世界最大のソフトウェア企業、Microsoftが2026年1月28日に発表した2026会計年度第2四半期(2025年10月-12月期)決算は、表面的な数字の好調さと、市場が抱く期待値のズレを鮮明に映し出す内容となった。

売上高と利益はウォール街の予想を上回った。クラウド事業も底堅い成長を見せた。しかし、決算発表後の時間外取引で株価は一時6%以上下落した。なぜ「好決算」にもかかわらず株価は沈んだのか。その答えは、AIインフラへの巨額投資と、投資家が求める「完璧な成長ストーリー」との間に生じたギャップにある。

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コンセンサスを上回る増収増益、しかし市場は満足せず

まず、決算の主要な数字(ヘッドライン)を確認する。ここには一切の曖昧さはない。Microsoftは確実に成長している。

  • 売上高: 812億7000万ドル(前年同期比17%増)。市場予想の約803億ドルをクリア。
  • 調整後EPS(1株当たり利益): 4.14ドル(前年同期比24%増)。これもFactSetなどがまとめた市場予想の3.91〜3.97ドル近辺を上回った。
  • 純利益(GAAPベース): 385億ドル(前年同期比60%増)。

この数字だけを見れば、文句のつけようがない好決算である。Satya Nadella CEOは声明で「我々はAI普及の初期段階にいるに過ぎない」と述べ、すでに同社のAIビジネスが主要フランチャイズのいくつかを上回る規模に成長していることを強調した。

だが、株式市場の反応は冷ややかだった。投資家たちの視線は、過去の実績ではなく「成長の減速懸念」と「膨張するコスト」に注がれていたからだ。

アキレス腱となった「Azure」と「供給制約」

投資家が最も注目していた指標、それはクラウドプラットフォーム「Azure」の成長率である。

今回の決算で、Azureおよびその他のクラウドサービスの売上高成長率は39%(恒常通貨ベースで38%)を記録した。これはコンセンサス予想(38%〜39%)と合致、あるいはわずかに上回る水準である。しかし、株価を押し上げるには不十分だった。市場は、AIブームを牽引するMicrosoftに対して、予想を「大きく」上回るサプライズを期待していたからだ。

需要はある、モノがない

ここで重要なのが、成長率の鈍化要因だ。CFOのAmy Hood氏は、かねてより指摘されていた「AI容量の制約(Capacity Constraints)」が依然として続いていることを示唆している。

顧客からのAI需要は爆発的である。しかし、それに応えるためのデータセンターやGPU(画像処理半導体)、そして電力インフラの供給が追いついていない。つまり、Microsoftは「売るものがあればもっと売れていた」状態にある。この供給ボトルネックが解消されない限り、Azureの成長率は人工的な天井(Artificial Cap)に抑え込まれることになる。

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375億ドルの設備投資:リスクか、覇権への布石か

今回の決算で最も衝撃を与えた数字の一つが、設備投資額(Capital Expenditures)だ。

第2四半期の設備投資額(ファイナンスリース含む)は375億ドルに達した。これは前年同期(2025年度Q2)の226億ドルから約66%という驚異的な急増であり、アナリスト予想の343億ドルも大きく上回っている。

この数字の意味するところは明白だ。Microsoftは、GoogleやAmazonとのAIインフラ競争に勝つために、なりふり構わずキャッシュを投入している。

  • データセンターの建設: 世界各地での物理的なハコモノ建設。
  • チップ調達: NVIDIA製GPUの大量購入に加え、自社製AIチップへの投資。
  • サードパーティへの依存: CoreWeaveやNebiusといった外部プロバイダーからの計算リソース調達。

投資家心理としては、「これだけの巨額投資を行っているのだから、それに見合うリターン(Azure成長率の再加速)を早く見せてくれ」という焦燥感が募る。Nadella CEOの「長期的な賭け」と、四半期ごとの成果を求める市場のタイムラインには、明らかな摩擦が生じている。

