ゲーム実行環境「Vapor」の開発者が、iPhone 18 Pro MaxでPC向けゲーム『Grand Theft Auto V』(GTA V)のベンチマークを動かしたと報告した。2026年9月27日の投稿では、市街地を走行する場面で平均66fps、別の場面では平均80fpsを記録したとしている。
スマートフォンでPC向けゲームを動かす試みとして、具体的なフレームレートが示された点は興味深い。一方、この結果からGeForce GTX 1650と同等の性能がある、あるいは「電力当たり性能が1180%高い」と評価するには、比較対象となるPC側の測定結果も必要になる。公開されている条件から、どこまで判断できるのかを整理する。
投稿で示されたのは、場面別の平均66fpsと80fps
Vaporの開発者投稿を掲載した記事の埋め込みには、iPhone 18 Pro MaxでGTA Vのベンチマークを実行したとの説明がある。
投稿によると、市街地を走行する場面では平均66fps、それ以外の場面では平均80fpsを記録した。どちらも平均値であり、常にそのフレームレートを維持したことや、最も重い場面でも同じ速度で動いたことを意味するものではない。
解像度は1080p、グラフィックスAPIはDirectX 11とされている。テクスチャ品質は「高」に設定し、輪郭を滑らかにするFXAAと16倍の異方性フィルタリングを有効化。街の人口密度は75%、遠くの物体を表示する距離の倍率は50%で、MSAAは無効としている。
したがって、テクスチャ品質が高いという一点だけを見て「最高画質」と呼べる設定ではない。複数の項目を調整した、投稿者独自のグラフィックス設定である。
元のX投稿のURLは確認できたものの、取材時には投稿そのものへ直接アクセスできなかった。このため、上記の数値と設定は、Wccftechの記事に埋め込まれた投稿内容から確認できた範囲に限られる。
埋め込みでは設定項目の末尾が省略されており、動画そのものやベンチマークの実行時間、端末温度、最もフレームレートが低下した場面についても独立には確認できていない。開発者自身も、動作にはまだ修正が必要な部分があるとしている。
また、場面ごとの平均値をまとめて一つの「GTA Vのfps」として扱うと、負荷の違いが見えなくなる。
市街地を走行する場面では、車両や歩行者、周囲の建物など描画する対象が増える。別の場面で80fpsを記録したからといって、移動中や戦闘中も同じように動作するとは限らない。実際にゲームを遊ぶうえでは、負荷の高い場面でどこまでフレームレートが落ちるかも重要になる。
平均66fpsという値も、描画時間の短いフレームと長いフレームを平均した結果にすぎない可能性がある。プレイ中に「カクつき」を感じるかどうかを判断するには、各フレームの描画にかかった時間を連続して記録するフレームタイムの推移を見る必要がある。
さらに、端末が十分に熱を持つまで試験を続けたかどうかによっても結果は変わる。投稿には長時間動作させた際の記録がないため、今回の平均fpsをそのまま長時間プレイ時の性能とみなすことはできない。
iPhoneでGTA Vが動いたことと、まだ分からないこと
今回のポイントは、iPhone向けに最適化されたGTA Vの新しいバージョンが発売されたことではない。Vaporを使って、PC向けのGTA VをiPhone上で動かした開発中の実演である。
PC向けゲームを異なる環境で動かす場合、ゲーム本来の描画処理だけでなく、APIや命令などを変換するための処理や互換性もパフォーマンスを左右する。
そのため、今回記録されたfpsをそのまま「A20 ProのGPU単体の性能」とみなすことはできない。
ゲームのバージョンにも注意が必要だ。
Rockstar Gamesの公式ストアでは、PC版GTA Vを「エンハンスト」と「レガシー」に分け、それぞれ異なるシステム要件を掲載している。
今回公開された投稿の抜粋だけでは、どちらのバージョンを実行したのか確認できない。同じGTA Vでも、バージョンが異なればグラフィックス機能や処理負荷も変わる。PCとの性能比較を行うのであれば、まずゲームのバージョンをそろえる必要がある。
投稿にDirectX 11と書かれていることだけでも、ゲームのバージョンを確定することはできない。
さらに、ゲームからDirectX 11へ送られた描画命令がVapor内部でどのように処理され、最終的にiPhoneのGPUまで届いているのかが分からなければ、別の端末やPCで同じ条件を再現するのも難しい。
Vaporがどのような変換技術を組み合わせているのか、また一般ユーザーがどのような形で利用できるようになるのかも、今回の投稿だけでは判断できない。
ベンチマークの一場面を動かせたことと、一般ユーザーが同じ設定でゲームを最後まで安定して遊べることは別の問題だ。
ゲームを問題なく導入できるのか。キーボードやコントローラーなどの入力は正常に動くのか。セーブデータを正しく保存できるのか。長時間遊んでも描画やゲーム進行に問題が起きないのか。
