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NVIDIA CEO、米国の対中半導体規制を痛烈批判 – シェア半減、中国の自給加速という「失敗」を招いた

Y Kobayashi

2025年5月22日

NVIDIAのJensen Huang CEOが、米国の対中半導体輸出規制について「失敗だった」と厳しく批判し、同社の中国市場におけるシェアが半減したこと、そして結果的に中国自身の半導体開発を加速させてしまった現状に警鐘を鳴らした。台湾で開催された技術見本市「Computex」での発言は、ハイテク業界における米中対立の新たな局面と、その影響の複雑さを浮き彫りにしている。

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米国製チップ規制が生んだ皮肉な現実:Jensen Huang CEOの「失敗」発言の真意

「率直に言って、輸出規制は失敗だった」。NVIDIAの創業者兼CEOであるJensen Huang氏は、2025年5月21日(現地時間)、台湾の台北で開催された「Computex 2025」の記者会見で、米政府による高性能AIチップの対中輸出規制について、厳しい言葉でこう断じた。同氏によれば、この規制は米国の意図とは裏腹に、NVIDIAのような米国企業に数十億ドル規模の売上損失をもたらす一方で、中国企業による独自の半導体開発をむしろ加速させる結果を招いているという。

Huang CEOが特に問題視しているのは、前Biden政権下で導入された「AI拡散ルール(AI Diffusion Rule)」と呼ばれる輸出管理策だ。これは、高度なAIチップの輸出先を3つの階層に分け、中国を事実上ブロックするものだった。しかしJensen Huang氏は、「このルールの根底にあった基本的な前提は、根本的に間違っていたことが証明された」と指摘。規制によって中国市場から締め出された結果、NVIDIAの中国におけるAIチップ市場シェアは、Biden政権初期の95%から、現在では50%にまで急落したことを明らかにした。

このシェア低下は、単にNVIDIAのビジネスチャンスが失われたことを意味するだけではない。Huang氏は、「残りは中国の技術だ。彼らはNVIDIAがなくても使える多くの国産技術を持っている」と述べ、規制が中国の技術的自立を促す皮肉な結果を生んでいると強調した。実際、Huaweiのような中国企業は、独自の高性能AIチップ開発を急速に進めており、市場での存在感を増している。

Huang氏は、中国には世界のAI研究者の半数以上が在籍しており、彼らの研究成果は世界レベルだと評価。輸出規制によって、これらの研究者がNVIDIAの最先端ハードウェアから切り離され、中国国内の技術に目を向けることを余儀なくされたと嘆く。「中国のAI研究者は自国のチップを使うだろう。彼らは次善の策を選ぶ。地元企業は非常に意欲的で、輸出規制は彼らに気概を与え、政府の支援が彼らの開発を加速させた」とHuang氏は語った。

NVIDIAを直撃する規制の余波:H20チップ問題と巨額損失

米国の輸出規制は、NVIDIAの経営にも直接的な打撃を与えている。同社は規制に対応するため、主力AIチップ「H100」の性能をダウングレードした中国市場向け製品「H20」を開発したが、Trump政権下でこのH20の輸出も制限される事態となった。

この措置に対し、Huang氏は強い不満を表明。「(HopperアーキテクチャをベースとするH20について)これ以上チップを劣化させることはできない。製品を著しく劣化させており、これ以上の変更は困難だ」と述べ、規制遵守の難しさを吐露した。

H20チップの輸出制限は、NVIDIAに巨額の財務的損失をもたらしている。同社は4月に、H20に関連して55億ドルの評価損を計上すると発表。さらにHuang氏は、H20に関連する売上機会の損失が約150億ドルに達するとの見通しを示した。中国市場の年間規模は約500億ドルに達するとされ、この巨大市場からの締め出しは、NVIDIAだけでなく、米国の税収にも影響を与えかねないとHuang氏は示唆している。「その利益、規模、そしてエコシステム構築の機会を失うことは、CUDA(NVIDIAの並列コンピューティングプラットフォーム)にとって長期的に最大の脅威だ」と危機感を募らせる。

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揺れる米国の対中半導体戦略:政策転換への期待とNVIDIAの立ち位置

一方で、Huang氏はTrump政権による一部のAI輸出規制緩和の動きを評価している。Trump政権は、Biden政権の「AI拡散ルール」を撤廃し、政府間合意に基づくグローバルライセンス体制への移行を検討していると報じられている。Huang氏は、この政策転換について「Trump大統領は、それがまさに間違った目標であることを理解している」と述べ、米国の技術を世界に普及させることの重要性を訴えた。

「もし米国がリードし続けたいのであれば、技術の普及を制限するのではなく、最大化し加速させる必要がある」というのがHuang氏の持論だ。元米商務長官のGina Raimondo氏も、かつて「禁止や制裁によって中国の進歩を抑え込もうとするのは愚かな企てだ」と述べ、半導体製造、研究、イノベーションへの投資の重要性を強調していた。

NVIDIAは、米中双方との関係を維持しながら、この困難な状況を乗り切ろうとしている。Huang氏はTrump大統領のサウジアラビア訪問に同行し、米国の技術力をアピールする一方で、中国の技術力も高く評価し、中国市場へのコミットメントを繰り返し表明してきた。「我が社は揺るぎなく中国市場に貢献していく」というHuang氏の言葉は、同社が置かれた複雑な立場を象徴している。

NVIDIAは、上海に新たなオフィススペースを確保するなど、中国での事業継続の意思を示しているが、知的財産やGPU設計は移転しないとしている。また、規制に準拠するため、現行のBlackwellアーキテクチャをベースとしつつ、メモリ性能を調整した新たなAIチップの開発も進めていると報じられている。

止まらぬ中国のAI開発:Huaweiの猛追と国産化の波

米国の規制強化は、結果として中国の半導体自給自足への動きを加速させている。中国商務省は、米国のチップ政策を「過度な介入」「いじめ」と非難し、「誤りを正す」よう要求。国内企業による国産チップの利用にさえ干渉していると米国を批判した。

Jensen Huang氏自身も、中国のAI分野における進展を認めており、「中国は我々のすぐ後ろにいる。非常に接近している。これは長期的な、終わりのない競争だ」とワシントンの議員に語ったとCNBCは報じている。特にHuaweiについては、「コンピューティングとネットワーク技術において驚異的であり、AIを進化させるために不可欠なこれらの能力すべてにおいて、過去数年間で多大な進歩を遂げた」と高く評価している。

実際、TencentやAlibabaといった中国の巨大テック企業も、国産のAI技術の購入を始めており、これが中国国内のチップメーカーの研究開発をさらに後押ししている。Huang氏が指摘するように、NVIDIAが中国市場で失ったシェアは、これら中国企業によって埋められつつあるのが現状だ。

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米中半導体摩擦の行方とNVIDIAの挑戦

NVIDIAのJensen Huang CEOによる今回の発言は、米国の対中半導体輸出規制が、意図した効果を上げていないばかりか、米国企業に不利益をもたらし、中国の技術的自立を促しているという厳しい現実を突きつけるものだ。ハイテク業界の巨人であるNVIDIAが直面するこの課題は、米中間の技術覇権争いの複雑さと、グローバルサプライチェーンの相互依存性を改めて浮き彫りにしている。

Huang CEOの警告は明確だ。米国が現在の対中アプローチを再考しなければ、中国という巨大市場を失うだけでなく、世界のAI開発競争における優位性をも損なう可能性がある。果たしてNVIDIAは、この地政学的な逆風の中で、どのようにバランスを取り、技術革新を続け、市場を切り開いていくのだろうか。


Sources

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