テクノロジーと科学の最新の話題を毎日配信中!!

中国メモリ最大手CXMT、DDR4生産を国策で電撃終了へ:DDR5・HBMシフトが招く市場の激変とAI覇権の行方

Y Kobayashi

2025年5月29日

中国のメモリ大手、長鑫存儲技術(CXMT)が、DRAM市場に大きな影響を与える動きを見せている。同社は、比較的最近量産を開始したばかりのDDR4メモリの生産を大幅に縮小し、次世代のDDR5およびAI(人工知能)分野で需要が急増しているHBM(High-Bandwidth Memory)へと急速に軸足を移す方針を固めた模様だ。この大胆な戦略転換の背景には、AIおよびクラウドインフラにおける国家的なリーダーシップ確立を目指す中国政府の強力な意向があると見られている。この急ピッチな動きは、世界のメモリ市場の勢力図を塗り替える可能性を秘めている一方で、技術的な課題や市場への影響も懸念される。一体何が起きており、今後どのような展開が予想されるのだろうか。

スポンサーリンク

衝撃のDDR4生産終了計画:背景に透ける「国家の意志」

DigiTimesの報道によると、CXMTはPCおよびサーバー向けのDDR4メモリ生産を2026年中頃までに段階的に終了させる計画だという。この動きは、業界関係者にとって大きな驚きをもって受け止められている。なぜなら、CXMTがDDR4の本格的な量産を開始したのは2024年後半と、ごく最近のことだからだ。同社は積極的な価格戦略で市場シェアを拡大し、既存のメモリ大手である韓国のSamsung ElectronicsやSK Hynix、米国のMicron Technologyといった巨大企業を揺さぶり始めた矢先だった。

この急転換の背後には、中国政府の強い意向があると見られている。中国は、AIおよびクラウドコンピューティング分野での世界的なリーダーシップ確立を国家目標として掲げており、その達成には高性能な半導体が不可欠だ。DDR4から、より高速・大容量なDDR5、そしてAIチップの性能を最大限に引き出すHBMへと国内トップメーカーのリソースを集中させることは、この国家戦略に合致する。中国がAIとクラウドインフラの主導権を握ろうとしていることは明白であり、そのために国内ハイテク企業を最前線に立たせようとしていると見られる。

業界アナリストによれば、CXMTは早ければ2025年の第3四半期にもDDR4のEOL(End of Life:生産終了)通知を正式に発表する可能性があるという。

CXMTの急成長とDRAM市場への地殻変動

CXMTは、米国の先端半導体製造装置への輸出規制という逆風下にありながらも、驚異的なスピードで生産能力を拡大してきた。DigiTimesは、同社のウェハー生産能力が2025年末までに月産28万枚から30万枚に達し、世界のDRAM市場で最大15%のシェアを握る可能性があると予測している。これは、長らくSamsung、SK hynix、Micronの3強が支配してきたDRAM市場の勢力図を塗り替えるインパクトを持つ。

今回のCXMTによるDDR4生産終了の動きは、既に市場に影響を与え始めている。DigiTimesによれば、CXMTのDDR4撤退の噂が広まったことで、中国国内ではNanyaブランドの8Gb DDR4チップの価格が、従来の1ドル強から2.5ドルへと2倍以上に急騰しており、一部の8GB DDR4チップ価格が150%も跳ね上がったことも報じられており、DDR4の供給逼迫と価格高騰は現実のものとなりつつある。皮肉なことに、CXMTのDDR4市場参入は当初、価格競争を激化させると見られていたが、その早期撤退が逆に価格を押し上げる要因となっているのだ。

この動きは、他の主要メモリメーカーの戦略にも影響を与える可能性がある。既にSamsung、SK hynix、Micronも2025年中にDDR3およびDDR4の生産を終了する計画を最終決定したことが報じられており、CXMTの動きがこの流れをさらに加速させるかもしれない。

スポンサーリンク

DDR5への大シフト:品質と歩留まりという名の試練

CXMTはDDR4から撤退する一方で、DDR5メモリへの生産シフトを急加速させる。計画では、2025年末までに同社のDRAM生産量の60%以上がDDR5になる見込みだ。並行して、スマートフォン向けのLPDDR4やLPDDR5の生産も継続し、国内ブランドへの供給を担う。なお、DigiTimesによれば、一部のDDR4生産ラインは、GigaDeviceのような企業向けの消費者用製品の委託生産のために維持される可能性も示唆されている。

