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OpenAI、Jony Ive氏率いる「io」を約1兆円で買収:革新的なAIハードウェアの開発に向けて本格始動

Y Kobayashi

2025年5月22日5:55AM

OpenAIが、Appleの伝説的デザイナーとして知られるJony Ive氏が共同設立したAIハードウェアスタートアップ「io」を、約65億ドル(約9300億円)という巨額の株式交換により買収することで合意したことを発表した。この動きは、AIが社会基盤となりつつある現代において、人間とコンピュータの関わり方を根底から覆す可能性を秘めた物となるかも知れない。Ive氏と彼のデザイン会社LoveFromは、OpenAIの製品全体のデザインとクリエイティブを統括するという異例の体制を敷き、AI時代における新たなデバイスの登場に世界中の注目が集まっている。

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伝説的デザイナー「Jony Ive氏」がOpenAIと結ぶ「io」とは何か

Jony Ive氏の名前は、Appleの製品デザインと切っても切り離せない。iPod、iPhone、iPad、MacBook Airといった、21世紀のテクノロジーと文化を象徴する数々の製品を、その洗練されたデザインと革新的な使い勝手で世に送り出してきた「魔法の手」の持ち主である。2019年にAppleを離れ、自身のデザインファーム「LoveFrom」を設立した後も、彼は常に次なる革新の地平を見据えていた。

その探求の中でIve氏が辿り着いたのが、OpenAIのCEOであるSam Altman氏との出会いだ。両者は約2年前から「密かに協業」を開始し、そこで生まれたのが、AIのポテンシャルを最大限に引き出すためのハードウェアの必要性という共通認識であったと、OpenAIの発表文は語る。この協業の成果として、Ive氏は1年前に「io」という新たなAIハードウェアスタートアップを設立した。

元Appleの精鋭が結集したioチーム

ioは単なるデザインスタジオではない。Ive氏の右腕として、元Appleの錚々たるメンバーが共同設立者として名を連ねている。その筆頭が、Ive氏がAppleを去った後に一時的に彼の後任を務めたEvans Hankey氏、そしてiPhoneのプロダクトデザインを長年率いたTang Tan氏、さらにScott Cannon氏といった面々だ。彼らはAppleの象徴的製品を世に送り出す過程で培った、ハードウェア設計、ソフトウェア開発、製造に関する比類なき専門知識と経験をioに持ち込んだ。

今回OpenAIに統合されるioのチームは、約55名の精鋭から構成されるという。ハードウェアエンジニア、ソフトウェア開発者、製造専門家はもちろんのこと、科学者、研究者、物理学者といった多岐にわたる分野のエキスパートたちが集結しており、まさにAIとハードウェアの融合を具現化するための理想的な体制と言えるだろう。

OpenAI史上最大の「65億ドル」買収が意味するもの

OpenAIがioを買収する金額は、約65億ドル(約1兆円)という巨額に上る。これはOpenAIにとって史上最大の買収であり、同社が今後ハードウェア分野へ本格的に参入する強い意志の表れであると見て間違いない。

特筆すべきは、今回の買収が「全株式(all-stock deal)」で行われる点だ。OpenAIは既にioの株式を23%保有していたため、追加で約50億ドル相当の株式を支払う形となる。この金額と形式は、OpenAIがioの技術と人材、そしてIve氏のビジョンを、自社のAI戦略の核として深く組み込もうとしていることを示唆している。

買収完了後も、Jony Ive氏と彼のデザインファームLoveFromは独立性を保つものの、OpenAIおよびioの「深いデザインとクリエイティブの責任」を担うことになる。これは、Ive氏がChatGPTの将来バージョンを含むOpenAIの広範な製品のデザインにも深く関与する可能性を示しており、彼の「魔法の手」がAIの世界にどのような息吹を吹き込むのか、世界中から熱い視線が注がれている。

Sam & Jony introduce io

一方、Ive氏はOpenAIが公開したビデオメッセージの中で、「過去30年間で学んできたこと全てが、この瞬間に繋がっていると強く感じている。これから始まる重要な仕事への責任に不安と興奮を覚えるが、このような重要なコラボレーションに参加できる機会に心から感謝している」と語り、新たな挑戦への意気込みを示した。

目指すは「ポストスクリーン」? 謎に包まれたAIデバイスの姿

世界が最も注目するのは、この強力なタッグからどのようなAIデバイスが生み出されるのかという点だろう。具体的な製品情報はまだ固く秘められているが、最初の製品は2026年の発売を目指しているとされる。

OpenAIとIve氏の発言からは、いくつかのヒントが垣間見える。Altman氏は「スクリーンを超えるデバイス」「ラップトップやスマートフォンでChatGPTにアクセスするのは面倒だ」と示唆しており、Ive氏も「我々が使っている製品は数十年前に設計されたものだ。これらのレガシー製品の先に何かがあるはずだと考えるのは当然だ」と述べている。これらの言葉からは、既存のスマートフォンやPCの枠組みにとらわれない、全く新しい形態のAIネイティブなデバイスを構想していることがうかがえる。

