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OpenAI、世界へ「民主的AI」の種を蒔く新構想「OpenAI for Countries」発表、国家規模のAIインフラ構築を支援

Y Kobayashi

2025年5月8日1:25PM

OpenAIが、各国政府と連携し、AIインフラ構築を支援する新たなグローバル戦略「OpenAI for Countries」を発表した。米国内で進行中の巨大AIインフラ投資「Stargateプロジェクト」の国際版とも言えるこの構想は、AI技術の恩恵を世界に広げると同時に、「民主的なAI利用」の価値観を根付かせる狙いがあると見られる。この野心的な計画は、世界のAI覇権争いや各国の経済成長にどのような影響を与えるのだろうか。

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米国発「Stargate」の成功体験を世界へ、OpenAIが描く壮大なAIインフラ構想

OpenAIは、Trump米大統領、SoftBank、Oracleといったパートナーと共に、米国におけるAIインフラへの前例のない投資計画「Stargateプロジェクト」を1月に発表していた。 このプロジェクトはテキサス州アビリーンでの最初のスーパーコンピューティングキャンパス建設を皮切りに、今後も拠点を拡大していく予定だ。

この米国内での取り組みに対し、多くの国々から同様のAIインフラ構築支援を求める声が上がったという。 OpenAIは、「この種のインフラが将来の経済成長と国家発展のバックボーンになることは誰の目にも明らかだ」と述べ、こうした国際的な需要に応える形で「OpenAI for Countries」を立ち上げるに至ったと説明している。 これは、AIが人間の創意工夫そのものをスケールアップさせ、学習、思考、創造、生産といった自由を拡大することで、さらなる繁栄をもたらすという同社の信念に基づいている。

OpenAIでグローバルポリシー担当バイスプレジデントを務めるChris Lehane氏によれば、このプログラムはパリで開催されたAIアクションサミット後、複数の国が独自の「Stargate」風プロジェクトに関心を示したことを受けて具体化したという。

「民主的AI」の普及を目指し、権威主義的AIに対抗

OpenAIがこの構想で特に強調するのが「民主的AI」の推進だ。 これは、AIの開発、利用、展開において、長年にわたる民主主義の原則を保護し、組み込むことを意味する。具体的には、人々がAIの利用方法や指示方法を自由に選択できること、政府がAIを権力集中のために利用することを防ぐこと、そして自由な競争を保証する自由市場の確立などが挙げられる。

同社は、「民主的なAIレール」の上での構築を望む国々を支援し、AIを権力強化に利用するような「権威主義的なAI」に対する明確な代替案を提供する必要性を訴えている。 この点において、米国政府との緊密な連携が民主的AIを推進する最善の方法であるとも述べており、この構想が単なる技術協力に留まらない、地政学的な側面も持つことを示唆している。

具体的な支援策:データセンターからカスタマイズChatGPT、そして人材育成まで

「OpenAI for Countries」では、米国政府との連携のもと、関心を持つ政府に対して以下のような多岐にわたるパートナーシップを提供する。

  • 国内データセンター能力の構築支援: 安全なデータセンターの設置により、各国のデータ主権をサポートし、新たな国内産業を育成。AIのカスタマイズやデータのプライベートかつコンプライアンスに準拠した活用を容易にする。
  • カスタマイズされたChatGPTの市民への提供: 各国の言語や文化に合わせてローカライズされたChatGPTを提供し、医療や教育の改善、公共サービスの効率化などを支援する。
  • AIモデルのセキュリティと安全管理の継続的な進化: モデルの高性能化に伴い、データセンターや物理セキュリティを含むプロセスと管理への投資を継続。AIの安全性の一環として、民主的プロセスと人権の尊重を重視し、AIを形作るための世界的な民主的インプットに関する将来の方向性について協力していく。
  • 国内スタートアップファンドの共同設立・運営: 現地資本とOpenAIの資金を組み合わせ、健全な国内AIエコシステムを育成。新たな雇用、企業、収益、コミュニティを創出しつつ、既存の官民セクターのニーズもサポートする。
  • グローバルStargateプロジェクトへの投資: パートナー国は、世界規模のStargateプロジェクト拡大にも投資し、米国主導のAIリーダーシップと民主的AIのグローバルなネットワーク効果の成長に貢献する。

OpenAIは、このイニシアチブの第一段階として、個別の国または地域との間で10件のプロジェクトを推進することを目指している。 以前の報道では、OpenAIが英国、フランス、ドイツに関心を示していたことも伝えられている。

米国主導の枠組みと、欧州への期待と課題

注目すべきは、この構想が明確に「米国主導のAIリーダーシップ」を前提としている点だ。 パートナー国は、OpenAIの技術やノウハウの提供を受ける一方で、米国のStargateプロジェクトへの投資も行うことで、結果的に米国のAIにおける優位性を強化する構造となっている。

OpenAIは欧州に対しても独自の「経済的青写真」を提示し、EU加盟国にAI開発における積極的な役割を求めているようだ。 具体的には、2030年までにEUの計算能力を300%増加させる「AI計算スケーリング計画」、再生可能エネルギープロジェクトを迅速に進め2030年までにカーボンニュートラルなAIインフラを構築する「グリーンAIグリッド」、2027年までに医療、産業、環境、公共データのためのセクター別「EU AIデータスペース」の創設、10億ユーロ規模の「AIアクセラレーターファンド」の立ち上げ、2030年までに1億人のヨーロッパ人を基本的なAIスキルで訓練すること、そして各国の「AI準備責任者」の任命と年次「欧州AI準備指数」の発行などを提案している。

しかし、ここでは、OpenAI自身の具体的なコミットメントは少なく、むしろ要求リストが提示されており、このシナリオにおけるヨーロッパの役割は、米国主導のAIの市場およびインフラ提供者としての側面に留まるのではないかと見られる。 OpenAIはEUの断片化された規制環境を批判しつつ、EU AI法については大筋で支持するものの、より調和の取れた実施を求めているという。

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「OpenAI for Countries」が拓く未来と、見据えるべき論点

OpenAIの新たな一手は、AI技術の普及と民主主義的価値観の拡大という崇高な理念を掲げる一方で、米国の技術覇権を維持・強化しようとする国家戦略の一環という側面も否定できないだろう。各国にとっては、最先端のAI技術導入による経済成長や社会課題解決への期待が高まる一方、データ主権の確保や米国への技術的・経済的依存の深化といった課題も慎重に検討する必要がある。

「民主的AI」という理念が、各国の文化や価値観とどのように調和していくのか、そして真に開かれた形でAIの恩恵を世界中の人々にもたらすことができるのか。OpenAIの壮大な実験は、まだ始まったばかりだ。


Sources

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