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『Fortnite』が5年ぶりにApp Storeに復活:Appleとの泥沼訴訟、決着の背景と今後の影響

Y Kobayashi

2025年5月22日9:27AM

2020年夏の激動から5年。人気バトルロイヤルゲーム『Fortnite』が、ついに米国のApple App Storeに帰還を果たした。長きにわたりテクノロジー業界を揺るがし続けたAppleとEpic Gamesの法廷闘争は、一つの大きな節目を迎えたと見て良いだろう。この劇的な復帰の裏には、一連の複雑な裁判の経緯と、米国地裁からの強い圧力が存在した。この度の合意は、単に『Fortnite』がiPhoneやiPadで再びプレイできるようになったという事実に留まらず、アプリ経済圏におけるプラットフォーム企業のあり方、そして開発者とユーザーの選択肢に大きな波紋を投げかけるものと言えるだろう。

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5年に及ぶ『Fortnite』追放劇の幕開け

2020年8月、Epic Gamesは『Fortnite』のiOS版に、AppleのApp Storeを介さない直接決済システムを導入した。これは、App Storeの規定に違反する行為であり、Appleがアプリ内購入(IAP)に課す30%の手数料を回避する目的があった。Appleはこれに対し、即座に『Fortnite』をApp Storeから削除し、Epicの開発者アカウントを停止するという強硬策に出た。

Epic Gamesは、Appleの行為が反競争的であるとして提訴。ここから、両社の泥沼の法廷闘争が始まった。Epicは、AppleがApp Storeを通じて不当な独占的地位を確立し、開発者から過大な手数料を徴収していると主張。一方Appleは、App Storeが提供する安全性やプライバシー、マーケティングの価値を強調し、その手数料は正当なものであると反論した。この対立は、モバイルアプリエコシステムの根幹を揺るがす、歴史的な法廷闘争へと発展したのである。

泥沼の法廷闘争:アンチステアリング条項を巡る攻防

法廷闘争は一進一退を繰り返した。2021年の第一審では、Appleが独占企業ではないとの判断が下されたものの、Appleの「アンチステアリング条項」(開発者がアプリ内で外部決済手段へのリンクを貼ることを禁止する規定)は違法であると認定された。しかし、Appleは控訴し、最高裁への上告を経て、この判決の執行は長らく保留されてきた。

転機が訪れたのは2025年4月、再び地裁のYvonne Gonzalez Rogers判事の裁定が下されたときだ。判事は、Appleが外部決済へのリンクを許可し、それに対する手数料徴収も禁止されるべきであると明確に判断。この判決は、Appleの長年のビジネスモデルの根幹を揺るがすものとして、業界に大きな衝撃を与えた。

この判決を受け、AppleはApp Storeのポリシー変更を余儀なくされた。しかし、Appleは外部決済経由の売上に対しても27%の手数料を徴収する方針を示し、これはEpicを含む多くの開発者から「判決の骨抜きだ」と猛反発を招いた。Epicはすぐさま、変更されたポリシーの下で『Fortnite』をApp Storeに再申請したが、Appleは承認を遅延させ続けたのである。

状況が膠着する中、地裁が再び動いた。5月19日、判事はAppleに対し、5月21日までに『Fortnite』の承認を遅らせる理由を説明するか、あるいはEpicとの間で問題を解決するよう命じた。もし説明が不十分であれば、5月27日にAppleの出廷を求める「理由開示命令」を発動する構えであった。この命令は、Appleにとって見過ごせない強い圧力となった。

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復帰の舞台裏:劇的な合意が示すもの

判事からの最後通牒とも言える命令に対し、Appleは迅速な対応を見せた。そして、運命の5月20日(火曜日)、ついに『Fortnite』は米国のApp Storeで承認され、5年ぶりにiPhoneおよびiPadユーザーの元へと帰還した。

翌21日、Epic GamesとAppleは共同で裁判所に提出した書類の中で、「2025年5月19日に発令された裁判所の理由開示命令に関する全ての問題が解決された」と報告。これにより、Appleは予定されていた法廷審問への出廷も、追加書類の提出も不要となった。この共同声明は、両社が直前になって劇的な合意に至ったことを示唆している。

この合意がAppleにとって避けられない選択であったと考えられる。判事の再介入は、Appleが裁判所の命令を軽視しているという印象を与えかねない状況であり、さらなる法的な不利益を被るリスクを回避するためには、迅速な対応が必要であった。結果として、Appleは不本意ながらも『Fortnite』の復帰を認めることで、当面の危機を乗り切った形だろう。

