キオクシアは2026年7月3日、第10世代BiCS FLASHの3次元フラッシュメモリ技術を適用した1Tb TLC製品のサンプル出荷を開始したと発表した。TLCは1セルに3bitを記録する方式で、今回のサンプルは主にエンタープライズSSDとデータセンター向けSSDへの搭載を想定する。AI向けストレージで求められる高性能、大容量、低消費電力の製品ラインアップを強化する位置づけだ。

今回の発表で見える変化は、332層という層数そのものよりも、顧客がSSD製品の設計に使う評価サンプルが出始めた点にある。キオクシアは、同製品を岩手県北上市の北上工場第2製造棟にある最新設備を活用して生産するとしている。技術ロードマップ上の数字が、工場設備、SSDの製品設計、AIインフラ向けの容量計画へ移り始めたことになる。

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332層化は59%のビット密度向上として示された

第10世代BiCS FLASHの仕様で目を引くのは、332層への積層数増加に加え、平面方向の高密度化を組み合わせた点だ。キオクシアは、これによりビット密度が59%向上したと説明している。3D NANDでは層数が見出しになりやすいが、SSDの容量やコストに直結するのは、最終的にダイ面積あたりにどれだけのbitを載せられるかである。

速度面では、NANDインターフェース速度が4.8Gb/秒に達し、第8世代比で33%向上した。電力効率は書き込み時で18%、読み出し時で30%改善したという。これらはデータ転送時の電力効率を含む数字で、キオクシアは特定の試験環境と条件で得られた値であり、使用機器などによって変わると注記している。

この注記は小さく見えるが、企業SSDでは大きな意味を持つ。NANDダイ単体の速度や電力効率は、SSDコントローラ、ファームウェア、エラー訂正、電力管理、熱設計を通して製品仕様へ落とし込まれる。4.8Gb/秒のインターフェース速度や電力効率の改善がそのまま製品性能になるわけではなく、ここから顧客とSSDメーカーの評価が始まる。

CBAとOPSは高層化の副作用を抑える技術になる

キオクシアは第10世代BiCS FLASHで、第8世代から採用しているCMOS directly Bonded to Array(CBA)技術とOn Pitch Select Gate Drain(OPS)技術を活用した。層数を増やすほど容量密度は上げやすくなる一方、3D NANDでは構造が高くなるほど信号経路、容量負荷、製造工程の制約が厳しくなる。キオクシアのBiCS説明ページも、積層数が一定水準を超えると性能や電力効率に悪影響が出ると説明している。

CBAは、この制約を製造工程から緩める技術だ。キオクシアの技術解説によれば、CBAではCMOS回路とメモリセルアレイを別々のシリコンウェハー上に形成し、表面の銅パッドを直接接合する。CMOSとセルアレイを別工程で最適化しながら上下に重ねられるため、チップサイズを抑えつつ、速度や電力効率の改善に使える。

OPSは、未使用のメモリホールを削除することでビットラインを短くし、ワードラインの容量を減らす技術である。セルを縦方向に増やすと読み書きの遅延や電力増加が問題になりやすい。CBAが周辺回路とセルアレイの作り方を分ける技術なら、OPSは積層構造の中に残る余分な負荷を減らす技術として働く。

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Gen 9とGen 10を分ける理由は用途の違いにある

キオクシアはBiCS FLASHの説明ページで、第9世代と第10世代を並行して開発していると説明している。第9世代は投資コストを抑えつつ高性能を実現する製品群、第10世代は積層数を増やして大容量かつ高性能を実現する製品群という位置づけだ。今回の公式発表でも、この二軸の開発戦略が改めて示された。

これは、NANDの世代移行が常に単線で進むわけではないことを示している。企業SSDでは、容量、性能、耐久性、消費電力、価格の組み合わせが製品ごとに変わる。高密度化を急ぐ製品もあれば、既存セル構造と新しい周辺回路を組み合わせた方が製品化しやすい用途もある。第10世代は、その中で大容量と性能を同時に伸ばす側の軸を担う。

今回サンプル出荷が始まったのは1Tb TLC品である。評価サンプルであるため量産品とは仕様が異なる場合があるが、TLCで顧客評価に入った意味は大きい。TLCはQLCより1セルあたりのbit数が少ない一方、書き込み性能や耐久性の設計で扱いやすい。高密度化した332層世代を、まず企業SSDで必要な速度と書き換え耐性の検証にかける動きと読める。

AI向けストレージでは容量と耐久性を分けて考える必要がある

キオクシアの現行企業SSDを見ると、TLCとQLCの使い分けが見える。CM9-Vは第8世代BiCS FLASH TLCを使う混合用途SSDで、PCIe 5.0とNVMe 2.0に対応し、最大3,400K IOPSのランダム読み出し、800K IOPSのランダム書き込み、3 DWPDを掲げる。頻繁な読み書きを伴う企業ワークロードでは、容量に加え、書き換え耐性と遅延の安定性が採用条件になる。

一方、LC9 E3.Lは第8世代BiCS FLASH QLCを使う245.76TBの高容量SSDで、AIシステム、データレイク、機械学習、スケールアウトストレージを用途に挙げる。PCIe 5.0とNVMe 2.0に対応し、最大12,000MB/秒のシーケンシャル読み出し、1,000K IOPSのランダム読み出しを示し、アクティブ時の消費電力は標準30Wだ。読み出し中心の大容量ストレージでは、QLCの容量密度が生きる。

AIインフラではGPUやHBMが注目されやすいが、NANDは別の層を支える。学習データ、特徴量、チェックポイント、推論ログ、検索拡張用データ、ベクトルデータベースを保持するには、容量、読み出し性能、設置面積、電力のバランスが必要になる。332層BiCS 10のTLCサンプルは、その中で書き換えを含む企業用途の土台を固める段階に入ったことを示す。

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北上工場第2製造棟が量産準備の焦点になる

公式発表で生産拠点として示された北上工場第2製造棟は、今回の技術を製品供給へつなぐうえで大きな意味を持つ。高層化した3D NANDでは、セル構造、ウェハーボンディング、歩留まり、設備稼働率が製品コストと供給量を左右する。サンプル出荷は顧客評価の始まりであり、量産品としての仕様、供給時期、採用SSDの容量構成は次の確認点として残る。

キオクシアホールディングスの2026年3月期有価証券報告書は、四日市工場と北上工場をフラッシュメモリの設備投資先として挙げている。同社は需要動向、工程技術の開発状況、投資効率を見ながら生産設備と研究開発へ投資すると説明し、需要予測、設備の納期、歩留まり、人材や材料の確保がずれると、販売機会、市場シェア、利益率へ影響するとしている。

企業SSDで問われるのは、発表資料上の高性能を実際の導入条件へ落とし込めるかである。顧客が見るのは、同じラック電力と設置面積でどれだけの容量を積めるか、読み書きの遅延をどこまで抑えられるか、保証期間内にどれだけ書き換えられるか、そして必要な量を安定して調達できるかである。キオクシアのサンプル出荷は、その判断に必要な実機評価が始まったことを示す節目である。