米Niron Magneticsが、ミネソタ州サーテルで建設中の希土類フリー永久磁石工場に最初のコンクリートを打設した。工場は2027年の稼働を予定し、窒化鉄磁石を年最大1500トン生産する計画である。2025年9月の起工から、構造物を作る工程へ進んだ。鉄と窒素を原料にする新材料が、研究室とパイロット工場を離れて本格量産へ移れるかを測る段階に入った。
28.7万平方フィートの工場で最初のコンクリート
Nironが2026年夏に公表した工場面積は28.7万平方フィート(28万7000平方フィート)である。原料の処理から完成磁石までを同じ施設に収め、2027年に稼働し、年間で最大1500トンを生産する計画だ。同社が使う「最大」という表現は生産能力の目標を指す。2027年の出荷量や設備稼働率が1500トンに達すると約束したものではない。
工場の計画は以前から動いていた。Nironは2025年9月に起工し、同年11月の発表では第1期施設を19万平方フィートとしていた。今回の28万7000平方フィートとの関係について、同社は公開情報で説明していない。建設範囲が広がったのか、付帯部分を含む数え方へ変えたのかは確定できない。したがって、面積の増加をそのまま生産能力の上積みとはみなせない。
それでも、コンクリート打設は土地取得や資金調達とは性質が違う。建設作業が構造物へ及んだことを示すからだ。Nironは現在、ミネアポリスの商用パイロット工場で磁石を製造し、顧客向けサンプルを供給している。サーテル工場は、その工程を年1500トン規模で繰り返せるかを試す最初の本格拠点になる。
供給網は採掘58%から製造92%へ集中する
米エネルギー省(DOE)の供給網評価では、2020年に中国が占めた割合は希土類採掘で58%、磁石製造で92%だった。米国の磁石製造シェアは1%未満である。供給リスクは鉱山の所在地に限らない。分離・精製を経て合金と磁石を作る下流ほど、集中が強まっている。
Nironは希土類を鉄と窒素に置き換え、この下流工程を短くしようとしている。同社の議会証言によると、鉄鉱石と大気中の窒素から永久磁石までを一つの統合工場で作る構想である。ネオジムやジスプロシウムを国内で採掘して同じ供給網を再現する方法と比べ、希土類の分離と金属精製を経由しない。サーテル工場の意味は、磁石工場を米国内に置くことより、原料から完成品までの経路を短くできる点にある。
ただし、原料が豊富でも量産が自動的に容易になるわけではない。年産1500トンへの移行では、パイロット工場で固めた製造条件を大幅に高い処理量で再現する必要がある。生産量と同時に歩留まり、ロット間の性能差、加工コストが顧客の判断材料になる。
年産1500トンと次の1万トン計画
Nironは2025年の議会証言で、米国産業が年間約5万トンの希土類永久磁石を消費していると説明した。この会社提示の数字を分母にすると、サーテルの年産1500トンは3%に当たる。しかも、すべての用途で窒化鉄を既存磁石と置き換えられるとは確認されていない。3%は工場能力と需要を比べた規模感であり、獲得可能な市場シェアではない。
量産移行には公的支援も入った。DOE傘下のARPA-Eは、商用サンプル向けパイロット生産に1999万9372ドルを割り当てた。サーテル工場には連邦政府の先端エネルギー事業向け税額控除5220万ドルが認定され、ミネソタ州も1000万ドルを助成している。税額控除と助成金は性質が異なる。ただ、研究開発から工場建設まで、政策資金が量産リスクの一部を支えてきた点は共通する。
DOEは別枠で、窒化鉄を使う可変磁束モーターの設計・試作・試験に269万9810ドルを選定した。Nironはイリノイ工科大学、オークリッジ国立研究所と組み、走行サイクル全体の効率を2%高める目標を掲げる。ただし、DOEも成果を「成功した場合」の目標として記している。磁石を量産できても、モーター設計と制御を含むシステムで利点を証明する工程が残る。
さらにNironは、年最大1万トンを生産する第2工場の候補地を米国内で探している。2026年3月に示した構想は160万平方フィートで、設備投資は最大18億ドル、雇用は700人超を見込む。建設開始の想定は2028年初めだが、現在は候補地選定の段階にあり、確定した生産能力ではない。まずサーテルで品質と採算を示せるかが、第2工場への橋になる。
スピーカー採用後、どの性能を検証するのか
窒化鉄磁石はすでに製品へ入り始めた。YG Acousticsは2026年6月、Niron製磁石を使うスピーカー「Carmel 3」をウィーンのオーディオ展示会で披露した。製品名まで明らかな採用例は、サンプル評価から一歩進んだ証拠になる。一方、スピーカーでの採用は、高温にさらされる駆動モーターや防衛機器で同じ性能が認定されたことを意味しない。
永久磁石は磁束密度が高ければ完成する材料ではない。外部磁界や熱に対して磁力を保つ保磁力、利用可能な磁気エネルギー、温度ごとの減磁特性を用途別に満たす必要がある。DOEは、スピーカーが高温で動かないのに対し、車両の駆動モーターには高温でも磁力を失いにくい高保磁力グレードが必要だと説明する。同じ材料でも、製品ごとに合格条件は変わる。
2024年に公表された独立研究では、Nironとは別の製法で固めた窒化鉄磁石が飽和磁化1.07テスラ、保磁力0.20メガアンペア毎メートルを記録した。だが、試料の磁気特性はネオジム磁石に及ばないと結論づけている。この結果をNironの独自製品へ直接当てはめることはできない。ただ、粉末で得られる材料特性を、形のある量産磁石で維持する難しさは分かる。
Nironは議会証言で、第三者と顧客による試験が熱安定性や磁束密度を確認したと主張している。しかし、公開資料にはグレード別の減磁曲線や量産時の歩留まりが示されていない。設備の完成に加え、2027年の実生産量とロット品質、用途別データを伴う顧客認定を確認する必要がある。これらが揃えば、サーテルは希土類を使わない永久磁石を年1500トン規模の工業材料へ引き上げる最初の本格拠点となる。



