Meta Platformsが発表した第3四半期決算は、一見すると好調そのものだった。売上高は市場予想を上回り、広告事業も力強い成長を見せた。しかし、その発表後、同社の株価は11%以上も急落し、過去3年間で最悪の一日を記録した。投資家が恐怖したのは、決算報告の数字の奥に隠された、Mark Zuckerberg CEOが推し進める天文学的な規模のAI(人工知能)への投資計画である。2026年には「著しく大きく」なると予告されたその投資額は、市場に「AIバブル」への深刻な懸念を再燃させた。これは未来への賢明な布石なのか、それとも制御を失ったコストの暴走なのだろうか。
好決算を吹き飛ばした「未来へのコスト」という衝撃
2025年10月29日(現地時間)に発表されたMetaの第3四半期決算は、売上高が前年同期比26%増の512億4000万ドルに達し、ウォール街の予想を上回る力強い内容だった。 広告収入も500億ドルを超え、コアビジネスの健全性を示している。
しかし、投資家の注目は別の数字に釘付けとなった。まず、一株当たり利益(EPS)は1.05ドルと、予想の6.70ドルを大きく下回った。 これは、Trump大統領の税制に関連する159億3000万ドルという巨額の一時的な税費用が主因であり、これを除けばEPSは7.25ドルと、むしろ予想を上回る水準だった。
市場が本当に問題視したのは、この一過性の費用ではない。同社が示した、未来に向けたコスト、すなわちAIインフラへの設備投資(Capex)計画である。
- 2025年の設備投資見通し: 従来の660億〜720億ドルの範囲から、下限を引き上げ700億〜720億ドルへと修正。
- 2026年の投資計画: さらにCFOのSusan Li氏は、2026年の設備投資は2025年と比べて「著しく大きく」なると明言。具体的な数字は示されなかったものの、青天井ともとれる投資拡大を示唆した。
この発表は、MetaがAI開発競争でアクセルを緩めるどころか、さらに踏み込むという明確な意思表示に他ならない。好調な広告収入で得た利益を、収益化の道筋がまだ不透明なAI分野に、これまで以上の規模で注ぎ込む。この戦略に対し、株式市場は「ノン」という厳しい審判を下したのである。Metaの株価は発表翌日に11%以上も下落し、2022年10月以来、最大の一日下落率を記録した。
Mark Zuckerberg氏が描く壮大なビジョンと「AOLの轍」
市場の動揺をよそに、CEOのMark Zuckerberg氏は強気の姿勢を崩していない。彼はこの巨額投資を、次世代の技術覇権を握るための必要不可欠な先行投資だと位置づけている。彼の主張の核心は「スーパーインテリジェンスへの備え」である。
「スーパーインテリジェンス(人間を遥かに超える知能)がいつ到来するか、専門家の間でも意見は分かれている。数年後という意見もあれば、5年、7年、あるいはそれ以上かかるとも言われている」とZuckerberg氏は語る。 「最も楽観的なケースに備え、積極的に計算能力を先行確保しておくことが正しい戦略だと考えている。そうすれば、もしスーパーインテリジェンスが予想より早く到来した場合、我々はこの世代的なパラダイムシフトにおいて理想的なポジションを確保できるだろう」
つまり、Zuckerberg氏の戦略は「too little, too late(少なすぎて、遅すぎる)」という最悪の事態を避けるためなら、「too much, too soon(多すぎて、早すぎる)」というリスクを許容するというものだ。
さらに彼は、仮にスーパーインテリジェンスの実現が遅れたとしても、確保した膨大な計算能力は無駄にはならないと主張する。 その計算資源は、Metaのコアビジネスである広告やコンテンツの推薦アルゴリズムの精度向上に「有益に(profitably)」活用できるという。そして、最悪のシナリオ、つまりAIの需要が想定通りに伸びなかった場合でも、「我々が構築したものに需要が追いつくまでの間、新しいインフラの建設を一時的に減速させればよい」と、ある種のセーフティネットが存在することも示唆した。
