製鉄原料として鉄鉱石を評価するうえで、重要な指標の一つが鉄分の含有率、いわゆるFe品位だ。高炉で使う塊鉱やペレットの原料には、鉄分が60%以上、できれば65%近い品位が望まれる。低品位の鉱石には脈石(主にシリカやアルミナ)が多く含まれ、製鉄工程で大量のスラグが生じて熱効率を下げるためだ。しかし、天然の鉄鉱石が初めから十分に高い品位を持つとは限らない。
中国遼寧省鞍山市で、大規模な選鉱プラントが本格稼働した。中国科学院過程工学研究所(IPE)の2026年9月1日の発表によると、選別が難しい鉄鉱石(難選性鉄鉱石)と、選鉱後に残る尾鉱(テーリング)を処理する流動層磁化焙焼プラントが、中国冶金鉱山企業協会の招集した専門家グループによる評価を通過した。プラントは2026年1月に生産を開始し、設計上の処理能力で安定運転を続けているという。
この施設が処理対象とするのは、鉄分が約11%しかなく、これまで廃棄されてきた超低品位の尾鉱だ。ここから鉄分約65%の高品位な鉄精鉱を得るという。公表された数値は目を引くが、その意味を理解するには、処理できる原料の量、化学反応の進み具合、製品として回収できる鉄の量を区別する必要がある。
| 指標 | 公表値 | 数値が表すもの |
|---|---|---|
| 中国の2025年の鉄鉱石輸入量 | 年間12億6,000万トン | 1年間に輸入した鉄鉱石の質量 |
| 中国の鉄鉱石の可採埋蔵量 | 金属鉄換算で69億トン | 地下に存在する埋蔵量。年間の生産量ではない |
| 鞍山プラントの原料処理能力 | 年間556万トン | 投入できる鉄鉱石や尾鉱の質量。鉄や精鉱の生産量ではない |
出典:中国税関統計に基づく報道(SteelOrbis)、USGS『Mineral Commodity Summaries 2025』、中国科学院の発表資料。
開発側は、年間556万トンという処理能力を、この種の単一施設として世界最大級と説明している。ただし、数量だけを比べれば、中国の2025年の鉄鉱石輸入量の約0.44%に相当するにすぎない。しかも、低品位の原料を処理する能力と、輸入される鉄鉱石の量は、そのまま置き換えられるものではない。この比率は輸入代替率ではなく、両者の規模感を示す参考値だ。
年間556万トンは「鉄の生産量」ではなく「原料の処理能力」
一部の紹介記事や見出しには、この施設が年間556万トンの鉄を廃棄物から生み出すかのような表現が見られる。しかし、その読み方は正しくない。公表された年間556万トン(約613万ショートトン)という数字は、難選性鉄鉱石や尾鉱をプラントに投入して処理できる量を指す。
施設は独立した3系列の生産ラインで構成され、各系列が年間約185万トン(約204万ショートトン)の原料を処理する。鞍鋼集団鉱業公司が進める、鉄鉱石の選鉱尾鉱を年間2,400万トン再処理する計画の第1期に当たる。
IPEとの技術ライセンス契約は2023年11月に締結された。2024年3月に主要工事に着手し、2025年9月に全工程を通した試運転を実施。2026年1月に生産へ移行した。今回の発表は、約8か月の操業実績を踏まえた専門家評価の結果を知らせるものだ。
この評価を実施したのは、中国冶金鉱山企業協会(Metallurgical Mines' Association of China)が招集した産業界の専門家である。技術は「国際的に先進的な水準にある」と評価されたが、業界団体による専門家評価と、学術論文の査読は異なる。今回の発表は、商業プラントの操業データを査読付き論文として報告したものではない。
また、今回の発表では、精鉱の年間生産量は明らかにされていない。仮に年間556万トンの原料すべての平均Fe品位が11%、得られる精鉱のFe品位が65%だとすると、原料に含まれる鉄は約61万トンとなる。鉄を100%回収できたとしても、精鉱は年間約94万トンが計算上の上限だ。
