NVIDIAのCEOであるJensen Huang氏が、2025年6月5日に発売される任天堂の次世代ゲーム機「Nintendo Switch 2」に搭載されるカスタムNVIDIA製チップについて、任天堂が配信した「Creator’s Voice」において詳細な言及を行った。AI分野でのNVIDIAの快進撃が注目される昨今、Huang氏が自社のルーツとも言えるゲーミング技術、特に任天堂との長年にわたる協業の成果を熱く語ったことは、多くのゲームファンやテクノロジー愛好家にとって朗報と言えるだろう。
Jensen Huang氏、任天堂との絆と故・岩田聡氏の遺志を語る – AIから再びゲームへ舵を切るのか?
ここ数年、NVIDIAの発表会やHuang氏の公の場での発言は、その多くがAI技術やデータセンター向けGPUに焦点が当てられてきた。しかし、任天堂の「Creator’s Voice」と題されたビデオセグメントに登場したHuang氏は、AIではなく「ゲーム」について、そして任天堂との深い絆について、熱意を込めて語った。このサプライズとも言える登場は、NVIDIAが依然としてゲーミング市場を重視していることの証左であり、多くのゲーマーを喜ばせた。
Huang氏は、任天堂の元社長であり、惜しまれつつ故人となった岩田聡氏との思い出に言及。「岩田さんは、誰も見たことがないもの、つまり、大きな映画のようなゲームに十分パワフルでありながら、どこへでも持っていけるほど小さいコンソールを作りたいという夢を我々と共有してくれました」と語り、そのビジョンが初代Nintendo Switchとして結実した経緯を振り返った。初代Switchの開発には、NVIDIAで500人年以上のエンジニアリングリソースが投入され、チップアーキテクチャからOS、API、ゲームエンジンに至るまで、すべてを再考したという。
そしてHuang氏は、この岩田氏のビジョンをさらに推し進めるのがNintendo Switch 2であるとし、「そのために我々はすべてを再発明しなければなりませんでした」と、新コンソールにかける並々ならぬ意気込みを示した。
「これまでに作られたものとは異なる」 – Switch 2搭載チップの驚くべき技術的特長
Huang氏が最も力を込めて語ったのは、Nintendo Switch 2に搭載されるカスタムNVIDIA製SoC(System-on-a-Chip)の革新性だ。「Nintendo Switch 2の内部にあるチップは、我々がこれまでに作ったものとは全く異なります」と断言し、その主な特長として以下の点を挙げた。
- モバイルデバイス史上最も先進的なグラフィックス: 具体的なアーキテクチャ名こそ明かされなかったものの、現行Switchを遥かに凌駕するグラフィック性能が期待される。
- フルハードウェアレイトレーシング: 光の挙動をリアルにシミュレートし、より現実に近い映像表現を可能にするレイトレーシングを、モバイルデバイスで本格的にサポートする。これにより、ゲーム内のライティングや反射、影の表現が飛躍的に向上するだろう。
- ハイダイナミックレンジ (HDR): より明るいハイライトとより深いシャドウを実現し、映像のコントラストと色彩表現を豊かにする。
- 後方互換性をサポートするアーキテクチャ: 既存のNintendo Switch用ゲームとの互換性を示唆しており、ユーザーにとっては大きなメリットとなる。
- 専用AIプロセッサ: リアルタイムでゲームプレイをシャープにし、アニメーションを強化し、全体的な体験を向上させるための専用AIプロセッサを搭載。これはNVIDIAの得意とするDLSS(Deep Learning Super Sampling)技術の活用を強く示唆するものと考えられる。DLSSは、AIを用いて低解像度の映像を高解像度化し、フレームレートを向上させる技術であり、限られた電力で高性能を引き出す上で極めて有効だ。
- 超低消費電力: 高性能でありながら、携帯モードでのバッテリー持続時間も考慮された設計であることを強調。半導体プロセス技術の最適化にも言及しており、電力効率の向上が図られているようだ。
Huang氏は、「このチップは技術的な驚異です。パフォーマンス、インテリジェンス、そして美しさをあなたの手のひらにもたらします」と締めくくり、新チップへの絶対的な自信を覗かせた。
噂されるスペックとNVIDIAの技術の粋
Huang氏の言葉は期待を煽るものだが、具体的なスペックについてはまだ謎が多い。しかし、複数のリーク情報や海外メディアの報道によると、Nintendo Switch 2に搭載されるチップは「T239」という開発コード名で知られるカスタムSoCであり、NVIDIAの「Ampere」アーキテクチャ(GeForce RTX 30シリーズで採用)をベースにしている可能性が高いとされている。
報道されている主なスペックは以下の通りだ(いずれも公式発表ではない点に留意されたい)。
- GPU: Ampereアーキテクチャベース、1536 CUDAコア
- クロック周波数: 携帯モードで約561MHz、ドックモードで約1GHz~1.007GHz
- GPU性能: 携帯モードで約1.71 TFLOPS、ドックモードで約3.07 TFLOPS
- CPU: ARM Cortex-A78Cベースの8コア構成、最大1.7GHz程度
- メモリ: 12GB LPDDR5X (128-bitインターフェース)
- メモリ帯域幅: 携帯モードで約68GB/s、ドックモードで約102GB/s
- ストレージ: 256GB UFS 3.1
- その他: レイトレーシング用のRTコア、AI処理用のTensorコア、DLSSサポート、TVモードでの4Kゲーミング対応
これらのスペックが事実であれば、現行Switchから大幅な性能向上が見込まれる。特に、CUDAコア数やメモリ容量、帯域幅の増加は、より複雑でリッチなグラフィック表現や、よりスムーズなゲームプレイを実現する上で不可欠だ。
一部のメディアからは、Huang氏の「他のどのモバイルチップよりもはるかに高性能」という発言に対し、AMD製の最新ハンドヘルド向けチップと比較した場合、必ずしも正しくない可能性を指摘されているが、Nintendo Switch 2は純粋な携帯ゲーム機というよりも、テレビにも接続できるハイブリッドコンソールであり、その独自の最適化やDLSSのような技術によって、実際のゲーム体験において高いパフォーマンスを発揮する可能性は十分に考えられる。発売後の実際のパフォーマンス報告に期待したい所だ。
NVIDIAと任天堂の未来
NVIDIAと任天堂の協力関係は、初代Switchの開発から10年以上に及ぶ。Huang氏が語ったように、両社は「テクノロジーは創造性に奉仕すべきであり、喜びはエンジニアリングする価値がある」という共通の信念のもとに、緊密なパートナーシップを築いてきた。この新しい「技術的驚異」と称されるチップは、その長年の信頼関係と共同作業の結晶と言えるだろう。
Huang氏の今回の発言は、AI企業としてのイメージが強まるNVIDIAが、依然としてゲーミング技術の最前線に立ち続け、革新を追求していることを明確に示した。そして何よりも、Nintendo Switch 2がゲーマーに提供するであろう新しい体験への期待を、かつてないほど高めるものとなった。正式な発売が迫る中、この新しいチップが岩田聡氏の夢見た「誰も見たことがないもの」を再び我々に見せてくれるのか、世界中の注目が集まっている。
Sources