Googleが、年に数回のお楽しみである大規模機能アップデートの配信を開始した。Pixelユーザー待望の「June 2025 Pixel Feature Drop」と、より広範なAndroidデバイスに恩恵をもたらす「Android Feature Bundle」が、本日より順次展開される。
今回のアップデートは、安定版となった「Android 16」のリリースと足並みを揃え、AIを活用したクリエイティブ機能の強化、ユーザー同士の繋がりを深める新提案、そして日常の利便性を劇的に向上させる改善が満載だ。
果たして、あなたのスマートフォンやスマートウォッチはどのように進化するのか。本記事では、元Googleエンジニアでテクノロジージャーナリストである筆者が、今回のアップデートの全貌を、どこよりも深く、そして分かりやすく徹底解説する。
Pixelユーザー必見!6月の「Pixel Drop」であなたのスマホはこう変わる
Pixelシリーズに限定して提供される「Pixel Drop」は、Pixelならではの特別な体験が提供される。今回の6月のPixel Dropでは以下の新機能が追加された。
人間関係を可視化する新ウィジェット「Pixel VIP」
今回の目玉機能の一つが、連絡帳アプリから利用できる新ウィジェット「Pixel VIP」だろう。これは単なる連絡先のショートカットではない。最大8人までの大切な人(VIP)をホーム画面に設定することで、その人との「関係性」を常に身近に感じられる新しい試みだ。


設定したVIPの情報として、以下のようなものがウィジェット上でスマートに表示される。
- 最新のコミュニケーション: 最後の通話履歴やメッセージ(GoogleメッセージだけでなくWhatsAppにも対応)
- リアルタイム情報: 共有された現在地や、現地の天気・時間
- 重要なイベント: 近日中の誕生日や記念日
- パーソナルなメモ: ギフトのアイデアや一緒にやりたいことなどを記録できるメモ機能
さらに、VIPに設定した連絡先は「おやすみモード」を自動でバイパスするため、緊急の連絡を見逃す心配もない(この設定はオフにすることも可能)。


筆者はこれを、アナログな手帳に親しい友人の情報を書き留めておく感覚の、デジタル版リブートだと捉えている。Googleは、単なる情報のハブとしてではなく、ユーザーの人間関係を豊かにするツールとしてスマートフォンを再定義しようとしているのかもしれない。この機能はPixel 6以降のデバイスで利用可能だ。
Gboardが進化、AIで“何でも”ステッカーに

コミュニケーションを彩るもう一つの強力な新機能が、Gboardキーボードに統合されたAIステッカー生成機能だ。これまでもPixel StudioアプリでAIステッカーを作成できたが、今回のアップデートにより、アプリを切り替えることなく、Gboard内で直接ステッカーを生成できるようになった。
使い方は驚くほどシンプルだ。「興奮するジェリービーンのアボカド」「サングラスをかけた悲しそうなヒトデ」といったように、テキストプロンプト(指示文)と感情を選ぶだけで、Pixelの生成AIがユニークなステッカーをその場で作り出してくれる。
さらに、カメラロール内の写真から人物やオブジェクトを切り抜いて、オリジナルステッカーを作成することも可能だ。この機能は、日常のチャットにこれまでにない創造性と楽しさをもたらすだろう。ただし、提供はPixel 9以降のデバイスに限定され、言語も英語、日本語、ドイツ語からスタートする。
バッテリー寿命を可視化、「バッテリーの状態」表示機能
多くのユーザーが待ち望んでいたであろう「バッテリーの状態」を確認する機能が、ついに正式に搭載された。これは、iPhoneの「バッテリーの状態」機能と同様に、日々の充電・使用パターンを分析し、バッテリーの推定最大容量をパーセンテージで表示するものだ。
これにより、ユーザーは自身のバッテリーの健康度を客観的に把握し、バッテリー交換のタイミングを判断しやすくなる。しかし、ここで一つ注意点がある。この機能はPixel 8aおよびPixel 9シリーズで利用できるが、現時点ではPixel 8およびPixel 8 Proは対象外となっている。この奇妙な線引きの理由は不明だが、今後のアップデートでの対応拡大が期待される。
カメラやアクセシビリティも着実に進化


