AMDの次世代モバイルCPU「Medusa Point」とみられるエンジニアリングサンプルが、Geekbench 6でシングルコア3329、マルチコア16555を記録した。Zen 5世代の10コア製品であるRyzen AI 9 365の登録結果平均と比べると、差はそれぞれ34.8%と33.4%に達する。次世代CPUへの期待を高める数字だ。しかしAMDはサンプルの正体もZen 6採用も公表していない。同じ型番・構成の試作CPUは9日前の測定から最大9.7%もスコアを伸ばしており、世代差を確定するには試験条件が足りない。
Plum-MDS1に現れた10コア構成
Geekbench Browserへ2026年7月17日に登録された結果は、CPUを「AMD Eng Sample: 100-000001713-33_N」、システムとマザーボードを「AMD Plum-MDS1」と識別している。OSはWindows 11 Pro、電源プランは「バランス」で、Geekbench 6.6.0のWindows AVX2版による測定だ。結果は有効と判定され、シングルコア3329、マルチコア16555を記録した。
登録情報では10コア20スレッドを4コアと6コアの2クラスタに分け、L2キャッシュは1コア当たり1MB、L3キャッシュは32MBとなっている。命令セットにはAVX-512 FP16も含まれる。AMDが販売するRyzen AI 9 365も、Zen 5コアを4基、Zen 5cコアを6基組み合わせた10コア20スレッド製品で、L2は合計10MBだ。コア構成はよく似ている。
ただし、Geekbenchの「有効」という表示はベンチマーク結果に対する判定であり、AMDが製品名やアーキテクチャを認証したことを意味しない。Plum-MDS1という基板名と試作CPUの型番からMedusa Point候補と推定されているが、データベース上に「Medusa Point」や「Zen 6」という表記はない。32MBのL3キャッシュも、未発表チップの確定仕様としては扱えない。
同コア比較で見える33.4%差
Ryzen AI 9 HX 370のGeekbench 6登録結果平均は、シングル2606、マルチ13400である。今回の試作CPUはこれを27.7%と23.5%上回った。HX 370は現行Strix Pointの上位製品だが、4基のZen 5と8基のZen 5cを備えた12コア24スレッドであり、10コアの試作CPUより2コア多い。上位製品との比較は目を引くものの、世代ごとの設計差を見る基準としてはコア数が揃っていない。
同じ10コア20スレッドのRyzen AI 9 365を基準にすると、比較は次のようになる。
| Geekbench 6 | シングルコア | マルチコア | コア/スレッド |
|---|---|---|---|
| AMD Plum-MDS1試作CPU | 3329 | 16555 | 10/20 |
| Ryzen AI 9 365登録結果平均 | 2469 | 12411 | 10/20 |
| 試作CPUの差 | +34.8% | +33.4% | 同数 |
同数のコアでマルチコアが33.4%高い点は、HX 370との比較より設計世代の伸びを考える材料になる。Geekbench 6の総合スコアは、圧縮やWeb表示、コードのコンパイルを含む複数の処理から作られ、機械学習と画像処理の負荷も加わる。
それでも、この表が示すのは異なる環境で集めたスコアの差だ。Ryzen AI 9 365の集計値はユーザーが投稿した複数の結果から作られ、AMDの仕様では既定TDPが28W、設定可能な範囲が15〜54Wと広い。Plum-MDS1の消費電力は記録されていないため、同じコア数でも同じ電力条件とは限らない。IPCの向上率や性能効率へ、そのまま置き換えることはできない。
9日で最大9.7%動いたスコア
同じ「100-000001713-33_N」とPlum-MDS1の組み合わせは、7月8日にもGeekbench 6.6.0で測定されていた。先の結果はシングル3174、マルチ15092であり、7月17日の測定はそこから4.9%と9.7%伸びている。CPU型番からコア構成、キャッシュ容量、搭載メモリ容量まで同じだ。
9日間の差を生んだ理由は公開情報から特定できない。ファームウェアから冷却、メモリ設定までの試験条件は明らかにされておらず、電力上限も分からない。試作機の調整が進んだのか、測定時の状態が違ったのかも判断できない。1件の最高記録を量産品の代表値とみなせない理由がここにある。
動作クロックの表示にも不整合が残る。最新の結果ページはベース周波数を2.00GHz、測定した最大周波数を2152MHzと記録しており、5GHz台で動いたとする判断を裏づけない。実際のブースト挙動を測定ページから復元できない以上、スコアの伸びを高クロックとアーキテクチャ改善へ切り分けることも不可能だ。
AMDが認めたMedusa、認めていないZen 6
AMDは2025年11月のFinancial Analyst Dayで、次世代クライアントCPUのロードマップに「Gorgon」と「Medusa」があることを公表した。しかしMedusaのCPUアーキテクチャとコア数は明らかにしていない。クロックやTDP、発売時期、製品名も未発表だ。今回のPlum-MDS1をMedusa Pointと結びつけ、さらにZen 6製品と特定する部分は、依然としてリーク情報に基づく推定である。
それでも、今回の記録には二つの意味がある。10コアのAMD試作CPUが現行の同コア製品平均をシングル34.8%、マルチ33.4%上回ったこと、同じ型番・構成の試作CPUが繰り返しGeekbenchへ現れ、スコアを更新したことだ。次世代モバイルCPUの開発が進んでいる兆候としては強い。ただし、製品の世代と性能を確定する証拠ではない。
判断が変わるのは、AMDが製品を正式発表し、量産ノートPCで消費電力とメモリ条件を揃えた複数回の測定が出た時だ。そこで同水準の差が維持されれば、Medusa世代はコア数を増やさずにCPU性能を大きく引き上げたと評価できる。



