SanDiskが、エンタープライズ向けSSDの未来を大きく左右する可能性を秘めた新しいSSDコントローラ「Stargate」を公表した。同社CEOであるDavid Goeckelerが「ダイナマイト・プロジェクト」と称するこの新技術は、BiCS8 QLC NANDとの組み合わせにより、2027年には512TBという驚異的な大容量SSDの実現を目指すものである。独立後初の四半期決算と同時に明かされたこの野心的な計画は、データセンターやAI分野におけるストレージ需要の爆発的増加に応える一手となるのだろうか?
「Stargate」コントローラ登場 – クリーンシート設計からの挑戦
SanDiskのCEO、David Goeckelerは、直近の投資家向け質疑応答の場で、コードネーム「Stargate」と呼ばれる新しいSSDコントローラについて言及した。これは「完全に新しいアーキテクチャ、新しいASIC、クリーンシートからの設計」であり、今後数四半期以内に登場する予定だ。
特に注目すべきは、このStargateコントローラと、業界最高水準のダイあたり2Tbit(256GB)の記憶容量を誇るSanDiskの最新BiCS8 QLC NANDとの組み合わせである。David Goeckelerは、「BiCS8 QLCと組み合わせることで、これはまさにダイナマイトのようなプロジェクトになるだろうと確信している」と述べ、その潜在能力に大きな期待を寄せている。


現時点でStargateコントローラの詳細な技術仕様は明らかにされていないが、その登場はSanDiskのSSD技術における大きな飛躍を示唆している。
512TBへの野心的なロードマップ – BiCS8 QLC NANDが鍵
SanDiskは以前より、SSDの大容量化に向けた野心的なロードマップを掲げてきた。今回のStargateコントローラの発表は、その実現に向けた具体的な一歩と言えるだろう。
同社はまず、2025年第3四半期にBiCS8 QLC NANDとPCIe 5.0インターフェースを採用したエンタープライズ向けSSDシリーズ「DC SN670」で、最大128TBの容量を提供する計画である。さらに、2026年には256TB、そして2027年には512TBという、現在の常識を覆すような大容量SSDの市場投入を目指す。

この大容量化の鍵を握るのが、前述のBiCS8 QLC NANDである。1つのNANDチップで256GBという大容量を実現することで、SSD全体の集積度を飛躍的に高めることが可能になる。512TBのSSDを実現するためには、コントローラが1チャネルあたり64ダイを処理し、32チャネル構成が必要になる可能性があるが、現在主流のクライアント向けSSDが最大8チャネル程度であることを考えると、コントローラ設計の複雑さと高性能化がいかに重要であるかを示している。
StargateコントローラがPCIe 5.0に対応することは確実視されているが、ComputerBaseは、これがPCIe 6.0を見据えた次世代の製品である可能性も示唆している。もしPCIe 6.0対応となれば、データ転送速度のさらなる向上が期待され、大容量データの処理能力が飛躍的に高まるだろう。
独立後のSanDisk – 赤字からの船出とクラウド市場への注力
SanDiskは、Western Digitalからの分離後、初の四半期決算(2025年度第3四半期)を発表した。売上高は前期比10%減の16億9500万ドル、そして18億8100万ドルという大幅な純損失を計上している。しかし、この損失の大部分は18億3000万ドルにのぼる一時的なのれん代償却(Goodwill-Wertminderung)によるものであり、事業の基本的な収益性を示すものではない。SanDiskは次期四半期の売上を17億5000万ドルから18億5000万ドルの範囲と予測しており、ここから真の収益性が明らかになるだろう。
現在のSanDiskの収益構造を見ると、クライアント向けSSDやメモリーカードなどのコンシューマー事業が5億7100万ドル、そしてPCメーカーなどへのOEM供給を含むクライアント事業が9億2700万ドルと、依然として屋台骨を支えている。一方、クラウド事業の売上は1億9700万ドルとまだ規模は小さいものの、同社は「UltraQLC」プラットフォームを軸に、この成長市場でのシェア拡大を狙っている。すでにNVIDIAのAIシステム向けに、高スループットなPCIe 5.0 SSDの認定も受けているとのことである。
Stargateが切り拓く未来 – AI時代の大容量ストレージへの期待
SanDiskのStargateコントローラとBiCS8 QLC NANDがもたらす大容量SSDは、特にデータセンターやAI、機械学習といった分野に大きなインパクトを与えると考えられる。生成AIの急速な発展に伴い、学習データや生成されるコンテンツの量は爆発的に増加しており、より大容量で高速なストレージへの需要は高まる一方である。
512TBという容量は、現在の一般的なデータセンター向けSSDと比較しても桁違いであり、ラックスペースの効率化やTCO(総所有コスト)削減に大きく貢献する可能性がある。また、PCIe 5.0、あるいはPCIe 6.0といった高速インターフェースとの組み合わせは、AIモデルの学習や大規模データ分析にかかる時間を大幅に短縮する可能性を秘めている。
もちろん、QLC NANDにはTLC NANDと比較して書き込み耐久性やアクセス速度の面で課題があることも事実である。しかし、Stargateのような高度なコントローラ技術は、エラー訂正機能の強化やキャッシュ戦略の最適化によって、これらの課題を克服し、エンタープライズ用途での信頼性と性能を両立させることが期待される。
まもなくComputexが開催されるが、こうした国際的な技術展示会で、SanDiskからさらなる詳細情報が発表されることが期待される。また、エンタープライズ向けで培われた大容量化・高性能化技術が、将来的にはより手頃な価格でコンシューマー向けSSDにも波及し、我々のデジタルライフをさらに豊かにするかもしれない。
Sources
QLC NANDなら256TBぐらいキャッシュを積んでくれないと400TBぐらい連続で書き込んだ時の速度に信用が置けない。