この計算は「556万トン × 11% ÷ 65%」によるもので、実際の生産量を示すわけではない。それでも、原料処理能力と鉄や精鉱の生産量が大きく異なることは分かる。
磁力で回収しにくい鉄鉱物を、焙焼で回収しやすくする
なぜ、鉱石を加熱して焙焼する必要があるのか。鍵になるのは、鉱物の磁性だ。
選鉱では、磁力を使って目的の鉱物を脈石から分離する磁力選鉱が広く用いられている。磁性の強い磁鉄鉱(マグネタイト、)は、この方法で回収しやすい。一方、難選性鉄鉱石や尾鉱では、鉄が磁性の弱い赤鉄鉱(ヘマタイト、)や褐鉄鉱(リモナイト、)に含まれることが多い。数十マイクロメートル以下の微粒子になると、水流から受ける力に対して磁力が弱く、通常の磁選機では回収しにくくなる。
磁化焙焼は、こうした磁性の弱い酸化鉄を還元性ガス中で部分的に還元し、磁性の強い磁鉄鉱へ変える処理だ。一酸化炭素や水素を使う場合、反応は次の式で表せる。
酸素の一部が取り除かれることで、三方晶系の赤鉄鉱が、スピネル構造を持つ磁鉄鉱へ変わる。これにより、比較的弱い磁場でも鉄を含む粒子を回収しやすくなる。
ただし、反応の制御は容易ではない。還元が進みすぎると、磁性の弱いウスタイト()や、ケイ酸塩との反応で生じるファイヤライト()が生成し、磁力選鉱の効率が低下する。高すぎる反応温度や長すぎる滞留時間は、過還元を招く要因になる。
| 方式 | 炉の形式 | 対象となる粒度 | 主な技術上の制約 |
|---|---|---|---|
| 従来法:シャフト炉 | 固定層・移動層 | 15〜75 mmの塊鉱 | 微粒子は目詰まりを起こすため処理に適さない。炉内のガスの流れが偏り、反応にむらが生じやすい |
| 従来法:ロータリーキルン | 回転円筒炉 | 数mm〜数cm | 微粉鉱石が内壁に焼き付き、リング状の付着物を形成することがある。長時間の連続操業を妨げる要因になる |
| 今回のIPE流動層方式 | 懸濁流動層 | 数十〜数百μmの微粉鉱石・尾鉱 | ガスの流速と粒子の滞留時間を適切に設計する必要がある。還元性ガスを均一に行き渡らせ、熱を段階的に回収する仕組みも重要になる |
流動層方式の基本的な仕組みは、炉の下部から還元ガスと不活性ガスの混合気体を送り込み、微粉鉱石を沸騰した液体のように流動させるというものだ。シャフト炉のように塊鉱に限らず微粉を処理でき、ロータリーキルンで問題となる炉壁への付着も抑えやすい。粒子と気体の接触面積が大きく、熱や物質が効率よく移動する。
IPEによると、鞍山プラントには、粒子の滞留時間を精密に制御する仕組み、低温で反応を促す技術、熱を段階的に有効利用するシステムを組み合わせたという。ただし、実際に使用する還元ガスの組成や調達先、炉内の設定温度、平均滞留時間は、公表資料には記載されていない。
「転換率98%」は「鉄の回収率98%」ではない
操業実績として大きく取り上げられたのが、「鉄鉱物転換率98%」と「総合エネルギー消費量0.82 GJ/t」という二つの指標だ。評価に当たっては、それぞれ何を測った数値なのかを確認する必要がある。
科学技術日報などの説明では、転換率98%とは、原料中の赤鉄鉱や褐鉄鉱など、磁性の弱い鉄鉱物の98%が磁鉄鉱へ変わったことを示す。つまり、狙った化学反応がどこまで進んだかを表す指標であり、原料中の鉄を製品として回収できた割合を示す「全鉄回収率(Total Iron Recovery)」ではない。
相転換率が高くても、その後の磁力選鉱で微粒子が鉱泥とともに流出したり、鉄鉱物と脈石が十分に分離していなかったりすれば、製品として回収できる鉄の割合は下がる。公表資料では、次の重要な指標が示されていない。
- 全鉄回収率:原料に含まれる鉄のうち、精鉱中に回収された鉄の割合。
- 精鉱歩留まり:投入した原料の質量に対する、得られた精鉱の質量の割合。
- 精鉱中の不純物濃度:Fe品位約65%の精鉱に残るシリカ()やアルミナ()の含有量。
