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なぜSwitch 2の画面はぼやけるのか?初代より50%遅い応答速度の真相と、任天堂の「苦渋の選択」

Y Kobayashi

2025年6月27日

待望のNintendo Switch 2が発売され、そのパワフルな性能に世界中のゲーマーが沸き立っている。しかし、その華々しいデビューの裏で、一部のユーザーや専門家から看過できない指摘が相次いでいる。「ゲーム中の動きが、どうにもぼやけて見える」。この漠然とした違和感の正体が、技術的な検証によって明らかになった。Switch 2に搭載された最新の液晶ディスプレイは、驚くべきことに8年前の初代Switchよりも応答速度が大幅に劣っていたのだ。

だがこれは単なる個体差や初期不良によるものではない。性能、バッテリー、そしてコストの狭間で任天堂が下した「技術的なトレードオフ」の結果なのだ。

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衝撃のテスト結果:応答速度、初代Switchに「完敗」という現実

How Slow is the Nintendo Switch 2 Display?

テクノロジー製品、特にディスプレイのレビューで知られるYouTubeチャンネル「Monitors Unboxed」が行った詳細なテストは、ゲーマーたちの違和感を決定的な数値で裏付けた。

彼らが液晶ディスプレイの性能を測る標準的な指標「Gray-to-Gray(GtG)応答時間」を計測したところ、Nintendo Switch 2の平均応答時間は33.3ミリ秒(ms)という結果になった。

この数値がどれほど深刻なものか、他のディスプレイと比較すれば一目瞭然である。

  • 初代Nintendo Switch(2017年製LCD): 約21.3ms
  • 一般的なPC向けゲーミングモニター(LCD): 約5〜6ms
  • 有機EL(OLED)ディスプレイ: 約0.3ms

信じがたいことに、Switch 2のディスプレイは8年前に発売された初代Switchの液晶パネルよりも約56%も応答が遅いのである。これは性能向上を期待していたユーザーにとって、まさに「退化」と言わざるを得ない結果だ。さらに、PCゲーミングの世界では標準的とされるディスプレイと比較すると5倍以上、そして有機ELディスプレイとは比較にすらならない、100倍もの差が開いている。

Blur Busters UFOテストも実施されたが、以下の画像からも分かるように、Switch 2のLCDは動きのあるシーンで非常にぼやけており、移動する物体に極端なゴーストが発生している。UFOには全く輪郭が確認できず、これが手持ちモードでSwitch 2を使用する多くのユーザーが画面のぼやけやにじんだ映像を不満に思っている理由となっている。

Digital Foundryも同様のテストで「Switch 2の液晶は、2017年のSwitchのディスプレイよりも明らかに劣るブラー特性を持っている」と結論付けており、この問題が単一の報告ではないことを裏付けている。

なぜ「退化」は起きたのか?オーバードライブ技術とバッテリーのジレンマ

最新機種のディスプレイが、なぜ旧世代機に劣るという不可解な事態に陥ったのだろうか。その答えの鍵を握るのが、「オーバードライブ(Overdrive)」と呼ばれる技術の有無である。

オーバードライブとは、液晶パネルのピクセル(画素)が色を変化させる際に、瞬間的に通常より高い電圧をかけることで、その変化速度を強制的に加速させる技術だ。現代のゲーミング用液晶モニターにおいて、高速な応答時間を実現するためにはほぼ必須とされる、いわば「ブースト機能」である。

Monitors Unboxedは、Switch 2のディスプレイにはこのオーバードライブ技術が採用されていないか、あるいは極めて抑制的にしか機能していないと結論付けている。オーバードライブなしでは、液晶パネルは本来の鈍足な応答速度しか出せず、結果として33.3msという極めて遅い数値につながったと考えられる。

では、なぜ任天堂はこの標準的な技術を省略したのか。その最大の理由は、携帯ゲーム機の宿命ともいえる「バッテリー寿命」にあると推測される。

オーバードライブは、電圧を高めるという性質上、ディスプレイの消費電力を増加させる。Switch 2が搭載するバッテリー容量は19Wh(ワット時)。これは、競合製品であるValve社のSteam Deck(40Wh)の半分以下という、非常に限られた容量だ。

