発売から約2週間、世界中のゲームファンが熱狂するNintendo Switch 2。その性能は「あらゆる点で前モデルからの明確なアップグレード」と評価され、華々しいスタートを切ったかに見えた。しかし、その輝かしい評価の影で、携帯機としての体験の核となる「ディスプレイ」に、専門家から深刻な懸念が示されている。特に動きの滑らかさを示す「モーション品質」において、驚くべきことに7年前に発売された初代Switchよりも劣るというのだ。一体、任天堂の最新ハードに何が起きているのだろうか。
絶賛の中に見つかった「アキレス腱」- Digital Foundryの包括的レビュー
テクノロジー分析で有名な「Digital Foundry」は、2時間を超える詳細なレビュー動画を公開し、Nintendo Switch 2のあらゆる側面を徹底的に検証した。その結論は、全体として「明確なアップグレード」であるという肯定的なものだ。処理性能の向上は多くのゲームで安定した体験をもたらし、次世代機としての進化を確かに感じさせる。
しかし、レビューの大部分が割かれたディスプレイの項目で、その評価は一変する。携帯モードでのゲーム体験を根底から支えるべきスクリーンが、複数の点で問題を抱えていることが白日の下に晒されたのだ。それは、単なる些細な欠点ではなく、一部のユーザーにとっては「退化」とさえ感じられかねない、看過できないアキレス腱であった。
最大の問題点:「動き」の品質が初代機に劣るという現実
今回のレビューで最も衝撃的だったのは、モーション品質、すなわち画面の動きに対する応答性能の低さだ。Digital FoundryのJohn Linneman氏は、Switch 2のディスプレイが、初代Switchの液晶ディスプレイよりも応答速度が遅いと断言。これが、携帯ゲーム機としての体験に深刻な影を落としている。
なぜ「ぼやけ」や「残像」が発生するのか? – 遅いピクセル応答時間
「ピクセル応答時間」とは、画面を構成する一つ一つの画素が、ある色から別の色へと変化するのにかかる時間のことだ。この時間が短ければ短いほど、映像はくっきりと、滑らかに表示される。
Digital Foundryの分析によれば、Switch 2のLCDパネルはこの応答時間が遅い。その結果、キャラクターや背景が素早く動く場面で、前のフレームの映像が消え切らずに次のフレームの映像に重なってしまう。これが、画面全体がぼやけて見える「ブラー」や、動く物体の後ろに尾を引くような「トレイリング(残像)」として現れるのだ。

この現象は、特に『メトロイド』シリーズのような高速な横スクロールアクションや、目まぐるしく視点が動くFPS(一人称視点シューティング)ゲームにおいて、プレイフィールを著しく損なう可能性がある。
初代Switch、そして有機ELモデルとの残酷な比較
信じがたいことに、このモーション品質は2017年に発売された初代Nintendo Switchの液晶パネルよりも劣る、とDigital Foundryは指摘する。7年の時を経て登場した正統後継機が、基本的な表示品質の一部で前世代機に劣るという事実は、多くのユーザーにとって受け入れがたいものだろう。
さらに、ピクセル応答速度が極めて速い有機EL(OLED)パネルを搭載したSwitch(有機ELモデル)と比較した場合、その差は歴然となる。有機ELモデルの鮮明で残像のない映像体験に慣れたユーザーがSwitch 2に触れた場合、その「ぼやけ」に強い違和感を覚えることは想像に難くない。
看板倒れの「新機能」?- HDRとVRRの期待外れな実装
モーション品質の問題に加え、Switch 2が新たに搭載した目玉機能である「HDR」と「VRR」も、現状では期待を裏切る結果となっている。
「なんちゃってHDR」の正体 – 低輝度液晶の限界
HDR(ハイダイナミックレンジ)は、従来の映像よりも広い明るさの幅を表現し、より現実に近い光と影を描き出す技術だ。しかし、Switch 2で真のHDR体験を得ることは、ハードウェアの制約上、不可能に近い。
その理由は2つある。一つは、バックライトが画面の端にのみ配置されている「エッジライト式LCD」であること。そしてもう一つは、最大輝度が約420ニトと、HDRを謳うにはあまりにも低いことだ。これにより、映像の暗い部分がバックライトの光で白っぽく浮いてしまい、HDRの最大の魅力である「締まった黒」が表現できない。
Digital Foundryは、ゲーム内でHDRのオン・オフを切り替えても、その差は「良く言っても最小限」と酷評。現状のSwitch 2のHDRは、本来の性能を発揮できていない「看板倒れ」の状態と言わざるを得ない。
絵に描いた餅か? – 理論通りに機能しないVRRとLFC
もう一つの新機能、VRR(可変リフレッシュレート)も問題を抱えている。VRRは、ゲームのフレームレート(1秒あたりの描画コマ数)の変動に合わせてディスプレイのリフレッシュレート(画面の更新頻度)を動的に同期させ、映像のカクつきやちらつきを抑える技術だ。
Switch 2本体に内蔵されている『Welcome Tour』という紹介アプリケーションでは、VRRの動作範囲である40Hz~120Hzを下回る低フレームレート時に映像を補間するLFC(低フレームレート補間)がサポートされていることが示されている。これは、理論上はより滑らかなゲーム体験に繋がるはずだった。
しかし、『Cyberpunk 2077』や『Hitman』といった実際のゲームでテストしたところ、フレームレートが40Hzを下回る30~35FPS程度の領域で、依然としてカクつきが発生。これは、LFCが期待通りに機能していないことを示唆している。現状のVRR実装は、まだ最適化の余地を大きく残しているようだ。
なぜこの仕様に?- 任天堂の判断と残された改善の可能性
全体として優れた後継機を開発した任天堂が、なぜディスプレイという重要な要素でこのような判断を下したのか。そこにはコスト、安定した部品供給、あるいは消費電力といった、様々な要因が複雑に絡み合っている可能性が考えられる。有機ELパネルではなく、この仕様の液晶パネルを選択した背景について、任天堂からの説明が待たれるところだ。
しかし、すべてに絶望するにはまだ早い。Digital Foundryも指摘するように、これらの問題の一部は、将来のソフトウェアアップデートによって改善される可能性がある。
ピクセルの応答速度を擬似的に向上させる「オーバードライブ」技術の実装や、VRRおよびLFCの動作を最適化することで、モーション品質やカクつきはいくらか改善されるかもしれない。
だが、忘れてはならないのは、液晶パネル自体の物理的な応答速度や、輝度の低さといったハードウェアに起因する限界は、ソフトウェアでは覆せないという厳然たる事実だ。
Nintendo Switch 2は、間違いなくパワフルで魅力的なゲームコンソールである。しかし、その体験の質を大きく左右するディスプレイには、特に動きの激しいゲームを愛するプレイヤーにとって、無視できない課題を抱えている。この「光と影」を理解した上で、我々はこの新しいハードウェアと向き合う必要があるだろう。今後の任天堂の対応が、Switch 2の真価を決定づけることになる。
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