ケーブルの煩わしさから解放され、バッテリー残量を気にすることなく、ただひたすらにゲームに没頭したい――。そんな全PCゲーマーの長年の夢に、Razerが再び本気で応えようとしている。同社は2025年6月4日(現地時間)、対応するゲーミングマウスをマウスパッド上で使用しながらワイヤレス充電できる革新的なシステム「Razer HyperFlux V2 Wireless Charging System」を発表した。価格は19,290円からと、初代モデルと比較して大幅に戦略的な価格設定となっている。
ついにベールを脱いだ「HyperFlux V2」- Razerが描く充電不要のゲーミング体験
Razerが「HyperFlux」の名を冠した製品を市場に投入するのは、2018年の初代モデル以来となる。初代HyperFluxは、専用マウス「Mamba HyperFlux」とマウスパッド「Firefly HyperFlux」のセットで33,800円と高価であり、マウス自体にバッテリーをほとんど搭載せず、パッドからの電力供給に大きく依存する(スーパーキャパシタを採用し、パッドから離すと数秒しか保持しない)という、ある意味で実験的な側面も持つ製品だった。
それから約7年。満を持して登場したHyperFlux V2は、初代のコンセプトを継承しつつ、多くの点で現実的な進化を遂げている。
発表の概要と市場へのインパクト
HyperFlux V2は、マウスパッドの表面下に充電コイルを内蔵し、対応するRazer製ワイヤレスマウスを置くだけで、ゲームプレイ中であっても継続的に充電を行うシステムだ。これにより、充電ドックやケーブル接続といった従来の充電方法の手間を完全に排除し、「充電切れによるプレイ中断」というゲーマー最大の悩みの一つを根本から解決することを目指している。

RazerのPCゲーミング部門責任者であるBarrie Ooi氏は、「HyperFlux V2は、ゲーム体験においてパフォーマンスと利便性の両方を求めるゲーマーの要求に応えるために設計されました。ゲーム用マウスをプレイしながら同時に充電できるこの新しい充電システムは、中断のないゲームプレイを実現し、当社の没入型セットアップを完璧に補完するものです」とコメントしており、その自信のほどがうかがえる。
市場には既にLogitech(ロジクール)の「PowerPlay」という同様のコンセプトを持つ製品が存在しており、Razerとしてはこの強力なライバルに対して、より洗練され、より多くのユーザーに受け入れられるソリューションを提示する必要があった。HyperFlux V2は、その回答と言えるだろうか。
価格と発売日
HyperFlux V2は、サーフェス(表面素材)の違いで2つのエディションが用意されている。
- Hard Surface Edition: 低摩擦仕上げで、素早いカーソル移動を重視するFPSプレイヤーなどに最適。価格は19,290円で、既にRazer.comなどで販売が開始されている。
- Cloth Surface Edition: 布製で、よりコントロール性を重視するプレイヤー向け。価格は同じく19,290円で、こちらは2025年8月7日の発売が予定されている。
初代が33,800円(マウス込み)だったことを考えると、HyperFlux V2の19,290円(マウスパッド単体)という価格設定には、やはり円安の影響を感じずにはいられない。既にRazerの対応マウスを所有しているユーザーにとっては、まだ手の届く価格帯と言えるだろうが、対応マウスをこれから揃える必要がある場合は、最も安価な対応マウスがRazer Basilisk V3 Proの17,980円であることから、セットで考えると初代を超える価格となり、中々手が出しにくい価格設定と言わざるを得ないだろう。
HyperFlux V2は何が新しいのか?初代からの劇的な進化と注目機能
HyperFlux V2は、単に初代モデルを焼き直した製品ではない。数々の改良点と新機能が盛り込まれており、ユーザー体験の向上に主眼が置かれているようだ。
充電方式の変更 – パック式採用で幅広いマウスに対応

初代HyperFluxが専用マウス「Mamba HyperFlux」でしか利用できなかったのに対し、HyperFlux V2は汎用性を大きく向上させた。付属の「充電パック」を対応マウス底面のカバーと交換して取り付けることで、ワイヤレス充電が可能になる仕組みだ。これにより、特定のマウスに縛られることなく、複数のRazer製ハイエンドマウスでHyperFlux V2の恩恵を受けられるようになった。これはユーザーにとって非常に大きなメリットと言えるだろう。
現時点で対応が発表されているマウスは以下の通りだ。
- Razer Basilisk V3 Pro 35K
- Razer Basilisk V3 Pro
- Razer Cobra Pro
- Razer Naga V2 Pro
これらのマウスは、元々高性能なワイヤレスマウスとして評価が高いモデルであり、HyperFlux V2との組み合わせによって、その利便性が大きく向上する。
対応マウスとキーボード – エコシステムの拡大
