中国・深センで開催された「Global Memory Innovation Forum 2025」にて、Samsung Electronicsはストレージ技術の着実な進歩を実現するロードマップを公開した。AIの進化がデータの爆発的増加を促す中、同社は次世代インターフェース「PCIe 6.0」に対応した超大容量SSDの投入計画を明言。2026年に256TB、そして2027年には実に512TB、つまり0.5ペタバイトに達するエンタープライズ向けSSDをリリースするとのことだ。
AI時代のデータ需要に応えるSamsungの回答
2025年9月、半導体業界の注目が深センに集まった。Samsungのメモリ事業部CTOであるKevin Yoo氏が登壇し、次世代ストレージ製品群の具体的なタイムラインを示したのである。

計画の中核をなすのは、PCIe 6.0インターフェースを採用したエンタープライズ向けSSDだ。まず、2026年初頭に「PM1763」と名付けられたモデルが登場する。これは現行のPCIe 5.0世代の製品と比較して約2倍の性能向上を果たしながら、消費電力を25W程度に維持するという、性能と効率の両立を目指す意欲的な製品だ。
そして、その翌年の2027年。ストレージの歴史における一つの節目となりうる、512TBモデルの投入が計画されている。これらの超大容量ドライブは、データセンターでの実装効率を最大化するために設計された「1T EDSFF」フォームファクタを採用。AIモデルの学習や大規模なデータ解析など、凄まじい量のデータを高速に処理する必要があるワークロードにとって、まさに待望のソリューションとなる。
この発表は単なる製品予告ではない。指数関数的に増大するデータを前に、ストレージ技術が今後どのような進化を遂げるべきか、業界のリーダーであるSamsungが明確なビジョンを示したものだ。
512TB SSDを支える三つの柱
0.5ペタバイトという、数年前までは想像も難しかった容量を一枚のドライブに収めるには、いくつもの技術的ブレークスルーが必要となる。Samsungの計画は、主に三つの技術的支柱の上に成り立っていると考えられる。
1. PCIe 6.0:なぜ帯域幅は倍増し続けるのか
PCI Express (PCIe) は、PCやサーバー内部で各コンポーネントを接続する高速バス規格であり、世代ごとに帯域幅を倍増させてきた歴史を持つ。PCIe 6.0も例外ではなく、PCIe 5.0のレーンあたり64GT/sから128GT/sへと理論値を引き上げる。
この速度がなぜ必要なのか。それは、現代のコンピューティング、特にAI分野における最大の課題が「データ転送のボトルネック」だからである。最先端のGPUは膨大な計算能力を持つが、その性能を最大限に引き出すには、巨大なデータセットを滞りなく供給し続ける必要がある。
PCIe 6.0の理論上の最大転送速度は、16レーン構成で256GB/sに達する。これは、4K UHD画質の映画(約50GBと仮定)を1秒間に5本以上転送できる速度に相当する。
SamsungのPM1763のようなSSDは、この広大な帯域幅を活用することで、AI学習の時間短縮や、より複雑なモデルの構築を可能にする。すでにMicronなどの他社製品では実測値として28GB/s近い速度が報告されており、Samsungの製品も同等かそれ以上のパフォーマンスが期待される。
2. 高密度NANDとEDSFF:物理的な制約への挑戦
512TBもの容量を実現する鍵は、言うまでもなくNANDフラッシュメモリ自体の高密度化にある。Samsungは3D NAND技術のパイオニアであり、メモリセルを垂直方向に積み重ねる「積層化」において世界をリードしてきた。この積層数をさらに増やすことで、チップあたりの記憶容量を飛躍的に向上させている。
しかし、ただチップを詰め込むだけでは製品にはならない。Samsungは2023年に256TBユニットのプロトタイプを初公開し、2025年8月の「Future of Memory Storage」イベントでは市場投入が近いことを示す改良モデルを展示している。この最新モデルでは、コンデンサ、コントローラ、DRAMのレイアウトが全面的に再設計された。これは、高密度実装に伴う「熱」という深刻な問題への対策である。
ここで重要になるのがEDSFF (Enterprise & Data Center SSD Form Factor) だ。特に「1T」と呼ばれる厚みのあるこの規格は、サーバーラック内に効率良くSSDを配置できるだけでなく、基板面積を確保し、エアフローを最適化することで冷却性能を高める設計になっている。つまり、性能、容量、そして信頼性をデータセンターという過酷な環境で両立させるための、合理的な選択なのである。
3. 電力効率:25Wの壁とコントローラの進化
性能を2倍にしながら消費電力を同等に保つ、という目標は極めて野心的だ。一般に、動作クロックを上げれば消費電力は増加する。Samsungがこれを実現するためには、SSDの頭脳であるコントローラと、NANDフラッシュメモリ自体の両方で抜本的な電力効率の改善が必要となる。