今回公開された平均fpsからは、こうした実用面までは分からない。現段階では、PC向け大型ゲームをiPhone上で高いフレームレートで動かせる可能性を示した技術実演と見るのが適切だ。
「GTX 1650と同等」「1180%高効率」を判断するにはデータ不足
発端となったWccftechの記事は、見出しでA20 ProがGTX 1650と同等のフレームレートを実現し、電力当たり性能では1180%上回るとしている。
しかし、記事には比較に使われたGTX 1650の具体的な製品、同じベンチマーク場面での平均fps、さらに両機がゲーム実行中に実際に消費した電力が示されていない。
iPhone側の66fpsと80fpsという数字だけでは、「GTX 1650と同等」という評価も、「1180%」という数値も再計算できない。
| 公表されている項目 | 値と対象 | 比較する際の問題 |
|---|---|---|
| Vaporの実演 | iPhone 18 Pro Maxで市街地走行平均66fps、別場面で平均80fps | GTX 1650側の同一場面での測定値がない |
| GTX 1650の製品仕様の一例 | MSI GeForce GTX 1650 D6 VENTUS XS V1の公称消費電力75W | 比較に使われた製品とは確認できず、ゲーム実行中の実測値でもない |
| 電力当たり性能の計算に必要な値 | 同じ場面の平均fps ÷ 同じ時間帯に測った消費電力 | iPhone、PCともに対応する実測電力が公開されていない |
75Wという製品仕様と、iPhone側の66fpsという実測値だけを組み合わせても、ゲーム実行時の電力当たり性能を求めることはできない。
MSIの仕様書に記載された75Wは、その製品の公称値だ。すべてのGTX 1650搭載カードが同じ条件で動作することや、GTA Vの実行中に実際に75Wを消費していたことを意味しない。
さらに、「どこまでを消費電力として測るか」という問題もある。
GPUカードだけの消費電力と、iPhone本体全体の消費電力は測定範囲が異なる。PC全体の消費電力と比較するのであれば、CPUやメモリ、ストレージなども含まれる。
測定範囲をそろえずにfpsをワット数で割っても、公平な電力効率の比較にはならない。
フレームレートを比較する場合も同じだ。
同じGTA Vのバージョン、同じ1080p解像度、同じグラフィックス設定、同じ市街地走行などのベンチマーク場面を使い、平均fpsだけでなくフレームタイムのばらつきも記録する必要がある。
そのうえで、同じ測定時間における消費電力をiPhoneとPCの双方で測る。さらに、その電力がGPUだけなのか、端末全体なのかも明示しなければならない。
一方だけ冷却条件や画質設定が異なれば、性能差が生じても、それをハードウェアそのものの電力効率の差とは断定できない。
現時点で示されている「1180%」という数字には、この比較を再現するために必要な測定データが公開されていない。
A20 Proの公式仕様から分かること、分からないこと
AppleはiPhone 18 Proシリーズの発表で、A20 Proに搭載した7コアGPUがA19 Proより最大40%高速だと説明している。
また、メモリをチップ本体の横に配置し、熱を逃がす経路から外すことで、チップをベイパーチャンバーへ直接つなぐ構造を採用した。さらに冷却部品の表面積をiPhone 17 Pro比で3倍に拡大し、端末の持続性能も前世代から最大40%向上したとしている。
ただし、この二つの「最大40%」は意味が異なる。
一つはA19 Proと比較したA20 Pro GPUの公称性能で、もう一つは前世代のiPhoneと比較した端末全体の持続性能だ。
どちらも、Vaporを使ってGTA Vを実行した際の実測値ではなく、GTX 1650との比較結果でもない。
冷却性能の向上は、長時間のゲームプレイで性能低下を抑えるうえで有利に働く可能性がある。しかし、今回公開された場面別の平均fpsだけから、その効果がどの程度だったのかを切り分けることはできない。
今回のVaporによる実演には、PC向けの大型ゲームがiPhone上で実際に動き、特定の場面では平均66〜80fpsに達したという点で意味がある。
一方、「GTX 1650と同等」「電力当たり性能が1180%高い」といった評価を検証するには、まだデータが足りない。
同じGTA Vのバージョンとグラフィックス設定を使ったGTX 1650搭載PCを用意し、同じ場面でフレームレートとフレームタイムを測定する。さらに、同じ時間帯の消費電力をiPhoneとPCの双方で同じ基準で測れば、初めて性能と電力効率を直接比較できる。
それまでは、「iPhoneでGTA Vがこのフレームレートで動いた」という実演結果と、「GTX 1650並み」「1180%高効率」という性能評価は分けて考える必要がある。