HyperFlux V2の魅力は、マウスの充電だけにとどまらない。マウスパッド自体がRazer HyperSpeed Multi-Deviceレシーバーとしても機能し、対応するRazer製ワイヤレスマウスだけでなく、一部のワイヤレスキーボードもこのマウスパッドを介してPCに接続できるのだ。これにより、PCの貴重なUSBポートを1つ節約できるという、地味ながらも嬉しいメリットが生まれる。
対応キーボードは以下の通り(データ通信のみで、キーボード自体の充電機能はない点に注意)。
- Razer BlackWidow V4 Mini HyperSpeed
- Razer BlackWidow V3 Pro
- Razer DeathStalker V2 Pro
- Razer DeathStalker V2 Pro Tenkeyless
マウスとキーボードを同じレシーバーで管理できるのは、デスク周りをすっきりさせたいユーザーにとって朗報だ。
高速充電と安定接続 – HyperSpeedテクノロジーの恩恵
接続に関してだが、HyperFlux V2はUSB Type-C接続を採用し、初代HyperFlux Fireflyマットよりも高速な充電能力を持つという。また、Razer独自のHyperSpeedワイヤレステクノロジーにより、マウスやキーボードとの接続は低遅延かつ高信頼性を実現している。これにより、有線接続と遜色のない安定したゲームプレイが可能になる。
さらに、シームレスな自動ペアリング機能も搭載。対応マウスをHyperFlux V2マウスパッド上に置くだけで、手動設定の必要なく自動的にペアリングが完了する。この手軽さは、日々の使い勝手を大きく向上させるだろう。
選べる2つのサーフェス – プレイスタイルに合わせた最適化
前述の通り、HyperFlux V2は「Hard Surface Edition」と「Cloth Surface Edition」の2種類が用意されている。
- Hard Surface Edition: 「超低摩擦で楽なスワイプを実現する、最も滑らかで素早い滑り」が特徴で、ペースの速いゲームに最適。
- Cloth Surface Edition: 「よりコントロールされた、ピクセル単位の精密なスワイプを提供し、ストッピングパワーと照準の一貫性に最適化」されている。
どちらのモデルも底面には滑り止めのラバーベースが採用されており、激しいゲームプレイ中でもマットがずれるのを防ぐ。自分のプレイスタイルや好みに合わせて最適な表面を選べるのは、ゲーマーにとって重要なポイントだ。
LEDインジケーターとSynapse連携 – スマートなバッテリー管理

マウスパッドにはLED充電インジケーターが埋め込まれており、バッテリー残量に応じて色が変化する。これにより、充電状況を一目で把握できる。Razerによると、この機能は「好みのレベルに達したら充電を停止できるようにすることで、マウスのバッテリー寿命を維持するのに役立つ」とのことだ。
さらに、Razerの統合ソフトウェア「Synapse」との連携により、充電サイクルの監視や最適化が可能になるとNotebookcheckは報じている。過充電を防ぎ、バッテリーの長期的な健康を保つための配慮がなされている点は評価できる。
Chroma RGBは非搭載 – 実用性重視の設計思想か
一点、Razer製品のファンにとっては少し意外かもしれないのが、HyperFlux V2にはRazerの代名詞とも言えるライティングシステム「Chroma RGB」が搭載されていないことだ(LEDインジケーターは除く)。
確かに、派手なライティングはないものの、その分コストを抑え、より多くのユーザーにワイヤレス充電の利便性を届けたいというRazerの意図が透けて見えるようだ。あるいは、将来的にChroma RGB搭載版が登場する可能性もゼロではないかもしれないが、現行モデルは機能性にフォーカスした製品と言えるだろう。
競合Logitech PowerPlayとの比較 – Razerの戦略と市場での立ち位置
ワイヤレス充電マウスパッドの市場において、先行しているのはLogitechの「PowerPlay」だ。
基本コンセプトの類似性と相違点
PowerPlayもHyperFlux V2も、マウスパッドからの磁場を利用してマウス底面のモジュール(PowerPlayではPOWERCOREモジュール)経由で充電を行うという点で技術的なアプローチは近いと考えられる。両者とも、ゲームプレイを中断させない継続的な充電を最大の売りとしている。
相違点としては、まず価格が挙げられる。PowerPlay 2のシステムの希望小売価格は18,480円であり、これに加えて対応マウスが必要となる。HyperFlux V2は19,290円と、価格帯は近い。
また、対応マウスのラインナップや、レシーバー機能の統合(HyperFlux V2はキーボードも対応)、ソフトウェア(SynapseとG HUB)の使い勝手なども比較検討のポイントとなる。
価格競争力とエコシステムの魅力
Razerは、HyperFlux V2の価格設定において、明らかにPowerPlayを意識しているだろう。そして、単なる価格だけでなく、Razerのエコシステム全体での魅力も訴求ポイントとなる。既にBasilisk V3 Proなどの高性能マウスを愛用しているRazerユーザーにとっては、HyperFlux V2は非常に魅力的なアップグレードとなるはずだ。
HyperFlux V2がゲーマーにもたらす真の価値とは?