この戦略は、短期的な利益よりも、長期的な技術的優位性を確立することを最優先する姿勢の表れである。しかし、その投資の回収時期や具体的な道筋が明確でないことが、投資家の不安を煽る最大の要因となっている。Zacks Investment Managementのポートフォリオマネージャー、Brian Mulberry氏はThe Wall Street Journal紙に対し、「投資収益がいつバランスシートに戻ってくるのか、彼らはもっとうまく示す必要がある」と述べ、Metaの姿勢に疑問を呈している。
AIインフラを巡る「軍拡競争」の現実
Metaの巨額投資は、単独の動きではない。これは、巨大IT企業(メガテック)の間で激化する「AI軍拡競争」の最前線である。
- Alphabet (Google): 2025年の設備投資を910億〜930億ドルに引き上げる見通し。 2023年の322.5億ドルから、わずか2年で3倍近くに膨れ上がる計算だ。
- Microsoft: 直近の四半期における設備投資は349億ドルに達し、前四半期の240億ドルから急増。来年度はさらに成長率が高まると予測している。
各社が競って確保しようとしているのは、AIモデルの開発と運用に不可欠な計算能力(コンピュート)である。そのために、自前のデータセンター建設と並行して、あらゆる手段を講じている。
Metaの戦略はまさに全方位型だ。ルイジアナ州で計画中のギガワット級の「Hyperion」データセンターキャンパス建設においては、投資会社のBlue Owl Capitalと270億ドルのジョイントベンチャー(JV)を設立。Metaの出資比率を20%に抑えることで、建設コストの大部分が自社の設備投資に直接計上されるのを回避するという巧みな財務戦略をとっている。
同時に、サードパーティのクラウド事業者との契約も驚異的な規模で進めている。
- Google Cloud: 100億ドル以上のクラウド契約
- CoreWeave: 142億ドルのAIインフラ契約
- Oracle: 200億ドル規模の契約交渉中
これらの投資を支えるため、Metaは300億ドルもの社債発行も計画している。 一部の債券の満期は40年後の2065年に設定されており、このAIへの賭けがいかに長期的かつ巨大なものであるかを物語っている。
拭えぬ「AIバブル」への懸念と内部の矛盾
しかし、この壮大なビジョンと投資計画に対し、市場の懸念は根強い。Zacks Investment Managementのポートフォリオマネージャー、Brian Mulberry氏は「投資された資本に対するリターン(ROI)が我々にとって極めて重要な指標だ。彼らがその点について少し口ごもっている事実は、我々の不安を和らげる助けにはならない」と語る。 投資家が求めているのは、壮大なビジョンだけでなく、それがいつ、どのようにして収益に結びつくのかという具体的な道筋なのである。
さらに、Metaの内部からは一見矛盾した動きも伝わってくる。同社は今年、AIスタートアップのScale AIに143億ドルを投じ、そのCEOだったAlexandr Wang氏をトップ人材として引き抜くなど、人材獲得にも巨額を費やしてきた。 その一方で、直近ではAIチームから約600人の従業員を解雇している。 この動きは、AI戦略の効率化や再編成の一環と説明されているが、急激な投資拡大の裏で組織的な混乱や戦略の揺らぎが生じている可能性も示唆している。
未来の覇権を賭けた壮大な実験
Metaの株価急落は、単なる一企業の決算ニュースではない。これは、テクノロジー業界全体を覆うAIという巨大なパラダイムシフトの渦中で、未来の不確実性と現在の収益性の間で市場がいかに揺れ動いているかを示す象徴的な出来事である。
Mark Zuckerberg氏の賭けは、歴史的な英断となるか、あるいはAOLとは別の形の「時代の敗者」を生み出す狂気となるのか。その答えは、AI技術そのものの進化速度と、Metaがその上で真に価値のある製品やサービスを生み出し、収益化できるかにかかっている。
確かなことは、我々が今目の当たりにしているのは、次世代のデジタル世界の覇権を巡る壮大な実験であるということだ。その結果は、Meta一社の運命だけでなく、我々の生活や社会のあり方をも大きく左右することになるだろう。
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