その他にも、Pixel体験を向上させる細やかなアップデートが多数含まれている。
- Pixelカメラの教育ハブ: カメラアプリの右上に新設された「?」アイコンをタップすると、各撮影モードの作例や使い方のヒントが表示される。これにより、ユーザーはPixelカメラのポテンシャルを最大限に引き出すことができるだろう。
- 拡大鏡アプリのライブ検索: 視覚補助機能である拡大鏡アプリが、カメラをかざすだけでリアルタイムにテキストを検索・ハイライトする「ライブ検索」に対応。メニューや書類から特定の単語を探す際に非常に役立つ。
- 補聴器サポートの強化: Android 16の恩恵により、Pixel 9以降のデバイスではBluetooth LE Audio対応補聴器のネイティブコントロールが可能に。通話や音量調整がよりシームレスになる。
これらの機能に加え、「衛星 SOS」のオーストラリアでの提供開始や、「レコーダー」アプリのAI要約機能の多言語化(フランス語、ドイツ語対応)、同アプリの背景ノイズ除去機能「クリア音声」のPixel 8シリーズへの展開など、既存機能の拡充も行われている。
Pixelだけじゃない!すべてのAndroidユーザーに恩恵をもたらす新機能
今回のアップデートはPixelユーザーだけのものではない。「Android Feature Bundle」として、多くのAndroidスマートフォンや関連デバイスにも新たな機能が提供される。
Wear OSが劇的に便利に!待望の「タップ&ライド」決済がついに実現
Wear OSユーザーにとって、これは最大のニュースかもしれない。Google Walletに「Express Transit(エクスプレス乗車)」機能が搭載され、公共交通機関での支払いが劇的に高速化される。
これまでは、改札でWalletアプリを起動し、目的の交通系ICカードを選択してからリーダーにタッチする必要があった。しかし新機能では、スマートウォッチの画面がオフの状態でも、ただリーダーにかざすだけで支払いが完了する。日々の通勤・通学のストレスを大きく軽減する、まさに「待望」のアップデートと言えるだろう。
Googleフォトに強力なAI編集ツールが広く展開
先月、Pixel 9シリーズ向けに発表されたGoogleフォトの新しいAI編集ツールが、いよいよ多くのAndroidユーザーに展開される。「Reimagine(再創造)」や「Auto Frame(オートフレーム)」といった生成AIを活用したツールにより、写真の編集がより直感的かつパワフルになる。
日常を彩る細やかな改善点
その他にも、以下のような実用的な改善が行われている。
- Googleメッセージ: RCS(次世代メッセージング規格)を利用したグループチャットで、アイコンを自由にカスタマイズ可能になった。
- Google Home: スマートフォン、Google TV、Wear OSといったデバイスごとに、「お気に入り」に登録するスマートホーム機器を個別に設定可能に。利用シーンに応じた最適なコントロールが実現する。
- パーソナルセーフティ: 緊急時に備える「安全確認」機能で、設定したタイマーの時間を後から簡単に延長できるようになった。
Googleが描く「AIとアンビエント」の未来
今回のアップデート群を俯瞰すると、Googleが目指す明確なビジョンが見えてくる。それは「AIによるパーソナライゼーションの深化」と、「デバイスの垣根を越えたアンビエントコンピューティングの実現」だ。
「Pixel VIP」は、AIがユーザーの人間関係を理解し、より円滑なコミュニケーションを助ける未来を予感させる。「GboardのAIステッカー」は、生成AIを日常の表現ツールとして誰もが使えるようにする試みだ。これらは、AIが私たちの生活に自然に溶け込んでいく「AI Everywhere」という大きな流れの一部である。
一方で、「Google Homeのお気に入り」の進化や、「Wear OSのタップ&ライド」は、ユーザーがどのデバイスを手に取っても、意識することなく一貫した体験が得られる「アンビエントコンピューティング」の思想を色濃く反映している。スマートフォンも、ウォッチも、テレビも、すべてが連携し、ユーザーを中心とした一つの大きなコンピュータとして機能する。
今回のアップデートは、その未来に向けた着実な、そして非常に重要な一歩と言えるだろう。
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