ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が、通常版PS5向けのAIアップスケーリング技術「QSSR」を発表した。日本向けの案内では、2026年10月2日配信のパッチで『Marvel’s Wolverine』と『Ghost of Yōtei』に新しいグラフィック設定が加わる。PS5 Proで提供してきたAIによる画質改善が、処理を効率化した別の技術として通常機にも届く。ただし、映像を鮮明にする処理にも計算負荷はかかるため、QSSRの価値を見極めるには、見た目の改善とフレームレート、ゲームが内部で描く解像度を合わせて見る必要がある。
通常版PS5にも、ゲームごとのAI画質設定が加わる
QSSRは「Quick Spectral Super Resolution」の略で、日本語の公式名称はクイックスペクトルスーパーレゾリューションだ。低い解像度で描いたゲーム映像を、AIを使ってより精細な画像へ再構成する。SIEは、PS5 Pro向けのPSSRに対して、通常版PS5の処理能力に合わせた新たな選択肢と位置づけている。
SIEの日本語発表は、最初に対応する2作品のパッチ配信日を10月2日と案内した。英語版の発表は10月1日付で、同日配信と記している。日本のプレイヤーが確認すべきなのは、日本向けに案内されたゲームの更新と、各作品のグラフィック設定である。
今回の導入はゲーム別のパッチで行われる。SIEはQSSRをPlayStation向けの全開発者に広く提供していくとしているが、それだけで手持ちの全ゲームが一斉に対応するわけではない。
画質改善の狙いも、静止画の輪郭をくっきりさせることに限らない。Insomniac Gamesの技術責任者Mike Fitzgerald氏は、『Marvel’s Wolverine』の市街地で細部がより鮮明かつ安定して描かれると説明した。Sucker Punch ProductionsのJasmin Patry氏も、『Ghost of Yōtei』のキャラクターや風景の細部に加え、時間的な安定性を挙げている。カメラや物体が動いても細い線がちらついたり、葉の周囲に残像が出たりしにくくすることが、画質向上の一部なのである。
開発元の評価に加え、Digital Foundryの独自検証も改善を報告している。同媒体のRichard Leadbetter氏は、事前に約6時間、2作品を試用し、細部の再現や動く映像の安定性、葉の残像などを確認した。『Marvel’s Wolverine』では改善が大きい一方、もともと画質が良好だった『Ghost of Yōtei』では変化が比較的控えめだったという。効果の幅は、置き換える従来方式やゲームの映像によっても変わる。
専用AI回路のないPS5で、どう動かしたのか
SIEがQSSRの基盤として挙げたのは、効率化されたニューラルネットワークの構造と、通常版PS5向けに最適化した実装のふたつだ。従来のPSSRをそのまま通常機で使えるようにしたものではなく、画質と処理負荷の釣り合いを取り直している。
Digital Foundryの取材に対し、SIEのグラフィックス研究開発部門でプリンシパルエンジニアを務めるDaniel Craig氏は、QSSRが主にFP16、つまり16ビット浮動小数点演算を使うと説明した。同媒体によると、PS5 ProのPSSRは専用の機械学習用回路とINT8(8ビット整数)命令を利用するが、通常版PS5には同じ仕組みがない。
そこでQSSRは、複数の値をまとめて扱う演算命令を多用し、計算する回路をできるだけ遊ばせず、演算に付随する負荷を減らすという。モデルを軽くするだけでは足りず、既存のハードウェアで効率よく実行する工夫も必要だった。FP16とINT8という数字は演算形式の違いであり、画質の優劣を直接示す点数ではない。
QSSRは、AMDとSIEのAIグラフィックス協業「Project Amethyst」から生まれた。PS5とPS5 ProのリードアーキテクトMark Cerny氏も、2026年2月27日のPSSR進化版の発表で、新しいアルゴリズムとニューラルネットワークが同協業に由来すると説明している。AMDのFSR 4を通じて、PCでも協業の成果が提供されてきた。
今回、その成果が通常版PS5の制約に合わせた形でも使われることになった。新しいハードウェアのための研究が、既存機の画質を改善する手段にもつながったわけだ。ただし、QSSRをPC向けFSR 4と同一のモデルや実装だとみなせる説明は、これらの発表にはない。
画質改善の代償を、作品とモードごとに見る
Digital Foundryの『Marvel’s Wolverine』検証では、1440p出力時に既存方式より約1.5~1.8ms、2160p出力時には約4.4msの追加負荷が観測された。モードが異なるため、この差を出力解像度だけの効果とは断定できない。