ゲーム体験の変化とユーザーへの恩恵

『Fortnite』がApp Storeに帰還したことで、ユーザーは再び手元のiPhoneやiPadでこの人気ゲームをプレイできるようになる。しかし、今回の復帰は単なるゲームの再開だけではない。ゲーム内での「V-Bucks」(ゲーム内通貨)の購入プロセスにおいて、大きな変化がもたらされたのだ。

新たな『Fortnite』アプリでは、ユーザーはV-Bucks購入時に、Appleのアプリ内課金システム(IAP)を利用するか、Epic Gamesが提供する外部決済システムを利用するかの選択肢が提示されるようになった。これは、これまでのApp Storeでは考えられなかったことであり、裁判所の判決が具体的に反映された結果である。

特に注目すべきは、Epicが外部決済を選択したユーザーに対して「Epic Rewards」として20%のボーナスを提供している点だ。これにより、ユーザーはより安価にV-Bucksを購入できるインセンティブが与えられた。Appleは、この外部決済からの売上に対しても27%の手数料を徴収する意向を示しているが、ユーザーが選択肢を得て、より有利な条件でコンテンツを購入できるようになったことは、大きな変化と言えるだろう。

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AppleとEpic、それぞれの「勝利」と「代償」

この長きにわたる戦いにおいて、真の勝者は誰であったのか?この問いに対する答えは、一概には言えない。

Epic Gamesにとっては、5年ぶりに『Fortnite』をApp Storeに復帰させ、さらに自社独自の決済システムを導入する道を開いたという点で、大きな「勝利」を収めたと言えるだろう。特に、欧州では既にデジタルマーケット法(DMA)によってAppleにサードパーティアプリストアの開放が義務付けられており、Epicは欧州で独自の「Epic Games Store」アプリのリリースを計画している。今回の米国での復帰は、グローバルなアプリ配信戦略において重要な一歩となる。

しかし、その代償は小さくなかった。報道によれば、Epicは今回の法廷闘争に「10億ドル以上」もの費用を費やしたとされている。莫大な時間とコストを投じてまで、この戦いを続けたEpicのTim Sweeney CEOの執念は、プラットフォームの不当な独占に対する彼の強い信念の表れであろう。

一方のAppleは、自社のエコシステムにおける絶対的な支配権を揺るがされた形だ。App Storeからの手数料収入は、Appleのサービス事業にとって非常に重要な収益源であり、直近の3月期決算では約270億ドルのサービス収益を計上している。外部決済の導入は、この収益モデルに直接的な影響を与える可能性を秘めている。

Appleは、今回の判決に対しても上訴を続ける構えであり、引き続き手数料徴収の権利を巡って戦い続けるだろう。彼らにとって、App Storeの統一された体験と収益モデルは、デバイスとサービスを統合したビジネス戦略の要だからだ。しかし、この戦いがAppleの企業イメージに与える影響や、反独占規制の潮流の中で今後どのような立場に立たされるかという点は、決して看過できない課題である。

App Storeエコシステムの未来:競争と選択の時代へ

『Fortnite』のApp Store復帰は、プラットフォーム企業と開発者の力関係、そして規制当局の動向が複雑に絡み合う、現代のデジタルエコシステムにおける一つの象徴的な出来事と言えるだろう。

今回の件は、他の大手アプリメーカー(AmazonやSpotifyなど)が既に外部決済へのリンク導入を進めている動きと合わせて、App Storeがこれまで築き上げてきた堅牢な「囲い込み」戦略に、風穴を開ける可能性を秘めている。ユーザーは、アプリ内での選択肢が増えることで、より有利な条件でコンテンツやサービスを購入できるようになるだろう。これは、市場における競争を促進し、ひいてはイノベーションの加速に繋がる可能性も秘めている。

しかし、一方で懸念も残る。外部決済システムが乱立することで、ユーザー体験の分断やセキュリティ上のリスクが増加する可能性も指摘されている。AppleがApp Storeの安全性を強固に主張してきた背景には、こうした懸念も存在する。今後、Appleが外部決済に関するガイドラインをどのように策定し、規制当局や開発者がそれに対してどのような反応を示すのか、引き続き注視が必要だ。

『Fortnite』のApp Store帰還は、長きにわたる法廷闘争の一つの区切りではあるが、物語の終わりではない。むしろ、アプリエコシステムが新たな競争と選択の時代へと突入する、その序章に過ぎないのかもしれない。


Sources

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