Altman氏は、Ive氏から受け取ったというプロトタイプについて、「私がこれまでに手にした中で、そして世界がこれまで見た中で最もクールなテクノロジーだと断言できる」と絶賛。Ive氏自身も、Humane PinやRabbit R1といった既存のAIハードウェアデバイスを「非常に貧弱な製品」と評しており、それらとは一線を画す、洗練された体験の提供を目指していると考えられる。言語ベースのAIエージェントとのより自然な対話や、日常生活により深く統合されたデバイスの登場が期待される。

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Appleへの衝撃とAIハードウェア市場の未来

このニュースは、Jony Ive氏がそのキャリアの大部分を捧げたAppleにとって、大きな衝撃として受け止められているはずだ。かつてのデザイン最高責任者が、AIという次なる巨大な波において、ハードウェア開発で競合する可能性が出てきたからだ。報道を受けてAppleの株価が2%下落したという情報もあり、市場の動揺がうかがえる。

ちなみに、OpenAIがハードウェア領域に本格的に参入するのは、今回のio買収が初めてではない。すでに同社は、Metaの拡張現実(AR)グラス開発責任者であったCaitlin “CK” Kalinowski氏を、ロボティクスと消費者ハードウェアの責任者として採用している。また、サンフランシスコを拠点とするロボットスタートアップ「Physical Intelligence」にも多額の投資を行っており、Amazonの創業者であるJeff Bezos氏も出資者に名を連ねる。

これらの動きは、OpenAIがAIを単なるソフトウェアのレイヤーに留まらせず、物理世界に具現化することに本腰を入れている明確なサインだ。これは、GoogleやAnthropic、Elon Musk氏のxAIといった競合が激化するAI競争において、OpenAIが次なるフロンティアとして「ハードウェア」を捉えていることを示している。

AIモデルの性能向上が頭打ちになりつつある中で、そのAIをユーザーに届けるための「インターフェース」の革新が、次なる競争の焦点となっている。OpenAIは、最高のAIを最高のハードウェアと統合することで、他社との差別化を図り、新たな市場を創造しようとしているのだ。

AIとデザインの融合がもたらす「第三の波」

今回のOpenAIとJony Ive氏率いるioの提携は、テクノロジーの歴史において「第三の波」の始まりを告げる動きとなるだろう。

第一の波は、パーソナルコンピューターの登場によって、情報へのアクセスと処理が個人の手に委ねられた時代だ。そして第二の波は、iPhoneに代表されるスマートフォンによって、コンピューティングが常時携帯可能となり、私たちの生活のあらゆる側面に浸透した時代である。

しかし、AI技術が飛躍的に進化したいま、既存のインターフェースは限界を迎えている。スクリーンをタップしたり、キーボードを打ったりする従来のやり方は、AIの持つ「思考し、理解し、創造する」という無限の可能性を引き出すには、あまりにも原始的すぎると言える。Sam Altman氏が感じた「煩わしさ」は、まさにこの本質的な乖離を指しているのだろう。

ここで、Jony Ive氏のデザイン哲学が重要な意味を持つ。Appleが世界を席巻したのは、単に高性能なハードウェアを作ったからではない。ハードウェアとソフトウェア、そしてサービスがシームレスに統合され、ユーザーが意識することなく、あたかも魔法のように直感的に操作できる「体験」をデザインしたからだ。Ive氏は、技術的な複雑さを覆い隠し、ユーザーが本当に求める「シンプルさ」と「喜び」を形にすることに長けていた。

AIが私たちの生活に深く入り込む未来において、その力を真に引き出すのは、計算能力の向上だけではない。AIの能力を、いかに人間にとって自然で、直感的で、そして感情に訴えかける「体験」として提供できるか、その鍵を握るのは「デザイン」である。OpenAIは、最高のAI技術という「脳」を手に入れ、そこにJony Ive氏という最高の「心」と「手」を加えようとしているのだ。

もちろん、この道のりには課題も山積している。新しいフォームファクターのデバイスが、既存のスマートフォンの利便性を超えることができるのか。プライバシーや倫理的な問題にどう向き合うのか。AIが人間の生活をより豊かにする「ツール」であり続けるために、デザインの力がいかに貢献できるのか。

この提携は、単に新しいガジェットが一つ増えるという話に留まらない。AIが我々の生活や仕事、創造性とどのように関わっていくのか、その未来の姿を提示するものになるかもしれない。iPhoneがかつてモバイルコンピューティングに革命を起こしたように、新たなAIハードウェアが今度はAIとの関わり方において、新たなパラダイムシフトを生み出すことになるのだろうか?


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