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NVIDIA、上海にR&Dセンター計画と報じられ「規制回避のためではない」と声明を発表

Y Kobayashi

2025年5月17日

米半導体大手NVIDIAが中国・上海に新たなAI研究開発(R&D)センターの設立を計画していることが報じられており、時期が時期なだけに、やはり物議を醸している。米中技術摩擦が激化する中でのこの動きは、NVIDIAの中国市場に対する強いコミットメントを示すものと見られる一方、米国の厳格な輸出規制との間で同社がどのような舵取りを迫られているのか、注目が集まっているのだ。

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上海R&Dセンター計画の概要と囁かれる期待

事の発端は、Financial Timesの記事であった。同紙は関係者の話として、NVIDIAが上海に新たなAI研究開発センターの設立を計画しており、同社のJensen Huang CEOが4月に上海市のGong Zheng市長と会談し、この計画について協議したと伝えた。

このR&Dセンターの主な目的は、以下の3点にあるとされている。

  1. 中国市場での販売強化と現地競合への対抗: 中国はNVIDIAにとって米国に次ぐ第2位の市場であり、2024年度には売上全体の14%(約170億ドル)を占めた。Jensen Huang CEOは、数年以内に中国市場が500億ドル規模に成長する可能性も示唆している。この巨大市場での足場を固め、特にAIチップ分野で急速に台頭するHuaweiなどの現地企業に対抗する狙いがあると見られる。
  2. 米国の輸出規制への対応と中国顧客ニーズの充足: Biden政権下で強化された米国の対中半導体輸出規制は、NVIDIAの中国事業に大きな影響を与えている。新しいR&Dセンターでは、これらの規制の複雑な技術的要件をクリアしつつ、中国の顧客特有のニーズに応えるための研究が行われるとされている。
  3. 知的財産保護と人材獲得: FTの報道によれば、チップのコア設計や生産といった機密性の高い部分は引き続き中国国外で行われる計画で、知的財産の保護には細心の注意が払われる模様である。同時に、このセンターは中国国内の優秀なAI人材を惹きつけ、NVIDIAの競争力をさらに強化する役割も期待される。

報道では、この上海の拠点が既存製品の最適化や、自動運転といった隣接市場の開拓も視野に入れていること、そして現地当局からすでに予備的な支援を得ている可能性も示唆されている。

NVIDIA側の反応と公式見解:「GPUデザインは中国に送らない」

FTの報道が広がる中、NVIDIA側からも公式な反応が示された。CNBCの取材に対し、NVIDIAの広報担当者は「我々は輸出規制に準拠するためにGPUデザインを中国に送り、変更を加えることはない」と明確に述べた。

さらに、CNBCが情報筋から得た情報として伝えたところによると、NVIDIAが上海でリースしている新しいオフィススペースは既存の従業員向けのものであり、知的財産(IP)やGPUデザインそのものを中国に送る計画はないとのことである。これは、NVIDIAが長年中国で事業を展開してきたことの延長線上にある動きだとされている。

このNVIDIAの声明は、FT報道によって一部で生じた「NVIDIAが規制回避のために中国でGPUの設計変更を行うのではないか」といった憶測を打ち消す意図があったものと考えられる。あくまで米国の規制を遵守し、知的財産は厳格に管理するという姿勢を強調した形である。

ただし、上海のR&Dセンターが「米国の規制に対応しつつ現地市場のニーズに応える方法を評価する」というFT報道の骨子自体を否定したわけではなく、その具体的な活動内容や範囲については、依然として注目が集まる。

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厳しさを増す米国輸出規制とNVIDIAの苦境

NVIDIAの今回の動きの背景には、深刻化する米国の対中輸出規制がある。高性能AIチップの軍事転用を懸念する米国政府は、NVIDIAの最先端製品の中国への輸出を厳しく制限している。

当初、NVIDIAは規制に対応するため、性能を調整した「H800」や「A800」といった中国市場向けのチップを開発・提供していた。しかし、その後規制がさらに強化され、これらのチップも輸出が困難になった。最近では、さらに性能を抑えた「H20」チップを中国市場に投入したが、Trump政権下で2025年4月に発表されたさらに厳格な規制により、現行世代のH20チップの出荷もブロックされていると報じられた。NVIDIAがH20の性能をさらに引き下げることを計画しているとの報道もあり、同社の苦しい立場がうかがえる。

こうした状況下で、中国の主要テクノロジー企業はNVIDIA製チップの供給不安定性を懸念し、Huaweiなどの国産代替品に移行し始めており、中国市場での地盤を失いつつあるようだだ。Jensen Huang CEO自身も、中国市場から完全に撤退すれば、Huaweiのような強力な競合他社がその空白を埋めるだろうと危機感を表明している。

CNBCの報道によれば、NVIDIAはH20 GPUの中国等への輸出に関連して、55億ドルもの費用を計上する見込みであり、規制対応が経営に与えるインパクトの大きさが改めて示された。

NVIDIAの今後の動きは?

今回のNVIDIA上海R&Dセンター計画を巡る一連の動きは、現代のテクノロジー企業が直面する地政学的リスクと、グローバル市場戦略の複雑さを象徴していると言えるであろう。

このR&Dセンターの設立が事実であれば、その真の狙いは単なる「規制対応型製品の開発」に留まらない、より多層的なものである可能性が高そうだ。

  1. 中国市場への長期的なコミットメントの表明: 米国政府の圧力が高まる中でも、NVIDIAが中国市場を諦めていないという強いメッセージを発信する意味合いがあるのではないだろうか。将来的な規制緩和や変化を見据え、現地でのプレゼンスを維持し続ける戦略だ。
  2. 「オンショア」と「オフショア」のハイブリッド戦略: コア技術やIPは米国内および友好国に留めつつ(オフショア)、中国国内では現地のニーズに密着したアプリケーション開発、顧客サポート、そして何よりも優秀な現地人材の獲得・育成(オンショア)に注力するという、巧みなハイブリッド戦略である。これにより、規制を遵守しつつ、中国市場の成長を取り込む道を探っていると考えられる。
  3. 中国AIエコシステムへの食い込み: 中国では独自のAIエコシステムが急速に発展している。NVIDIAがこのエコシステムから孤立せず、むしろ積極的に関与し、自社プラットフォームの優位性を維持するためには、現地でのR&D活動が不可欠である。センターを通じて現地の大学や研究機関、スタートアップとの連携を深めることも期待される。

もちろん、この戦略には多くの困難が伴う。米国の輸出規制は今後も変化する可能性があり、その度に戦略の見直しを迫られるであろう。また、Huaweiをはじめとする中国企業の技術力向上は目覚ましく、競争はますます激化することが予想される。

NVIDIAが上海R&Dセンターを通じて、米中技術覇権争いという複雑なパズルの中で、どのようにバランスを取り、成長を持続させていくのか。それは、同社だけでなく、グローバルに事業を展開する多くのテクノロジー企業にとって、重要な示唆を与えることになりそうだ。


Sources

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