スマートフォンやPCの買い替えを検討していて、想定より高い値札に驚いた読者は少なくないはずだ。DRAMとNANDの価格はここ数四半期で跳ね上がり、店頭価格にも影響が及んでいる。その裏でSamsungとSK hynixは記録的な決算を発表したにもかかわらず、Samsung株はむしろ約10%下落した。好調な決算が売られるという逆説の背景には、メモリ各社が語り始めた「2034年」という長期目標がある。新工場の着工から量産まで3年を超えるという構造そのものが、今回のAIブームを過去2度のブーム&バストサイクルとは違う時間軸に押し上げているのだ。

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Samsung営業利益19倍でも株価が下がった理由

SamsungとSK hynix、Micronの決算を並べると、伸び率の桁は三社三様ながら、株式市場の反応が数字以上に異例だったという共通点が見えてくる。Samsungは2026年Q2のガイダンスで、売上高170〜172兆ウォン(約1119億ドル)、営業利益89.3〜89.5兆ウォン(約584億ドル)を発表した。営業利益は前年同期比で約19倍という異例の伸び幅に達している。それでも発表後、Samsung株は約10%下落した。記録的な決算が売りの材料になるという、一見すると矛盾した反応だ。

SK hynixも同様に異例の決算を記録した。2026年Q2の売上高は82.89兆ウォンで前年比273%増、実数にするとおよそ3.7倍にあたる。営業利益は63.45兆ウォンで前年比589%増となった。Micronも2026会計年度Q3(6月24日発表)で売上高414.6億ドルを計上し、5四半期連続で過去最高を更新した。前年同期の93.0億ドルと比べると約4.5倍で、粗利益率も84.9%と過去最高を記録している。

Samsungは業績の牽引役について「メモリ市場における技術的リーダーシップと平均販売価格の上昇」が寄与したと説明した。平均販売価格の上昇、つまり品薄によるプレミアムが利益を押し上げた構図だ。株式市場が警戒しているのはこの利益水準そのものではなく、品薄がいつまで続くかという時間軸だとみられる。

新工場が3年で間に合わない仕組み

半導体メモリの新工場は、着工から量産に乗せるまでに3年を超える期間を要する。クリーンルームの建設だけでも1年前後かかるうえ、露光装置をはじめとする製造装置の搬入・据え付け、そして歩留まりを商用水準まで引き上げる工程がそれぞれ数か月から1年単位で積み上がる。SK hynixが2026年6月に発表した計画は、ウエハーベースの生産能力を2034年までに3倍に拡大するというものだ。この発表は今回の決算ラッシュとほぼ同じ時期に示されており、増産の号砲が鳴った瞬間から本格的な効果が出るまでに8年前後を要することを、当事者自身が認めた形になる。

供給が追いつきにくいもう一つの理由が、HBM(広帯域幅メモリ、AI向けGPUに直結する高性能規格)への生産ライン転換だ。HBMはシリコンダイを複数枚積層し、シリコン貫通電極でつなぐ工程を追加で必要とするため、通常のDRAMラインをそのまま転用できない。SK hynixとMicron、Samsungの3社ともHBMの2026年分の生産枠はほぼ完売しており、SK hynixはNVIDIAのRubin向けHBM4供給の約3分の2を担っていると報じられている。既存ラインをHBM向けに割くほど、パソコンやスマートフォンに使う汎用DRAM・NANDの供給余力は逆に細る。

IDCはこうした構造を踏まえ、メモリ不足の緩和は早くても2028年になると予測している。しかも価格水準が2025年以前に戻ることはないとの見立てだ。今回のメモリ高騰は単発の特需ではない。新工場の着工ラッシュが本格的な供給増に転じるまでの期間そのものが、この現象を構造的なものにしている。

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2019年・2022年との違いを数字で検証する

メモリ業界は好況と不況を繰り返すコモディティ市場として知られる。2017〜2018年のブーム後は2019年に価格が急落し、2021年のピーク後も2022年に暴落するという波を繰り返してきた。2019年には、ハイパースケーラー各社の過剰発注の反動でDRAM価格が4四半期でおよそ60%下落した。2022年後半には、Micronの株価が約98ドルから約49ドルへとほぼ半減している。いずれも「増産が需要に追いついた瞬間」に価格が崩れるという同じパターンをたどった。

