宇宙資源開発企業Interluneは7月20日、商用のGrade Aヘリウムから純度99%のヘリウム3を分離したと発表した。実験そのものは2025年初頭に同社のシアトル研究所で行われており、今回初めて結果を明らかにした。米国で流通するヘリウムの処理設備へ「Cold Capture」を組み込めば、年間供給量を最大2.5キログラム増やせると同社は見積もる。検証すべき核心は99%という純度よりも、極微量の同位体を工場で連続回収できるかどうかにある。

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純度99%が変えたもの、変えていないもの

Cold Captureが示した変化は、ヘリウム3の原料にある。現在の米国供給は、核兵器用トリチウムが放射性崩壊して生じるヘリウム3をサウスカロライナ州のSavannah River Siteで回収する経路に依存する。米地質調査所(USGS)によれば、2025年に国内でヘリウム3を生産した拠点はここだけだった。生産量は企業情報の保護を理由に開示されていない。

Interluneが原料にしたGrade Aヘリウムは、総ヘリウム純度99.997%以上の商用品で、ほぼすべてをヘリウム4が占める。その中に約200 ppb、すなわち10億分の200程度しかないヘリウム3を濃縮し、製品流の99%まで高める。トリチウムを新たに製造せず、天然ガスからすでに回収されているヘリウムの流れを利用できる点が従来経路との違いだ。

ただし、99%は回収率ではない。原料に含まれたヘリウム3のうち何割を製品として取り出せたのかは公表されていない。米エネルギー省傘下のNational Isotope Development Center(NIDC)は、同位体濃縮度99.80%以上のヘリウム3を現在も販売している。Cold Captureの成果は既存製品の純度記録を更新したのではなく、別の希薄な原料から実用域の濃縮に到達したという会社発表である。

測定の裏づけも次の課題になる。Interluneは分析を担当した機関を明らかにしておらず、測定法と誤差範囲も示していない。試料量、運転時間、製品中の不純物も不明だ。純度99%という一点は原理実証の到達点を表すが、商用品の仕様を満たす工程が完成したとはまだ判断できない。

4 K付近の蒸気圧差を液化工場で使う

ヘリウム3とヘリウム4は同じ元素の同位体で、通常の化学反応では分けにくい。Cold Captureは両者の質量差によって極低温で生じる蒸気圧の違いを使う。米空軍のSBIRデータベースに掲載された計画では、沸点に近い約4 Kでヘリウム3を気相側へ濃縮する。蒸留を繰り返し、希薄な原料から高濃度の製品流を作る仕組みだ。

極低温蒸留の原理は以前から知られている。2014年に成立した米国特許US8683825B2は、2.3〜4.3 Kで天然ヘリウムからヘリウム3を回収する蒸留塔を記載している。同特許が先行例として挙げた1995年の実験は、直径20ミリメートル、高さ200ミリメートルの小型充填塔を使っていた。ごく薄い原料では濃縮に数カ月から数年を要し得るため、商用化には処理時間と冷却エネルギーを抑える設計が必要になる。

Cold Captureの狙いは、この冷却負担を既存の液化設備と分け合うことだ。2025年にInterluneが獲得した米空軍SBIR Phase II契約は1,249,990ドル。液化工場との物理、熱、運転上の接続条件を定め、低温容器や熱交換器、ポンプなど高リスク部品を試作する。会社発表の研究室実験と、SBIRが目指す工場統合の間には、パイロット設備を設計して運転する工程が残っている。

この順序は発表時期を読むうえでも意味を持つ。純度99%への到達はSBIR採択より前の2025年初頭だった。2026年7月の発表は工場規模の運転結果ではなく、研究室で得た製品純度と、これから拡大する計画を合わせて公表したものだ。

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810億リットルから最大2.5キログラムへの条件

USGSは、米国で2025年に販売されたGrade Aおよび気体ヘリウムを8,100万立方メートルと推計する。リットル換算では810億リットルだ。国内では5工場がGrade Aヘリウムを生産し、別の4工場が他拠点の粗ヘリウムをGrade Aへ精製した。Interluneはこうした複数の大規模な流れへ装置を設置し、各産地から集まる微量のヘリウム3を回収しようとしている。

年間最大2.5キログラムという数字は、対象施設へ広く導入できた場合の会社試算である。Interluneは現在の米国生産量を約3倍にできると説明するが、USGSは現行のヘリウム3生産量を公表していない。このため、公的統計だけで倍率を再計算することはできない。設置先との契約や稼働開始日も今回の発表には含まれていない。

事業性を決める数字は、むしろ未開示の項目に並ぶ。原料中のヘリウム3を取り逃がさない回収率、単位時間当たりの処理量、装置を約4 Kに保つ電力、保守停止を含む稼働率である。主力商品であるヘリウム4の生産を妨げずに装置を追加できるかも、液化工場側の採用判断を左右する。

Interluneは、量子冷凍機メーカーのMaybell QuantumとBlueforsを中心に、約5億ドルの法的拘束力を持つ購入契約を確保したとしている。買い手候補が存在することは設備投資の前提になる。一方で、同社は契約額のうちCold Captureが供給する分を開示していない。約5億ドルを地上設備だけの売上見通しとして扱うことはできない。

量子計算への需要と月面計画の距離

超伝導量子ビットは、熱による励起を抑えるため10 mKを下回る温度で動かす。全米科学・工学・医学アカデミーによれば、現代の希釈冷凍機はヘリウム3とヘリウム4の混合物を閉ループで循環させ、室温から基底温度まで通常36〜48時間で冷却する。ヘリウム3を運転中に燃料のように使い切る装置ではないが、冷凍機の台数と容量が増えれば初期充填や補充に必要な在庫も増える。

需給を「不足」の一語で括ると、過去との違いを見失う。NIDCによると、国土安全保障向け中性子検出器が急増した2008年には需要が年間7万リットルに達し、政府供給を上回った。その後は代替検出器と再利用が進み、現在の連邦需要予測は年間6,000リットル未満まで下がった。DOEは重要な連邦需要を今後数十年満たせるとみている。今回の投資を動かすのは、解消済みの過去の危機より、商用量子冷凍機が増えるという将来予測である。

地上のCold Captureは、Interluneが掲げる月面採掘にもつながる。ただし共通するのは、取り出したヘリウムを最後に同位体分離する工程だ。月ではレゴリスを掘削し、太陽風が埋め込んだガスを加熱して放出させ、前処理したうえで装置へ送らなければならない。必要な電力と粉塵対策は地上と異なり、自律保守と地球への輸送も地上実験の範囲外である。

Cold Captureが地上の供給設備になるかは、液化工場に接続した連続運転で決まる。そこで2.5キログラムという上限試算を、実測した回収率とキログラム当たりのコストへ置き換えられれば、ヘリウム3は核物質管理の副産物から工業ガス生産の回収品へ役割を広げる。