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NVIDIA、2026年第1四半期決算はAI需要爆発で予想を超える結果:しかし中国市場リスクが深刻な影を落とす

Y Kobayashi

2025年7月10日

NVIDIAが2026年第1四半期の決算を発表し、売上高、利益ともに市場予想を上回る力強い結果を示した。牽引役は依然として旺盛なAI(人工知能)チップ需要であり、同社の株価は時間外取引で5%以上急騰するなど、市場は好感した。しかし、その輝かしい業績の裏では、米国の対中輸出規制による深刻な影響が顕在化しており、今後の成長に大きな影を落としている。

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AIの巨人が示した圧倒的成長力:Q1決算詳細

NVIDIAが示した成長力は、まさに「AIの巨人」と呼ぶにふさわしいものだった。

売上・利益ともに市場予想を上回る

第1四半期の売上高は441億ドルに達し、前年同期比で69%増、前四半期比でも12%増という驚異的な伸びを記録した。これはアナリスト予想の平均である432億ドル(LSEG調べでは433.1億ドル)を大きく上回る結果だ。

純利益は188億ドル(GAAPベース)、1株当たり利益(EPS)はGAAPベースで0.76ドル、非GAAPベースでは0.81ドルだった。 特に注目すべきは、中国向けH20チップに関する45億ドルの費用計上を除いた場合の非GAAPベースの希薄化後EPSで、これは96セントとなり、アナリスト予想の75セント(または93セント)を上回った。

この好決算を受け、NVIDIAの株価は時間外取引で一時6%近く上昇し、投資家の高い期待に応えた形だ。

データセンター事業が引き続き成長を牽引

NVIDIAの成長を力強く牽引しているのは、AIチップを含むデータセンター事業だ。同事業の第1四半期売上高は391億ドルに達し、前年同期比で73%増、前四半期比で10%増と、引き続き高成長を維持している。 この売上はNVIDIA全体の88%を占めるに至っており、AIインフラへの投資がいかに巨大であるかを物語っている。

NVIDIAの創業者兼CEOであるJensen Huang氏は、「当社の画期的なBlackwell NVL72 AIスーパーコンピュータ — 推論のために設計された『考える機械』— は、現在、システムメーカーやクラウドサービスプロバイダー全体で本格的な生産に入っています」「NVIDIAのAIインフラに対する世界的な需要は信じられないほど強力です。AI推論トークンの生成はわずか1年で10倍に急増しており、AIエージェントが主流になるにつれて、AIコンピューティングの需要は加速するでしょう」と述べ、AI市場の力強い成長と自社の主導的地位に自信を示した。

大手クラウドプロバイダーがデータセンター部門の収益の半分弱を占め、ネットワーキング製品の売上も50億ドルに上ったと報告されている。 特にMicrosoftは数万基のBlackwell GPUを既に導入しており、OpenAIとの関係から、同社の次世代製品GB200は数十万基規模での導入が見込まれているという。

ゲーミング、プロフェッショナル分野も堅調

かつてNVIDIAの主力事業であったゲーミング部門も好調を維持している。第1四半期の売上高は過去最高の38億ドルを記録し、前年同期比で42%増、前四半期比で48%増となった。 新しいGeForce RTX 5070およびRTX 5060の発表や、6月5日に発売予定の任天堂の新コンソール「Nintendo Switch 2」にNVIDIA製プロセッサとAIを活用したDLSS技術が搭載されることなどが好材料として挙げられる。

プロフェッショナルビジュアライゼーション部門の売上高は5億900万ドル(前年同期比19%増)、自動車およびロボティクス部門の売上高は5億6700万ドル(前年同期比72%増)と、他の事業分野も堅調な成長を見せている。

