NANDフラッシュメモリ市場を取り巻く状況がここまで大きく変わるとは、1年前には想像も出来なかったことだろう。Sandiskが2025年11月6日(米国時間)に発表した2026年度第1四半期決算は、その変化の激しさと本質を浮き彫りにした。同社は、市場の需要が供給を上回る状況が少なくとも2026年末まで続くという従来の見通しをさらに延長し、顧客がすでに2027年の供給確保に動き出しているという異例の事態を明らかにした。この背景にあるのは、AI(人工知能)の進化がもたらすデータセンター需要の爆発的な増加だ。2026年には、データセンターが長年の王者であったモバイル機器を抜き、初めてNANDの最大市場となる見込みだ。これは、業界のパワーバランス、企業の投資戦略、そして製品価格の決定メカニズムそのものを根底から覆す「構造変化」の始まりを意味する。この地殻変動は、半導体業界にどのような永続的な影響を与えるのだろうか。

AD

SanDisk決算が示す「異例の事態」:供給不足は2027年へ

Sandiskの2026年度第1四半期決算説明会で、CEOのDavid Goeckeler氏が語った内容は、市場関係者に衝撃を与えた。同氏は「NAND製品への需要が当社の供給を上回る状況が続いており、この力学は2026年末、そしてそれ以降も続くと予想している」と明言した。

これは、これまで業界が経験してきた典型的なシリコンサイクルとは一線を画す。従来、需要の逼迫は生産能力の増強を促し、いずれ供給過剰に転じるというパターンを繰り返してきた。しかし、今回はその様相が大きく異なる。

Goeckeler氏が明らかにしたところによると、顧客との対話は、もはや四半期ごとの価格交渉という次元にはない。「顧客は、我々の技術の重要性を理解し、製品への継続的なアクセスを確保するため、積極的に長期的なコミットメントを求めている」と同氏は述べる。 実際、一部の顧客は2027年通年の需要予測を共有し、供給確保に向けた協議を始めているという。

この動きは、需要家側が供給不足の長期化を確信していることの証左である。従来の季節的な変動や一時的な需要増ではなく、AIインフラの構築という巨大なトレンドが、持続的かつ構造的な需要を生み出しているのだ。Sandiskは、決算説明会で第2四半期の売上高見通しを25.5億26.5億ドルと、市場コンセンサスの23.2億ドルを大幅に上回る予測を示したが、これも現在の旺盛な需要を反映したものに外ならない。

牽引役はAIデータセンター:市場の主役が交代する歴史的転換点

今回の供給不足の核心には、AIの進化に伴うデータセンター需要の構造変化がある。Sandiskは、この変化がNAND市場の秩序を根本から塗り替えると見ている。

データセンターがNAND最大市場へ

決算説明会で最も注目すべき予測の一つが、「2026年は、データセンターがモバイルを抜き、NANDの最大セグメントとなる最初の年になるだろう」というGoeckeler氏の発言だ。

これは単なるセグメント別の順位変動ではない。市場の「主役交代」を意味する。これまでNAND市場は、スマートフォンの出荷台数や搭載容量に大きく左右されてきた。しかし、これからは巨大な資本を投下してAIインフラを構築するハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)たちの動向が、市場全体の需給と価格を決定づける最大の要因となる。

この変化は、市場力学にいくつかの重要な影響を与えると考えられる。
第一に、顧客基盤の多様化だ。スマートフォンの主要プレイヤーが数社に集約されているのに対し、データセンター市場は複数のハイパースケーラー、クラウド事業者、大手企業などがひしめき合う、より多様な市場である。
第二に、需要予測の可視性向上だ。スマホの新モデルのような短期的な需要変動よりも、データセンターの増設計画はより長期的で計画的であるため、NANDメーカーは将来の需要を見通しやすくなる。前述の2027年を見据えた顧客との対話は、その象徴的な動きと言えるだろう。

AI推論ワークロードが需要を爆発させる

なぜ今、データセンターの需要がこれほどまでに急増しているのか。その鍵は、AIのワークロードが「学習(Training)」から「推論(Inference)」へとシフトしていることにある。

AIモデルを構築する「学習」段階では、膨大な計算能力を持つGPUが主役となる。しかし、その学習済みモデルを活用して、画像生成、言語翻訳、データ分析などの具体的なサービスを提供する「推論」段階では、大量のデータを迅速に読み書きできる高性能・大容量のストレージが不可欠となる。

このトレンドを裏付けるように、Sandiskのデータセンター向け売上は、第1四半期に前四半期比で26%増という驚異的な伸びを記録した。 ハイパースケーラーからの引き合いは強く、同社のエンタープライズ向けSSD(eSSD)製品は、現在2社のハイパースケーラーで認定プロセスが進行中であり、2026年にはさらに1社と大手ストレージOEMでの認定が計画されているという。

さらに、データセンターで従来ストレージの主役であったHDD(ハードディスクドライブ)の供給不足が、このeSSDへの移行を加速させている側面もある。 これら複数の要因が絡み合い、データセンター向けNANDの需要は、かつてない規模で膨張しているのである。

