本来であればスクラップとして廃棄されるはずだったCPUダイが、AIデータセンターのサーバーラックに次々と収まっている。この奇妙な現象こそ、Intelが2026年第1四半期決算で市場の度肝を抜いた要因だ。同社が発表した非GAAPベースの粗利益率は41%に達し、事前のガイダンスを6.5ポイントも上回った。この劇的な収益改善は、最先端プロセスの歩留まり向上だけで説明できるものではない。背景には、AIワークロードの爆発的な需要が引き起こした、半導体業界の価値基準の地殻変動がある。供給不足に喘ぐ顧客が、性能の劣るチップさえも渇望した結果、Intelは製造ラインから生まれるシリコンのほぼ全てを収益に変えたのだ。

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驚異の粗利益率41%を達成した決算内容

Intelが2026年4月に発表した第1四半期決算は、市場のアナリスト予測を大幅に上回る結果を示した。売上高は136億ドルに達し、市場コンセンサスの123.6億ドルを10%以上も超過した。特に財務の健全性を示す非GAAPベースの粗利益率は41%を記録し、同社が事前に提示していたガイダンスの34.5%から6.5ポイントもの改善を見せた。この数字は、Intelの収益性が劇的に回復していることを市場に印象付けた。

この好調な業績を牽引したのは、データセンターおよびAI(DCAI)部門である。同部門の売上は前年同期比で22%増の51億ドルに達し、AIサーバー向けCPUの需要がいかに旺盛であるかを裏付けた。IntelのCFOであるDavid Zinsner氏は決算説明会で「工場の生産量を改善したにもかかわらず、需要が供給を上回った」と述べ、市場が前例のないレベルのシリコンを求めている状況を説明した。供給不足に陥るほどの需要が、Intelの収益構造に想定外の変化をもたらした。

利益率を押し上げた「ビン選別」の仕組み

半導体製造ラインは、まずシリコン製の円盤であるウェハー上に、フォトリソグラフィ技術を用いて数百から数千のCPUダイ回路を焼き付ける。その後、エンジニアはこれらのダイを一つずつ切り出し、厳密な性能テストにかける。このプロセスが、個々のダイの運命を決定する「ビン選別(binning)」だ。テストでは、ダイの動作クロック周波数、消費電力、耐熱性、そして内蔵されている全コアの正常性といった複数の項目を測定する。

測定結果に基づき、ダイは性能ごとに異なる「ビン(箱)」へと機械的に振り分けられる。最高の性能基準をクリアしたダイは、最上位モデルのCPU、例えば「Core Ultra 9」や「Xeon Platinum」として製品化される。わずかに性能が基準に満たないダイは、下位モデルの「Core Ultra 7」や「Xeon Gold」になるか、一部のコアを意図的に無効化して製品ラインナップを埋めるために使われる。この選別プロセスにより、Core Ultra 9(最上位・約600ドル)からCore i5(ミドルレンジ・約200ドル)まで、価格帯が3倍以上異なる製品が1枚のウェハーから同時に生まれる。

ウェハーの端に近い部分で製造されたダイは、中心部に比べて製造プロセス上の物理的・化学的な影響を受けやすく、欠陥が多く発生する傾向がある。その結果、性能が著しく低かったり、動作が不安定だったりするため、従来の基準では製品化できず、スクラップとして廃棄されるケースが少なくなかった。Intelの利益率を劇的に押し上げたのは、まさにこの廃棄されるはずだったダイの収益化だった。

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AIが変えた「低価値チップ」の市場価値

アナリストのBen Bajarin氏がIntelのIR(インベスター・リレーションズ)部門から得た情報として報告したところによると、Intelは「通常は低価値またはスクラップと見なされるCPUを販売した」という。通常なら廃棄コストが発生するダイから売上を得ることで、1枚のウェハーから回収できる粗利益が増加する。ビン選別ロスが最小化されるほど、利益率が上乗せされる構造だ。

