カナダのMoment Energyは2026年6月23日、ブリティッシュコロンビア州バンクーバーで「Megafactory 1」を正式に開設した。同社はこの施設を世界最大のEV電池再利用施設と位置づけており、5月13日の建設発表から6週間で稼働にこぎ着けた。ここで扱われるのは新しいセルの製造ではない。自動車での役目を終えたEV電池を受け入れ、検査し、定置用の蓄電システムとして組み直す工程である。
この発表で見るべきなのは、再利用という発想そのものではなく、Moment Energyがそれを製造能力として語り始めた点だ。退役EV電池は、車載用途では航続距離や急速充電性能の要求を満たしにくくなっても、定置用蓄電ではまだ使える容量を残している場合がある。問題は、その電池を安全に選別し、顧客が導入できる形にそろえ、データセンター、病院、工場、マイクログリッドのような止められない設備へ納入できるかにある。
Moment EnergyはMegafactory 1について、2030年までに1GWh分の電池エネルギー貯蔵システムを生産する計画を示した。あわせて、ブリティッシュコロンビアで100人超の直接雇用と1,000人超の間接雇用を支えるとしている。工場の規模だけでなく、北米で既に走っているEV電池を地域内に残し、電力インフラ向けの蓄電池へ変えるという供給網の組み方が焦点になる。
6週間で稼働した施設は、再利用を継続生産へ近づける
Moment Energyが5月に発表した計画では、バンクーバーの新施設は電池の受け入れ、試験、統合、出荷までを一つの流れで扱う。6月の開設発表で、この施設は計画段階から稼働段階へ移った。再利用ビジネスでは、この移行が大きい。使用済み電池を少数の実証に使うだけなら、個別対応でも成立する。だが、商業施設や産業施設へ継続的に納めるには、電池ごとの状態差を工程の中で吸収しなければならない。
退役EV電池は新品セルのように履歴がそろっていない。車種、充放電回数、温度環境、保管状態、事故歴、ソフトウェアの制御方法が違う。見た目が似たパックでも、残容量や内部抵抗、熱挙動は異なる。Moment Energyが工場を垂直統合型と説明する理由はここにある。電池を集めた後、受け入れ時の検査からシステム化までを同じ工程で結び、出荷できる品番へ落とし込む必要がある。
同社が掲げる用途も、家庭用の小型バックアップではなく、データセンター、病院、工場、マイクログリッドなどの商用・産業用が中心だ。これらの顧客は価格だけでは採用を決められない。停電時のバックアップ、ピーク需要の抑制、再生可能エネルギーの平準化を担う設備では、発火リスク、保守体制、保証、地域の許認可が導入判断に入る。1GWhという目標は容量の数字であると同時に、ばらつきのある電池を同じ品質で出荷し続けられるかを問う数字でもある。
安全認証は、二次利用電池を商用設備へ入れるための前提になる
Moment Energyが今回の工場と並べて強調しているのが、安全認証である。同社は5月19日、再利用EV電池向けに設計したバッテリーマネジメントシステムが、IntertekによりUL 1973の認定コンポーネントとしてリストされ、UL 60730-1 Annex HとUL 5500のハードウェアおよびソフトウェア要件を満たしたと発表した。さらに、同社の説明ではUL 1974、UL 1973、UL 9540を含む安全枠組みに沿って二次利用の蓄電池を展開している。
UL 1974は電池を再利用する際の評価に関わる規格で、第2版は2023年11月10日に発行され、ANSIとSCCの承認を受けたアクティブな規格として掲載されている。再利用電池では、どのパックを使えると判断するか、どの範囲で再構成するか、どの検査を通すかが商用化の中心になる。規格や第三者認証は、顧客、保険会社、自治体、電気工事側が同じ前提で判断するための土台になる。
Moment Energyのホームページでは、同社のLuna BESSがUL 1973、UL 9540、UL 9540Aの認証を取得した初の再利用電池システムだと説明されている。同社はまた、商用・産業用途で10年以上の運用を設計し、使い方によっては定置用でさらに10から15年の有用寿命を引き出せるとしている。これらは同社の主張として扱うべき数字だが、二次利用電池が「安い中古電池」ではなく、管理された電力設備として売られようとしていることを示している。