ここでいう負荷は、QSSRをオンにしたときに従来方式より余分にかかった時間であり、QSSRそのものの総処理時間ではない。Digital Foundryが10月1日に公開した事前試用の報告から、通常版PS5上での比較条件を分けると、次のようになる。
| 作品・動作条件 | 入力から出力への解像度 | 従来方式と比べた結果 | 読み取る際の条件 |
|---|---|---|---|
| 『Marvel’s Wolverine』のカットシーン、パフォーマンスモード、上限解除・VRR有効 | 864p → 1440p | 約1.5~1.8msの追加負荷 | Insomniacの既存方式との比較 |
| 同作品、フィデリティモード、上限解除 | 入力は報告に記載なし → 2160p | 約4.4msの追加負荷と推定 | 画質モードが異なり、上の行と同条件ではない |
| 同作品、60Hzのパフォーマンスモード、動的解像度調整 | 内部解像度を下げて調整 | フレームレートは従来方式に近く、画質は改善 | 60fpsを目標に描画負荷を調整した結果 |
| 『Ghost of Yōtei』、120Hzのパフォーマンスモード、上限解除・VRR有効 | 同じ入出力解像度かは未確認 | 既存のFSR 3とほぼ同じフレームレート | 処理速度が同等との断定には解像度の確認が必要 |
出典はDigital Foundryの検証記事。表は原報告を作品と画質モード別に分類したもので、異なる条件の数値から速度の順位や倍率を計算したものではない。上限を解除した『Marvel’s Wolverine』のふたつの試験では、QSSRを使うとそれぞれ8~10fpsの差も観測された。
それでも、60fpsを目標とするモードでは、フレームレートを大きく変えずに画質を改善できる場合がある。動的解像度調整が、QSSRの負荷に応じて内部解像度を下げるためだ。元の画像を描く負荷を減らし、そのぶん精細な画像へ再構成する処理に回す。Digital Foundryは、内部解像度が下がっても、最終的な映像の細部は良く見えたと報告している。
つまり、内部解像度の数字だけでは、画面に映る品質を判断しきれない。一方で、これはどの場面でも60fpsを維持できるという保証でもない。処理負荷と画質の配分は、ゲーム側の設定に左右される。
Craig氏も同媒体に、PS5 Proでは開発者がほぼ一様に4K出力を選び、その下で内部解像度を調整するのに対し、通常版PS5では内部解像度だけでなく、中間段階や最終出力の解像度も柔軟に設定する必要があると説明した。QSSRは、すべてのゲームを同じ条件で4K化する技術として提供されているわけではない。
PS5 Proとの差と、今後の対応をどう見ればよいか
PS5 Proには、アップスケーリング以外にも通常機との差が残る。2024年9月の発表でSIEが示した公称値は、通常版PS5比でGPUの演算ユニットが67%多く、メモリが28%高速、ゲームのレンダリングが最大45%高速というものだった。レイトレーシングの強化も別の特徴である。これらはSIEの公称値であり、すべてのゲームの実測フレームレート差を示すものではない。
QSSRを導入しても、このGPUやメモリの差は埋まらない。Proは、より高い内部解像度で元の映像を描き、PSSRで高解像度へ再構成する余力を持つ。通常機で映像のちらつきや細部が改善しても、同じゲームをProで動かした結果と等しくなるわけではない。
一方、QSSRが広がるための導入経路は用意されている。Craig氏はDigital Foundryに、すでにPSSRに対応している作品ならQSSRは基本的に差し替え可能だと説明した。ただし、ゲーム設定の調整には数日かかる場合があるという。たとえば、より高品質なテクスチャを必要なときに使えるよう、読み込みやメモリへの保持を調整する作業が挙がっている。数日という説明は技術者の目安であり、全作品の対応工数を保証するものではない。
既存作品への追加も比較的容易でリスクが低い、というのがCraig氏の見解だ。ただし、採用と配信は各開発者の判断になる。『Grand Theft Auto VI』など、今回発表された2作品以外の対応を、期待だけで確定扱いすることはできない。
通常版PS5を持つプレイヤーには、対応作品の更新後、同じ場面でQSSRのオン・オフを比べるという判断材料が増えた。静止画の鮮明さに加え、カメラを動かした際の細線や葉の見え方、操作中の滑らかさまで確かめたい。今後、既存作品への導入が増え、作品ごとに画質と処理負荷の釣り合いを確かめられるようになれば、QSSRは買い替えを伴わずに通常版PS5の映像体験を改善する、実用的な選択肢になる。