2019年・2022年のいずれのサイクルでも、メモリ各社は増産局面に入る直前まで「今回の需要は構造的なもので簡単には崩れない」という趣旨の説明を続けていたが、結局は増産が需要に追いついた時点で価格は崩れた。今回のサイクルにも同じ崩れが訪れないと言い切れる根拠はない。ただし規模には明確な違いがある。2026年Q2時点の世界メモリ市場は約2544億ドルとされ、2017〜2018年のスーパーサイクル期の約990億ドルと比べて2.5倍を超える規模になっている。HBMの生産枠が2026年分でほぼ完売している点も、2019年当時にはなかった需要の厚みだ。

それでも兆候がないわけではない。TrendForceは2026年Q3のDRAM契約価格上昇率を前四半期比13〜18%と予測しており、これはQ2に記録した約60%上昇から明確に鈍化している。NANDも同様に10〜15%上昇の見通しで、伸び率そのものは縮小に転じ始めた。増産計画と供給契約の詳細を見ても、AI需要が減速した場合の受注キャンセル条項の有無は公表されていない。

過去2回のサイクルと今回とで違って見えるのは、市場規模のスケールだ。それは不況が来ない保証にはならない。数字を並べるほど、その違いが際立ってくる。

各社の増産投資が抱える供給過剰というリスク

供給不足が長期化するという読みに賭けるように、Micronは2026年7月9日、米国の半導体サプライチェーン強化に向けて最大30億ドルの戦略投資を発表した。うち5億ドルはGlobalWafers America(テキサス州)の300mmウェハー工場向けの融資で、10年間の供給契約とセットになっている。素材となるウェハーの調達網まで10年契約で固めておく動きは、上流の原材料供給網でも数年単位の不足が続くという前提に立った投資だ。韓国政府も2026年6月29日、Lee Jae Myung大統領がSamsungとSK hynixとともに総額5760億ドル規模のAIチップ投資計画を発表しており、うちSamsungとSK hynixが投じる800兆ウォン(約5179億ドル)は韓国南西部の新工場4棟の建設に充てられる。各社が数年がかりの投資を積み増している事実は、供給不足が長期化するという読みが業界内で共有されていることの裏返しでもある。

だがこの読みが成立するのは、AI需要が投資計画通りに伸び続けた場合に限られる。IDCによると2026年Q2の世界PC出荷台数は前年比4.9%減の6820万台で、2年ぶりの前年割れとなった。Omdiaの集計では、2026年Q1時点で400ドル以下のスマートフォンは部品原価の約60%をメモリが占め、同価格帯の出荷は2026年通期で前年比22%減と見込まれている。対照的に400ドル超のスマートフォンは同期間で前年比5.7%増える見通しで、メモリ高騰は低価格帯と高価格帯の明暗を分けつつある。

つまり、メモリ各社が数年単位で積み増している生産能力は、AIサーバー需要の伸びを前提に設計されている一方、その裏で非AI需要はすでに縮み始めている。新工場が稼働する2028年前後までにAIサーバー需要の伸びが非AI需要の落ち込みを吸収しきれなければ、積み増した生産能力は行き場を失う。コスト増でマージンを圧迫されるAIスタートアップの資金体力も、この吸収力を左右する変数の一つだ。

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日本にも及ぶ余波、キオクシアと価格転嫁

キオクシアホールディングスの2026年3月期は、AIデータセンター向けNAND需要を追い風に、通期売上高が初めて2兆円を突破する見通しとなった。純利益は前期比で約17倍という水準に達しており、日本の半導体企業もこの高騰局面の外にはいない。

対照的に、SK hynixとSamsungはこれまで日本国内での新工場建設を繰り返し見送ってきた。結果として、NAND領域でキオクシアが国内で独占的に近い立場を占める構図が続いている。もっとも、この優位は国内消費者にとって値上がりの防波堤にはならない。Gartnerは2026年末までにPC価格が17%、スマートフォン価格が13%上昇すると予測しており、DRAM・NANDの調達コストを共有する以上、日本市場で販売される製品もこの波を避けにくい。

Gartnerは同時に、世界のPC出荷が前年比10.4%減、スマートフォン出荷が8.4%減になるとも見込んでおり、値上がりが買い替えサイクルそのものを鈍らせ始めている。焦点は日本を含むどの市場でも変わらない。供給が需要に追いつく時期がいつ来るかという一点だ。IDCが見込む2028年前後の不足緩和は、SK hynixが掲げる2034年の本格増産目標よりも手前で訪れる計算であり、新工場の稼働ラッシュとAI投資の伸び鈍化が同じ時期に重なれば、キオクシアを含む各社の増産投資は価格の落ち着きという形で回収に向かう。逆にAI需要が投資計画を上回るペースで伸び続ければ、供給ラグはそのまま高止まりとして固定化される。