Microsoftが、英国エセックス州ラウトンでNscaleと進めていたAIデータセンターの利用契約から離脱したと、英Telegraphが10月18日に報じた。2025年の発表では、NVIDIAのGPUを23,040基導入し、2027年1〜3月に引き渡す計画だった。ところが同紙によると、電力網への接続は2030年代まで見込めないという。Microsoftが離脱した具体的な理由は明らかにされていないものの、英国最大のAIスーパーコンピューターをうたった計画は、主要顧客を確保したまま電力接続を待つという前提が崩れつつある。
2027年のGPU計画に対し、電力接続は2030年代
NscaleとMicrosoftが2025年9月16日に発表したのは、ラウトンのAI拠点をAzureの英国向けサービスに利用する計画である。発表時のAI容量は当初50MWで、将来的には90MWまで拡張可能とされ、初期構成にはGB300 GPUを導入する予定だった。GPUの引き渡し時期と、電力網から必要な供給を受けられる時期が数年単位でずれれば、顧客が利用できる計算能力を予定通り提供するのは難しくなる。
ただし、電力接続の遅れとMicrosoftの離脱に因果関係があると確認されたわけではない。Reutersは、Telegraphが離脱理由を特定しておらず、Microsoftもコメントを拒否したと伝えている。電力問題は計画を取り巻く具体的な背景ではあるものの、契約の解除条件や両社がどのような判断を下したのかまでは明らかになっていない。
NscaleはReutersに対し、ラウトンを含む英国での事業を継続し、代替電源や英国の別の拡張候補地を検討していると説明した。Microsoftとの関係は長期的に続いており、ロンドン地域の電力網をめぐる問題が他の契約に影響することもないとしている。このため、主要顧客の離脱報道を、Nscaleによるラウトン拠点そのものの中止と読み替えることはできない。
Nscaleは施設紹介で、ラウトン拠点の特徴としてロンドン金融街への光回線、高密度GPUへの対応、直接液冷を挙げている。通信回線や冷却設備は大規模なAI処理を支える重要な要素だが、それらの設計が整っていても、必要な電力を確保できなければ施設を稼働させることはできない。また、最大90MWまで拡張可能という記載も、現時点でその規模の電力を利用できることを意味するものではない。
最大58,640基のうち、今回の対象は23,040基
Nscaleが2025年9月に掲げた最大58,640基という数字は、ラウトン向け23,040基、Stargate UK向け最大31,000基、NVIDIA DGX Cloud向け4,600基を合計した英国全体の計画である。当時の発表を見ると、それぞれ拠点や利用企業だけでなく、計画の確度も異なっていた。
| 2025年9月発表の枠組み | GPU台数 | 発表時の位置づけ |
|---|---|---|
| Microsoft向けラウトン拠点 | 23,040基 | Azure向け。2027年1〜3月にGPUを引き渡す計画 |
| OpenAI・NVIDIAとのStargate UK | 将来最大31,000基 | 複数の英国拠点を想定。初期最大8,000基の利用をOpenAIが検討 |
| NVIDIA DGX Cloudとの連携 | 4,600基 | 英国のAI開発者向けに導入する計画 |
3枠の最大数を合計すると、23,040+31,000+4,600=58,640基となる。ただし、Stargate UKの31,000基は将来的な拡大可能性を示した数字であり、表に並ぶすべての計画が同じ確度の確定契約だったわけではない。いずれも発表時点の将来計画であり、実際に設置・稼働したことが確認されたGPUの台数ではない。
今回報じられたのは、このうちMicrosoftが利用する予定だったラウトン拠点の契約である。英国全体のGPU計画が一括して消えたわけでも、残る35,600基分がそのまま実現すると確認されたわけでもない。特にOpenAIが関わる別計画とMicrosoftの契約を混同すると、どの企業がどの施設の計算資源を利用する予定なのかが分かりにくくなる。
300億ドルの英国投資とは分けて考える必要がある
Microsoftは2026年6月の英国向け公式記事でも、Nscaleと整備するラウトンのスーパーコンピューターに言及していた。前年の発表に名前が載っただけではなく、2026年の英国事業を説明する中でも位置づけられていた計画である。