では、HyperFlux V2はゲーマーにとって具体的にどのようなメリットをもたらすのだろうか。
途切れない集中力 – バッテリー残量を気にしないゲームプレイ
最大の価値は、やはり「バッテリー残量を気にせず、ゲームに完全に集中できる」という点に尽きる。重要な局面でマウスのバッテリーが切れてしまう悪夢は、ワイヤレスマウスユーザーなら誰しも一度は経験したことがあるかもしれない。HyperFlux V2は、その不安から解放してくれる。
デスク周りのシンプル化 – ケーブル削減とUSBポートの有効活用
充電ケーブルが不要になるだけでなく、マウスとキーボードのレシーバーもマウスパッドに統合されるため、デスク周りが格段にすっきりと整理される。これは見た目の美しさだけでなく、ケーブルがプレイの邪魔になることを防ぐという実用的なメリットもある。USBポートの節約も、多くの周辺機器を接続する現代のゲーマーにとっては無視できない利点だ。
長期的な視点 – バッテリー寿命への配慮
LEDインジケーターやSynapse連携による充電制御は、マウス内蔵バッテリーの過充電を防ぎ、長期的な寿命維持に貢献する可能性がある。頻繁な充放電や過充電はバッテリー劣化の大きな要因となるため、こうした配慮はデバイスを長く愛用したいユーザーにとっては重要なポイントだ。
筆者の視点 – HyperFlux V2はゲーミングデバイスの新たな標準となるか
初代HyperFluxは、その先進的なコンセプトにもかかわらず、高価であること、そして特定のマウスでしか利用できないという制約から、広く普及するには至らなかった。しかし、Razerはその反省点をしっかりと活かしてきたように見える。HyperFlux V2は、より多くのユーザーに「充電の呪縛からの解放」という恩恵をもたらすべく、価格、互換性、そして機能性のバランスを慎重に再構築した製品だ。
特に、充電パック方式による対応マウスの拡大は英断と言えるだろう。これにより、ユーザーは好みのRazerマウスを選びつつ、ワイヤレス充電の利便性を享受できる。これは、Logitech PowerPlayが複数のマウスモデルで展開している戦略と同様であり、市場での競争力を高める上で不可欠な要素だ。
今後のRazer製品への展開にも期待が膨らむ。現在はハイエンドマウスが中心だが、将来的にはよりミドルレンジの製品にもこの技術が波及していくかもしれない。そうなれば、ワイヤレス充電は一部のコアゲーマーだけでなく、より多くのPCユーザーにとって当たり前の選択肢となるだろう。
もちろん、Chroma RGB非搭載を残念に思う声もあるかもしれない。しかし、筆者はこれを「実用性への回帰」と捉えたい。ゲーミングデバイスは時に過度な装飾に走りがちだが、HyperFlux V2はまず「充電」という根本的な課題解決に真摯に取り組んだ結果、生まれた製品ではないだろうか。
この技術が成熟し、さらに低コスト化が進めば、将来的にはオフィス向けのワイヤレスマウスやキーボードにも応用されるかもしれない。そうなれば、私たちのデスク環境はさらに快適で洗練されたものになるだろう。
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