しかし、この野心的なDDR5への移行には、品質と歩留まりという大きな課題が横たわっている。DigiTimesが台湾の複数企業から得た情報として報じたところによると、CXMTが2025年第1四半期に提供したDDR5のサンプルは、主要なテストで不合格となったケースがあるという。特に深刻なのは動作温度の問題で、CXMT製のDDR5チップは摂氏60度を超えると動作が不安定になるのに対し、例えばSamsung製のDDR5チップは摂氏85度までの安定動作が保証されている。低温環境下での安定性についても疑問視されており、これはサーバーなど高信頼性が求められる用途では致命的な欠点となりかねない。実際、中国国内ブランドが販売する高性能なDDR5ゲーミングメモリモジュールでさえ、依然としてSamsungやSK hynixといった韓国メーカー製のチップに依存しているのが現状だ。

それでも、DigiTimesは、こうした品質に関する懸念があるにもかかわらず、CXMTによるDDR5の量産体制への移行は「ほぼ不可避」であるとの見方を示している。もし、品質面で劣るものの安価なCXMT製DDR5チップが市場に大量に流通するようになれば、DRAM市場全体の価格競争を激化させ、既存メーカーの収益性を圧迫する可能性も指摘されている。2025年中頃までは世界のDDR5供給は逼迫した状態が続くと予想されるものの、その後、中国からの大量供給が市場の需給バランスを不安定にする恐れも否定できない。

HBMへの注力:AI時代の戦略的キーデバイス

DDR5へのシフトと並行して、CXMTが特に注力するのがHBMだ。報道によれば、CXMTはHBM3チップの年内検証完了を目指しているという。HBMは、AIアクセラレータや高性能コンピューティング(HPC)に不可欠な積層メモリであり、その性能はAIシステムの能力を大きく左右する。現在、HBM市場はSK hynixが先行し、SamsungやMicronが追う展開となっているが、ここに中国勢が割って入ろうとしている。

HBM技術の国産化と安定供給体制の確立は、中国がAI分野で米国に対抗し、覇権を握るための最重要課題の一つと言える。Huaweiのような中国企業が、国産の高性能HBMを安定的に調達できるようになれば、米国の制裁下でもAI開発を加速させることが可能になる。

スポンサーリンク

世界のメモリ業界への波紋と今後の展望

CXMTのDDR4生産終了とDDR5/HBMへの急転換は、世界のメモリ市場に多方面で影響を及ぼすだろう。

  1. DDR4価格の不安定化: 短期的にはDDR4の供給不足から価格が高止まり、あるいはさらに上昇する可能性がある。DDR4を搭載したPCやサーバーのコスト増に繋がるかもしれない。
  2. DDR5への移行加速: DDR4の入手性が悪化し価格が上昇すれば、ユーザーやメーカーはより積極的にDDR5へと移行するインセンティブが働く。ただし、CXMT製DDR5の品質と供給量が市場の期待に応えられるかが鍵となる。
  3. 新たな価格競争の勃発: CXMTが品質面での課題を抱えつつもDDR5の大量供給を開始した場合、特に低価格帯市場で激しい価格競争が起こり、既存メーカーの収益性を圧迫する可能性がある。
  4. HBM市場の競争激化: CXMTがHBM市場に本格参入すれば、現在は韓国勢がリードする市場にも価格競争と技術開発競争の新たな波が押し寄せるだろう。
  5. 地政学リスクの高まり: 半導体、特にメモリは国家安全保障にも関わる戦略物資だ。中国政府主導による今回の動きは、米中技術覇権争いをさらに激化させ、サプライチェーンの分断や地政学的な緊張を高める要因となり得る。

私たち消費者にとっては、DDR4からDDR5への移行期において、メモリ価格の動向や製品選択が一層複雑になる可能性がある。また、企業にとっては、部品調達戦略の見直しや、サプライチェーンリスクへの備えがより重要になるだろう。

今回のCXMTの戦略転換は、単なる一企業の経営戦略の転換というよりも、米中技術覇権争いという大きな文脈の中で捉えるべき、地政学的な重要性を持つ出来事と言えるだろう。DDR4からDDR5への移行期という技術的な転換点と、国家戦略が複雑に絡み合う中で、CXMTがどのような道を歩むのか、そしてそれが世界のメモリ市場にどのような影響を与えるのか、引き続き注視していく必要がありそうだ。


Sources

Follow Me !

\ この記事が気に入ったら是非フォローを! /

フォローする
スポンサーリンク

コメントする