エネルギー消費量の「鉱石1トン当たり0.82 GJ」について、IPEは類似する既存技術より約35%少ないとしている。ただし、比較対象となる技術の消費量、炉の形式、原料の条件などは示されていない。中国日報も生産コストが大きく下がったと伝えているが、具体的な処理単価(元/トン)や、採算を評価する際に想定した鉄鉱石価格は掲載していない。
低品位の尾鉱を精鉱にするには、粉砕や分級、焙焼、冷却、複数段階の磁力選鉱、脱水など、多くの工程が必要になる。これらの費用を含め、輸入鉱石と競争できる価格で精鉱を供給できなければ、商業採算の確保は難しい。現段階の公表情報だけでは、その前提となるコスト条件を十分に把握できない。
基礎研究から商業運転まで、6つの検証から見えること
鞍山プラントの成果を評価するには、基礎研究、パイロット試験、商業規模での操業を分けて見る必要がある。IPEの研究者らは過去十数年にわたり、流動層磁化焙焼に関する査読付き論文を発表してきた。
- 鉄鉱物転換率
- 全鉄回収率
データを表で見る
| 鉄鉱物転換率 (%) | 全鉄回収率 (%) | |
|---|---|---|
| 2023年 尾鉱パイロット試験(72時間) | 86.46 | 48.4 |
| 2026年 鞍山商業プラント(公表値) | 98 | — |
2018年の微粉鉱石を使ったパイロット試験では、全鉄回収率91.16%が報告された。一方、2023年に尾鉱を処理したパイロット試験では、鉄鉱物転換率86.46%に対し、全鉄回収率は48.40%だった。原料や試験条件が異なるため、結果を単純に比較することはできない。それでも、転換率と鉄の回収率が別の指標であることは明確だ。
各研究や操業実績が何を示し、どこまで判断できるのかを整理すると、次のようになる。
| 検証事例・主な文献 | 検証方法 | 査読の有無 | 原料・Fe品位 | 主な条件・規模 | 精鉱のFe品位 | 転換率・回収率など | この結果だけでは判断できない点 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 実験室試験 | |||||||
| DOI: 10.5277/ppmp19010 | 小型流動層 | あり | 鞍山東部の尾鉱 | ||||
| Fe 10.60% | 600℃、水素50%の混合ガス、流量8 m³/h、滞留時間20秒 | 65.30% | 全鉄回収率85.85% | 連続操業時の熱損失、長期運転での炉壁付着、原料組成の変動への対応 | |||
| パイロット試験 | |||||||
| DOI: 10.2298/jmmb170711050y | パイロット流動層 | あり | 難選性鉄鉱微粉 | ||||
| Fe 43.50% | 約540℃、COと窒素の混合ガス(4:1)、滞留時間約30秒 | 66.84% | 全鉄回収率91.16% | ||||
| 相転換はほぼ完全 | Fe品位10%前後の尾鉱での分離性能、不純物が精鉱に混入する度合い | ||||||
| パイロット連続試験 | |||||||
| DOI: 10.1080/01496395.2023.2189055 | 懸濁磁化焙焼パイロット | あり | 鉄鉱石の選鉱尾鉱 | ||||
| Fe 13.68% | 72時間の連続操業、石炭ガスによる還元 | 63.04% | 平均鉄鉱物転換率86.46% | ||||
| 全鉄回収率48.40% | 年間数百万トン規模での流動状態の均一性、原料1トン当たりの消費エネルギー | ||||||
| 数値流体解析 | |||||||
| DOI: 10.1016/j.ces.2020.116148 | TFM-KTGFと未反応核モデルを組み合わせたCFD解析 | あり | 流動状態で還元する赤鉄鉱粒子 | 朱慶山教授らが参加。粒子径、ガス流速、CO分圧の影響を解析 | 計算による評価 | 反応速度定数、炉内の位置による転換挙動の違い | 実炉での不純物のスラグ化、配管の摩耗、粉体の凝集 |
