Meta Platformsは2026年7月9日、最上位AIモデル「Muse Spark 1.1」を外部開発者が従量課金で使えるMeta Model APIの公開プレビューを始めた。4月に出した初代Muse SparkはMeta AIと一部利用者向けの非公開APIに限られ、Meta自身も長時間動くエージェントとコーディングを弱点に挙げていた。MetaはLlamaでモデルの重みを配布してきたが、Bloombergがclosed modelと報じたMuse Sparkでは重みを公開せず、自社運営のAPIを売る。それから3カ月。100万トークンの文脈、複数エージェントの統率、コンピューター操作をまとめて強化し、入力100万トークン当たり1.25ドル、出力4.25ドルという料金を付けた。性能競争への復帰に加え、Metaは自社サービスへAIを供給する立場から、開発者へモデルを売る事業者へ踏み出した。

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3カ月で埋めた長期タスクとコーディングの穴

初代Muse Sparkの発表時、Metaは「long-horizon agentic systems」と「coding workflows」に性能差が残ると明記していた。1.1が狙ったのは、まさにこの二つである。主エージェントが状況を集めて計画し、役割を分けた副エージェントへ並列に仕事を渡す。副エージェント側も、自分に許された道具を把握し、判断が必要になれば主担当へ戻すよう訓練したという。

100万トークンの文脈窓には、長い入力を一度に扱う容量に加え、作業履歴を管理する仕組みが入った。作業中の行動を記憶し、以前の情報を取り出し、後工程に必要な手順を残すよう文脈を圧縮する。コードベースを読んで修正した後、テストと画面確認を経て再びコードへ戻る仕事では、途中経過そのものが大量の入力になる。文脈圧縮は、エージェントが長く動くほど古い判断を忘れる問題へ直接効く。

コンピューター操作では、画面を一手ずつクリックする方式に固定しなかった。反復処理はスクリプトを書き、直接触る方が早い場面では画面を操作し、複数の操作をまとめて出す。Metaが公開した例では、途中で条件が変わる夕食の注文や、スマートフォン動画からFacebook Marketplaceの商品ページを作る作業まで進めている。モデル、視覚認識、操作環境を一続きにする設計だ。

72.2という跳躍をどう読むか

Metaの測定では、Webアプリ生成を評価するVibe Code Bench v1.1が初代の19.7から72.2へ上がった。コードベースを読んで質問に答えるSWE Atlas Codebase QnAも24.2から42.0になった。更新幅は大きい。初代で表に出ていたコーディング不足を、後訓練とエージェント向けの実行環境で詰め直した結果とみられる。

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汎用エージェントのJobBenchでは、Muse Spark 1.1が54.7、Claude Opus 4.8のmax設定が48.4、GPT-5.5のxhigh設定が38.3だった。初代Muse Sparkは17.0、Gemini 3.1 Proのhigh設定は15.9である。少なくともMetaの実行条件では、1.1は初代から別世代と呼べる水準まで伸びた。

ただし、これはMetaが選んだ環境で測った自己申告値だ。評価報告の付録によると、Muse Spark 1.1はhigh、GPT-5.5はxhigh、Claude Opus 4.8はmax、Gemini 3.1 Proはhighで動かしている。同じ名称でも各社の推論量は一致せず、外部モデルの一部は各社公表値を引用した。比較対象はモデル単体に収まらない。道具とプロンプトが手順を変え、再試行や文脈圧縮が成功率と費用を動かす。独立した同一環境で再現されるまでは、「すべての仕事で最も強い」とは言えない。

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1.25ドルと4.25ドルが変える価格競争

Metaが強く出たのは料金である。Meta Model APIは入力100万トークン当たり1.25ドル、出力は4.25ドル。新規アカウントには20ドル分の試用枠を付ける。2026年7月10日時点の各社標準料金と比べると、最上位級モデルの中では低い。

モデル 入力100万トークン 出力100万トークン 主な条件
Muse Spark 1.1 1.25ドル 4.25ドル 推論トークンは出力として課金
Grok 4.5 2.00ドル 6.00ドル 50万トークン文脈
Gemini 3.1 Pro Preview 2.00ドル 12.00ドル 20万トークン以下。出力に思考分を含む
Claude Opus 4.8 5.00ドル 25.00ドル 100万トークン文脈を標準料金で提供
GPT-5.5 5.00ドル 30.00ドル 27万2000トークン超は長文料金を適用