任天堂は、より大きく(7.9インチ)、より高解像度(1080p)で、より明るいディスプレイを搭載しながら、携帯モードでの一定のプレイ時間を確保するという至上命題を抱えていた。この厳しい制約の中で、消費電力増につながるオーバードライブ技術は、真っ先に「コストカット」ならぬ「バッテリーカット」の対象になった可能性が極めて高い。これは、携帯性や軽量化を最優先する任天堂ならではの、苦渋に満ちた設計判断だったのではないだろうか。

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60fpsすら追いつかない現実と、120Hzという「スペック上の幻影」

応答速度の遅さは、具体的にどのようなゲーム体験の悪化をもたらすのか。そのメカニズムは単純明快だ。

現在、多くのゲームが目標とするフレームレートは60fps(1秒間に60回画面を更新)である。これは、1フレームを表示する時間が約16.7ms(1000ms ÷ 60fps)であることを意味する。

しかし、Switch 2のディスプレイが色を完全に変えるのに要する時間は33.3ms。つまり、ゲーム機本体が次のフレームを描画し始めても、ディスプレイのピクセルはまだ前のフレームの映像を消しきれずに引きずってしまっているのだ。

この結果、画面上では動く物体の輪郭がぼやけたり、残像が見えたりする「モーションブラー」や「ゴースト」と呼ばれる現象が顕著に発生する。特に、横スクロールアクションやレースゲーム、あるいはカメラを素早く動かすFPSのようなゲームでは、このぼやけが視認性や快適性を大きく損なう原因となる。

さらに深刻なのは、Switch 2が公称スペックとして謳う「120Hzリフレッシュレート対応」という点だ。120Hz(フレーム間隔8.3ms)の滑らかさを体験するには、ディスプレイの応答時間もそれに追随する必要がある。しかし、33.3msという応答速度では、120Hzどころか60Hzの更新速度にすら全く追いつけていない。現状では、この120Hz対応というスペックは、残念ながらそのポテンシャルを全く発揮できない「絵に描いた餅」、あるいは「スペック上の幻影」と言わざるを得ないだろう。

次の一手は?「Switch 2 OLED」への期待とユーザーがとるべき道

この応答速度問題は、ファームウェアアップデートでオーバードライブを有効化するなど、ソフトウェア側での改善がなされる可能性もゼロではない。しかし、それは消費電力の増加、つまりバッテリー駆動時間の短縮と引き換えになるため、任天堂がその選択をするかは不透明だ。

そうなると、根本的な解決策として期待されるのは、やはり「有機EL(OLED)ディスプレイモデル」の投入である。有機ELはピクセル自体が発光するため、液晶のような応答速度の遅延が原理的に発生しにくく、0.3ms以下という超高速応答を実現する。初代Switchでも数年後に有機ELモデルが登場し、画質を劇的に向上させた歴史がある。おそらく任天堂は、この応答速度問題を解決する切り札として、「Switch 2 有機ELモデル」を将来的なロードマップに描いていることだろう。

今回の問題は、Switch 2が欠陥品であることを意味するわけではない。応答速度を犠牲にした一方で、解像度、輝度、そしてDCI-P3カバー率98%というプロ向けモニターに匹敵する広色域など、「静的な画質」は確実に向上している。

これは、任天堂がターゲットとする幅広いユーザー層の中で、モーションの鮮明さよりも、色彩の豊かさや画面の大きさを優先したという戦略の表れとも解釈できる。しかし、動きの速いゲームをこよなく愛し、フレームレートや応答速度に敏感なゲーマーにとって、このトレードオフは受け入れがたいものかもしれない。

もしあなたがSwitch 2の購入を検討しているなら、自問すべきは一つだ。「ゲーム中のわずかな“ぼやけ”を許容できるか」。もし答えが「ノー」であるならば、いずれ登場するであろう「Switch 2 有機ELモデル」を待つのが、賢明な選択となるかもしれない。この一件は、単なる一製品の問題提起に留まらず、ハンドヘルドゲーミングの未来が、常に技術的な理想と物理的な制約との間の妥協点を探る旅であることを、我々に改めて示している。


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  1. ピンバック: 【悲報】メディア「任天堂、Switch2の120Hz対応というスペックは現状『絵に描いた餅』にすぎない」 - ゲームハードウェーブ速報

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