| 先行する工業実証プラント | |||||||
| IPEの開発資料 | 雲南省の実証設備 | なし | |||||
| 産業報告 | 難選性褐鉄鉱 | 年間処理能力10万トン。2008年に資金難で中断し、2012年12月に安定運転を達成 | 非公表 | 連続操業の実現 | 鞍山で採用された第2世代流動層の熱回収性能、精密な滞留時間制御の効果 | ||
| 鞍山の商業プラント | |||||||
| 2026年9月の専門家評価 | 商業規模での操業 | なし | |||||
| 業界団体による評価 | 難選性鉄鉱石・尾鉱 | ||||||
| Fe約11% | 年間処理能力556万トン、3系列。総合エネルギー消費量0.82 GJ/t | 約65% | 鉄鉱物転換率98% | ||||
| 全鉄回収率は未公表 | 独立機関による性能検証、製鉄原料としての不純物評価、長期的な経済性 |
研究の歴史をたどると、中国科学院の磁化焙焼研究は、1950〜1960年代に化工冶金研究所の郭慕孫(Mooson Kwauk)らが進めた流動層研究にさかのぼる。その後、工業化に向けた研究は長く途絶えていたが、現在のプロジェクトを率いる朱慶山(Zhu Qingshan)教授らが2004年に再開した。
雲南省に建設された年間処理能力10万トンの実証炉は、2008年に資金難に直面した。その後、1年以上にわたって現場の不具合に対処し、2012年12月に連続運転を達成したという。
雲南の実証設備で課題となった熱効率を改善するため、粒子の滞留時間をきめ細かく制御する第2世代の流動層技術が開発され、鞍山プラントに採用された。学術研究とパイロット試験の積み重ねは、技術の原理と小規模試験での有効性を裏付けている。ただし、実験室で得られた全鉄回収率85.85%を、そのまま年間556万トンを処理する商業プラントに当てはめることはできない。
年間12.6億トンの輸入依存をどこまで減らせるか
中国が超低品位の尾鉱利用に力を入れる背景には、鉄鉱石の安定調達という課題がある。
中国は世界の粗鋼生産の過半を占める、最大の鉄鉱石消費国だ。中国科学院の資料によると、過去10年間の鉄鉱石輸入量は累計113億トンに達する。中国税関統計に基づく報道では、2025年の輸入量は年間12億6,000万トンとなり、過去最高を更新したとされる。
ただし、公表資料には前年比の伸び率を確かめるための前年の実数が示されていないものもある。輸入規模の大きさと、年ごとの増減は分けて捉える必要がある。調達先も偏っており、輸入の8割以上をオーストラリアやブラジルなど特定の供給国に依存している。
一方、米国地質調査所(USGS)の『Mineral Commodity Summaries 2025』によると、中国の鉄鉱石の可採埋蔵量は、金属鉄換算で69億トンと世界4位の規模にある。ただし、国内の鉱石の多くはFe品位が30%前後の低品位鉱で、その半分近くは従来技術では採算の取れる選鉱が難しいとされる。長年にわたり尾鉱ダムに蓄積した尾鉱も、環境リスクや維持管理費の面で負担になってきた。
IPEは、この技術の普及によって、国内の難選性鉄鉱石約300億トンと、鉄を含む尾鉱約100億トンの利用につながると見込んでいる。ただし、これは確定した可採埋蔵量ではない。将来の利用対象になり得る鉱石や尾鉱の総量について、開発側が示した見通しだ。
2023年11月時点のIPE資料では、難選性鉄鉱石は200億トン以上、鉄を含む尾鉱は40億トン以上とされており、以前の発表とは数値に差がある。現時点の見通しを、採算性まで確認された資源量として扱うことはできない。
データを表で見る
| 年間原料処理能力 (万トン/年) | |
|---|---|
| 鞍山プラント(稼働中) | 556 |
| 契約済み案件の合計(下限値) | 1,500 |
| ラオス計画案件(2系列・契約段階) | 400 |