退役EV電池は増えるが、そのまま蓄電池になるわけではない
退役EV電池の量は、これから急増する。iScienceに掲載された二次利用EV電池のレビュー論文は、退役EV電池が初期容量の70から80%を保持すると見込まれるため、車載より要求が緩い蓄電用途に回せる可能性があると整理している。同レビューは、2030年に100万個、2040年に190万個のEV電池パックが退役するという推計や、2030年に100から120GWh相当のEV電池が退役するというIEAの推計も引いている。
ただし、電池が残容量を持つことと、電力インフラに使えることは同じではない。同レビューは、二次利用の経済性が電力価格、電池価格、電池性能に大きく左右され、炭素面の利点も充電に使う電源構成に依存すると指摘している。さらに、化学的・電気的な特性、残存健康状態、新品電池価格の低下、用途ごとの運用条件が普及の課題になると整理している。Moment Energyの工場は、この課題を診断、選別、制御、認証の工程として処理しようとするものだ。
リサイクルとの関係でも、この点は重要になる。Moment Energyは退役EV電池を再利用してからリサイクルへ回すと説明しており、二次利用は材料回収の前に電池をもう一度電力設備として使う考え方だ。状態が良く、定置用で採算が合うパックをどこまで蓄電池へ回せるか。その分岐を工業的に判定できるかが、再利用施設の価値を決める。
蓄電池需要の伸びが、再利用電池の受け皿を広げている
需要側の環境も変わっている。米Energy Information Administrationは2024年1月、米国の事業用蓄電池容量が2023年末時点で計画中を含め約16GWに達し、開発者の計画通りに進めば2024年末に30GW超へ増える可能性があるとした。カリフォルニア州とテキサス州で風力・太陽光の導入が進み、低需要時の余剰電力を蓄え、高需要時に放電する設備として蓄電池が増えている。
Moment Energyが対象に挙げるデータセンターや工場は、この流れに別の需要を足している。同社は電力需要の増加要因としてAI、データセンター、電化、送電網の近代化を挙げ、退役EV電池を使った蓄電システムを重要インフラ向けの選択肢として売り込んでいる。定置用蓄電池は、停電対策、ピークカット、再生可能エネルギーとの組み合わせ、マイクログリッド構築に使われる。新品電池だけでこの需要を満たす場合、セル供給、価格、建設期間、地域調達の条件が制約になる。
Moment EnergyのSeries B発表は、この需要を前提にしている。同社は2026年5月、4,000万ドルのSeries Bを調達し、累計調達額が1億ドル超になったと発表した。資金はテキサス州のGigafactoryとブリティッシュコロンビア州の施設拡張に向けられる。同社はパック交換型アーキテクチャによりシステム寿命を30年へ伸ばせる、最大164MWh/acreの高密度配置が可能だとも説明している。これらの性能・コスト主張は実導入で検証されるが、同社が競争軸を「中古電池の安さ」だけでなく、設置面積、認証、地域供給へ広げようとしていることは明確だ。
次の焦点は、初期稼働から継続出荷へ移れるかだ
Megafactory 1の開設で、Moment Energyは「建設する」と言っていた施設を「稼働した」施設へ進めた。今後見るべきなのは、実際の年間出荷量、電池調達の安定性、顧客側の採用ペース、認証済みシステムとしての保守実績である。2030年までに1GWhという目標は、退役電池の供給が増える時期と蓄電池需要の増加が重なることを前提にした数字であり、現在の初期稼働能力そのものを示すものではない。
二次利用電池の市場は、電池価格の下落にも影響を受ける。新品蓄電池が安くなれば、再利用品は価格だけで優位を保ちにくい。そこで必要になるのは、調達の速さ、地域内供給、認証、短い設置期間、既存資源の有効活用といった複数の利点を、顧客が測れる形で示すことだ。退役EV電池が電力インフラの部品として広く使われるかどうかは、これから出てくる稼働実績と顧客導入の数字で判断される。