コントローラでは、より微細な製造プロセスを採用することでリーク電流を抑え、内部アーキテクチャの最適化によって処理効率を高めるアプローチが取られるだろう。また、NANDメモリにおいても、データの書き込みや読み出しに必要な電圧を低減する技術開発が進められている。
これらの地道な技術革新の積み重ねが、最終的に「25W」という厳しい制約の中で、次世代のパフォーマンスを解放する。
市場へのインパクト:AIデータセンターのゲームチェンジャー
Samsungの超大容量SSDは、単に「容量が大きい」というだけではない。AIインフラのあり方を根本から変えるポテンシャルを秘めている。
AI学習のボトルネックを解消する
近年のAIモデル、特に大規模言語モデル(LLM)は、パラメータ数が数千億から兆の単位に達し、その学習にはペタバイト級のデータセットが用いられる。現状では、これらのデータをストレージからGPUが搭載された計算ノードへ転送する部分が深刻なボトルネックとなっている。
512TBのPCIe 6.0 SSDは、各サーバーに直接、巨大なデータプールを配置することを可能にする。これにより、ネットワークを経由するデータ転送を最小限に抑え、GPUを常にフル稼働させることができる。これはAIモデルの開発サイクルを劇的に短縮し、より高度なAIの実現を加速させるだろう。
CXLとZ-NAND:「メモリクラス・ストレージ」という新概念
注目すべきは、SamsungがSSDだけでなく、CXL (Compute Express Link) 3.1 や 第7世代Z-NAND といった技術にも同時に言及している点だ。
- CXL: CPU、GPU、そしてSSDのようなデバイスが、メモリ空間を共有するための新しいインターフェース規格。CXLに対応したSSDは、従来のストレージのようにブロック単位でアクセスするのではなく、DRAM(メインメモリ)のように振る舞うことが可能になる。これにより、データアクセスの遅延が劇的に減少し、メモリとストレージの境界線が曖昧になる。
- Z-NAND: Samsung独自の低遅延NAND技術。通常のNANDよりも読み書きの応答速度が格段に速く、DRAMとNANDの中間的な性能を持つ「メモリクラス・ストレージ」として位置づけられる。
これらの技術は、将来的にSSDが単なるデータ倉庫ではなく、システム全体の性能を向上させるアクティブな「メモリ階層の一部」として機能することを示唆している。
Samsungだけではない次世代競争
Samsungが巨大な一歩を踏み出す一方で、競合他社も手をこまねいているわけではない。PCIe 6.0時代の到来を見据え、ストレージ業界全体が動き出している。
- InnoGrit: SSDコントローラを手掛ける同社は、2026年にAIエンタープライズ向けのPCIe 6.0 SSDを投入する計画を発表。最大25M IOPS(1秒あたりのI/O処理回数)という、ランダムアクセス性能の高さをアピールしている。
- Silicon Motion: 同じくコントローラ大手の同社も、PCIe 6.0対応の「SM8466」を披露。最大28GB/sのシーケンシャル性能と、最大512TBの容量をサポートする能力を持つことを明らかにしている。
これらの動きは、2026年から2027年にかけて、エンタープライズ向けPCIe 6.0 SSD市場が本格的に立ち上がり、激しい技術競争が繰り広げられることを予感させる。
コンシューマ市場への波及はいつか
では、これらの技術革新は、我々一般消費者の手にいつ届くのだろうか。
まず前提として、コンシューマ向けのPCIe 6.0 SSDが市場の主流になるには、まだまだ時間が必要だ。過去の世代交代を振り返ると、エンタープライズ市場で技術が成熟してから2〜3年後にコンシューマ製品が登場する傾向がある。したがって、早くとも2028年以降になるのではないだろうか。
とは言え、現在のPCゲームや日常的な作業において、PCIe 5.0 SSDの性能すら持て余しているのが実情だ。コンシューマ市場では、絶対的な性能よりも、価格と性能のバランス、つまりコストパフォーマンスがより重視される。
しかし、技術の進化は新たな需要を喚起する。非圧縮の8K映像編集、リアルタイムでの高精細3Dレンダリング、そして家庭用PCでローカルに動作する高度なAIアシスタントなど、将来的にPCIe 6.0の帯域幅を必要とするアプリケーションが登場する可能性は十分にある。
最も重要なのは、エンタープライズ市場における熾烈な開発競争と量産化が、結果的にNANDフラッシュメモリ全体のコストを引き下げるという事実だ。Samsungが発表した半ペタバイトSSDは、今はまだデータセンターの住人だが、その開発で培われた技術は数年の時を経て、より安価で、より大容量なSSDとして我々のPCに搭載されることになるだろう。ストレージの容量単価が下がり続ける限り、デジタルの可能性は無限に広がっていく。今、Samsungが示したPCIe 6.0と512TBへのロードマップは、AIという巨大な波を乗りこなすための、次なる進化の羅針盤と言えるだろう。
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