AD

ウォール街が描く「ストレージ・スーパーサイクル」の実像

こうした市場の構造変化を背景に、ウォール街のアナリストたちはSandisk、ひいてはNAND業界全体に対する評価を急速に見直している。

目標株価の相次ぐ引き上げとその論理

Bank of Americaは、Sandiskの目標株価を125ドルから230ドルへと大幅に引き上げ、「ストレージ・スーパーサイクル下では、P/Bレシオ(株価純資産倍率)は少なくとも3〜4倍に再評価されるべきだ」と主張した。 この強気の背景には、AIデータセンター需要が業界の収益構造を恒久的に押し上げ、持続的な高収益が期待できるとの見方がある。BofAは、Sandiskのデータセンター事業の収益比率が、前年同期の6%から、2025年度上半期には12%へと倍増した点を指摘している。

みずほ証券やJefferiesといった他の投資銀行も、同様に目標株価を大幅に引き上げており、市場のコンセンサスは明らかに強気へと傾いている。 彼らは、特に利益率の高いeSSDがSandiskの主要な利益ドライバーになると分析している。

Morgan Stanleyの冷静な視点と残された課題

一方で、すべての金融機関が手放しで楽観しているわけではない。Morgan Stanleyは、Sandiskの株価が大幅に上昇したことを受け、同社を「トップピック(最優先の買い推奨銘柄)」から外すという判断を下した。

Morgan Stanleyは、需要、供給、評価の3つの側面からSandiskを分析。需要面では、AIとデータセンターが成長の起爆剤となることを認めつつも、供給面ではSandiskとキオクシア(旧東芝メモリ)の合弁事業が数少ない増産余地を持つ供給源の一つであると指摘する。

しかし、Sandiskにとっての短期的懸念として「製品ミックス」を挙げている。需要が急増しているeSSD市場において、Sandiskのビットシェア(市場占有率)は2025年第2四半期時点で12%に留まり、競合他社に遅れをとっている。 このため、eSSDが市場を牽引する局面では、競合と比べて平均販売単価や収益の伸びが見劣りする可能性があると分析している。

また、NAND市場全体が依然としてスマートフォンやPCといったコンシューマー向け分野に大きく依存している点も忘れてはならない。 データセンターという新たな成長エンジンを手に入れたとはいえ、市場全体の持続的な成長には、これらの既存市場の回復が不可欠であるという冷静な視点も示している。

需要に応える供給側の現実:制約と戦略

爆発的な需要に対し、供給サイドはすぐに対応できるわけではない。そこには構造的な制約と、各社の戦略的な判断が存在する。

なぜ供給は簡単には増えないのか?

現在の供給制約の背景には、いくつかの要因がある。
第一に、半導体メーカーの投資優先順位だ。AIブームのもう一方の主役であるHBM(High Bandwidth Memory)の需要急増を受け、Samsung、SK hynix、Micronといった主要メーカーは、設備投資の予算をNANDよりも利益率の高いDRAM(HBMを含む)に振り向けている。
第二に、製造装置への投資が限定的であることだ。Lam ResearchのようなNANDの主要装置サプライヤーは、2026年後半までNANDセクターへの投資が本格化しないとの見通しを示しており、これが2027年近くまでの供給増を抑制する要因となっている。
そして第三に、技術的な課題だ。NANDフラッシュは、回路線幅を微細化したり、メモリセルを垂直に積み重ねる3D化を進めたりすることで容量を増やしてきたが、その技術的難易度は年々高まっている。生産性を飛躍的に向上させることは容易ではない。

これらの要因が重なり、業界全体として、急増する需要に追いつくだけの供給能力を迅速に確保することが困難な状況にある。SandiskのCEO、Goeckeler氏が「ファブはフル稼働しており、生産を最大化している」と語る通り、各社はすでに限界に近い状態で生産を続けている。

Sandiskの技術戦略:BiCS8への移行

この供給制約の中で、Sandiskが成長の鍵と位置付けているのが、次世代3D NAND技術「BiCS8」である。 BiCS8は、業界をリードする容量、I/O(入出力)性能、そしてエネルギー効率を実現するとされ、特にデータセンター向けeSSDの競争力を高める上で不可欠な技術だ。

決算報告によると、BiCS8はすでに出荷ビット全体の15%を占めており、2026年度末までには生産の大部分を占める見通しだという。 このBiCS8へのスムーズな移行こそが、SandiskがeSSD市場でのシェアを拡大し、需要の波を捉えるための生命線となる。

AD

NAND市場は新たな時代へ

Sandiskの決算が示したのは、単なる好不況のサイクルではない。AIという巨大な技術トレンドが、NANDフラッシュメモリ市場の需給バランス、顧客構造、そして成長ドライバーを根本から変えつつあるという「構造変化」の現実だ。データセンターがモバイルに代わって市場の主役となる2026年は、その変化を象徴する年となるだろう。

この新たな時代において、SandiskをはじめとするNANDメーカーは、爆発的な需要という追い風を受ける一方で、eSSD市場での競争力や、巨大化するハイパースケーラーとの新たな関係構築といった課題に直面する。顧客との対話は、短期的な価格交渉から、複数年にわたる供給保証を前提とした戦略的パートナーシップへとその姿を変えつつある。

我々が目の当たりにしているのは、半導体業界における新たな秩序が形成される過程そのものだ。この構造変化の中で、持続的な勝者となるための条件は何か。そして、現在の熱狂的な市場評価は、未来のポテンシャルをどこまで正確に織り込んでいるのか。その答えは、今後数四半期の各社の戦略と実行力の中に示されていくだろう。


Sources