重くのしかかる中国リスク:H20チップ輸出規制の爪痕

輝かしい決算の一方で、米政府による中国向け高性能AIチップの輸出規制は、NVIDIAの業績に深刻な影響を与え始めている。

Q1決算への直接的打撃:数十億ドル規模の損失

NVIDIAは、2025年4月9日に米国政府から、中国市場向けのH20製品の輸出にライセンスが必要であるとの通知を受けた。 この新たな要件の結果、H20の需要が減少し、NVIDIAは第1四半期にH20の余剰在庫および購入義務に関連して45億ドルという巨額の費用を計上した。 さらに、この規制により、第1四半期には追加で25億ドル分のH20製品の収益を計上できなかったことも明らかにされている。

この費用計上がなければ、第1四半期の非GAAPベースの粗利益率は71.3%に達していたはずであり、実際の61.0%(非GAAP)という数字がいかに大きな影響を受けたかを示している。

Huang CEO「中国市場は事実上閉鎖」発言の衝撃

Huang CEOは決算発表後の投資家向け電話会議で、中国のAIチップ市場(約500億ドル規模)について「米国企業にとって事実上閉鎖された」と述べ、さらに「H20の輸出禁止は、中国における当社のHopperデータセンター事業を終わらせた」と厳しい認識を示した。 この発言は、輸出規制がNVIDIAの中国事業に与える影響の深刻さを改めて浮き彫りにした。

Q2以降も続く影響:80億ドルの売上減見通し

NVIDIAが示した第2四半期の売上高見通しは約450億ドル(プラスマイナス2%)だが、これはH20チップの輸出規制による約80億ドルの収益損失を織り込んだ数字だ。 もしこの規制がなければ、売上高見通しは530億ドル規模になっていた可能性があり、規制のインパクトの大きさがうかがえる。

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「中国市場から排除される可能性」:NVIDIAが公式文書で示した危機感

影響は一時的なものに留まらない可能性が高い。NVIDIAは、米国証券取引委員会(SEC)への提出書類(Form 10-Q)の中で、中国市場における将来のリスクについて、より踏み込んだ懸念を表明している。

10-Qファイリングが示す最悪のシナリオ

NVIDIAはその10-Qファイリングの中で、「米国政府の承認を得られる中国のデータセンター市場向けの競争力のある製品を作成できない可能性がある」と記述。さらに、「その場合、当社は中国のデータセンターコンピューティング市場での競争から事実上排除されることになり、当社の事業に重大かつ悪影響が及ぶだろう」と、極めて厳しい見通しを示している。 これは、単なる収益機会の損失に留まらず、中国という巨大市場からの「事業撤退」に近い状況に追い込まれるリスクをNVIDIA自身が認識していることを意味する。

現地企業Huaweiの猛追:米規制が招いた新たな競争環境

米国の輸出規制は、NVIDIAにとって逆風である一方、中国の現地企業にとっては追い風となっている側面がある。特に、Huaweiは高性能AIチップ「Ascend」シリーズで急速に存在感を高めており、一部ではNVIDIAのH100チップに匹敵する性能を持つとも報じられている。

NVIDIAは中国市場向けに性能を落としたAIチップ(例えばH20)の提供を余儀なくされており、今後投入が噂される中国市場向けBlackwellチップも、GDDR7のような比較的性能の低い技術を採用する可能性が指摘されている。 このような状況下では、Huaweiなどの現地企業製品に対して性能面での優位性を保つことが難しくなり、NVIDIAのソフトウェアエコシステムの強みをもってしても、苦戦を強いられる可能性は否定できない。

未来への布石と楽観論:Huang CEOが語るAIの未来とNVIDIAの戦略

中国市場での逆風にもかかわらず、Huang CEOはAIの未来とNVIDIAの成長戦略について楽観的な見通しを崩していない。

Blackwellアーキテクチャへの絶対的な自信

NVIDIAの最新AIプラットフォームであるBlackwellアーキテクチャは、市場から高い評価を得ており、CEOは「Blackwell NVL72 AIスーパーコンピュータがフルスケール生産に入った」と強調。 また、Kress CFOも「Blackwellアーキテクチャの立ち上がりは全ての顧客カテゴリーに拡大している」と述べており、新製品への期待は大きい。