現代のAI推論タスクは、必ずしも最高性能のCPUコアを必要としない場合がある。特定の処理に特化した場合、個々のコアの最大クロック周波数よりも、コア数や並列処理能力が重要視されることがある。そのため、データセンター事業者は、サーバーラックを一日でも早く埋めるため、たとえ性能が低いCPUであっても「無いよりはまし」という判断を下している。IntelのCFO、David Zinsner氏が語った「需要が供給を上回った」という言葉は、この市場環境を的確に表している。

最高性能のチップが不足する中で、これまで市場価値がないと見なされてきた低性能なダイが、特定のニッチな需要を満たすことで新たな価値を生み出した。Intelは、この市場の構造変化を捉え、製造ラインから生まれるほぼすべてのダイを収益化した。半導体の価値基準が性能の絶対値から、特定のワークロードに対する費用対効果へとシフトし始めている。

全プロセスノードで歩留まり改善、Intel 18Aは社内予測を超過

「廃棄チップの販売」という事象が注目を集める一方で、Intel自身の製造技術の回復も利益率改善の重要な要因である。決算説明会でCFOのDavid Zinsner氏は「全部門のプロセスノードで一貫した歩留まりとスループットの改善が見られる」と明言した。Intel 4、Intel 3、そして次世代の最先端プロセスであるIntel 18Aにわたる歩留まりの向上が、粗利益率全体を底上げしたと説明されている。

鍵を握るのは、IntelがTSMCやSamsungとの競争で優位に立つための切り札と位置づける18Aプロセスだ。Intelは、18Aプロセスの歩留まりが社内の予測を上回るペースで改善しており、その先の14Aプロセスも順調に開発が進んでいると公式に発表した。これは、同社が掲げる「5年間で4つのプロセスノードを立ち上げる」という野心的な計画が、着実に成果を上げつつあることを示している。競合であるTSMCの同等クラスのプロセス(N2)の歩留まりが約65%と報じられる中、Intelの歩留まり改善は競争力を維持する上で不可欠だ。

廃棄チップの収益化という現象は、ベースとなる製造プロセスの歩留まりが一定水準まで向上し、製品化を検討できるだけの数のダイが確保できるようになったからこそ可能になった。AI需要という外部要因と、Intel自身の地道な技術開発努力という内部要因が組み合わさった結果が、今回の利益率改善に繋がった。

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「スクラップ収益化」が示す半導体業界の新常識

AIがもたらす需要急増は、半導体製造における「良品」と「不良品」の境界線を曖昧にし、業界のバリューチェーン全体を再定義しつつある。従来、半導体産業はムーアの法則に従い、より高性能なチップをより低コストで製造することを目指す、性能至上主義の世界だった。しかし、その常識は今、大きく揺らいでいる。Intelの決算は、単なる一企業の業績回復ストーリーではなく、この構造変化の明確な兆候だ。

AIワークロードの多様化は、単一の性能指標では測れないチップへの需要を生み出している。推論、学習、データ処理など、それぞれのタスクに最適化されたハードウェアが求められる時代において、これまで低価値とされてきたダイが特定のワークロードで採用される。この「スクラップ収益化」モデルは、廃棄シリコンを削減するという観点からも経済合理性がある。SamsungやGlobalFoundriesのようなファウンドリーにとっても、同様のアプローチが参考になるだろう。

ただし、このビジネスモデルが持続可能かは不透明だ。AIチップの供給不足が緩和されれば、顧客は再び高性能なチップを選好するようになり、低性能ダイの価値は再び下落するリスクがある。

AMDのようなファブレス企業がこの戦略を模倣するのも難しい。製造プロセスを直接管理していないため、TSMCのようなファウンダリから低性能ダイを安価に仕入れる交渉が別途必要になるからだ。製造プロセスを自社で持つIntelだからこそ実現できた戦略といえる。Intelが示した新たな収益モデルは、AI時代の半導体業界が、性能の頂点を追い求める競争から、多様な需要にきめ細かく応える価値創造の時代へと移行する過渡期の現象と位置づけられる。