一方、同記事で説明された英国全体への300億ドルの投資は、クラウド・AIインフラへの150億ドルと、従業員や技能育成などを含む運用費150億ドルで構成される。設備投資の対象としても、ラウトンだけでなくロンドン西部Actonやウェールズ南部Newportのデータセンターが挙げられていた。このため、ラウトンの個別契約と、設備・運用を合わせた英国全体の投資額では集計範囲が異なる。
今回の報道から300億ドルのうち、どれだけが撤回されたのかを算出することはできない。ラウトンに割り当てられていた投資額や、契約解除に伴う費用負担も明らかにされていない。それでも、英国のAIインフラ投資を象徴する拠点の一つが主要顧客を失ったとすれば、計画への影響は小さくない。投資総額が大きくても、実際にいつ稼働し、どの顧客へ計算能力を提供できるかは拠点ごとに異なり、ラウトンではその実行段階で問題が表面化している。
接続待ち73GWは、実際に稼働する電力需要ではない
英国のエネルギー規制当局Ofgemが2026年7月に公表した改革案の資料によると、需要側に提示された接続契約の総量は、2024年11月の41GWから2025年6月には125GWへ急増した。データセンターに限ると、約315件で計約73GWの接続容量があるという。
ただし、125GWは産業施設なども含む需要側全体の数字で、73GWはデータセンターとして接続を申請・計画している案件を集計した値である。現在稼働中のデータセンターが73GWを消費しているわけでも、すべての計画が実現することを前提とした需要予測でもない。発電設備の容量と単純に比較し、「英国では73GW分の電力が不足している」と結論づけることもできない。
Ofgemは、計画許可や資金を確保できず、実際には接続まで進まない案件が接続待ちの列に残ることで、実行可能性の高い案件まで遅らせるおそれがあると指摘している。実現しない計画まで積み上がれば、どの地域にどれだけ送配電網を整備する必要があるのかという判断も難しくなる。一方で、送配電網や発電設備そのものの建設に時間がかかるため、十分に準備された案件であっても接続まで長期間待たされる問題がある。
つまり、接続待ちの列から実現性の低い案件を取り除くことと、実際に施設まで十分な電力を届けられるようにすることは別の課題である。資金やGPUを確保したとの発表だけでは、そのどちらを、どの程度まで解決できているのかは判断できない。
電力が先か、顧客契約が先か
Ofgemの改革案では、データセンター開発会社に対し、計算資源を実際に利用する企業がいることや、納期の長い電気設備を調達したことなどを、開発の進捗に応じて証明する仕組みが提案されている。第三者への貸し出しや売却を予定する施設については、初期段階の拘束力を持たない合意から、開発が進むにつれて法的拘束力のある利用契約へ移行させる方針である。
しかし、顧客との契約を求めるだけでは問題は解決しない。Ofgemは資料の6.31節で、利用契約を成立させられるかどうか自体が、電力接続の確実性に左右されるという循環的な問題への懸念を示している。顧客は「いつ計算資源を使えるのか」を知った上で契約したい一方、電力網側は、その需要を実際に利用する顧客が存在するのかを確認したい。片方の確約を得るために、もう片方の確約が必要になる構造だ。
ラウトンをめぐる今回の報道は、この相互依存がデータセンター事業でどのような問題につながり得るかを示している。電力接続の見通しが遠のいている間も、顧客が同じ場所で計算資源を利用する計画を維持する保証はない。顧客が離れれば、開発会社は電源の確保だけでなく、その拠点の計算資源を購入する企業も改めて探す必要が生じる。
ただし、Ofgemの改革案をラウトンに対する処分と解釈すべきではない。意見募集のページは10月19日時点で「募集終了・決定待ち」と表示されている。ラウトンが投機的な案件と認定されたことや、Microsoftの離脱によって接続枠を失ったことを示す情報もない。
Nscaleが検討している代替電源を、必要な容量と供給時期を伴う具体的な計画へ落とし込み、その日程を前提として新たな利用企業と契約できるかが今後の焦点となる。電力と顧客の両方を確保して初めて、ラウトンの計画は英国へのAI投資を、実際に顧客が利用できる計算能力へ変えられる。