世界各国でのAIインフラ投資とNVIDIAの役割

Huang CEOは、「世界中の国々が、AIを電気やインターネットと同様に不可欠なインフラとして認識しており、NVIDIAはこの深遠な変革の中心に立っている」と述べ、グローバルなAIインフラ投資の拡大が続くと予測。 実際にNVIDIAは、米国でのAIスーパーコンピュータ工場の建設、サウジアラビアのHUMAINとのAI工場建設パートナーシップ、アラブ首長国連邦(UAE)アブダビでの次世代AIインフラクラスター「Stargate UAE」の発表、台湾政府やFoxconnとのAIファクトリースーパーコンピュータ建設計画など、世界各地でAIインフラ構築を積極的に推進している。

ゲーミング市場でのリーダーシップ継続とAI PCへの期待

ゲーミング分野でも、新型GeForce RTX 50シリーズの投入や、AI PC市場の拡大を見据えた動きを活発化させている。 GeForceのユーザーベースは1億人に達しており、MicrosoftのCopilot+ AI技術を実行できるAI PCモデルへの対応も進めている。

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NVIDIAの光と影

NVIDIAの現状はまさに光と影が交錯していると言えるだろう。

短期的には好調維持も、長期的には地政学リスクが最大の懸念

AIに対する圧倒的な需要は、短期的にはNVIDIAの業績を支え続けるだろう。Blackwellプラットフォームの競争力も高く、データセンター事業の成長は当面続くと考えられる。しかし、米中対立を背景とした輸出規制は、NVIDIAにとってコントロール不可能な最大の地政学リスクだ。中国市場での収益機会の損失は既に現実のものとなっており、今後規制がさらに強化されたり、他の国・地域にも拡大したりする可能性もゼロではない。

AIチップ開発競争の行方:ソフトウェアエコシステムの優位性は保てるか?

ハードウェアの性能競争に加え、中国国内ではHuaweiのような強力な競合が登場している。NVIDIAの強みであるCUDAを中心としたソフトウェアエコシステムは依然として大きな参入障壁ではあるものの、中国企業が独自の代替エコシステムを構築しようとする動きも加速する可能性がある。NVIDIAが中国市場で「事実上排除される」ような事態になれば、グローバルなAI開発の分断が進むリスクも考えられる。

注目すべきポイント

今後のNVIDIAの株価や業績を占う上で、以下の点に注目すべきだろう。

  • 米国の対中輸出規制の動向: 規制の緩和や強化、対象品目の変更などがNVIDIAの業績に直接的な影響を与える。
  • 中国市場向け製品戦略: 規制下でどのような製品を投入し、どこまで市場シェアを維持できるか。
  • Blackwellプラットフォームの浸透度: 特に大手クラウドプロバイダーやエンタープライズ市場での採用状況。
  • 競合他社の動向: AMDやIntel、そしてHuaweiなどの中国企業がどこまでNVIDIAに迫れるか。
  • AI市場全体の成長持続性: 現在の爆発的なAI投資がいつまで続くのか、その質的変化。

AI時代の覇者は試練を乗り越えられるか

NVIDIAは、AIという巨大な追い風を受け、驚異的な成長を続けている。その技術力、製品力、そしてエコシステムは他社を圧倒しており、当面その優位性は揺るがないように見える。しかし、米中対立という大きな地政学的リスクは、同社の将来に暗い影を落としている。特に中国市場での事業継続性には深刻な懸念が生じており、NVIDIA自身もその危機感を隠していない。

AI時代の覇者として君臨するNVIDIAは、この未曾有の試練を乗り越え、さらなる成長を遂げることができるのか。その動向は、テクノロジー業界全体の未来を左右すると言っても過言ではないだろう。今後のNVIDIAの戦略と、それを取り巻く国際情勢から目が離せない。


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