米エネルギー省(DOE)のオークリッジ国立研究所(ORNL)は2026年9月4日、高濃縮低濃縮ウラン(HALEU)を使用したTRISO燃料粒子の照射後機械的特性測定を完了したと発表した。TRISO燃料が照射後にどう変質するかを粒子の個別層レベルで定量化するデータは、先進ガス炉(AGR)燃料開発・資格認定プログラムが積み上げてきた多段階測定の中でも、炉設計モデルに直接入力できる性格のものだ。

今年前半の中性子散乱測定(照射前粒子の化学分析)に続く今回の取り組みは、照射後の構造変化を定量化した点で前半の測定と意味が異なる。燃料粒子が製造直後の仕様からどこまでずれるかを実際のデータで押さえないと、許容燃焼度の根拠が計算モデル内の仮定に依存したままになる。

AD

SiCとPyC層が照射で受ける変化

TRISO燃料粒子の構造は、内から外へ、UCOまたはUO2カーネル、バッファ層、内側熱分解炭素(IPyC)、炭化ケイ素(SiC)、外側熱分解炭素(OPyC)の五層から成る。直径約1mmのこの粒子が核燃料として特異な位置を占めるのは、被覆層が高温ガス炉(HTGR)の事故条件下でも核分裂生成物をほぼ閉じ込める耐性を持つためだ。

ただし、耐性は初期製造時の仕様が保たれることを前提にする。炉内照射では中性子束によって材料に格子欠陥が生じる。SiCでは核変換でシリコンがアルミニウムやリンへ変わる過程がバルク特性に影響し、熱分解炭素は製造時の堆積条件(等方性の度合い)によって照射時の収縮・膨潤挙動が異なる。SiC層の弾性率と硬度が変化すれば、核分裂生成物の閉じ込め性能に寄与する力学的バリアとしての機能が製造時とは異なる状態で働くことになる。照射前後でこの差がどの程度かを実測することが、燃料性能モデルの信頼性を裏付ける前提となる。

ORNLが今回使用したのは、同研究所が放射性材料・核燃料専用に設けた計装押し込み試験システムだ。ORNLのナノメカニクス研究室で粒子のIPyC・OPyC・SiCの各層を個別に測定し、硬度と弾性率がどう変化したかを定量化した。結果として、SiC層の弾性率と硬度の低下、およびPyC層の特性変化が確認された。

ORNLのKatherine Montoya研究開発員(粒子燃料フォームグループ)は「これらの測定により、製造直後の状態と、異なる温度・燃焼度で照射された後の挙動を比較できる。核燃料性能モデルを改善し、ガス炉の普及を支援する」とコメントした。

今年2段階で積み上げた測定と、安全試験との接続

今回の機械的特性測定に先立ち、ORNLは2026年前半に別の計測を完了している。同研究所の核破砕中性子源(SNS)にある回折計を使い、直径1mmのパルス中性子ビームをHALEU含有TRISO粒子に照射した。目的は化学・相レベルの変化、具体的には、UCOカーネルがどれだけ酸素を吸収してCO2発生を抑えているかを把握することだった。被覆層の過圧・腐食を防ぐこのメカニズムが正常に機能しているかどうかは、核分裂生成物の閉じ込め性能に直接かかわる。

中性子散乱が燃料内部の化学的整合性を調べたのに対し、今回の計装押し込み試験は構造的整合性を調べる。二つの測定が組み合わさることで、照射後の粒子が「化学的に何が起きているか」と「機械的にどれだけ持ちこたえているか」を同時に把握できる。

AGRプログラム全体でも照射後検査(PIE)は進んでいる。AGR-2実験では工学規模のUCOおよびUO2 TRISO燃料のPIEが完了し、HTGR設計要件を超える核分裂生成物保持性能が確認された。AGR-5/6/7は、Idaho National Laboratory(INL)の先進試験炉(ATR)で360.9有効全出力日の照射を終えた後、現在もORNLでPIEと高温安全試験が続いている。1600℃での安全試験ではKr-85m(クリプトン)の有意な放出は検出されず、TRISO被覆の健全性が裏付けられた。1800℃の安全試験でも核分裂生成物保持挙動は過去のAGRキャンペーンと概ね整合していると報告されている。一方、Ag-110m(銀)の枯渇とEu(ユーロピウム)損失が1600℃で観測されており、SiCの銀透過という既知の課題を中心に性能モデルの精緻化が続く。

AGR-5/6/7のPIE結果が最終的に確定すれば、今回のような機械的特性データと突き合わせ、どの温度・燃焼度条件でどこが先に限界に近づくかという議論が具体化する。

AD

資格認定の先にある2つのハードル:供給と規制

ORNLが積み上げるデータは燃料資格認定の科学的根拠を形成するが、実用化には量産体制と規制承認という別の関門がある。

製造側では、2026年が商業供給体制の元年となった。X-energyの子会社TRISO-Xは2026年2月、NRC(米国核規制委員会)からテネシー州オークリッジのTX-1施設に対する40年間の特殊核物質(SNM)ライセンスを取得した。HALEUを使用するカテゴリII燃料製造施設への初のNRCライセンスで、2026年8月時点では施設内装工事とプロセス設備の設置フェーズに移行している。TX-1が計画通りに立ち上がれば、年間約70万個のTRISOペレット(ウラン5メトリックトン相当)を生産でき、X-energyのXe-100小型モジュール炉(SMR)最大11基分の燃料を供給できる規模となる。

一方、Framatomeはワシントン州リッチランドの施設で2026年7月にNRCのライセンス修正を承認された。認可された濃縮度上限は従来の6.5%未満から10%未満へ引き上げられ、TRISO燃料製造も許可された(SNM-1227)。商業製造の開始は2027年を予定している。将来的には20%HALEUへのさらなる修正も視野に入れており、必要な設備設計は完了しているとFramatomeは述べている。

供給体制の整備とデータ蓄積は並行して進んでいるが、タイミングはずれている。TX-1の本格稼働時期がまだ確定していない中、ORNLが測定データを積み上げても、それを組み込んだ性能モデルが実際の製造仕様に結びつくまでには開発・認定のサイクルが必要だ。AGR-5/6/7の最終PIE結果の公開と、それがTRISO燃料の商業仕様確定プロセスとどう接続されるかが、商業展開速度を決める実質的な確認点となる。