仏電池メーカーのSaftは2026年10月19日、ボルドーの拠点に固体電池の新たな生産ラインを開設すると発表した。狙うのは航空・宇宙分野であり、常温で使う硫化物系とポリマー系の電解質に対応し、研究成果を製造と評価へ進める設備である。航空機器大手Safranとの協業では、すでに半固体セルを納入し、将来の電動・ハイブリッド航空機に向けた評価段階に入った。ただし、全固体セル・電池へ協業を広げるのは2027年からの計画で、設備の開設と航空機用電池の実用化には、なお段階の違いがある。

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航空・宇宙向けに、常温で扱う2系統の技術

TotalEnergiesの完全子会社であるSaftは、新ラインによって、硫化物系とポリマー系の電解質を常温で使う固体電池の開発・製造能力を持つフランス初のメーカーになると説明している。「フランス初」という位置づけは、この技術と製造能力の組み合わせに対する同社の主張だ。

固体電池は、従来の電池に使われる液体の電解質を固体材料に置き換える。Saftが利点として挙げるのは、安全性の向上と、一定の質量や体積に蓄えられるエネルギーを増やせることだ。同社は、こうした改善の価値が特に大きい用途として航空・宇宙分野を掲げており、今回の発表も両分野の電動化を目的としている。

一方、2系統の電解質に対応するという説明から、単一のセルに硫化物とポリマーをどう配置するかまでは読み取れない。発表されたのは複数の技術を開発・製造する能力であり、電池内部の具体的な設計や材料の配合は示されていない。

納入済みは半固体、全固体への協業拡大は2027年

Safranの10月15日付発表は、Saftとの協業が構想の検討から、実際のセルを使う評価へ移ったと説明する。両社が2025年のパリ航空ショーで公表した協業に基づき、最初の半固体セルを納入したという。セルとは電池の基本単位で、今回届いたのは将来の航空機用電池システムを検証するためのものだ。

SaftとSafranが2026年10月に納入を発表したのは半固体セルで、全固体セル・電池への協業拡大は2027年からの計画である。

時点 発表された動き 開発上の位置づけ
2025年のパリ航空ショー SaftとSafranが協業を公表 次世代航空用電池の共同開発
2026年10月15日 Safranが最初の半固体セルの納入を公表 構想の検討から具体的な評価へ
2026年10月19日 Saftがボルドーの固体電池新ライン開設を発表 複数技術の開発・製造能力を整備
2027年から 全固体セル・電池にも協業を拡大する予定 将来の開発対象を広げる計画

この時系列はSaftの開設発表とSafranの納入発表を、対象と開発段階で分けたものだ。2027年は協業対象を広げる時期であり、全固体電池の量産開始や認証取得、航空機への搭載を約束した年ではない。

Safranによれば、納入した半固体セルはボルドーの新しい複数技術対応ラインで開発・製造された。つまり、10月15日の発表時点で、新ラインを使った製造についてすでに記述がある。10月19日の開設発表を、その日に初めてセルを作ったという意味には取れない。

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密度最大50%増とCO₂最大40%減は、対象が異なる

Saftは、固体電池のエネルギー密度が従来型のリチウムイオン電池より最大50%高くなると説明している。質量や容積が制約となる航空宇宙用途では、この指標の改善に意味がある。ただし、発表にはエネルギー密度の絶対値や詳しい比較条件がなく、質量あたりの値か体積あたりの値かも明示されていない。

そのため、この最大50%を、納入済みの半固体セルが達成した実測値と同一視することはできず、航空機の航続距離が50%伸びるという意味にもならない。エネルギー密度と、機体全体でどれだけエネルギーを使うかは別の指標である。

もう一つの数字は、電極の乾式製造工程によるCO₂排出の最大40%削減だ。Saftが削減の対象としているのは、電極を作るその工程に伴う排出である。電池の製造全体や、航空機の運航を含むライフサイクル全体の排出削減率へは広げられない。

50%は電池が蓄えられるエネルギーの密度、40%は特定の製造工程の排出に関する数値で、評価する対象が異なる。いずれも今回の企業発表で示された最大値であり、個々のセルの性能や製造設備の効果を判断するには、比較条件を含む検証結果が必要になる。

次の節目はセルの評価と電池システムへの統合

納入されたセルは、主としてSafranのニオール拠点にあるシステム試験施設で試験される予定だ。同施設は、将来の電動・ハイブリッド電動推進向け電池システムに必要な検証と統合の大半を担う。Safranは今後の工程として、納入セルの評価に続き、より高度な電池の試作と、航空用途に向けた技術の成熟を挙げている。

この工程から見えるのは、セルを製造して届ける能力と、航空機で使う電池システムとして仕上げる能力の違いである。新ラインと納入済みセルによって、実物を使った検証を進められるようになった。その結果を、将来の推進システムにどう組み込むかが次の仕事となる。

供給規模を測る情報は、まだ限られる。Energynewsも、今回の発表には新ラインの生産能力や投資額が示されていないと指摘した。設備の開設は開発・製造基盤が整ったことを示す一方、商用供給の規模や採算を判断できる数字は、今回の発表からは得られない。

今後は、ニオールでのセル評価と電池システムへの統合がどこまで進み、2027年からの全固体セル・電池への協業拡大につながるかが判断材料となる。SaftとSafranが掲げる電動・ハイブリッド航空機への応用は、製造したセルを試験にかけ、システムとして使える段階へ育てる工程の先にある。