技術の導入に向けては、年間処理能力の合計が1,500万トンを超えるライセンス契約が成立していると報告されている。ただし、契約件数とプロジェクト数は区別する必要がある。中国科学院の英文発表はライセンス契約を11件とする一方、中国日報の英文版は鞍山に加えて8件のプロジェクトがあると報じている。契約とプロジェクトの数え方が一致するとは限らず、この二つの数字だけで矛盾があるとは判断できない。
海外では、ラオスで年間400万トン、1系列当たり200万トンを処理する2系列の褐鉄鉱焙焼プロジェクトが計画されている。ただし、契約締結の段階であり、稼働中の設備ではない。
鞍山プラントについても、前述の原料Fe品位11%、精鉱Fe品位65%という条件なら、年間556万トンの原料を処理しても、精鉱は鉄回収率100%で年間約94万トンにとどまる。原料と輸入鉱石の品位の違いも考慮する必要があり、年間12.6億トンの輸入に対し、この1施設だけで依存構造を大きく変えられるわけではない。
還元剤の消費量と環境負荷には未公表のデータが残る
この技術を環境負荷の低減という面から評価するには、プラント全体のデータを確認する必要がある。
磁化焙焼は還元反応を利用するため、還元剤を継続的に消費する。実験室やパイロット試験では、一酸化炭素()、水素()、コークス炉ガス、炭素質物質などが用いられてきた。鞍山プラントで使用する還元剤の種類や消費量、その調達に伴う環境負荷、ライフサイクル全体の二酸化炭素()排出量は、公表資料では明らかにされていない。
IPEの研究者らが参加したCFD解析論文(DOI: 10.1016/j.ces.2020.116148)では、流動層の磁化焙焼工程から生じるCO₂の量を、ガス温度、粒子径、CO濃度の条件に応じて、鉱石1キログラム当たり0.63〜4.14グラムと算出している。ただし、これは反応炉を対象とした数値計算の結果だ。加熱用燃料の燃焼や前後の設備を含む、プラント全体の排出原単位ではない。
南アフリカ鉱冶金協会誌(Journal of the SAIMM)のレビュー論文も、磁化焙焼は多くのエネルギーを必要とし、尾鉱処理への工業規模での適用例は少ないと指摘している。また、得られる微粉状の精鉱は、そのまま高炉に投入できるわけではない。製鉄原料として使うにはペレット化などの造粒工程が必要で、ペレットの焼成にも熱エネルギーを要する。
今回のプロジェクトは、中国国家発展改革委員会(NDRC)の「グリーン・低炭素先進技術モデルプロジェクト」の初回選定案件に含まれている。自然資源部がまとめる、資源節約に役立つ先進技術のリストにも掲載されている。ただし、政策上の選定は、独立機関による包括的な環境影響評価や排出量の第三者監査とは異なる。
尾鉱の再資源化には、尾鉱ダムへの蓄積や土地の占有を減らし、決壊リスクの低減や土地の再利用につなげられる可能性がある。一方、鞍山プラントがどの尾鉱ダムから原料を運び、その水分量や粒度がどの程度なのか、処理後に残るシリカ主体の尾鉱をどう保管・処分して安全性を確保するのかは、十分に示されていない。こうした工程を含めた環境負荷の定量的な評価が必要だ。
IPEは今後、流動層焙焼技術を、マンガン、リン、アルミニウムなどを含む選別の難しい鉱物や、固形の産業廃棄物の処理にも応用する構想を示している。ただし、これらは今後の研究計画であり、今回のプラントで実証された成果ではない。
超低品位の尾鉱からFe品位約65%の精鉱を得る技術は、長年にわたる粉体工学と反応速度論の研究が支えている。一方、商業的な価値を判断するには、転換率98%だけでは足りない。実際にどれだけの鉄を回収できるのか、不純物をどこまで除けるのか、還元剤やエネルギーにいくらかかり、どれほどの環境負荷が生じるのかを確かめる必要がある。
技術の有効性と輸入鉱石に対する競争力を見極める鍵は、商業運転で得られる長期的なデータにある。全鉄回収率、コスト、環境負荷が検証可能な形で示されて初めて、今回の成果が鉄鉱石の供給にどこまで貢献できるかを評価できる。
