答時間を定めたうえで、再実行の回数や人間による確認・修正の負担まで含めて評価する必要がある。

Tan氏が語った「用途に適したモデルを市場が選ぶ」という考え方は、こうした実際の業務での費用対効果によって判断されることになる。最も高い性能を持つモデルが、すべての仕事で最適とは限らない。必要な品質と応答時間を満たしながら、仕事一件を完了するまでの総費用を抑えられるのであれば、「十分に良い」性能を持つ低価格モデルには明確な導入価値がある。今後は、ベンチマーク上の性能やトークン単価に加え、実際の業務をどれだけ効率よく完了できるかが、AIモデルを選ぶ際の重要な判断材料となる。