入力と出力をそれぞれ100万トークン使う単純計算なら、Muse Spark 1.1は5.50ドル、Grok 4.5は8ドル、Gemini 3.1 Proは14ドル、Claude Opus 4.8は30ドル、GPT-5.5は35ドルになる。請求額には、単価と総トークン量の両方が効く。MetaのAPIでは推論トークンも出力扱いであり、道具を何度呼ぶか、失敗から何回戻るか、同じ仕事を終えるまで何トークン使うかで差が開く。安いモデルが長く考え続ければ、タスク単価の優位は縮む。

それでも、この価格はMetaの狙いをよく表す。同社は4月の決算で、2026年の設備投資見通しを従来の1150億1350億ドルから1250億1450億ドルへ引き上げた。部品価格と将来のデータセンター能力が主因である。API収入が直ちに巨額投資を回収するわけではないが、高い利幅より採用拡大を優先し、開発者の実行基盤へ入り込む戦略なら筋が通る。広告改善を通じた間接回収に加え、モデル利用そのものを課金対象にしたからだ。

互換APIが下げる移行費用

価格と同じくらい実務に効くのが、既存ツールを大きく書き換えずに接続できる点である。Meta Model APIはOpenAI SDKのChat CompletionsとResponses形式を受け付け、AnthropicのMessages形式にも対応する。エンドポイントをapi.meta.ai/v1へ変え、モデル名をmuse-spark-1.1にすればよい。OpenCodeにはMeta接続が入り、ほかのOpenAI互換CLIも独自プロバイダーとして追加できる。

互換性が下げるのは、主にAPI形式を変更する費用である。Llamaでは重みを取得し、自社設備や任意のクラウドで動かせた。Muse Spark 1.1はMetaのエンドポイントを通じて使うため、実行場所、料金改定、提供地域をMetaが握る。リクエスト形式が似ていても、運用上の選択肢はLlamaと同じではない。

Responses APIではprevious_response_idを使い、サーバー側に複数ターンの状態を持たせられる。web_searchを道具として指定すれば、検索結果を引用付きで返す。画像、動画、PDFも同じモデルへ渡せるため、画面の不具合を画像から探してコードを直す流れを一つのループに収められる。

Metaの複数エージェント例では、プロダクトマネジャーは計画と調整に徹し、端末を操作できない。バックエンドとフロントエンドの担当には実装用の道具を渡す。技術文書の担当も共有Kanbanの記録を読み、成果物をまとめる。役割ごとに権限を分け、誰が何を決めたかを再生できる実装例まで配った。

提供はまだ公開プレビューで、対象は米国の開発者に限られる。性能保証、地域展開、企業向けの運用条件が固まった一般提供とは異なる。100万トークンを使えても、長い仕事の完了率は別に検証が要る。移行が簡単だからこそ、開発者は自分のコードベースと道具で成功率、速度、総請求額を測る必要がある。

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性能向上と同時に増えた安全制御

112ページの評価報告は、短い発表文より踏み込んだ説明をしている。安全策を掛けないMuse Spark 1.1は、化学・生物分野でMetaの「高リスク」能力基準に達し、サイバーセキュリティでも高リスクに達する可能性を排除できなかった。Cybenchのpass@1は初代の65.4から92.9、CyberGymは43.5から59.0へ上がっている。コーディングと道具利用の向上は、防御にも攻撃にも使える能力を押し上げた。

Metaは拒否制御、利用監視、システム側の安全策を重ね、展開後の残余リスクを「中程度以下」へ下げたと評価した。プロンプトインジェクションを測るAgentDojoでは、攻撃成功率が初代の11.9から0.7へ低下している。一方で、ファイルを介した注入など一部の場面では最良水準に届かないと認める。外部開発者に対しては、許可する道具を厳しく絞り、作業領域を隔離し、用途ごとの安全策を組み合わせるよう勧めている。

ここがAPI公開の境目になる。Meta AIではMetaが操作環境まで管理できるが、外部APIでは、どのファイルを読ませ、どのコマンドを許し、どこへ書き込ませるかを導入企業が決める。モデル単体の防御率は、実運用の安全性を保証しない。米国外への提供時期、独立環境でのタスク単価と成功率、企業が監査できる運用条件。この三つが揃えば、低価格は試用を促す材料から、継続採用を決める根拠へ変わる。