OpenAIとの複雑な関係と「会計上のマジック」

今回の決算書(PDF資料)を読み解く上で、極めて注意深く見るべき項目がある。それはGAAPベースの純利益が60%増(385億ドル)と異常に跳ね上がっている点だ。

これは本業の儲けが急増したからではない。OpenAIへの投資に関連する会計上の調整が主因である。

持分変動利益の計上

PDF資料の「Non-GAAP Definition」セクションに記載がある通り、OpenAIが非営利法人から営利法人(またはそれに準ずる構造)への再編・資金調達を行ったことに伴い、Microsoftの持分比率が変動し、結果として希薄化益(Dilution Gain)が発生した。

  • 影響額: 純利益で76億ドル、EPSで1.02ドルの押し上げ効果。

この一時的な利益を除外した「調整後EPS(Non-GAAP)」こそが実力を示す4.14ドルであり、投資家はこちらを評価基準としている。OpenAI関連の数字は、Microsoftの財務諸表を複雑にしており、見かけ上の利益とキャッシュフローの実態を切り分けて考えるリテラシーが求められる。

6,250億ドルの受注残、その半分はOpenAI

もう一つの驚くべきデータは、RPO(残存履行義務=将来の売上となる受注残)が前年同期比110%増の6,250億ドルに達したことだ。しかし、この内訳を見ると、約45%がOpenAIからのコミットメントである。

これは「共依存」の構造を浮き彫りにする。Microsoftの将来の売上の大部分が、OpenAIという一社の成功に紐付いている。OpenAIがOracleなど他社クラウドも併用し始めている現状において、この巨大なバックログが計画通りすべて収益化されるかは、AIモデルの収益性議論とセットで監視する必要がある。

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3つの事業セグメント詳細分析

全体像だけでなく、各事業セグメントの動きも明暗が分かれている。

1. Intelligent Cloud(Azure等)

  • 売上: 329億ドル(前年比29%増)。
  • 状況: 本稿で前述した通り、AI需要が牽引するも供給制約が重石。サーバー製品やハイブリッドクラウドの需要は底堅い。

2. Productivity and Business Processes(Office等)

  • 売上: 341億ドル(前年比16%増)。
  • 状況: ここは「ドル箱」として盤石だ。企業向け「Microsoft 365」の売上は17%増。「Copilot for Microsoft 365」の導入が企業のARPU(ユーザー平均単価)を押し上げている。AIを既存製品に組み込み、単価を上げる戦略は順調に機能していると言える。

3. More Personal Computing(Windows/Xbox等)

  • 売上: 143億ドル(前年比3%減)。唯一の減収セグメント。
  • Windows: OEM売上は1%増。2025年10月にサポート終了を迎えたWindows 10からの買い替え需要が一部で見られるものの、中国市場の停滞などが響いている可能性がある。
  • Xbox: ハードウェア売上が32%減と壊滅的だ。コンテンツ・サービス収入も5%減。Activision Blizzard買収効果が一巡し、ゲーム事業は構造的な転換点(コンソールからクラウド/サブスクリプションへ)での苦しみが続いている。

Microsoftの賭けは果たして

今回のMicrosoftの決算は、IT業界全体に対する「警鐘」と「希望」の両方を含んでいる。

希望: AIによる収益化は本物である。Office製品へのCopilot統合やAzure AIの需要は、ハイプ(一時的な熱狂)ではなく実需として企業のP/Lに貢献し始めている。売上高810億ドル規模の企業が17%成長を続けること自体、驚異的だ。

警鐘: AIインフラの構築コストは、かつてない規模に膨れ上がっている。375億ドルという四半期設備投資は、一企業の枠を超え、国家予算レベルの資本投下競争に突入したことを意味する。

市場が株価を下落させたのは、Microsoftの「失敗」を咎めたわけではない。「次の成長フェーズ」への移行コストがあまりに高く、かつ供給制約によってトップライン(売上)の爆発的成長がお預けになっていることへの苛立ちの表れである。

Nadella CEOは、AIの「拡散(Diffusion)」は始まったばかりだと語る。今後数四半期、Microsoftは「供給能力の確保」と「投資対効果の証明」という2つのプレッシャーと戦うことになる。GoogleやAmazonとの競争が激化する中、単にAIモデルを提供するだけでなく、それを顧客の具体的なビジネス価値にどう転換させるか。実行力が問われるのはこれからだ。


Sources