AIエージェント「Manus AI」を開発する中国のスタートアップButterfly Effectが、米国の著名VCであるBenchmark主導の資金調達ラウンドで7500万ドル(約107億円)を確保したと報じられた。これにより同社の評価額は約5億ドル(約775億円)へと急上昇し、以前の約5倍に達した模様だ。調達資金は米国、日本、中東などへの海外市場拡大に充てられる計画である。
Benchmarkがリード、評価額は5倍増の約5億ドルに
今回の資金調達ラウンドは、米国の有力ベンチャーキャピタルであるBenchmarkが主導した。Bloombergが関係者の話として報じたところによると、調達額は7500万ドルに上る。
このラウンドには、Benchmarkに加え、既存の投資家数社も参加したとされている。これにより、Butterfly Effectの評価額は以前の約5倍となる約5億ドルに達した。同社はこれまでに、TencentやHSG(旧Sequoia China)、ZhenFundといった投資家から1000万ドル(約14億2000万円)超を調達していた。
今回の大型調達は、同社の開発するAIエージェント「Manus AI」への高い期待を反映したものと言えるだろう。Butterfly Effectは調達した資金を活用し、米国、日本、中東といった主要市場へのサービス展開を加速させる方針だ。
注目されるAIエージェント「Manus AI」とは
Butterfly Effectが開発するManus AIは、「AIエージェント」と呼ばれる種類のサービスだ。AIエージェントとは、ユーザーからの指示に基づき、自律的にタスクを実行するAIシステムを指す。
Manus AIは、特に複雑なタスクの実行能力をアピールしている。2025年3月にベータテストが公開された際には、Webサイト開発や不動産リサーチといった高度な作業をこなすデモ動画が公開され、AIコミュニティで注目を集めた。複数のサードパーティアプリケーションを横断して操作できる点も特徴だ。
その仕組みの詳細は明らかにされていないが、Manus AIは複数の特化型AIエージェント(特定のタスクに最適化された大規模言語モデル、LLM)によって構成されている可能性が指摘されている。ユーザーからの指示(プロンプト)を受け取ると、「オーケストレーションエンジン」と呼ばれるシステムが指示をサブタスクに分解し、それぞれ最適なAIエージェントに割り当てるという仕組みだ。
最近の報道では、Manus AIの基盤技術として、Anthropic社のLLM「Claude 3.5 Sonnet」または「Claude 3.7 Sonnet」が使用されている可能性も示唆されている。これらのモデルは、Linuxベースのコンピュータや仮想マシン上のブラウザを介して、外部アプリケーションを操作する「コンピュータ使用(computer use)」機能を備えている。
また、Butterfly Effectは中国の巨大IT企業アリババ(Alibaba)とも、同社のAIモデル「Qwen」に関して協力関係にあると報じられている。
実用性と課題、そして市場競争
Manus AIは、その先進的な機能で注目を集める一方、実用面での課題も指摘されている。
ベータ版公開当初、同社はその性能について、一部のパラメータでOpenAIのAIエージェント「Deep Research」を上回ると主張していたが、実際のユーザーテストでは、レストランの注文処理中にクラッシュしたり、指示されたタスクの一部しか実行せず重要なステップを省略したりするケースが報告されている。筆者も使用してみたが、何度かクラッシュを経験し、複雑な指示では途中で中断してしまうケースも散見され、実用的とは言いがたい状況だった。
こうした課題を抱えつつも、Butterfly Effectは収益化に向けて動き出している。2025年3月下旬には、月額39ドルの「Manus Starter Beta」と月額199ドルの「Manus Pro Beta」という有料プランを発表した。Proプランでは、最大5つのタスクを同時に実行でき、より多くの計算リソースを利用できる。今回の大型資金調達は、こうした収益化への期待も背景にあると考えられる。
AIエージェントの分野では、競争も激化している。OpenAIは2025年1月下旬に、同様のAI自動化サービス「Operator」を発表した。Operatorは、フォーム入力やEコマースでの注文といったタスクを実行でき、GPT-4oをベースにした「Computer-Using Agent」と呼ばれるモデルで動作するとされている。Manus AIは、こうした競合サービスとしのぎを削っていくことになる。
Sources